女子教育の意義、女性による社会貢献の可能性…アジア女子大学4/8

 4月8日、草月会館にてアジア女子大学によるファンドレイジングイベントが開催された。同大学は三井物産、東芝、日立製作所、三菱商事、電通、ユニクロほか日本企業が支援を行う、バングラデシュ・チッタゴンに所在するリベラルアーツ教育機関。

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パネルディスカッションのようす。左からOECD東京センター長村上由美子氏、日本GE代表取締役 安渕聖司氏、ファーストリテイリング ループ執行役員新田幸弘氏、アジア女子大学卒業生のDrishya Gurung氏、 Nawra Mehrin氏
  • パネルディスカッションのようす。左からOECD東京センター長村上由美子氏、日本GE代表取締役 安渕聖司氏、ファーストリテイリング ループ執行役員新田幸弘氏、アジア女子大学卒業生のDrishya Gurung氏、 Nawra Mehrin氏
  • アジア女子大学卒業生 Nawra Mehrin氏
  • キャシー松井氏と安倍昭恵氏
  • 安倍昭恵氏
  • キャシー松井氏
  • 4月8日 アジア女子大学ファンドレイジングイベントのようす
  • 4月8日 アジア女子大学ファンドレイジングイベントのようす
  • アジア女子大学卒業生 Drishya Gurung氏によるスピーチ
 4月8日、草月会館にてアジア女子大学によるファンドレイジングイベントが開催された。同大学は三井物産、東芝、日立製作所、三菱商事、電通、ユニクロほか日本企業が支援を行う、バングラデシュ・チッタゴンに所在するリベラルアーツ教育機関。当日のイベントでは、パネルディスカッションや卒業生スピーチが行われた。

◆会社と社会は表裏一体、寄附ではなく投資である

 そもそもアジア女子大学へ多くの日本企業や日本人が協力しているのはなぜなのか。アジア女子大学卒業生2名と日本GE代表取締役安渕聖司氏、ファーストリテイリンググループ執行役員 新田幸弘氏によるパネルディスカッションのなかで、モデレーターのOECD東京所長村上由美子氏は安渕氏と新田氏へアジア女子大学に協力している理由を質問した。

 安渕氏は同大学の学生と直接話し「電流が走ったように」協力したいと直感したエピソードを語った。新田氏は「会社と社会は表裏の関係である」と述べながら会社として同大学へ「寄付しているというより、社会へ投資をしている」との考えを示した。

 そしてなぜ「女性」への投資である必要があるのか、またアジア女子大学の価値とは何かを、イベントゲストの安倍昭恵氏と同大学卒業生が語った。安倍昭恵氏へのインタビュアーは同大学理事のゴールドマンサックス副会長 キャシー松井氏が務めた。

◆男性は組織形成、女性は横のつながりに強み

 昭恵氏は、自らの体験を踏まえ、女性の特性を「男性はタテ社会、ピラミッド型の組織をつくることが得意だったり好きだったりする」が、女性は「なんとなく横へ横へと、お友達同士がどんどん繋がっていくことに強みを持っていると思います」とコメント。男女の強みを相互に活かしながら「タテの社会とヨコの社会が網の目のようにつながったらバランスが取れた社会になる」と語り、女性の活躍によりこれまでよりさらに横方向へのつながりが形成されることの大切さを指摘した。

 また、先月19日に女子教育支援における日米協力を表明した昭恵氏は、同日のミシェル・オバマ氏との会話について触れた。ミシェル氏は当日、自分自身も含め家庭の経済的な理由や人種的な問題から学校に行けない子どもに囲まれて育った経験を話し、「高い教育をうけることができたからこそ今がある」、「どんな人でも必ずちゃんとチャンスがつかめる社会をつくっていかなければならない」と語ったという。

◆誰しもが教育という「チャンス」をつかめる社会の実現に何が必要か

 これに対し、キャシー松井氏は、そういった社会の実現や、アジア女子大学がミッションに掲げているような貧困層の女子へも教育を提供していくにはどのような対策が必要か昭恵氏に尋ねた。昭恵氏によると、それはコミュニティとの対応と、ローカライズした教育推進だという。

 同氏は、コミュニティは「人種や宗教に関わらず女性たちが必ず教育を受けられるようなシステムをつくっていくために」大切だとし、女子教育を押し付けるのではなく、地域によって教育を盛り立てていくような仕方を模索したいと答えた。このほか、教育をうけた後の能力発揮については「優秀な女性が男性と同じように会社にいても、倍の努力をしなければ出世をできないのが現状」との認識を示し、「管理職、決定権をもつ機関ではまだまだ日本においては女性が少ない。だから仕事の仕方を変えて、どれだけ仕事をしたか、成果主義にしていかなければならないのではないか」と意見した。

◆結果結論の暗記ではなく、なぜそうなるかを考えさせる

 パネルディスカッションは、最後にアジア女子大学による教育についてをテーマに行われ、キャシー松井氏が同大学の教育について紹介した。同氏によると、アジア女子大学ではいわゆる結果結論の暗記ではなく、なぜそのようになっているかを考えさせたり、クリティカルシンキングを教えたりしているという。

 これに対して昭恵氏は、同大学を訪問したことを振り返りながら「問題を自分たちで見つけて、どうやって解決するかをあれだけ議論している女学生たちを日本ではみたことがない。すぐにでもリーダーになれると思う」とコメントした。

 また、昭恵氏は日本の地方を尋ねたときの所感から「地方行政の現場では地域の問題について各自がなかなか意見を出せない、交わせないでいる現状を時に見受ける」と指摘し、異なる文化、バックグラウンドをもつ同大学の学生らが合意形成をしていくことの意義を指摘した。そういった現状から、アジア女子大学の学生らが学生の時期に色々な立場にある者同士で合意形成し、共通の問題解決にあたる能力を培えていることはよいことだと話した。

 このほか、松井氏が同大学の率直な印象について学生に尋ねると、紛争地出身の学生が「平和について考えられている」ことの秘める可能性について言及した。「本来なら紛争にもまれているかもしれない、紛争地域から来た学生が、机を並べて『なぜ自分たちの地域は紛争をしなければならないのだろうか』を話し合っているのをみて、これぞ平和教育ではないかと思った。こういった教育をアジア女子大学だけではなくて各地で教育を続けていれば平和な世の中が来るのではないか」とコメントした。

◆イスラム教徒、仏教徒、キリスト教徒がひとつの部屋に

 卒業生のスピーチではDrishya Gurung氏、Nawra Mehrin氏が登壇し、昭恵氏の指摘したような、異なる立場やカルチャーを持つ同士が関係を構築したエピソードについて多く言及していた。

 Drishya Gurung氏は、同大学の寮生活について振り返り、寮ではイスラム教徒、仏教徒、キリスト教徒と同じ部屋で暮らし、歌や舞踊などを通じて互いの文化について学んだことや、行事においてもあらゆる節で宗教ごとのお祝いをした思い出を語った。大学生活を通じて異なる民族間のコミュニケーションが変化していったことを振り返る。

 「入学当初は、過去の戦争の歴史にこだわり馴染めない仲間たちもいました。パキスタン人学生とバングラデシュ学生、スリランカ出身のタミル人学生とシンハラ人学生など。しかし先生たちや職員の方たちは寮の部屋割りやプロジェクトメンバー選定において工夫した構成をすることで、こうした気まずい関係を仲良しにしてしまいました。アジア女子大学はまぎれもなく民族間の調和を実現する、安息の場ではないでしょうか。」

 さらに、リセマム個別インタビューに応じたNuzhat Nazmul Nishi氏も、「異なる民族や国籍の学生と一緒に大学生活を送れたから、他者への敬意をもつようになりました、敵意では無くて」と答えた。

 そしてこういった教育を女性が受けることは、Nuzhat Nazmul Nishi氏の出身地ではまだまだとても難しいことだという。同氏の故郷、バングラデシュでは、女性は男性のいうことに従えばよいとの伝統的認識が根強く、同氏は幸運なことに理解ある父親の支えがあり教育のチャンスをつかむことができたそうだ。

◆大学で何をしたか、何を得たか 

  彼女たちは稀にも得られたチャンスを、どのように生かしているのだろうか。教育は彼女たちにとりどのような意義をもつのか。Nawra Mehrin氏は、教育の意義をこう表現する。

  「教育とは座学に留まるものではなく、尊厳をもって社会に奉仕するために、幅広い知識とスキルを身に着け、自分を信じることができるようになるためのプロセスである。」

 これは、アジア女子大学での教育を通じての結論だという。Mehrin氏は「ダッカの世界銀行でのインターンを通じて、企業文化や実生活における経済知識の活かし方を学びました。また、開発への関心からムハマドユヌス氏が最初にマイクロファイナンスを実施した土地を訪れてみました」と大学生活での学びを振り返る。

 同氏は、卒業後は世界最大のNGOといわれるBRACで勤務していることも報告。具体的には、BRACで「ハオール」と呼ばれる子どもたちへの教育プロジェクトの研究をしており、同プロジェクトを通じて「困難な課題こそ素晴らしいイノベーションが生まれるきっかけである」ことを学んだという。

◆命がけで川を渡り学校へ通う「ハオール」のため船を学校に

 Mehrin氏はこう語る。「バングラデシュ北東部では洪水により東京の9倍の面積の土地が水没し、モンスーンの時期は8割の小中学生が命がけで川を渡って学校にいかなければならない。洪水のために学校に行けない子どもたちは『ハオール』と呼ばれ、ハオール向けに船を学校にするプロジェクト(筆者注:ボートスクールと称する。8メートルの長さのスチール製の船による移動学校)が行われています。私はボートスクールが訪れる村を実際に自分の足で訪れ、そこで教育に格差が生じる原因の理解に役立てました。」

 また、Drishya Gurung氏は卒業論文で「無国籍者」をテーマに、分離独立戦争によりアイデンティティを奪われたバングラデシュの人々に関する考察を行ったという。このほか、スタンフォード大学の夏期プログラムへの参加、ダッカ所在の大手通信事業会社、イタリアの開発支援NGO、自身が資金収集から携わり企画した医療の無償提供キャンプを実施した経験を語った。また、卒業後はネパールの寒村にある公立学校で教鞭をとる予定であり、ふるさとネパールの教育状況を伝えた。現在、Gurung氏が担当するクラスの生徒が同氏のようになりたいとの思いを伝えてくれることには、泣きそうになる思いだという。

 同氏は、アジア女子大学でつかんだチャンスを、いまの自分の生徒およびふるさとのコミュニティに恩返ししたい、と語りスピーチを締め、「やる気にあふれたアジア女子大学の生徒たちのため」の協力を来場者に呼びかけた。

 同イベントは一晩にして約1000万円の寄付金を集めたという。
《北原梨津子》

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