【大学受験2021】どうなる?医学部受験…メディックTOMASに聞く合格までの学習戦略

 コロナ禍に加え、今年度からは新たに大学入学共通テストが施行される。今年の大学受験生にとっては、あらゆることが手探りの状況だ。中でも狭き門である医学部入試は一体どうなるのか。医学部受験専門のメディックTOMAS市ヶ谷校の校長、萩原一裕氏に話を聞いた。

教育・受験 高校生
メディックTOMAS市ヶ谷校 校舎長 萩原一裕氏
  • メディックTOMAS市ヶ谷校 校舎長 萩原一裕氏
  • メディックTOMAS資料「入試日程に基づく戦略」より
  • メディックTOMAS資料「入試日程に基づく戦略」より
  • メディックTOMAS資料「入試日程に基づく戦略」より
 コロナ禍に加え、今年度からは新たに大学入学共通テスト(以下、共通テスト)が施行される。今年の大学受験生にとっては、あらゆることが手探りの状況だ。中でも狭き門である医学部入試は一体どうなるのか。医学部受験専門のメディックTOMAS市ヶ谷校の校長、萩原一裕氏に話を聞いた。

厳しいスケジュールに要注意



--今年度の医学部入試の動向を教えてください。

 国公立については、前期後期共に、ここ5年間連続で志願者数が減少しています。一時の過熱ぶりは落ち着いたので、ある程度の学力が伴っていれば入りやすい状況にはなってきているものの、首都圏や主要都市部の大学については引き続き高レベルでの競り合いとなっています。

 私立については、志願者は一般入試全体では微減でしたが、センター試験の平均点が下がったこともあり、センター方式での出願が大幅にダウンしました。今年度については、新たに始まる共通テストがセンター試験よりも難化すると予想されているため、国公立と私立の併願には早々に見切りをつけ、安全策を取って私立に絞り込む受験生も、例年より増えているかもしれません。

--今年の医学部受験生の状況を教えてください。

 コロナ禍による休校で、全国的に学習の遅れが問題となっていますが、我々も現場で実感しています。特に現役生については、春休みから1学期にかけて、本来やるべきカリキュラムが消化し切れていないというのが現状のようです。

 こうした事態に対し、文科省からは大学側に入試範囲など配慮の要請を通達したものの、結局入試日程も出題範囲も例年どおりに行われることになりました。したがって、今の時期でもまだ、学力が十分に引き上げ切れていない中、例年どおり1月から入試が始まるというのは、今年の受験生にとってスケジュール的にかなり厳しいと言えます。

--今年度はセンター試験に変わって、新たに共通テストが実施されます。共通テストはセンター試験からどのように変わるのでしょうか。

 昨年度までのセンター試験は、基礎がしっかり固まっていれば、知識だけで得点できる問題も多かったのですが、共通テストではそうはいかないところが難化の理由です。具体的には、複数の資料を読み取り、その場で思考することが求められるので、これまで以上に読解力、思考力が必要になります。旧来型の知識そのものを聞く問題から、新しいテストでは知識を「運用」できるかどうかを試す問題に変わろうとしており、大手予備校からは、ボーダーラインが5~6%下がるという予想が出ています。とはいえ、国公立医学部を目指す受験生にとっては、センター試験に引き続き、合否を左右する重要な試験ですので、まずは標準的な学力をしっかりと仕上げていくことが大切です。

お試し受験は厳選する傾向



--コロナ禍により、医学部入試はどのような影響を受けますか。

 先ほども申し上げたとおり、今年度前半はコロナ禍での学習の遅れから、まだカリキュラムを消化し切れていない生徒が例年より多い印象です。夏休みも短くなったので、反復演習をする時間が減っており、学力の底上げができていません。本来であれば、秋以降は小論文や面接の準備が行われる時期ですが、今年はまだまだ学力を上げなければいけないステージです。

 また、大手予備校による大規模な模試が軒並み自宅受験や規模縮小となり、受験生にとっては本番同様の場数を踏む機会が極端に少ない状況です。そのため、学力の仕上げが間に合わない生徒には、共通テストをあえて受験せず、私立専願にすることもひとつの戦略です。センター試験以上に成功度が低い試験となると、共通テスト直後から始まる私立の入試に精神的なダメージを引きずる可能性が高いからです。

 一方で、出願という視点で見ると、今年度はコロナ禍による経済的な冷え込みもあり、私立の受験校が絞り込まれることも予想できます。私立医学部の受験料は1校あたり6万円と高額ですし、コロナウイルス感染予防のため、志望度が高くない大学の試験会場にわざわざ無理をして行くという行動は避ける人も少なくないでしょう。その結果、お試し受験はせず、入学の可能性のある私立を厳選する傾向が例年よりは強く出てくるかもしれません。1人あたりが受験する回数が減れば、私立はこれまでより志願者数が減る可能性があります。

出題傾向を見極め、志望校選択を



--コロナ禍の影響もあってか、東京女子医大が1,200万円の学費値上げを発表しました。これは志願動向にどう影響しそうですか。

 私立医学部の中でもトップレベルの超高額な学費になることに加え、報道によるイメージの悪化も影響し、確実に志願者数は減少するでしょう。そうすると、本来は女子医大を受験する予定だった受験生が同じ日程の獨協医科大、帝京大に流れることが予想されるため、注意が必要です。

--志望校選びはどのように決めれば良いのでしょうか。

 例年であれば、模試の成績をベースに判断しているところですが、今年に限っては模試といっても自宅受験や試験会場の規模縮小、受験者数の大幅な絞り込みもあり、結果をそのまま鵜呑みにすることはできません。できなかった問題は弱点補強の参考にすべきですが、模試の結果自体は、全員が入試会場のような緊張感に包まれる中、時間厳守で受験しているとは必ずしもいえないので、志望校判定が適正とは言い難いです。

 したがって、実際に過去問を解いてみて、その出来具合なども参考にしながら、出題傾向がなるべく自分に合った受験先を選ぶことが大切です。特に今年に関しては、コロナ禍によって勉強に充てられる時間がタイトになっているので、出題傾向の特徴をよく研究し、受験校に合わせて、できるだけ効率的に勉強を進める必要があります。特に私立は学校ごとに出題形式に特徴があるので、その傾向に見合った対策は不可欠です。

--学校による出題傾向の差というのは、どういったものでしょうか。

 国公立については、医学部単科大学は問題自体の難易度が高くなる傾向がある一方、他学部と共通問題が出題される総合大学の医学部は、標準的な問題ばかりなだけに、ミスの許されない高得点勝負になります。総合大学でも医学部独自問題を出すところもあり、その場合は少し難度が上がります。私立は学校によって記述式、マーク式など、傾向はさまざまです。

 全体的に関東と関西を比べると、関東のほうが情報処理スピードを求める問題が多い傾向がある一方で、関西は比較的じっくりと考え、掘り下げる力が問われる学校が多いようです。

 自分自身がミスの少ないスピード勝負か、難しい問題にじっくり思考力で勝負するか、どちらが得意かを見極め、問題傾向が合っているところを選ぶといいでしょう。

1次試験と2次試験の日程の重複が盲点



--私立の出願戦略で気を付けたいことはどんなことですか。

 出願先は問題傾向が自分に合っているかどうかを過去問と照らし合わせ、しっかりと検討してください。そして、盲点になりやすいのが、1次試験と2次試験の日程の重複です。せっかく1次に合格しても、その学校の2次試験と、それよりも志望順位が上の大学の1次試験が重なってしまう場合は、どちらかをあきらめざるをえません。たとえば今年度であれば、1月22日の杏林大の1次に合格しても、2次試験が2月2日なら日本医科大、3日なら順天堂大の1次と重なります。1月27日の東邦大の1次も、2次が2月5日に当たると、昭和大の1次と重なるといった具合です。

メディックTOMAS資料「入試日程に基づく戦略」より
1月から受験開始

メディックTOMAS資料「入試日程に基づく戦略」より
1次合格が多い場合2月初週も過密

メディックTOMAS資料「入試日程に基づく戦略」より
2次試験日の重複に気を付ける

 受験校が多い場合は、1月24日~31日は過密スケジュールになりやすく、1次合格が多い場合は2月初週も引き続き過密になります。2次試験の面接は国公立でも重視されつつあり、私立の入試で経験しておくとパフォーマンスが良くなる可能性が高いので、過密な中で体調を崩さない程度に、うまくスケジュールを編成しましょう。

学習の仕上がりが遅れていてもあきらめない



--過去問についてはどのように取り組めば良いでしょうか。

 理想的には第一志望は5年分やっておきたいところですが、今年はコロナ禍の影響で学習の仕上がりが遅れている人が多いので、まずは直近の3年分をしっかりと押さえましょう。併願校に関しても、少なくとも2年分は触れておきたいところです。ゴールを知り、それぞれの時間配分を研究しておくことがとても大切です。

--受験生に向けて、アドバイスをお願いします。

 これから本番までは、志望校からの逆算という発想が大切です。過去問や模試の出来具合から自分の穴を確認し、その穴を埋める作業を地道に続けていってください。苦手分野といかに愚直に向き合えるかが、合格への近道です。

 また、これから行われる模試の結果によっては、気持ちが打ち砕かれることがあるかもしれませんが、特に現役生ではC判定が出ていれば、それはA判定だと思って良いです。D判定でも合格する可能性はまだ十分あります。皆が不安で後ろ向きになりがちな今年度こそ、あえて勇気をもって出願することが必要なのかもしれません。最後まで決してあきらめず、しっかりと対策を進めていきましょう。

--親御さんはどういったことに気を配れば良いでしょうか。

 コロナ禍による混乱や新しい共通テストの施行など、親御さんにとっては不安が募るばかりだと思います。ですが、受験というのは、親が子どもに「どうしたんだ」「はかどっているのか」「こんな成績で大丈夫なのか」といった不安や心配をそのまま口にするたび、お子さんの成績は1点ずつ下がっていくようなものです。一番辛いのはお子さん自身であり、親は忍耐が第一です。困難が二重、三重と重なる今年のような状況下でも、日々奮闘しているわが子を称賛し、励ましながら、なんとかゴールにたどり着けるよう、温かく見守ってあげてください。

--ありがとうございました。

ーー

 医学部受験は、5年連続で受験者数が減っているとはいえ、定員も減る中では依然として狭き門だ。共通テスト、一般試験に加えて小論文や面接もあり、高いハードルがいくつも待ち受けるが、体調に気をつけながら、最後まであきらめずに頑張ってほしい。
《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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