被害現場は裏サイトからSNSへ…スマホが変えた情報モラル

 3月12日に開催された日本スマートフォンセキュリティ協会主催の「スマートフォンセキュリティ シンポジウム」で、千葉大学藤川大祐教授は基調講演「子どもたちのスマートフォン利用状況と課題」を行った。

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千葉大学教育学部、同副学部長 藤川大祐教授
  • 千葉大学教育学部、同副学部長 藤川大祐教授
  • ここ数年で高校生のスマホ利用率が急激に上昇
  • スマホ利用時間も増えているが、勉強や睡眠が減っているわけでもない
  • スマホ利用時間と学力試験の正答率には負の相関がみられる。因果関係はないが要注意
  • ネットいじめなどはこのところ減少傾向にあったが、スマホによって再び増え始めた
  • 最近のネットいじめはLINEからFB、TWなどへシフト
  • フィルタリングに実質的な利用率は低い
  • 藤川教授が監修などを手掛けた教材、啓発コンテンツ
◆スマートフォン利用が増えることによる3つの問題

 続けて藤川教授は、このような現状が子どもたちに与える影響や問題が3つあるとする。

1、利用時間と成績における「ある相関」

 そのひとつは、利用時間の増加だ。インターネット利用時間そのものは横ばいなのだが、1日2時間以上スマートフォンを使う層が学年が上がるにつれ増えている。ここでも高校生の数字が際立つといい、スマートフォン利用者の66.8%が該当する。5時間以上という利用も高校生で12.5%、中学生で7.1%となっている。小中学生のネット利用時間と全国学力・学習状況調査(2015年)の正答率のクロス集計では、長時間利用の子どもほど正答率が下がるという相関関係が認められる(藤川教授)という。

 もっとも、因果関係の証明はされていないので、ネット利用が増えると成績が下がるとは限らず、ネット利用を減らせば成績が上がるというものでもない。もともと成績が悪い子どもが、勉強しないでネットを利用しているだけかもしれないからだ。事実、放課後の生活時間調査(ベネッセ教育総合研究所)では、子どもたちの睡眠時間、勉強時間は減っておらず、テレビなどの視聴時間が減っているという結果もある。つまり、勉強せずネットばかりしているというわけではなく、睡眠時間や成績に影響がでるようなネットの長時間利用には注意が必要ということだ。

2、ネットいじめの変容…被害現場は裏サイトからSNSへ

 次に藤川教授が指摘する問題は、ネットいじめの増加だ。2007年(平成19年)ごろがピークだった学校裏サイト、プロフサイトのいじめ問題は年々減少してきたのだが、スマートフォンの利用が急激に増えた2012年から2013年にかけては再び認知件数が増加してしまった。これを福祉犯被害者の統計(警察庁)で見てみると原因が見えてくる。いわゆる出会い系サイトの被害はかなり減ってきているのだが、そのほかのコミュニティサイトやID交換掲示板での被害が増えている。

 さらに内訳をみると、LINEのID交換掲示板による被害が2013年に急激に増え始めた。しかし、LINEの運営側によって年齢認証されていない利用者のID交換が禁止されたため、この被害は2015年に急激に減っている。代わりに増えているのはチャットアプリやFacebook、TwitterなどのSNSによる被害だ。スマートフォンはネットいじめの様態を変えている。

3、フィルタリング利用率の低下

 最後に、藤川教授はフィルタリング利用率の低下の問題を指摘する。携帯電話は通信キャリアが自社ネットワークに対してアプリやサービスの検閲を行ったり、フィルタリングサービスを提供していたりと、利用率は比較的高いが、スマートフォンでは45.2%(2015年)と半数に満たない。「フィルタリングは子どもたちを危険なサイトや犯罪者など、リスクから遠ざけるという点で効果が期待できる施策にもかかわらず、スマートフォンでの利用率が下がってきている」(藤川教授)のは問題だろう。

 加えて「スマートフォンの場合、フィルタリングを設定していてもキャリアが提供するネットワーク型のフィルタリングでは、Wi-Fi環境で機能せず、アプリが行う通信も抜け穴となってしまう。スマートフォンでネットワーク型、Wi-Fi対応、アプリ制限までフルのフィルタリングを行っている利用者は20%程度ではないか」と藤川教授は試算しており、現状を危惧する。
《中尾真二》

中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。エレクトロニクス、コンピュータの専門知識を活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアで取材・執筆活動を展開。ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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