次世代への教育・異能発掘に100億円…三菱グループ初の教育支援財団

 三菱グループは2019年10月16日、創業150周年事業の第1弾として、グループ初の教育支援財団「三菱みらい育成財団」の設立を発表した。当財団は、次世代の人材育成を担う教育活動をサポートする。

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三菱グループが教育支援の財団「三菱みらい育成財団」を設立(三菱みらい育成財団 設立発表会)
  • 三菱グループが教育支援の財団「三菱みらい育成財団」を設立(三菱みらい育成財団 設立発表会)
  • 三菱創業150周年記念事業委員会 委員長 宮永俊一氏(三菱みらい育成財団 設立発表会)
  • 三菱みらい育成財団 理事長に就任した平野信行氏(三菱みらい育成財団 設立発表会)
  • 平野氏から設立経緯や概要が説明された(三菱みらい育成財団 設立発表会)
  • シンプルな財団のロゴ(三菱みらい育成財団 設立発表会)
  • キャッチコピー「輝け!未来。未来はあなたたちのものだから。」(三菱みらい育成財団 設立発表会)
  • 質疑応答に対応する登壇者4名(三菱みらい育成財団 設立発表会)
  • 三菱創業150周年記念事業委員会 世話人 三島正彦氏(三菱みらい育成財団 設立発表会)
 三菱グループは2019年10月16日、創業150周年事業の第1弾として、グループ初の教育支援財団「三菱みらい育成財団」の設立を発表した。当財団は、次世代の人材育成を担う教育活動をサポートする。

 三菱みらい育成財団は、三菱グループの主要27社から資金捻出を受けて、2020年度から助成活動を開始し、その後10年間にわたり、高校生を中心に大学生や中学生などの次世代人材育成に寄与する教育活動を助成していく予定。総事業費は約100億円が想定されており、1案件につき最長5年間まで助成し、長期的な支援や助成する教育活動の定着に向けたサポートも考えられている。三菱グループによる教育支援を目的とする財団設立は今回が初となる。

創業150周年を節目に“人”を育てる



 財団設立記者会見の冒頭、グループ27社で組織される「三菱創業150周年記念事業委員会」委員長、三菱重工業 取締役会長 宮永俊一氏から、先般の台風19号での被災者へのお見舞いの言葉とともに、今回の財団設立の背景が説明された。

 三菱は1870年に岩崎彌太郎が海運業を起こしたことが始まりで、2020年に150周年を迎える。創業は明治という変化の時代、そして150年経った現在もまた、テクノロジーの進化などで日々の生活が豊かになる一方、気候変動やエネルギー問題などの地球規模の難題が顕在化し、大きな転換期ともいえるだろう。こうした転換期では、日本はもとより、地球規模で社会を支え、未来の扉を開くことができる人材が求められる。そうした現状認識のもと、未来を担う子ども・若者の育成を目指す教育活動への助成と支援を目的とした「三菱みらい育成財団」が設立されることになった。

外に開かれた財団へ



 続いて、当財団の理事長を務める三菱UFJフィナンシャル・グループ取締役 執行役会長の平野信行氏から、財団設立の経緯や概要が説明された。

 三菱グループには「三綱領(所期奉公、処事光明、立業貿易)」という共通の価値観あるいは理念がある。150周年記念事業を準備するうえでは、まず“所期奉公”、期するところは社会への貢献という理念を、記念事業の中核にするということで固まっていた。そして、何をやるかについては、先端技術・先端科学の研究やスタートアップへの支援などさまざまなものがあったが、未来を担う若者たちを育てていくことがもっとも大事であるということで一致したという。

 平野氏は「100周年の際には研究開発分野への助成を目的に財団を作り成果も出ましたが、今回は“教育”をテーマにしています。しかも今回対象としているのは、中学生・高校生・大学生といった若い世代ですので、目的も違うということで、新しい財団にいたしました。」と述べ、明確に“次世代への教育”こそが重要であることが印象付けられた。

三菱みらい育成財団 理事長に就任した平野信行氏(三菱みらい育成財団 設立発表会)三菱みらい育成財団 理事長に就任した平野信行氏

 当財団の概要も意欲的だ。まず10年間を目途に100億円を拠出する期間限定型の財団とし、高速なPDCAを実施して成果を出すスピード感を強調。運営については評議員をはじめとして、理事会の諮問機関としての「アドバイザリーボード」や助成案件の選定を担う「選考委員会」の設置など、外部の有識者をはじめ、広く教育領域の専門家にも参画を求めることで、事業の効果を高め、外に対して開かれた事業にしていくという。

既存の教育システムの変革や異能を発掘するプログラムが助成対象



 平野氏は「何を助成するかについては、なるべく柔軟にやりたい」とし、まず核となる考えが示された。

 「決めているのは、明るい未来を作る、次世代を育てていくという大きな目的です。グローバル化、デジタル化、急速に進展する今の社会、世界、経済、そういった環境の中で、自ら課題を発見し、自ら考え、解決策を構想し、さらにはそれを他者あるいは社会に対して発信、コミュニケーションをしていく人材を育成すべきであると思っています。そうした人材を育成するプログラムの開発・運営に対しての助成を一つの大きな柱としようと考えています。」

 助成の対象については2つの例が示された。

 最初に、高校生を中心に中学生、大学生を対象とした新たな教育プログラムを開発・運営する主体への助成学校や教育委員会、NPO法人などの教育事業者や株式会社も視野にあるという。

 平野氏は、「学校に関しては、2022年から実施される高校の学習指導要領の改訂で、社会に開かれた教育課程として、主体的で対話的な深い学びを目指しています。具体的な方法としては、探究型学習プログラムを取り上げています。この考えに則した画一的あるいは一方通行ではない新しい学びの形としてのプログラムを推進する高校や取組みを行っている法人などを助成することになるだろうと思います。実際に探究学習といっても、現在は定まった形があるわけではないので、皆さん試行錯誤しておられます。そこで新たなものを展開しようとする人たちをバックアップしようとしています。加えて、これからの教育に不可欠と考えられるキャリア形成やグローバル人材の育成STEAM教育アクティブラーニングプロブレムベーストラーニング(PBL)といった課題解決型学習といった分野や教育手法の開発・運営に対しても助成をしていきたいと思っています。」と、どのような領域を助成するかの考えを話した。

 もうひとつの領域には、先端科学技術人材や異能人材の発掘・育成のプログラムへの助成があげられた。主に中学生や高校生向けに展開している大学やNPO法人などの事業者が助成の対象になるという。

 「従来、日本の教育は平等を旨とし、均質な教育に軸足を置いてきましたが、結果として、個々人の個性を自由に伸ばす、尖った人材を生み出す力に欠けたのではないかという意見が、皆さんから寄せられています。そうした人材を発掘して伸ばしていく。これが日本の将来の社会の発展には不可欠であると考えています。」と、平野氏からは現状の教育を変革する強い意志が感じられた。

キャッチコピー「輝け!未来。未来はあなたたちのものだから。」(三菱みらい育成財団 設立発表会)キャッチコピー「輝け!未来。未来はあなたたちのものだから。」

助成だけでは終わらせない、定着へのサポート



 事業運営の方針では、まず外部の有識者や高校の先生などの現場の意見を積極的に取り入れていくこと、また、単なる助成事業に終わらせずに、日本の教育を変え、質を高めるという観点で、対象となる事業の活動を資金面だけではなく、さまざまな形でサポートすることが示された。

 平野氏からは「対象となった事業者同士の議論であるとか交流の場を定期的に設けて、彼らの間のネットワークづくりあるいは対外的な情報発信を行って、その成果を広く波及させるための取組みにしていきたい。一種のプラットフォーム事業をやってみたいという、そんな構想をもって取組みます。」とイメージが伝えられた。

 最後に、三菱のグループ企業やグループ社員の地域社会への貢献を果たすという観点から、助成事業への講師派遣や参加等の取組みにも力を入れていくと、三菱グループの全面的なサポートを打ち出した。

分母を大きくして尖った人材を



 質疑応答で平野氏は「日本の教育システム全体を変えて、これからの社会課題に対する解決策を、自分で見出すような能動的な多様な個性をもった人たちを母集団として、その分母を大きくしたいという気持ちがあります。それがあって日本の教育の質が変わる、それが分母となってノーベル賞授賞者などの人材が今後も現れることを期待したいと思っています。」と、10年で決着することではないことも踏まえながら、財団の目指すところを話した。

 2020年の春には募集要項が発表され、活動状況が同年秋の150周年記念式典で報告される予定。産業界からの力強いバックアップは、大きく変わろうとしている日本の教育にも心強い。今後、当財団の支援を背景に、どのようなプログラムが選定されるか、またいかに“尖った”人材が輩出されるかにも注目したい。

財団概要


名 称:一般財団法人 三菱みらい育成財団
(英文名:Mitsubishi Memorial Foundation for Educational Excellence)
所在地:千代田区丸の内二丁目2番3号 丸の内仲通りビル9階
設立日:2019 年10月1日
<評議員>
安西 祐一郎(元慶応義塾長、独立行政法人日本学術振興会顧問)
石村 和彦(AGC 株式会社 取締役会長)
鎌田 薫(早稲田大学前総長・名誉顧問、教育再生実行会議座長)
杉山 博孝(三菱地所株式会社 取締役会長)
田中 優子(法政大学総長)
永野 毅(東京海上ホールディングス株式会社 取締役会長)
松本 紘(国立研究開発法人理化学研究所 理事長)
栁井 秀朗(三菱重工業株式会社 常務執行役員)
<理事長>
平野 信行(株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役 執行役会長)
<常務理事>
藤田 潔
<理事>
赤堀 侃司(東京工業大学 名誉教授)
長澤 光太郎(株式会社三菱総合研究所 常務執行役員)
原田 真治(三菱電機株式会社 取締役常務執行役)
坂東 眞理子(昭和女子大学 理事長・総長)
藤原 謙(株式会社三菱ケミカルホールディングス 取締役執行役常務)
三島 正彦(三菱重工業株式会社 取締役常務執行役員)
渡邉 肇(公益財団法人三菱財団 常務理事)
<監事>
三宅 茂久(税理士法人山田&パートナーズ統括代表社員)
<事業内容>
教育プログラムや教育事業者への助成、事業活動のサポート
<事業期間>
2019年10月1日~2031年3月31日(予定)
《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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