秋学期、子どもの不調は「いつから」か…見過ごしがちなADHDのサイン

 運動会に学習発表会、合唱コンクールに遠足など、秋の学校生活は集団行動の増える時期。「登校しぶり」や学校生活に馴染めず表情が暗い、という子どもの変化に気をつけたい時期だ。そして、その原因は人間関係でなく、ADHDといったものが原因の場合もある。

教育・受験 小学生
 夏休み明けから約2週間が経過した。子どもたちは学校生活のリズムを取り戻せただろうか。運動会に学習発表会、合唱コンクールに遠足など、秋の学校生活は集団行動の増える時期。同時に「登校しぶり」や表情が暗いという子どもの消極的な変化や、「ADHD」といった発達のでこぼこによる不順応が隠れていないか、保護者が子どもにより、気をつけたい時期でもある。

◆認知進む「ADHD」

 文部科学省の「平成28年度通級による指導実施状況調査結果」によると、発達障害などで一部の授業を通常学級とは別にする「通級による指導」を受けている小学生は8万7,928人にのぼり、平成5年度の調査以来最多の児童数だった。平成27年度と比較すると、注意欠陥多動性障害(ADHD)の児童数は2,313人増加しており、増加人数の背景には子どもの発達について保護者はもちろん、社会の理解が進み、専門機関での受診や療育が進められてきたことがあるだろう。

 ADHDとは、おもに「多動性」「衝動性」「不注意」の3つからなる症状のこと。一般的には「落ち着きがなく、授業中に動き回る」といったイメージがあるが、行動には個人差があるうえ、学校と家庭、友達など、一緒に行動する相手や場所によって症状が変化するため、保護者ひとりの力で症状の有無を見極めるのは難しい。

通級による指導を受けている児童生徒数―推移―(平成5年度-平成28年度) ※画像:平成28年度通級による指導実施状況調査結果について(各年度5月1日現在)
通級による指導を受けている児童生徒数―推移―

◆ADHDとは?

 特に子どもの変化に配慮したいのは、学校行事の増える秋の授業。ジョンソン・エンド・ジョンソングループの医薬品部門であるヤンセンファーマによると、秋は普段の授業とは環境が異なるため、いつも以上に気が散りやすかったり、難しさを感じる季節だという。

学校で見られるADHDの行動(ヤンセンファーマ作成)
学校で見られるADHDの行動

 おもなADHD行動は、「意味もなく手足を動かす」「集団行動が苦手」「おしゃべりがやめられない」といった多動性によるもののほか、「忘れ物が多い」「友達との約束を忘れたり、間違えたりしてしまう」という不注意による行動がある。また、「ささいなことで大声を出したり暴れたりする」というのも、衝動性による行動例にあげられる。特徴はひとつだけ見受けられる場合もあれば、複数現れることもあり、特徴の現れ方の違いからADHDはさらに詳細に分類できる。

◆秋は子どものサインに気をつけて

 ただし、行動のなかには子どもの成長過程における「一時的なもの」だと思われ、ADHDとは予想できず、子ども自身も保護者も気が付かないまま、ADHDと認知されないことが多いという。特に夏休みの生活から学校生活に戻るタイミングは、ただでさえ長い休みから規則正しい学校生活に戻るという、子どもによってはリズムを取り戻すのに時間がかかる期間であるため、子どもの不調は生活習慣の乱れによるものなのか、もしくは、発達のでこぼこによるものなのかを判断するのが難しい。

 東京家政大学子ども学部子ども支援学科の宮島祐教授によると、秋学期が始まってから子どもが「学校に行くのが嫌だ」と発言したり、子どもの表情が暗いと思った際にADHDか否かを判断する場合、ポイントとなるのは「夏休み前はうまくいっていたのか、さらに小さなころはどうだったのか」という点。そして、「いつからその症状があるのか」という点を振り返るとよいという。

 ADHDの行動のある子どもの多くは、小学校だけでなく幼稚園や保育園時期に「登園しぶり」が見られたり、席替えやクラス替えのタイミングで登校を嫌がったり、そのほか人前で発表することに拒否感を示したりと、生活環境が変化する節々で何らかのサインを発していることが多い。さらに歳を遡り、ADHDのサインは乳幼児のころからも見て取れ、たとえば夜泣き、寝付きが悪い、かんしゃくが強い、親と目を合わせないなどの特徴が顕著だという。

◆鍵は「朝」登校のタイミングで大事にしたいこと

 子どもの変化には常に目をかけていたいものだが、共働き家庭にとってまず課題になるのは、いかに子どもと一緒にいる時間を創出するかということ。宮島教授は「学校や幼稚園へ送り出すタイミングを大事にするとよいでしょう」とアドバイスする。

 「ADHDの子どもに関わらず、子どもの異変は何も言葉だけに現れるものではありません。むしろ、返事は元気だけど、視線がキョロキョロとして定まらない、ソワソワして落ち着かない、どうも顔色が優れない、など、言語外のサインのほうが重要です。多忙なご家庭におすすめしたいのは、朝、お子さまを学校へ送り出すタイミングで必ずお子さまの目を見て挨拶すること。ハイタッチを交わして、スキンシップを大事にするのも良い方法です。」(宮島氏)

 秋学期が始まってもなお、子どもが学校生活に不慣れなようすがあるなら、一度ADHDの行動が現れているかを振り返ってみるとよいかもしれない。学校でのようすは学級担任の先生に聞いてみてもよいし、通信簿を見直してみるのもよいだろう。場合によってはセルフチェックシートや学校への相談、専門機関での受診も考えてみたい。Webサイト上では、「ADHDナビ」が提供するセルフチェックリストなど、無料で利用できるサービスもある。いつもより多くの時間、子どもに向き合ってみようとすることで、ADHDの有無だけでなく、子どもの抱える悩みが見えてくるかもしれない。

◆もし、いじめが問題なら…まずは“充電”できる時間を

 なお、文部科学省は8月、FacebookやLINEなど8事業者・団体が参加し、相談窓口の開設、教材の無償提供、ネットパトロール強化などの取組みを展開する「いじめ」防止キャンペーンを発表している。夏休み明けのいわゆる「9月1日問題」を防ごうと、子どもの自殺防止に向けた情報発信を行っているのだ。

 子どもの不調が学校内での人間関係によるもので、もし子どもが「学校に行きたくない」と言ったらどうするか。フリースクール全国ネットワーク代表理事、東京シューレ葛飾中学校校長の奥地圭子氏は「まず、『そういう気持ちを親に話してくれてありがとう』と伝えてほしいです」とコメント。保護者はまず、子どもが心置きなく学校を休め、元気を“充電”できる時間を作ってあげてほしい、としている。

 子どもの不調や異変は、親として何よりも辛いこと。子どもを悩ます原因が外部刺激によるものなのか、それとも子ども自身のもつ特徴によるものなのか、さまざまな角度から一度見直すタイミングを作ってみてはいかがだろうか。
《佐藤亜希》

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