あなたは今、自分のキャリアに満足していますか?
やりたいことが見つからない、今の仕事が自分に合わない気がするけれど、どうすればいいか分からない -漠然とした不安や課題は、実は「自己理解」の不足から生まれているのかもしれません。
本記事では、書店ランキング第1位※丸善日本橋店 週間ランキング第1位(ビジネス・経済部門: 6/1発表)を獲得した書籍『「何者でもない」自分から抜け出すキャリア戦略』の著者であり、株式会社Your Patronum(ユア パトローナム) 代表取締役の森数 美保さんにお話を伺いました。
従来のキャリア支援とは一線を画す独自の視点で、納得感のある未来を描くサポートをされている森数さん。キャリアにおける「自己理解の重要性」と、実践的な「選べる自分」になるためのヒントを探ります。

森数美保さんプロフィール
株式会社Your Patronum 代表取締役/組織・キャリア開発の専門家
大阪大学卒業後、新卒一期生として人材紹介会社ジェイ エイ シー リクルートメントに入社し、最年少マネージャーを経験。その後、株式会社Misoca(現・弥生株式会社)、株式会社キャスター、株式会社ミライフ等を経て2024年株式会社Your Patronum(ユアパトローナム)創業。代表取締役に就任。「チームの行動を変容させ、強い組織をつくり事業を伸ばす」をミッションに、法人向けの組織開発コンサルティングサービス「ユアパト」、個人向けのキャリア支援サービス「キャリパト」を提供している。名古屋在住。16歳女子、14歳男子の母親。社会保険労務士有資格者
他人軸からの解放:不安を手放し、納得の未来を選ぶ自己理解の旅

「やりたいこと」が分からずキャリアに迷う方は少なくありません。森数さんが提供する個人向けキャリア支援サービス「キャリパト」は、「やりたいこと」探しではなく、「過去」に光をあてて、“選べる自分”になっていく独自のアプローチで、そうした方々が自分らしい未来を見つけるサポートをしています。
「やりたいこと」がわからない人こそ、過去の「事実」から始める理由
──キャリア支援サービス「キャリパト」では、具体的にどのようなリスキリングやキャリア支援を行っているのでしょうか。
森数 美保さん「キャリパト」は、私たちが提供するキャリア支援プログラムで、「“選べる”自分になる」ことをコンセプトに据えたサービスです。そのため、一般的なキャリアコーチングとは少し異なり、夢や目標から始めません。また、必ずしも転職を希望されている方だけを対象としているわけではありません。むしろ、現時点では転職を考えていないという方のご利用が多いくらいです。
森数 美保さん私自身、本当にやりたいことが分からずに長年悩み続けてきました。そのため、従来のように目標を設定したり、Willを聞かれたりすることに、非常に大きなプレッシャーを感じていたのです。それでも、働くことは好きで、自身のキャリアを諦めたくないという思いは持ち続けていました。
「キャリパト」では、いきなり未来の目標や「どういう自分になりたいですか」といった問いから始めることはありません。まずご自身の過去を言語化していくことからスタートします。そうすることで、誰もが無理なく、ご自身の現状を深く理解し、納得感のある未来を描けるようにサポートしています。
──現在のサービスのような働きかけをしていこうと思われたきっかけは、何かあったのでしょうか。
森数 美保さんはい。キャリア支援に携わる中での経験が大きく影響しています。例えば、私が長く勤めていたエージェントでは、これまでの経歴に合う求人を提案するのが基本的なスタイルでした。そこでは、まずご本人の希望を聞くことから始まるのですが、お話を伺いながらも「この方は本当にこれがやりたいのだろうか」と、心の中で疑問に思うことがよくありました。
そして、いざ自分が転職する立場になった時、同じように希望を聞かれることが、これほど苦しいものかと痛感したのです。「聞かれたから答えなければ」という状況でひねり出した言葉に、一体どのような意味があるのだろうかと、その時に非常に強い違和感を覚えました。それが、このサービスを構想する大きなきっかけになったと思います。
──確かに、質問されると無理にでも答えを見つけようとしたり、その場を取り繕ってしまったりする方は、非常に多くいらっしゃるでしょうね。
森数 美保さんそうですね。「ここはエージェントとの面談だから、何か希望を伝えなければ始まらない」「評価面談の場だから、評価項目に沿って意見を言わなければならない」といったように、私たちは気づかぬうちに、他者や状況から求められる自分を演じてしまいがちです。
そういった外的要因によって作られた自分ではなく、その人自身の内なる部分に焦点を当てることこそが、本当の意味での幸福度を高めることにつながるのではないかと、今も考えています。
他人に合わせる選択からの脱却:誰もが持つ「光」を見つけるメソッド
森数 美保さんご自身の強みや得意なことを、なかなか口に出せない方がいらっしゃいます。その多くは、「これくらい他の人もできるはずだ」と思い込んでしまっていることが原因です。結局のところ、誰をご自身の比較対象にしているのか、という点が重要になってくると感じています。
私の役割は、ご相談に来られる方々が、誰もがすでに自分の中に「光るもの」を持っているのだと証明することにあります。実際にサポートを終えた方から、「何もないと思っていた自分の経歴に、花が咲いたような気持ちになりました」といったお言葉をいただくことがあります。
その際には、いつもこのようにお伝えするのです。「その花は、もともとあなたの中に咲いていたのですよ。私が咲かせたわけではなく、あなたがすでにお持ちだった素晴らしいものを、ご自身で再発見されただけです」と。
漠然とした不安を解消する「感情のラベル」の貼り直し
森数 美保さん現在の私たちの行動や感情には、過去の経験によって形成された「内なる自分」が影響しており、いわば陽の部分と影の部分が存在します。そして、どのような時にその影の部分が強く作用するかは、幼少期に自分の行動や感情をどのように「ラベリング」することを学んだか、という点が大きく関わっているのです。
──感情のラベリング、ですか。もう少し詳しく教えていただけますか。
森数 美保さんはい。例えば、非常に悲しい出来事があり、泣きながら親に「こんなことがあって悲しかった」と伝えたとします。もしその時、「そんなことで泣くんじゃない」と叱られたら、子どもは「このことで泣く自分はおかしい」「この状況で悲しいと感じるのは間違いだ」と判断してしまいます。そして、「自分はダメなんだ」「この感情を人に伝えてはいけないんだ」と思い込んでしまうのです。
──なるほど。逆に、共感してもらえた場合はどうなるのでしょうか。
森数 美保さんもし同じ状況で「それは悲しかったね」と共感してもらえたとしたら、子どもは「この出来事を悲しいと感じていいんだ」「この気持ちを人に伝えてもいいんだ」と、肯定的なラベルを貼ることができます。このように、感情のラベリングは幼少期の体験を通じて体得されていく、という研究結果があり、私もその通りだと考えています。
ですから、まずはご自身の原体験を振り返り、「あの時に、このようにラベルが貼られたのだ」と自覚することが重要です。それに気づくことができれば、大人になった今からでも、そのラベルを貼り直すことが可能になります。根本的な解決が難しくても、「こういう状況になると、あの時の自分が顔を出すな」と客観的に認識し、「その時には、意識してこのようにラベルを貼り直そう」と対処できるようになるのです。
──素晴らしいですね。主観的な解釈を加えるのではなく、あくまで「事実」として過去の出来事を捉え、向き合っていくということですね。
森数 美保さんはい。また、仕事をしていると「このタイプの人は苦手だ」と感じる相手を避けられない場面も出てきます。そのような時は、少し引いた視点から自分や状況を客観視する「メタ認知」が役立ちます。そうすることで、感情的に反応するのではなく、冷静に対処しやすくなります。このようなトレーニングを通じて、クライアントさんと一緒にメタ認知能力を高めていくことも行っています。
個人の「幸福度」を高めるキャリア支援

「やりたいこと」が分かったとしても、それをどう行動に移し、自分にとって最適な選択をすれば良いのでしょうか?
個人の幸福度を最大化するための具体的な支援策として、独自の「ものさし」の育成や「自分企画書」の作成を重視しています。
あなただけの「ものさし」を育てる:後悔しない選択基準の作り方
森数 美保さん何かを選ぶ際には「基準」が必要ですが、その基準の作り方については、セッションの中で特に注意を払っています。クライアントさん一人ひとりについて、「こういう基準で選ぶと、過去のパターンに陥ってしまう」といった特性は、セッションを通じて把握できるからです。ですから、「こういうものは選ばない方がいい」「こちらを選んだ方が、よりご自身に合っている」といった判断をご自身一人で下せるような、いわば「自分だけのものさし」をお渡しすることを心がけています。その「ものさし」があれば、ご自身の力で選べるようになると考えており、このプロセスは通常のコースにも組み込まれています。
──自分だけの「ものさし」を一緒に作っていただけるというのは、大変心強いことですね。
森数 美保さん「何を選んでいいか分からないから、選択肢は少ない方がいい」という考え方は、世間ではよく耳にします。しかし私は、選択肢の多さ自体が問題なのではなく、ご自身の中に確かな「ものさし」さえあれば、たとえ膨大な選択肢があっても、自分に合うかどうかを判断できるため、困ることはないはずだと考えています。
自己理解を「行動」につなげる:自分を効果的に伝える「自分企画書」の力
森数 美保さん「キャリパト」では最終ステップとして「行動」に繋がる具体的なアウトプットを非常に重視しています。「自分は何者でもない」と感じている方が最も苦手とすること、つまり「自分が何者であるかを他者に理解してもらうための道具」作りを行うのです。私はこれを「自分企画書」と呼んでいます。
──自分企画書、ですか。
森数 美保さんはい。この「自分企画書」という目に見えるドキュメントが完成することで、皆さんは自信を持って次の一歩を踏み出せるようになります。作成する過程で、自分自身が浮き彫りになり自信をもって語れるようになりますし、「これを提出すれば、自分を正しく理解してもらえる」という安心感が得られるのです。社内での異動希望や、将来もし転職したいと考えた時にすぐ活用できますし、副業の案件を獲得するためのポートフォリオとして活用している方もいます。このように、具体的な行動を後押しできる材料を一緒に作り上げ、一つのプログラムが完了となります。
──それは、ご本人にとって一生の宝物になりますね。
森数 美保さんありがとうございます。実際に多くの方が「宝物です」とおっしゃってくださいます。
企業と個人の「こんなはずじゃなかった」をなくす組織変革

個人だけでなく、企業側にも「こんなはずじゃなかった」というミスマッチは起こりがちです。採用した人材が早期に離職したり、期待通りに活躍できなかったりする背景には、どのような課題が潜んでいるのでしょうか?
採用課題の真因を特定:入社後の「活躍の仕組み」を構築する視点
──続いて、法人向けに展開されている「ユアパト」についてもお話を伺いたいと思います。
企業が人材を採用する際には、企業側と個人側の双方で認識の齟齬が生じてしまうことが少なくないかと思います。せっかく採用した人材が定着しないという課題もよく耳にしますが、「ユアパト」では、そういった組織課題に対して、具体的にどのような支援をされているのでしょうか。
森数 美保さんはい。「ユアパト」は法人向け、「キャリパト」は個人向けという違いはありますが、根底にある考え方は共通しています。それは、企業と個人の間で生まれる「こんなはずじゃなかった」という感情こそが、不幸を生む元凶になっている、という認識です。企業にとっても、働く個人にとっても、この「こんなはずじゃなかった」をいかに減らしていくか。それが非常に重要であり、私の事業展開における共通のテーマとなっています。
その考えに基づき、法人向けの「ユアパト」では、企業の成長フェーズごとに変化する様々な組織課題に対し、採用活動の支援はもちろんのこと、社内制度の設計や企業文化の醸成といった多角的な側面から、一貫したサポートを提供しています。
森数 美保さん例えば、「採用」に課題があると考えていらっしゃる企業でも、詳しくお話を伺うと、本当の課題は採用そのものではなく、採用した人材がその後「活躍するための仕組み」が整っていない、というケースが少なくありません。
CxOクラスの早期離職を防ぐ「ハレーション」の解消
──仕事ができる優秀な方ほど多くの業務を抱え込んでしまう一方で、その能力を最大限に活かせる部署や機会がない、といった課題は多くの企業で聞かれるように思います。森数さんは、そういった採用後のミスマッチや、人材が活躍しきれていない状況にも着目されているのでしょうか。
森数 美保さんはい。私は起業する直前、転職エージェントに所属し、主にCxOクラス、つまり役員や執行役員といった経営幹部の方々の転職支援を担当していました。彼らは企業に対して大きなインパクトを与える重要な人材です。ですから、その採用によって企業はさらに成長していくはずなのですが、実際には、採用された方がうまく能力を発揮できず、短期間で退職してしまうケースが非常に多いことに気づいたのです。
──経営幹部クラスの方々が、入社後にスムーズに活躍できるような環境や制度を整えるためには、具体的にどのようなアプローチが必要になるのでしょうか。
森数 美保さん典型的な例として、企業が管理職を採用する際に、「優秀なマネージャーを一人採用すれば、全ての問題が解決するはずだ」と思い込んでしまっているパターンがあります。そして、経験豊富で優秀な人材だからといって、入社後すぐに「あとはお任せします」と丸投げしてしまうのです。
しかし、既存のメンバーからすれば、外部から来た新しい上司は心理的に「異物」と見なされやすく、無意識に排除しようという気持ちが働きがちです。一方、入社した本人も大きな期待から早く結果を出そうと焦り、手っ取り早く成果を示すために既存のやり方を「改善」しようとします。その結果、既存メンバーは「自分たちのやり方を否定された」と感じ、反発が生まれます。お互いに会社を良くしたいという同じ方向を向いているはずなのに、置かれた状況がすれ違いを生み、摩擦(ハレーション)が起きてしまうのです。
──なるほど。良かれと思っての行動が、裏目に出てしまうのですね。
森数 美保さんこのような摩擦は、ある意味で必ず起こりうるものです。ですから、企業側はそれを前提として、採用した人材が軟着陸(ランディング)できるように計画を立てる必要があります。しかし、この視点を持っている企業は、残念ながらほとんどありません。
組織心理学から紐解く、オンボーディング戦略
森数 美保さん私はもともと言語学や心理学に興味がありましたが、特に組織心理学や行動科学、近年注目されている行動経済学といった分野に強い関心を持っています。組織というのは、人と人とが出会い、関わり合う場だからこそ、さまざまな“副作用”が生まれやすい環境でもあります。私は、そうした人間関係や組織内で起こりうる現象を深く探求し、企業が陥りがちな問題や、不要な摩擦を未然に防ぐための知見として取り入れています。
──そういった学術的な知見をベースに、具体的な解決策を提示されているのですね。
森数 美保さんはい。私たちは、採用した人材が定着し、早期にパフォーマンスを発揮できるような支援も行っています。具体的には、先ほどのような摩擦が起こることを前提に、それを防ぐための「オンボーディング(受け入れ・定着支援)」の仕組みを一緒に設計します。例えば、入社後のタイムラインを定め、「いつまでに、どのような状態になってほしいか」を明確に言語化し、本人と会社側の双方で役割認識をすり合わせながら進めていけるようなサポートをしています。
キャリアとライフを両立する「チームとしての家族」

キャリアを考える上で、ライフステージの変化や家族との両立は避けて通れないテーマです。特に、働くことへの罪悪感を抱えてしまう方もいる中で、森数さんは「家族はチーム」という視点を提案しています。
女性が抱えがちな「働く罪悪感」を乗り越える「思い込み」の正体
森数 美保さんまず大前提として、仕事と家庭の「両立」とは、完璧を目指すことではありません。性別で一括りにはできませんが、特に女性に多い傾向として、外で働いていることへの罪悪感を埋めるかのように、「家事を完璧にこなさなければ」とご自身を追い込んでしまうケースが見受けられます。
もし、その家事が好きで、行うことで幸福感を得られるのであれば問題ありません。しかし、実際に「その家事は好きですか」とお尋ねすると、「別に好きではない」と答えられる方がほとんどです。
──パートナーは、その負担に気づいていないケースも多いのでしょうか。
森数 美保さんはい。私は、ご夫婦で参加いただく「ペアワーク」も実施しているのですが、そこで夫側に「奥様は、本当は掃除を負担に感じているようですが、ご存知でしたか」と尋ねると、「妻は綺麗好きで、率先してやっているのだと思っていました」といった反応が返ってくることがよくあります。
誰かに言われたわけでもないのに、「こうあるべきだ」という自分自身の思い込みによって、家事の負担を増やしてしまっているのです。その状態で転職など新しい環境に身を置き、さらに負荷をかけるのは極めて困難です。ですから、まずはその負担が「自分の思い込み」から来ているのかもしれないと気づき、新たなキャリアに挑戦するなら、役割分担やスケジュールの見直しが必要だと、パートナーとしっかり話し合ってほしいのです。
夫婦で「ファミリーキャリア」を考える:第三者の視点がもたらす変革
森数 美保さんつい先日も、「夫は理解があり、転職にも協力的で『いいよ』と言ってくれるんです」という方がいました。しかし、詳しく聞くと、新しい職場は通勤に1時間半かかるというのです。その方がおっしゃる夫の「いいよ」は、家庭内の役割分担の見直しまで含めた上での「いいよ」でしょうか。それとも、「現在の家庭のバランスを崩さないのであれば、どうぞ」という意味でしょうか。そこで私は、「ご主人にしわ寄せが来ない範囲での『いいよ』である場合、かなり負荷がかかるので、家事分担の見直しも含めて話してみては」とお話ししました。
──それはハッとさせられる視点ですね。当事者同士だとなかなか耳を傾けられなくても、専門家からの意見ならば、素直に聞き入れられることもあると思います。ご夫婦の間に専門家が入ることには、大きな価値がありそうです。
森数 美保さんはい。現在は「ファミリーキャリア」という概念を取り入れ、パートナーと一緒にキャリアについて考えるワークに取り組んでいただくプログラムもご用意しています。家族のキャリアは、もはやどちらか一方が頑張ればいいというものではありません。家族というチーム全体で、キャリアのことを真剣に考えなければならない時代が来ているのです。
──「家族全体でキャリアを考える」ですか。非常に重要な視点ですね。
森数 美保さんはい。「家族はチームである」ということを合言葉に、皆さんで取り組んでいただけたらと願っています。
不確実な時代を生き抜く:未来を切り拓くスキルとマインドセット

現代において、私たちは常に変化に直面し、先の見えない状況でキャリアを築いています。このような不確実性の高い時代を、自分らしく生き抜くために必要なスキルやマインドセットとは一体何でしょうか?
「決定」と「決断」の違いを知る:納得感ある選択が幸福度を高める理由
森数 美保さん働き方を含め、現代は非常に選択肢が増えました。男性の育児休業取得者が増え、転職も以前より身近な選択肢になっています。しかし、その一方で「世の中で良しとされているから」「当たり前だから」といった、周囲の風潮に流されやすくなっている側面もあると感じます。例えば、「女性が育休から復帰したら時短勤務」「男性の育児休業は女性より短い」のようなものです。
だからこそ、他人の価値観に合わせて選ぶのではなく、自分にとっての最適解を選ぶ力が重要になります。私は、「決定」と「決断」は異なると考えています。必要な情報を集め、成功の確率が高いものを選ぶのが「決定」です。一方、不確実性がある中で、それでも自らの意思で選び取るのが「決断」です。この「決断」の経験が少なく、「選ぶ」こと自体ができない人が増えていると感じており、この「選ぶ力」を養うことが非常に大切だと考えています。
──確かに、その「選ぶ力」がなければ、自分自身で幸せを掴むことは難しいですよね。
森数 美保さんその通りです。「自分で選んだ」という実感は、たとえ結果がどうであれ、その後の幸福度を大きく左右すると思います。もし自分で選ばなければ、結果を誰かのせいにできてしまいます。そうではなく、自分自身が納得して選ぶという力を身につけることができれば、この不確実性の高い現代社会でも、たくましく生き抜いていけるのではないでしょうか。
「何者かにならなくていい」:あなた自身がすでに持つ「価値」の発見
──最後に、ご自身のキャリアや生き方の軸が見つからず、「どうしよう」と悩んでいる方々へ向けて、今の時代だからこそ伝えたいメッセージがあれば、ぜひお聞かせください。
森数 美保さん「キャリア」や「キャリア戦略」と聞くと、何か非常に高尚で、壮大な夢や明確な目標を持つ、一部の特別な人のためのものだと思われがちです。しかし私は、そうではなく、「働くことが自分にとって大切だ」と感じている、すべての方々のためのものだと考えています。
もし、「絶対にこれをやりたい」という強烈な目標があるのであれば、戦略などを考えるまでもなく、ただそれに向かって行動すればいいだけのことです。そうではなく、「やりたいことは分からない。でも、働くことは好きだ」。そう感じている方々にこそ、このキャリア戦略を知っていただきたいのです。
やりたいことが明確でなくても全く問題ありませんし、「何者かにならなければ価値がない」ということは決してありません。大切なのは、ご自身の中にすでにある強みや、未来へのヒントに気づくことだけなのです。
「自分は一貫性のないキャリアを歩んできてしまった」「たいしたことは何も成し遂げていない」と、多くの方がまるで口癖のようにおっしゃいます。しかし、一見すると無関係に見える経験の一つひとつにも、必ず意味があります。ですから、どうかご自身を否定しないでください。何か特別な存在にならなければと、焦る必要もありません。
ご自身の意思で未来を選び取れるようになる方法は、必ずあります。この記事を読んでくださった一人でも多くの方が、ご自身の人生に「OK」を出せるようになることを、心から願っています。
迷いを手放す「自分軸」の発見:未来を切り拓くための最終ステップ
本記事では、森数さんのキャリア支援サービス「キャリパト」と法人向けサービス「ユアパト」の哲学を通じて、自己理解の深め方、キャリア選択の基準、そして企業との健全な関係構築について深掘りしました。
キャリアパスの多様化が進む現代において、他人に流されず、自分にとっての「最適」を選び続ける力こそが、私たち自身の幸福度を最大化し、不確実な時代を力強く生き抜く鍵となるでしょう。
あなたのキャリアに迷いがあるなら、まずは「何者でもない自分」という思い込みを手放し、過去の経験から自分らしい「軸」を見つける旅を始めてみてはいかがでしょうか。
今回のインタビューでお話を伺った森数さんの著書『「何者でもない自分」から抜け出すキャリア戦略』(日本能率協会マネジメントセンター刊)は、現在好評発売中です。ぜひお手にとってご覧ください。
『「何者でもない自分」から抜け出すキャリア戦略』森数 美保 著
