教育現場でのiPad活用事例発表会、先駆者9名が登壇

 iPadの教育活用に関する実践発表会がアップルストア銀座で開催された。小・中・高・大学、専門学校と幅広い教育分野におけるiPad活用事例が紹介され、最後には現役高校生の山本恭輔さんが生徒視点からの発表を行った。

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iPad活用事例発表会登壇者
  • iPad活用事例発表会登壇者
  • 俊英館の小池幸司氏
  • 神戸大学大学院の杉本真樹氏
  • 新潟大学教育学部附属新潟小学校の片山敏郎氏
  • 広尾学園中学校・高等学校の金子暁氏
  • 広尾学園が描く教育
  • 千葉県袖ヶ浦高等学校の永野直氏
  • 袖ヶ浦高校でのiPad活用例
 教育とは、今まで生徒ができなかったことをできるようにするためのもの。その一方で現在の教育は、今生徒ができることを試すことに時間を費やし、その結果に基づき生徒の可能性を決め、その可能性に適した教育を行っている部分があるという。

 たとえば、iPadは、英語の論文も単語をタップするだけで意味を調べられる機能があるため、英語力のみで「中高生が英語の学術論文を理解するのは難しい」という判断を覆す。iPadを活用することで、教員が前提としている「この学年はここまでしかできない」という枠組みを取り払うことが可能になるという。言い換えれば、英語の学術論文を生徒に与えても、環境さえ整えれば生徒は理解できる、その環境をiPadが作り出すということだろう。

 3人目の登壇者の永野直氏は千葉県袖ヶ浦高等学校の教諭、公立高校でのiPad活用事例を発表した。永野氏は、iPadの活用は、従来の教育の何かをiPadで置き換えるのではなく、教育の幅を更に広げるためのツールだと話す。教育におけるアナログをデジタルに置き換えるのではなく、生徒は自然とアナログ・デジタル両方の長所を生かし、iPadを利用するという。

 従来の教育は、「聞く」「書く」「覚える」の3点に重点が置かれており、これらは生徒の知識を増やす上で必要な学習だと永野氏は話す。それらを置き換えるのではなく「つくる」「のこす」「つたえ合う」スキルをiPadの活用を通じて養うことで、今の社会に必要な能力をそだてることができるのではないかと提案する。

 大学におけるiPadの導入事例の紹介者として登壇したのは青山学院大学の伊藤一成氏。伊藤氏がiPad導入に踏み切ったきっかけは、学生の「せわしさ」だと話す。就職活動の長期化、就職活動に伴う英語力、コミュニケーション能力、人間力の必要性など、学業以外でも多忙な学生の生活をより効率的に過ごせるようiPadを導入したという。

 PCで読みにくい英語の論文をiPadで移動中でも読めるよう、そして学生個人が自分の手の届く所に各授業の教材や資料をまとめておけるようiPadは活用されているようだ。

 4名の実践事例の後は、大阪大学の岩居弘樹氏による言語学習に効果的なiPadアプリの紹介や、デジタルハリウッド大学の栗谷幸助氏によるクリエイター目線からのアプリ紹介、徳島文理大学の林向達氏と佐賀市立大和中学校の中村純一氏の韓国ICT教育事情に関する情報共有などが行われた。

 そして最後のスピーカーとして登壇したのは、千葉県立千葉高等学校に4月に入学したばかりの現役高校生山本恭輔さん。生徒という立場から、現在の社会が求める創造力を育成するには教育現場のICT化が必要だと語った。

 興味深いのは、山本さんが中学生時代にICT化の必要性を主張したことで、山本さんの卒業までにiPad5台、そしてAppleTVの導入に至ったという。山本さんは、デジタルネイティブである中学生自身が先生たちに教育ICT導入の必要性を語ることで、ここまで公立中学校は変化すると主張する。デジタルネイティブと教育のプロがお互いを尊重し意見交換できる環境が整えば、教育現場におけるICT活用事例は今後も進化していくだけでなく、生徒は自ら考え実行していく力をはぐくむだろう。

 今回のイベントで印象的だったのは、教育ICTの導入により学習環境が大きく変化するということと、子どもたちは与えられたデバイスを自然に学習の中に取り込み、学習領域を広げているということ。そういった意味では、デジタルデバイスが活用される学習環境づくりが必要なのだろう。

 イベントでの発表はiPadの活用事例だったが、子どもたちが持つモバイルデバイスが多様化するであろう今後は、OS、デバイス、メーカーなど関係なくすべてに対応したICT環境を提供することが理想なのかもしれない。
《湯浅大資》

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