新しいビジネスを創り出すために…Slogan代表取締役社長 伊藤豊さん

 2005年に企業に向け新卒採用ソリューションを提供するベンチャー企業としてローンチした「Slogan(スローガン)」は、来年10周年を迎える。起業の意図と同社に込めた熱意、自身の経験をベースとした若者の就職活動について創業者の伊藤豊さんに語ってもらった。

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Slogan代表取締役の伊藤豊氏
  • Slogan代表取締役の伊藤豊氏
  • インタビューに答える伊藤氏
 たとえば「金融がやりたいわけじゃないけど、安定しているし親も賛成してくれるから金融行きます」という学生に出逢った時に私は「本当に金融やりたいの?」と率直に問います。金融に取り組むことの意味や、金融を通じて役に立ちたいこと、金融の社会的な存在意義などに熱を持っている人はどれだけいるのでしょうか。彼等の中にはどのような世界観があるのでしょうか。

--長年そのような学生と接してきた中で、印象深かったお仕事を教えてください。

伊藤さん:私が介在しなかったら普通の大企業のサラリーマンになっていた学生が、自分との面談を機に世の中に主体的に何か仕掛けようとするようになった時です。学生がSloganとの接点をきっかけに考え方を変えていく場面を見られることが、これがこの仕事をしている醍醐味だと感じます。

 ひとつ例を挙げると、最近ある東京大学の学生が相談に来ました。名だたる大手企業に複数内定が決まっていて、「この中のどこにいくんだ、それは何故なんだ」と尋ねてみました。すると学生はある会社を指して、入社希望理由は「将来したいことを実現するために、ブランドのある会社で人脈を作りたいから」と返答しました。

 そこで私が伝えたのは、自分がコツコツと面白いことしていれば人脈は自然とついてくるということ。企業ブランドを使って作った人脈は、その企業出たら途端になくなるとアドバイスし、だからこそ熱意を持って取り組めることを今すぐにでも始めたほうがよいと伝えたのです。

 すると半年後、その学生が「あのときの言葉が刺さって、起業しました」と言ってきたのです。しかも事業は軌道に乗っていました。驚きましたし、若い才能が主体的に何かを変えていっている感じがすごく嬉しかったのです。自分の存在意義を感じた一例です。

 こんな風に、私は自分が直接会う学生には、嫌われてもいいから正直に伝えるよう心がけています。それが本当の愛情だと思うのです。他の大人が優秀だと誉めそやす会社に内定した学生に対しても、思ったことを正直に言い続けます。

 そうすることで、この人と関係をもつと刺激になる、人と違う見方を提供してくれるかもしれない、と感じてくれる学生との信頼関係を築くことができます。

--大学卒業までに学んでおくべきこと、大学と社会のギャップについてどのように考えていらっしゃいますか。

伊藤さん:結論からいえば、私が大学生のときに教えてほしかったことを学生に教えているのが今の会社の事業といえます。私は新人のときに、いや、もっと遡れば就職活動の段階で大きな挫折を味わったのです。

 高校の受験勉強や大学での資格試験は、「この努力をすれば報われる」というリターンが想定できるという意味で、すごいイージーだったなと思うのです。社会にでたら結果が想定できることのほうが稀です、すべてが相手ありきの話なのです。自分1人で完結できるものは無く、どう相手に気に入られるか、いかにして人間関係をつくるか、どう信頼関係を築くかが試されます。学校ではそういう経験をしてこなかったのです。

 学校の中での優秀さとはまったく別の世界を前に、「全然違う」と戸惑い、苦しみました。だから、私が社会で苦しんだこと、大学のときに教えてほしかったこと、知りたかったことを少しでも伝えたいと思い、いま大学生に向けてセミナーを開いたりしています。

--それが「もうひとつの大学をつくる」というSloganのコンセプトの意味なのですね。

伊藤さん:そうですね。起業という点でいうと、インターネットが普及する前の時代の起業家たちは、大学を出て、さらにNTTやソニーなど、ハイテクなものを扱える大企業に行く必要がありました。

 アフターインターネットの時代に生まれた今の学生たちにはそういった必要性がありません。インターネットテクノロジーによって、より個人が力を持ち、できることが増えており、起業のハードルは下がりました。特に米国ではその傾向が強いようです。今や19、20歳でも起業年齢として遅い方になっており、15歳で起業、20歳で上場というようなケースなど、確実に若年化が進んでいます。

--伊藤さんご自身、高校・大学時代の学びや経験で役立っているものを教えてください。

 卓越した人材が出やすい環境にいたことで、よいネットワークを得られたという意味ではよい財産になったと思っています。30代の今、同窓と会うと「普通30代でこういう仕事していないよね」というレベルに到達している人は多いと感じています。そういう人たちとクラスメイトであったから、または同窓だからという理由だけで踏み込んだコミュニケーションが取れることが多くあります。

--伊藤さんの日々の生活面も少しお伺いします。ご家族との時間、休日など、どのようにお過ごしですか。起業したばかりの頃と生活は変わりましたか。

 昔は土日もなく会社に寝泊まりし、徹夜する生活もありましたが、今は土日のどちらかはパソコンを開かないよう徹底し、平日の朝食は家族ととるよう心がけています。娘が今3歳で、この瞬間は今しか見られないと思うと、少しでも一緒にいたいと感じます。また、仕事以外の時間は、アイデアを寝かせる時間、クリエイティブにものを考えるためのチャンスだと思って楽しむようにしています。

--ありがとうございました。
《北原梨津子》

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