【中学受験2022】厳しい戦いは必至、情報発信の上手い学校に人気集まる…四谷大塚

 四谷大塚 情報本部本部長 岩崎隆義氏に、2022年の中学受験に向け、人気校の動向や併願パターン、入試本番に向かう親の心構えについて聞いた。

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 中学受験に向けた準備もいよいよ追い込みの時期となった。四谷大塚 情報本部本部長 岩崎隆義氏は「長引くコロナ禍を経て、家庭が学校教育に期待する内容にも変化があった」と分析する。来たる2022年の中学受験に向けて、人気校の動向や併願パターン、入試本番に向かう親の心構えについて聞いた。

コロナ禍で私立志向が増加



--今年の春(2021年度入試)の志願の傾向・特徴を教えてください。

 首都圏の私立受験者総数は昨年より500人程増えて5万2,000人に、6年生の総数はマイナスにも関わらず受験率は上がって17.5%となっています。この数字は東京都全体の平均ですので、23区に限っていえば27.1%、文京区や中央区など場所によっては50%を越えているところもあります。受験総数、受験率ともにここ5、6年右肩上がりに増加しています。

 コロナ禍中での受験となった2021年ですが、これまでずっと勉強をしてきた6年生がコロナで受験を止めることは少ないだろうというのが大方の予想でした。興味深いのは、その下の5年生、4年生、もっと低学年に渡って中学受験に向かおうとする傾向が高まっていることです。現に、全国統一小学生テストの受験者数も、年長から6年生の全学年においてコロナ禍以前よりも増加しています。

--コロナ禍にも関わらず受験生が増えた背景とは。学校や家庭での学びにどのような変化があったとお考えでしょうか。

 コロナ禍で全国一斉休校になった際のオンラインへの取組み方で、公立と私立に大きな格差が生まれました。突然の休校、入学式なども延期になるなかで、総じて公立は子供たちの学びが停滞してしまった印象です。一方でスピーディにICT環境を整え、オンライン授業など臨機応変に行った私立との対応の差を、保護者たちは目の当たりにすることとなりました。

 さらに、休校期間中の子供の学びに危機感を感じた保護者たちは、家庭で学びを補わざるを得ませんでした。不十分に感じられた学校の対応を学習塾やオンライン講座などで補おうと考えた家庭がかなりあったようで、そのことは緊急事態宣言が明けた昨年の夏以降の通塾率が上がったという数字にも表れています。

 コロナ休校がきっかけとなって子供の学びについて立ち止まって考える機会が増え、公立と私立の対応の差が浮き彫りになりました。私立の教育に目が向く層が増えることで、中学受験へ向かおうとするご家庭は今後もしばらく増加していくのではないでしょうか。

--来年(2022年度入試)も受験者数は増加するという予想でしょうか。

 私どもが主催するオープン模試のデータですが、直近の10月17日に行われた合不合判定テストは1万4,537人が受験しました。これは昨年の同時期よりプラス714人、5.2%増となっています。この増加率をベースに中学受験者全体を計算すると、今年の受験者は昨年の5万2000人の5%増、およそ2,500人~3,000人が増え、5万5,000人ほどになる可能性があると思われます。今年も厳しい戦いとなるのは間違いないでしょう。

四谷大塚 情報本部本部長 岩崎隆義氏

情報発信の上手な学校に人気が集中



--人気が高まっているのはどのような学校でしょうか。

 私立は休校中のICT環境を整備しただけでなく、オンライン授業の体制も、そのクオリティもすごい勢いで向上しています。コロナ禍で通常の学校説明会ができなかった代わりに、説明会や相談会、文化祭などをオンラインで開催する学校が増え、今年はもはやそれが当たり前となりました。

 従来は毎週土日に説明会を行って保護者を集めていましたが、今や多くの学校でWebサイトさえ見れば説明会や学校行事の映像を見ることができます。つまり、学校に足を運ぶ前の時点で保護者は学校を見比べることができるということ。何校も見比べるとその学校のカラーと、学校間の差がみてとれると思います。結果として、Webサイトの印象の良い学校や受験生にとって必要な情報のアナウンスが上手い学校など、Webを活用して上手に情報発信をしている学校に注目が集まるのです。

 もうひとつ。Webを使って情報を得るうえで、知名度のあるブランド校、100年以上の歴史がある伝統校が検索されやすいという点が挙げられます。親世代にもなじみのある実践女子や跡見学園といった、昔からある学校の人気が再浮上しているということからも裏付けられます。たとえば、前年度まで村田女子高校で、昨年開校初年度となった広尾学園小石川は6,000人近い受験者を集めましたが、アンテナを張っていろいろな情報を見聞きしている方は知っていても、そうでない方にとってはパッと頭に浮かぶ校名ではありません。そういう意味では、学校選びの選択肢において、情報を得ようとする保護者側の情報リテラシーの格差も影響してきていると思います。

大学進学実績で選ぶ時代ではない



--保護者が学校を選ぶ際の視点も変化してきているのでしょうか。

 今年から大学入試が共通テストに変わりましたが、それと同時に注目すべきはAO入試という自己推薦型入試の枠が広がっていることです。これまではセンター試験、2次試験といったペーパーテストだけで終わる時代でしたが、これからは違います。生徒が小学校から高校までの12年間どんなことに興味をもち、そのために中学、高校では具体的にどのような6年間の学びをしてきたかということが問われる時代になりました。そして、中学入試はそれを先取りしている側面があります。

 ここ数年に開校した新興校が超難関校になり得るのが中学受験です。大学の偏差値というのはそうそう変わらないのに比べ、中学入試の偏差値というのは、数年で10、20と劇的に上がることがあるのです。広尾学園小石川のように、新興校で卒業生の大学合格実績などが出ていないうちから大勢の受験者を集めて、人気校になるというのが良い例です。教育プログラム自体に魅力を感じて集まった生徒が、結果的に進学実績をつくります。志望校選びの際に大学合格実績もひとつの大きな指標ですが、6年間での教育プログラムそのもので学校を選ぶ家庭も増えています。

 中学高校の6年間というのは、人間形成のバックボーンともなる大切な時期。夢や志、夢や価値観を学ぶ最初で最後の時期です。その多感な時期をどんな環境で過ごさせるかということを、中高一貫教育という6年間に期待している保護者が非常に多いと感じています。偏差値が高いから、大学受験の現役合格率が良いからこの学校を選ぶ、そんな単純なものではなくなっているのです。

--6年間の教育内容をしっかり吟味したうえで学校が選ばれているということですね。

 世の中がものすごいスピードで変化しているというのは、皆さんが感じていると思います。答えのない世界を生きていくうえで、どうやったら論理的に考えて問題を解決できるのか。教科書の基礎基本を学ぶのは当然で、そのうえで「新しい学び」が必要とされる時代がきています。ひとりひとりにタブレット端末が与えられ、それらを活用した授業が当たり前の6年間のなかで、AIやデータサイエンス、デジタルアーツといった先鋭的な教育を中学生にどう取り入れていくかというのは、やはり私立の方がスピード感とクオリティに秀でていると期待する方は多いのではないでしょうか。

学校選びのポイントとは



--私立の中高が進化し続けるほど、悩みが尽きなくなるのが学校選びです。

 1都3県に300の私立中学があるとしたら、300通りの方針と特徴があると思って良いでしょう。お子さんが通学圏内の学校を考えても、男女別学か共学校か、進学校か大学付属校か、祖父母の時代からある伝統校か新しい学校か。ミッション校や仏教校なのか、バカロレアなどのカリキュラムがあって英語の授業数が多い学校かなど、実にいろいろなカラーの学校があります。学校を選ぶにあたっては、「どういうふうに育てたいのか」ということをぜひもう一度自問自答して、夫婦で話し合う機会にしてほしいと思います。6年間どういう環境に時間とお金の投資をしたいのか、今一度じっくり考えてみてください。

 評判の良い学校、塾の先生に勧められた学校が我が子にとっての良い学校かどうかはわかりません。食べ物の好みと同じで、学校や教育への考え方は十人十色、バラバラです。情報を鵜呑みにしないこと、学校名や偏差値で選んではダメだということです。

--学校と子供との相性の良さを掴むポイントはあるのでしょうか。

 最終的には交通機関を使って足を運んで、実際の学校の雰囲気などを知らないといけませんが、今はその前段階で情報収集をすることができます。オンライン説明会などを見ていても1時間ずっと話が続く学校か、スライドや動画などを交えて要点をコンパクトにまとめる学校かなど、雰囲気を感じることができるはず。校長先生のわずか10分のスピーチでもその学校の特徴は出ます。良い、悪いではなく好みの問題です。この学校の校長先生の話は支持できる、共感できると感じるならば、志望校になり得ると思います。

 また、学校に出向く機会があるとしたら、ぜひ意識していただきたいのが、その学校の生徒を見て我が子をその学校の生徒にだぶらせることができるかどうか。インスピレーションも大事にしてほしいと思います。

人気校=偏差値の高い学校ではない



--今年度(2022年度入試)における現時点の人気校を教えてください。

 直近のオープン模試である合不合判定テストが10月17日に終わりました。年明け2月には本番ですから、このタイミングで志望校判定に書いている学校にはそれなりに意味があると考えて良いでしょう。

 第一志望校としての志望者数 でいうと、男子のベスト10は1位から、早稲田、武蔵、早稲田実業、明大中野、早大学院、開成、慶應普通部、海城、麻布、浅野の順番です。昨年比では芝がベスト10から外れて麻布がランクインするという変化がありました。

 女子は、吉祥女子、女子学院、鴎友、豊島岡、青山学院、香蘭、桜蔭、立教女学院、早稲田実業、学習院女子ですね。こちらは変動ありません。

 入試日程別ですと1月校で前年より志望者数を増やしているのは栄東、開智、大宮開成、芝浦工大柏です。2月1日午前では、昭和女子、実践女子。広尾学園小石川は午前午後とも昨年を上回っています。男子では獨協、都市大付属、慶應普通部、明大八王子などが増えています。

 2月2日で一番増えた学校が明大中野。こちらは過去最高の人気です。3回入試を2回に減らしたにも関わらず志望者を増やしている吉祥女子、日大豊山。その他女子でいうと、 大妻、カリタス、成蹊、跡見学園などの人気が高まっています。

 昨今、多くの子供たちが目指したい人気の学校というのは、必ずしも偏差値の高い順ではなくなっています。先にも述べましたが、保護者の価値観が変わってきており、大学進学実績や偏差値ではなく我が子に合った学校選択をしようという考えが表れているのではないでしょうか。


まずは2日までの「合格」を



--併願について気を付けることはありますか。

 全体の受験者数は5万2,000人、出願総数は30万弱というデータがありますので、だいたい1人につき6回は出願していることになります。これは1~2回しか出願しない受験生も含む平均値になるので、実際には10試験回くらい出願することが多いのではないでしょうか。

 もちろん2月1日に第一志望校に受かってしまえばそれで終わりですが、1発勝負で終わる子は見たことがありません。アドバイスとしては、1月中に千葉、埼玉で行われる入試をどこか必ず受けて、1勝1敗、2勝1敗くらいで2月1日の本命に挑んでほしいと思います。

 通学圏内に千葉、埼玉の学校がないという方は、2月1日、2日の午後入試を組み込み、2日までには必ず1校は合格をとってくださいとお伝えしています。併願戦略として、1日、2日に受ける学校の合否によって3日は挑戦校か安全校かといったパターンを検討するご家庭もあるかもしれませんが、当日発表の学校も多い中で、もし万が一1日、2日の午前も午後も不合格が続いたとしたら、親も子も心が折れてしまいます。

 1校の合格もないまま、気持ちを切り替えて3、4、5日の試験まで戦い続けることは12歳のメンタルには不可能です。後半の入試に臨むにしても、2日までに必ずどこかしらの合格をとれるような併願パターンを組むようにしてください。

思い通りの結果ではなかったとき親は…



--小学6年生、保護者へのアドバイスをお願いします。

 第一志望として校名が上がる学校はどこも倍率2.5~3倍を超えます。ということは、実質3人に1人しか第一志望に入れないのです。たとえ模試でA判定(合格可能性80%)でも2割の子は落ちます。では、落ちた子は受かった子に比べて努力が足りなかったのかというとそんなことはありません。受かった子よりも努力していた子はたくさんいます。いくら勉強しても、過去問をやっても、現実として、努力量で合否が決まるわけではないのです。今これを言うのは少し酷かもしれませんが、「必ずしも努力通りにならない」ということを親は認識しておかなければなりません。

 これから本番が迫るに従い、保護者はどうにか第一志望に合格させてあげたいという思いがどんどん強くなってきます。子供も、受かりたいという思いが強いほど過去最大限の努力をするでしょう。それでも不合格だったとき、あなたは子供にどんな言葉をかけるでしょうか。

 必要なのは「どの学校に受かったかよりも、進学した学校でどう6年間頑張るかのほうがもっともっと大切」ということ。長年、たくさんの受験生を見届けてきた私からの真理はこれに尽きます。大切なのは、子供がその学校で、自身の力を伸ばせるかどうかです。

 ある親子の話をします。2月3日、本命校の合格発表へ向かい、人混みのなか掲示板を見に行った息子が、お母さんの元へ泣きながら戻ってきました。「お母さん、ごめん」と言いかけた我が子に対してお母さんはこう言ったそうです。「お母さんはどれだけあなたが努力してきたか知っているよ。あなたの努力がわからない学校は、こっちから願い下げよ。だから顔を上げて胸を張りなさい」と。

 この生徒は、後に中学高校を経て東大合格を果たしましたが、合格発表のときに母に言われたこの言葉を胸に6年間頑張ることができたという話を私に打ち明けてくれました。

 「結果ではなくプロセス」。言葉にしてしまえば簡単ですが、もし思い通りの結果にならなかったとしても、一番近くで見ていた親が「よく頑張った」というひとことを言えるかどうかが大事だと思うのです。

 どうか、受験本番を迎えるその日まで、子供が一生懸命頑張っている姿を褒めてください。お母さんは頑張っているあなたを見るだけで幸せよ、と伝えてほしいと思います。

--ありがとうございました。

 たとえ親主導でスタートした中学受験でも、6年生の秋にはすっかり受験生の顔になっていく。その姿を見るだけでも子供の大きな成長を感じられることだろう。親子で本気で取り組んだ中学受験、結果はどうあれ「大変なこともあったけど、良い経験ができたね」と親子で思える受験になってほしい。

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《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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