医学部受験の面接講座!その4~さまざまな能力が試されるMMI~

 この記事では「医学部受験の面接講座!」と題して、進学塾ビッグバン小論文・面接科による、KADOKAWA発行の「世界一わかりやすい 医学部小論文・面接の特別講座」より、医学部を目指す高校生・受験生に役立つ情報を紹介する。

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KADOKAWA「世界一わかりやすい 医学部小論文・面接の特別講座」
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さまざまな能力が試されるMMI



 その1~3では医学受験の面接試験の大半を占める個人面接、グループ面接、さらにグループ討論について詳しく説明をしました。ほとんどの大学の面接試験は、この3つの形式についてしっかり準備と練習をしておけば問題はありません。

 しかしここ数年で新たな形式の面接試験を行う大学が出てきました。たとえば、東邦大学医学部や藤田医科大学医学部、東京慈恵会医科大学です。実施されているのはMMIと呼ばれる面接形式です。

 MMIとはmultiple mini interviewの略で「複数の課題を用いた面接試験」のことを言います。1回のMMIで、「表現力」「判断力」「論理的思考力」などの能力のうちの1つを評価します。同じMMIであっても大学によって形式がやや異なります。

 たとえば東邦大学医学部の場合はこんな感じです。

 まず受験生が面接室に入るとそこには面接官が1人います。そして机の上にある1枚の紙を読むように言われます。そこにはたとえばこのように書いてあります。

 「あなたの家族がアルツハイマー病であることが分かったとき、あなたはそのことを正確に伝えますか。」

 読み終わるとそこから質疑応答が始まります。3分後に終了の合図があると受験生は隣の部屋に移動し、さっきと同じことを繰り返します。一般入試の場合はそれを4セット行います。

 東邦大学医学部ではこのほかに少し変わったグループ討論も行われます。いわゆるワークショップと言われるもので、メンバーが全員で1つのテーマについて話し合い、そこから出た結論を面接官に報告をするというものです。基本は普通のグループ討論ですが、ワークショップにはワークショップなりの練習が必要です。

 藤田医科大学医学部のMMIはまた異なります。受験生が面接室に入ると机の上に1枚の紙が置いてあるのは同じですが、そこにはある特殊なシチュエーションが書かれています。

 「あなたがアルバイトをしているお店に汗だくの人が駆け込んで来店し、(明らかに)コーラを頼まれました。あなたが注文どおりコーラを持っていくと、コーヒーを頼んだと言われました。あなたはどうしますか。」

 それを1分間で読んだ後、自分がどのような行動をとるかを五分間で説明します。終了の合図があるとその時点で部屋を退出します。

 大学のホームページによると、藤田医科大学医学部のMMIは五分間で行われ、それが一般入試の場合は4セットということになっていましたが、MMI開始初年度は2セットで、残りの10分間は一般的な個人面接が行われました。

 藤田医科大学医学部のMMIの最大の特徴は質疑がないということです。東邦大学医学部や東京慈恵会医科大学では面接官による質疑があります。また現役生であっても、先入観が入るのを避けるために私服の着用が求められているのもおもしろいです。

 今後はどうなるのかはわかりませんが、MMIはしばらく続くことが予想されます。1つのセットごとに1つの能力の有無を判定するという形式は、ほかの大学でもどんどん行われるようになるかもしれません

 東京慈恵会医科大学のMMIは東邦大学医学部によく似ていますが、1セットで7分というのが受験生にとっては大変だと思います。入試本番で出題されたテーマの1つに次のようなものがありました。

 「A医師が担当していた患者は延命措置を拒否していたが、病院側はそれを認めなかった。あるとき、清掃員の1人がケーブルに足をひっかけてしまい延命に必要な装置のケーブルが抜けてしまった。A医師はあえて装置をつなげず患者は亡くなった。A医師は許されるべきか。」

 このセットでは「安楽死の可否」ということについての見識の深さを判定しようとしたのだと思いますが、7分間はかなり長い印象です。また流れ次第で、大学側が判定したいと思っていた能力以外のものが試される可能性もあり、油断はできません。

 これ以外では「今後の医療について」「まとめサイトについて」「トランプ政権について」など、多岐にわたる知識と教養が求められるものがテーマになったようです。大学側は特別な知識は必要ないとしていますが、鵜呑みにしてはいけません。普段から新聞やニュースを見て知識や教養を蓄積していきましょう。その場で考えてなんとなく済まそうなどという甘い考えは捨てるべきです。

 しっかりと知識と教養を身に付け、実力のある指導者と1対1で練習を重ねてください。指導者のレベルが低いと練習になりません。なお、東京慈恵会医科大学ではMMIが4セット行われ、それ以外に個人面接が10分実施されますが、個人面接はごく普通のものです。

 ここで、東京慈恵会医科大学のMMIのテーマについて、実際に本番の面接試験でされた質疑応答を紹介しておきます。これは1セットの半分ほどですが、基本的にはこのような感じだったようです。

面接官「あなたはA医師は許されるべきだと思いますか。」
受験者「A医師は許されるべきではないと私は考えます。なぜならA医師の行為は安楽死にあたりますが、日本では安楽死は認められていないからです。」
「なぜ日本では安楽死が認められていないか知っていますか。」
「死期を早めるのは殺人と同じだと考えられるからではないでしょうか。」
「でも、たとえば末期がん患者さんの場合は、死期を早めるとは言ってもそれほど長い期間ではないよね。」
「確かにそうです。でも死期を早めるという点では同じです。早めた期間の長短を問題にするのなら、どのくらいなら死期を早めても許されるのかということになってきます。」
「なるほど。ではあなたは1分でも死期を早めるのはだめだと考えているのかな。」
「はい。それにそもそもどのくらい死期が早まったかを正確に知ることはできないのではないかとも思います。」
「それはどういう意味ですか。」
「余命宣告にはそれほど根拠がなく、余命1週間と宣告されても1か月生きることもあるようです。安楽死の場合、死期を早めた期間を知ることは不可能なのではないでしょうか。」
「なるほど、そういうことですね。あなたがA医師は許されるべきではないと考える理由はほかにありますか。」
「そうですね...A医師は病院という組織の一員なので、その組織の方針に従わないのはだめだというのも理由になると思います。」
「あなたが医師になったら組織の方針には必ず従いますか。」
「基本的には従うと思います。」
「基本的にはということは、従わない場合もあるということですか。」
「はい。あると思います。」
「ではどのような場合なら病院という組織の方針に従わないのか、具体例を1つ挙げてください。」
「...具体例ですか...そうですね。たとえば犯罪のようなもの...いや、たとえば医療ミスが起きたときに病院がそれを隠蔽することを決めたときなどなら、私は組織の方針に背くと思います。」
「そういうとき、あなたはどうするの。マスコミにリークしたり警察に告発したりするのかな。」
「いえ、まずは患者さんやそのご家族、もし患者さんが亡くなってしまったのならそのご遺族に本当のことをお伝えすると思います。」
「その結果、あなたが病院をクビになってもそうしますか。」
「はい。医師は患者さんの利益のために存在し、医療ミスがあったときには正直に伝える義務があると思います。もしミスを隠蔽すれば、同じようなミスが再び起きると思います。」
「なるほど。よくわかりました。」

 以上のように、MMIを実際に実施している大学とその質問内容、および東京慈恵会医科大学での質疑応答の一部を紹介しました。

 東邦大学医学部のMMIはその場で考えさせるようなテーマが多く、知識や教養は人並みにあれば十分です。東京慈恵会医科大学のMMIはかなり深い知識と教養が求められるものの、ともに質疑応答の形式をとっているため答えやすいと思います。

 もっとも難しいのは藤田医科大学医学部のMMIだと思います。5分間で自分のとる行動について説明をするというものですが、5分間話し続けるのはかなり難しいです。

 「あなたがアルバイトをしているお店に汗だくの人が駆け込んで来店し、(明らかに)コーラを頼まれました。あなたが注文どおりコーラを持っていくと、コーヒーを頼んだと言われました。あなたはどうしますか。」

 これは先ほど紹介したテーマですが、このテーマにしても5分間話すのは至難の業です。もちろん思いつくままにだらだらと話し続けるだけなら可能でしょう。おそらく、次のように言葉をつないでなんとか5分間を乗り切った受験生が多かったのではないでしょうか。

 「私はそのお客さんの言うようにコーヒーを持ってくると思います。自分の耳にはコーラと聞こえたけれど、聞き間違いということもありますし、何かに録音してあるのなら別ですが、今回は録音していないはずなので、お客さんの言うとおりにコーヒーを持ってくるべきだと思うからです。え~っと...もし私が聞き間違えたのなら、それはそのお客さんが汗だくだったからで、この人ならコーラを飲みたいだろうという先入観があったからだと思います。...え~っと...一応そのお客さんにはコーラを注文したように聞こえましたがとは言うと思いますが、そんなことは言っていないと言われれば仕方ないかなと思います。...え~っと...店の店長にも報告をしようと思います。店長がコーヒーを持って行けと言うのなら持って行きますが、持って行かなくてもいいと言われたときには...え~っと...一応店長がそう言っていますとお客さんに言って...それでも納得してもらえないようならコーヒーを...半分だけの料金を払ってもらえるかどうかを頼んでみて...あ、もし店長が私のミスなのでコーヒーの料金を払えと言われれば、そんな店でアルバイトを続けるのは嫌なので辞めるかもしれません。いや、それはここでは関係なかったです。すみません。...え~っと...コーヒーを持って行くとコーラが残るのでそれを次のお客さんに回すということを考えるかもしれません。...コーラの原価は安いので自分が払うということもいいかもしれません。そうですね、きっとそうすると思います。コーラ1杯のことで仕事が滞るのはよくないので。え~っと...」

 こんなふうに思い付くままに話し続けることを面接官が期待しているとは思えません。ある程度順序立てて話す方が印象はいいはずです。次の2点を意識してみましょう。

 

1分間で、自分にどのような選択肢があるかを考える



 

自分がどのような行動をとるかを言うのは後回しにする



 与えられた1分間で、自分がどのような行動をとるかまで整理立てて考えることは、ほとんど不可能です。そこでまずは自分に与えられた選択肢は何かをきちんと整理し、それらについて順番に述べていくうちに、自分のとるべき行動がきっと見えてきます。

 

考えてから話すのではなく話しながら考える



 こういう練習をしておけば、よほど難しいテーマでない限り対応できます。ちなみにこのやり方をとればこのような回答になります。

 「このような状況において私にはいくつかの選択肢があります。まず考えられるのは、このお客さんに『あなたが注文したのはコーヒーではなくコーラですよ。』ということをはっきり言うか否かです。はっきり言うのは、お客さんの明らかな言い間違いの責任を店がとる必要はないと考えられるからです。一方、お客さんが『コーヒーではなくコーラを注文した。』と言っている以上、まずはコーラを持ち帰り、それから対応を検討するべきだと考えられるからです。そこでどちらを選択するかですが、私はその場では何も言わず、とりあえずコーラを持ち帰るという方法を選ぶと思います。なぜなら、その場でことを荒立てるとほかのお客さんの迷惑になると考えるからです。

 次にコーラを持ち帰った後の対応についてですが、この場合は店長に報告をするという選択肢と、自分で対応策を考えるという2つの選択肢があります。店長に相談するのは、コーラが無駄になることで店に多少なりと損害が出るからです。逆に自分で対応策を考えるのは、コーラの原価自体は非常に安く、せいぜいコップ1杯で30円くらいなので、そのくらいの金額ならわざわざ店長に相談する必要はないと思うからです。そこでどちらを選ぶかですが、私は自分で対応策を考える方を選びます。理由は店に生じる損害の少なさを考慮したからです。

 最後に、私にはお客さんに『先ほどは失礼いたしました。コーヒーをお持ちしました。』と謝罪するという選択肢と、『お待たせしました。コーヒーです。』とだけ言って、謝罪をしないという選択肢があると思います。これは明らかにお客さんが言い間違えたのだから、私が謝罪する必要はないと考えられるからです。そこでどちらを選ぶかと言うと、私はお客さんに謝罪する方を選ぶと思います。なぜなら、おそらくお客さんは単に言い間違えただけであって、それに対してあまり目くじらを立てるべきではないと思うからです。さらに、ここで謝罪をしておけば、このお客さんにまた来店してもらえるかもしれず、その方が店にとっても利益が大きいと考えるからです。もし私が『あなたの注文したのはコーラでした。』と言ってしまえば、気分を害したお客さんが店の悪口を陰で言うようになるかもしれません。今は損して得を取るべきだと思います。

 以上より、私はこのお客さんにすぐにコーヒーを運び、聞き間違えたと謝罪をすると思います。」

 どうでしょうか。こんなふうに結論を後にし、まずはどのような選択肢があるのかを押さえていけば、ある程度の時間は稼げます。ここでもやはり事前の準備と練習が必要です。

<協力:KADOKAWA>

世界一わかりやすい 医学部小論文・面接の特別講座

発行:KADOKAWA

<著者プロフィール:進学塾ビッグバン小論文・面接科>
 進学塾ビッグバンは開学17年目を迎える医系専門予備校。日曜日を除く9時から22時までの完全拘束学習体制を整える。生徒一人ひとりの学習状況を把握し、学習面・生活面・精神面のすべてを徹底的にフォロー。小論文面接科は様々な情報源と蓄積された膨大な経験から必要な知識のほか「医師を志す者はどういう人間でなければならないか」を考えさせる授業を展開。出願書類の作成指導も担当する医学部受験指導のエキスパート集団である。

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