教科書のデジタル化に対する温度差…立場による違いがDiTTシンポジウムで明らかに

 小・中学校における教科書のデジタル化実現を目指して活動する協議会として設立されたデジタル教科書教材協議会(DiTT)は6月5日、「これからのデジタル教科書の話をしよう」と題したシンポジウムを開催した。

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デジタル教科書教材協議会シンポジウム
  • デジタル教科書教材協議会シンポジウム
  • パネルディスカッション、登壇者
  • 遠藤利明衆議院議員
  • 石橋通宏参議院議員
  • 慶應義塾大学政策メディア研究科特別招聘教授、夏野剛氏
  • 韓国ITジャーナリスト、趙章恩氏
 小・中学校における教科書のデジタル化実現を目指して活動するデジタル教科書教材協議会(DiTT)は6月5日、「これからのデジタル教科書の話をしよう」と題したシンポジウムを開催。衆・参議院議員も含め、デジタル化実現へのロードマップを模索した。

 2010年7月に設立されたDiTTは、2015年までに1,000万人の子どもたちにデジタル教科書を整備することを目標に、各地で実証研究などを重ねている。また、出版社や端末メーカー、放送局、シンクタンクなど120社が協議会に参加しており、教育業界で注目されている団体だ。今回のシンポジウムでは、同協議会の2011年の成果発表と2012年提言に加え、海外事例の紹介やパネルディスカッションも行われた。

 発表された提言は3点あり、1点目は「デジタル教科書実現のための制度改正」。著作権法や教科書検定制度の改正など、デジタル教科書を教科用図書とするための制度を整えることを表すという。2点目は「デジタル教科書普及のための財政措置」。デジタルコンテンツの作成と提供だけではなく、タブレット端末も支給することを目標としているDiTTにとっては、財政措置は重要な検討項目だ。3点目は「教育の情報化総合計画の策定・実行」。高速無線LANの整備や、デジタル教科書・教材の用意など、総合計画を策定し、実行することを意味する。

 これらについて、パネルディスカッションに登壇した民主党の石橋通宏参議院議員は、デジタル教科書の検定教科書化を2015年までに実現するのは難しいとし、2018年か2019年が現実的だと話す。また、自民党の遠藤利明衆議院議員は、デジタル化に向けては今までも努力をしてきたとしたうえで、デジタル化することによるメリットを証拠として示す必要があると説明した。

 これらの政府側のコメントに対し、DiTT事務局長である中村伊知哉氏は、デジタル化のメリットはすでに実証されていると反論し、証拠ばかりを求めると100年たっても何も変わらないのではないかと不安視する。DiTTは2011年度、4つのワーキンググループを立ち上げ、すでに13の実証研究を行っていることもあり、現状以上の証拠となると、具体的にどのような成果を政府が求めるのかを明確化する必要があるだろう。

 慶應義塾大学特別招聘教授の夏野剛氏も政治的な足踏みについてコメントし、すべてを一律で行う必要があるという日本のメンタリティーが問題だという。すべての小中学生を対象に、同じタブレットを同時期に配るとなると、どのメーカーのどの製品にするかなどを決めるだけで時間がかかると懸念する。学校や自治体に多様性を持たせ、大きな幅をもって政策にトライしてほしいと夏野氏は期待する。大切なことは、教育ICTで最先端を進む学校や自治体を政府側が邪魔しないことだという。

 韓国では、教科書のデジタル化が良いか悪いかという議論は10年前に終わっていると韓国ITジャーナリストの趙章恩氏はいう。韓国でのデジタル教科書の構想は1996年に始まっており、教科書に関する法的な制度もすでに整っている。デジタル化のメリットを証明すべきだという日本政府は、韓国が10年前に終わらせた議論を今行っているのが現状だ。世界的に教育ICTの導入が遅れている日本に危機感を抱き、早期実現を目指すDiTTと、2018〜19年までかかると答える政府側の温度差が明らかになったパネルディスカッションだったのではないだろうか。

 法の改正が前提となる教科書のデジタル化。政府が動かない限りデジタル化はない。その一方で、全国のさまざまな小・中学校でICTを取り入れた新たな取り組みが行われている。デジタル教材を取り入れた授業を行う学校はもちろん、オリジナル教材やカリキュラムをほかの学校や先生と共有できるシステムを取り入れている自治体も存在する。教科書のデジタル化と並行して、各学校や自治体が新たなICT導入事例に取り組むことも、日本が世界レベルに追いつくために必要なことだろう。
《湯浅大資》

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