異色の3者が社会課題を乗り越える「コロナ禍でも学ぶ・働く・暮らすをあきらめない」プロジェクト

 ショートムービープラットフォーム「TikTok」は2021年8月19日から10月10日まで、行政機関、NPO等の専門家と連携して「コロナ禍でも学ぶ・働く・暮らすをあきらめない」プロジェクトを実施している。「異色」の3者が実施したプロジェクトに込められた思いとは。

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TikTokは2021年8月19日から9月8日まで、行政機関、NPO等の専門家と連携して「コロナ禍でも学ぶ・働く・暮らすをあきらめない」プロジェクトを実施した。
  • TikTokは2021年8月19日から9月8日まで、行政機関、NPO等の専門家と連携して「コロナ禍でも学ぶ・働く・暮らすをあきらめない」プロジェクトを実施した。
  • TikTokは2021年8月19日から9月8日まで、行政機関、NPO等の専門家と連携して「コロナ禍でも学ぶ・働く・暮らすをあきらめない」プロジェクトを実施した。
  • 育て上げネット・理事長の工藤啓氏
  • TikTok Japan・公共政策本部マネージャーの金子陽子氏
  • 「TikTokらしさ×専門知識で、より多くの方に情報を届けたい」と意気投合する工藤氏と等々力氏
  • 法務省矯正局少年矯正課・企画官の等々力伸司氏

 子供の反抗期、家庭内不和、受験の悩み。子育て中に絶えないこれらの悩みを、皆さんは誰に相談するだろうか。実家の両親、学生時代の友人、ママ友。でも、ある日突然そのつながりが途絶えてしまったら? 直接会って話すことができない環境に陥ったら?

 ショートムービープラットフォーム「TikTok」にその回答の1つがある。最新トレンドやさまざまなジャンルの動画が印象的なTikTokで、新たな取組みが行われた。

 TikTokは2021年8月19日から、行政機関、NPO等の専門家と連携して「コロナ禍でも学ぶ・働く・暮らすをあきらめない」プロジェクトを実施した。特設ページは10月10日まで掲載されるという。「異色」の3者が実施したプロジェクトの全容と、それに込められた思いとは。

 本プロジェクトの連携団体である法務省矯正局少年矯正課・企画官の等々力伸司氏、育て上げネット・理事長の工藤啓氏、そしてTikTok Japan・公共政策本部マネージャーの金子陽子氏に話を聞いた。

高まる社会のストレス値、今こそSNSのパワーを形に



金子氏:コロナ禍、社会全体のストレス値が高まっています。経済的な理由から学業の継続が困難になってしまった方、生活に困難を抱える方が増えたというデータもあります。

 2017年夏に日本でリリースして以来、TikTokでは、青少年や家庭支援を行っている行政・団体の方との情報交換を継続的に実施してきました。その中で「困難に直面した時に活用できるサービスや給付金、相談窓口の情報を事前に知っておくことで、防げるトラブルも多い。しかし、このような支援制度やサービスが十分に知られていない」という声をいただいていました。

 かねてから抱いていた「TikTokを通じて支援を必要とする若年層を含む幅広い世代に、多様な支援サービスの存在を知ってもらえる機会を作りたい」という思いを、このコロナ禍を機に形にすべきだと考え、プロジェクトを企画しました。

企画背景を語る、TikTok Japanの金子陽子氏

等々力氏:私たち行政からの情報発信は「ミスがあってはいけない」「抜けや漏れがあってはいけない」と慎重になるあまり、往々にして固い表現になりがちです。専門知識を有しているがゆえに、その有益な情報をすべて伝えたくて、情報過多の冗長な表現になってしまうことも多々あります。それゆえ若年層の方にはなかなか届きにくいのです。

金子氏:その確実でかつ堅実な専門性・専門知識こそが今回のプロジェクトの肝になるものです。専門家の方や専門機関が保有する有益な情報を、私たちTikTokのプラットフォームとコミュニティ、そしてそれを活用したリーチ力で、今まで知ることができなかった方に届ける。それこそが今回私たちが求めていた形です。

等々力氏:動画コンテンツの制作にあたっては、伝えたい内容をすり合わせたうえで、動画制作チームの皆さんにシナリオを作ってもらい、TikTokユーザーに届きやすいよう、編集していただきました。普段発信している情報のテイストとはまったく異なり、大きな挑戦でしたが、再生回数3万6,000回を記録するなど、手応えを感じました。非常に学びがありました。

工藤氏:3万回と言うと人気アイドルのコンサート会場の収容人数に迫る勢いですね。「いいね」の数も931(2021年9月22日現在)。共感の幅はさまざまだと思いますが、少なくとも多くの方が認識してくれたことは大きな成果ですね。「いいね」は多義的ですが、悩みの当事者でなくても「こんなに気軽に相談して良いんだ」「あの子悩んでいたから教えてあげようかな」「社会的に意義のある活動いいね」といった、いずれもポジティブな反応だと受け取れます。

金子氏:そうですね。多くの方に知っていただきたい重要な情報だからこそ、興味をもって動画を見ていただけるように「TikTokらしさ」を残しながら動画制作をしました。今まで知ることがなく、ひとりで悶々と悩んでいた方に、日常で使っているTikTokなどのプラットフォームを通して有益な情報を届けることが、今回のプロジェクトの大きな目的ですので、その成果が垣間見れたのは、とても嬉しいです。

信頼できる情報との「偶然の出会い」をデザインする



工藤氏:他のサービスと比較して、TikTokならではの良さは大きく2点あると思っています。まず、テキストでなく動画でメッセージを発信するということ。いくら出典や署名を記載したところで、テキストだけではいまいちリアリティに欠けますし、情報の信頼度も一定レベル以上にはなりませんが、その点、今回のプロジェクトでは専門家が顔出しして、自らの声で伝えたことで、ぐっと信頼度が上がり、親近感を得ることができたのだと思います。TikTok動画は目と耳とテロップで、感覚的に一度に情報を取り込み、印象を形作れるのも良いですよね。

 2つ目は意図せず情報に出会えること。自ら検索して能動的に情報を取りにいくのではなく、TikTokはアプリを開くと、ファーストビューでまずおすすめの動画が出てきます。また動画の尺も短いので、テンポ良く視聴しているうちに、ふと有益な情報に触れ、手を止めるということも容易にできます。私たちが情報を届けたい若年層に数多くリーチできる可能性が高いのです。

「TikTokの良さは意図せず情報に出会えること」と話す、育て上げネットの工藤啓氏

等々力氏:おっしゃる通りですね。まだ道半ばではありますが「届くべきところに届いた」という実感があります。法務少年支援センターでは、子育てに悩む保護者からのご相談をお受けしています。法務少年支援センターは、少年鑑別所が一般の方向けに行っている相談窓口であり、県庁所在地を中心に、全国すべての都道府県に52か所あります。ただ法務少年支援センターの存在や役割自体があまり認識されていないこともあり、「怖い」「非行少年少女が行くところ」などのイメージから来所を躊躇する方がいらっしゃることも事実です。

 一方で、少年鑑別所では長きにわたって、非行のある少年の心理分析や非行からの立ち直りに何が必要かといった提案を行ってきました。また法務少年支援センターとしても青少年やそのご家族、関係者の方へのカウンセリング等の実績は年間で1万件を超えており、特に思春期の悩みにおける具体的な対応策や心理学的な知見に関しては蓄積があります。だからこそ大きな問題が起こる前に、些細な悩みであっても、偏見なく、気軽に相談してほしいのです。

 さらに言うと、ご相談にいらっしゃる保護者の方のお話を聞くと、お子さんが悩んでいるというよりも、保護者の方ご自身がストレスを抱えていて、それゆえお子さんに対して、きつく当たってしまったり、小言を言ってしまって反抗されたり、素直に接することができなかったりといったことが多いのです。「聞いてもらえただけで楽になった」とお帰りになる方がたくさんいらっしゃいます。

工藤氏:私たち育て上げネットでは、若者の就労支援、家族支援事業などを行っており、法人で運営している事業の他にも自治体や行政から委託を受け、地域若者サポートステーションなどで若者を支援しています。子供の将来相談窓口「結」では年間500組ほどのご家庭に接していますが「こんな相談ができるところがあるなんて知らなかった」という声は常にあります。

 「登校拒否」という言葉が盛んに叫ばれ始めた時代から、「不登校」を経てフリースクール運動が起こり、1990年代は学校だけでなく社会にも出ることができない「引きこもり」、その後2004年には「ニート」が社会問題化されました。ニュースになる文字面は時代ごと変わっても、その背景は何らかのストレスが理由でコミュニケーションの歯車がずれてしまったり、感情表現に歪みが生じていたりしていることが大半なのです。

身内には相談できない…「ゆるやかなつながり」の必要性



金子氏:TikTokではコロナ以前から、自身の投稿やコメント欄で悩みを吐露したり、それに対して他のユーザーがアドバイスや励ましのコメントを返したりといったユーザー間のやりとりが多くみられています。現在では「#誰かに話したい」というタグが人気急上昇中です。そういった温かく受け入れてもらえる雰囲気が醸成され、自然体で悩みや共感を表現できるコミュニティがあったからこそ、今回のプロジェクトも違和感なく受け入れられたのかもしれません。

 コロナ禍、法務少年支援センターや育て上げネットへのご相談内容や利用者層に変化はありましたか。

等々力氏:「不要不急の外出を控えるように」という表現で、半ば強制的に社会活動が抑制されてしまい、どの年齢でも強いストレスを感じている状態が続いています。子供たちは家庭での悩みを学校で吐き出し、学校での悩みを家庭で吐き出して、バランスを取っていることが多いのですが、家庭一辺倒での生活では閉塞感があります。フォローする立場にあるはずの保護者の方も気分転換が難しいリモートワークや、休校措置等での家事の負担増大の影響でイライラしています。親がふと口にしてしまった小言に、思春期の子供たちが反発し、そのままストレス解消のタイミングや捌け口がないためにこじれて長期化してしまうことが多いように感じます。

「保護者の方のストレス軽減につなげたい」と話す、法務省の等々力伸司氏

工藤氏:私たちで支援をしている15歳以上の方にヒアリングしてみたところ、約6割が「2020年春以降メンタルヘルスが悪化した」と回答しました。コロナ禍で家にいられない、家にいなければならない、いずれの若者、子供たちも見てきました。保護者の方も自宅にいる他の家族や子供に聞かれないように、屋外や車の中からスマホで相談の電話をかけてくる方もいらっしゃいます。

 親族や身内には相談できず、塞ぎ込んでしまう方はコロナ以前から多いです。所得も高く、教育熱心なご家庭には、孤立はしてないが周囲には言えないという傾向があります。以前より増えているのが「私立小学校/私立中学校に入学したがすぐに不登校になってしまった」という相談です。合格して喜んでいる姿を見せてしまった手前、身内や親戚、ママ友などの身近な人にはどうしても相談できないのです。

金子氏:なるほど。子供の問題行動や家庭不和と聞くと「孤立」「困窮」といったイメージと結びつきがちですが、それに限らないということですね。過剰な教育への熱やプライドが家族を苦しめてしまう。相談先がないと保護者の方も息抜きができず、柔軟な考え方ができなくなりますし、親子ともに辛くなってしまいますね。

工藤氏:もう1つの視点として、人が悩みを相談する際には、自分が期待している回答をしてくれるであろう親しい相手を選んで相談する傾向にあります。その場合、親しさゆえに、同調したり共感したり、感情面で寄り添うことばかりを優先して、中立的な意見がもらえず、かえって悩みが深まってしまうことも多いのです。一方で、1973年にスタンフォード大学の社会学者マーク・グラノベッターが発表した論文に「ゆるやかつながり」理論(=Strength of Weak Ties theory)というものがあります。この「ゆるやかなつながり」のある他者に相談をすることで、相談者の気持ちを汲みつつも、適度な距離を保ちながら自分のもてる知識を提供してくれたり、具体的な解決策への示唆を与えてくれたりするので、突破口が見えることがあります。

等々力氏:そういった意味でも、TikTokのコミュニティは有効なものですね。ゆるやかにつながったアカウントで発信された情報がふと目に止まって、悩んでいた気持ちがふっと楽になる。今回のプロジェクトでいうと、ショートムービーを見たことで「ちょっと相談してみようかな」というアクションにも自然に移行できる素地がTikTokにはあるように思います。これは法務少年支援センターだけでは実現できなかったアプローチです。

シンプルなメッセージだからこそ、潜在層にも届く



工藤氏:今回のプロジェクトを通して、アウトリーチの重要性をあらためて感じました。かつては私たち団体が直接人に働きかけるしかなかったものが、TikTokをはじめとするプラットフォームなどを介することで、量的にも質的にもより伝わりやすくなることがわかりました。

金子氏:先ほど「いいね」の話題がありましたが、自分が「いいね」した投稿はマイページから後で確認することができます。今は当事者でなくてもいつか悩んだ時、友達が悩んでいる場面に遭遇した時などに見返すことができるのです。直近で支援が必要な相談者だけでなく潜在的な相談者にも情報を届けることができるのは、TikTokならではだと思います。

 「コロナ禍でも学ぶ・働く・暮らすをあきらめない」プロジェクトは9月8日に一旦終了となりましたが、新学期開始以降の継続を希望される声が多く、9月15日から再掲しています。今後も企画をブラッシュアップしながら、取り組んで行きたいと考えています。

工藤氏:そうですね。ぜひTikTokのデュエット機能やリミックス機能を使って、他のアカウントとコラボレーションしてみたいです。それぞれのアカウントが有するフォロワーのコミュニティに対して、両領域のつながりを表現しながら情報発信することができますし、コミュニティ同士をつなぐことで新たな創発が生まれるのではと思うのです。

「TikTokらしさ×専門知識で、より多くの方に情報を届けたい」と意気投合する工藤氏と等々力氏

等々力氏:その際にはまたぜひ連携したいです。今回良い意味で想定外だったのは、投稿した動画に看護師資格をおもちの方から「法務少年支援センターでボランティアで働きたい」とコメントがあったことです。今まで届かなかった方に届けるために発すべき情報は、専門用語を並べた詳細の解説ではなく、視覚と聴覚で印象付けられる簡潔なメッセージということを知れたのは今回の大きな収穫でしたが、シンプルなメッセージでも「自らアクションしたい」と言わしめるまでのパワーがあるというのも驚きでした。

金子氏:今回のプロジェクトを通して、当事者であるなしに関わらず「学ぶ・働く・暮らす」に関する行政や団体のサービスに関する情報を少しでも多くの方に届けられたら良いなと思います。この未曾有のコロナ禍を乗り切るためにも、今後も行政や各団体と連携し、有益な情報を必要としている方のもとへ発信し続けたいと考えています。

特徴を伸ばし、補完する情報発信の三位一体システム



 専門知識を有する行政機関、当事者目線で語ることのできるNPO、そして安定したコミュニティと情報の発信力・波及力を有するTikTok。今まで交わる印象のなかった3者が実施した本プロジェクトは、それぞれの特徴を伸ばし、補完したことで、世の中にじわりと浸透している実感がある。三位一体のプロジェクトの実績は、これからの社会における情報発信の1つの理想モデルとなるだろう。

「コロナ禍でも学ぶ・働く・暮らすをあきらめない」プロジェクト
《橘その》

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