
「DXという言葉は聞くけれど、自分の業務にどう役立てればいいのか分からない」

「AIを使いこなすには高度な数学やプログラミングが必要なのではないか」
そんな不安を抱える社会人は少なくありません。
しかし、これからの時代に求められるのは、ITの専門知識そのものではなく、データを活用して目の前の課題を解決する「思考の力」です。
10年以上前からデータの価値化に注力してきた名古屋大学。
数理・データ科学・人工知能教育研究センターが提供するプログラムは、単なるeラーニングではありません。
現役の大学院生と社会人がチームを組み、企業の「生データ」という正解のない問いに挑む、極めて実践的な場です。
本記事では、産学連携教育部門 部門長・特任教授の中岩 浩巳先生に、DXを「大学」で学ぶ真価、そして文系・理系を問わず誰もが「課題解決のプロ」へと脱皮できる仕組みについて、詳しくお話を伺いました。
名古屋大学が追求する本質的なDX人材育成とは
名古屋大学のDX教育は、単なる昨今のトレンドに合わせたものではありません。
10年以上にわたり磨き続けてきた「データを価値に変える」という独自のDNAと、その進化の軌跡に迫ります。
10年前から続く「データを価値に変える」教育のDNA
——名古屋大学がセンターを通じてDX人材の育成に本腰を入れ始めた理由や、中岩先生がこの活動を通じてどのような課題を解決したいと考えていらっしゃるのか、その熱意や背景についてお聞かせいただけますでしょうか。
中岩 浩巳先生私たちは現在「数理・データ科学・人工知能教育研究センター」で教育活動を行っていますが、実はこの取り組みは、センターの設立と共にゼロから始まったわけではありません。
遡ること12年前、2014年に始動した「実世界データ循環学リーダー人材養成プログラム」という、5年一貫の博士課程教育リーディングプログラムが前身となっています。
当時は「データサイエンス」という言葉よりも、「ユビキタス」や「ビッグデータ」といった言葉が主流だった時代ですね。
——「データを価値に変える能力」という点に、当時から着目されていたのですね。
中岩 浩巳先生その通りです。
当時から「データを価値に変える能力」こそが、今後社会で活躍するために極めて重要であると考えていました。
特にこのプログラムでは、世界をリードする博士課程の学生を対象に、データを価値へと昇華させられる人材の育成を12年前からスタートさせたのです。
——12年も前からその先見性を持って取り組まれていたとは驚きです。
中岩 浩巳先生当時から一貫していたのは、産業界の課題を解決できる人材を育てるという視点です。
実社会の生きたデータを扱えるよう、企業と連携しながら、実際の課題解決に取り組むグループワークなどを積極的に実施してきました。
——実践的な学びを重視されていたのですね。
中岩 浩巳先生はい。そのリーディングプログラムで培った企業とのネットワークや、PBL(課題解決型学習)のノウハウをベースにして、2019年に文部科学省の公募を経て採択されたのが、現在実施しているプログラムの原型です。
この段階で、ターゲットを大学院生だけでなく社会人にも広げました。
リーディングプログラムで実施してきた「企業や自治体のデータを用いて課題を解決する」というエッセンスを凝縮し、8ヶ月ほどの期間で学べる形に実装したのが始まりです。
このように、私たちのDX人材育成の起源は、今から10年以上前のプログラムにまで遡ることができるのです。
専門家を育てるのではなく、自分の業務にAI・データサイエンスを取り入れる
——10年以上の歴史とノウハウを凝縮して、現在は社会人の方も広く受け入れているとのことですが、このプログラムが目指す人材育成のゴールについて、詳しく教えていただけますか?
中岩 浩巳先生大きな特徴は、いわゆる「情報系のバリバリの専門家」や「AI技術者」だけを育成することを主眼に置いていない点です。
——専門家を育てるのがゴールではない、ということでしょうか。
中岩 浩巳先生そうです。今の時代に求められているのは、各々が持っている専門分野や日々の業務の中に、AIやデータサイエンスの知見を「取り入れる」ことができる人材です。
データサイエンスそのものの専門家を目指すというよりも、その知識を使って自分の業務を改善したり、新しいソリューションを提案したり、あるいは次のステップへのキャリアアップにつなげたりすること。
それを強力にサポートすることが、私たちの主な目的です。
——自分の今の仕事に、データサイエンスを掛け合わせるということですね。
中岩 浩巳先生その通りです。
さらにユニークな点として、本プログラムでは社会人と大学院生が一緒になって課題を解く経験を積むことができます。
これは他にはない非常に珍しい環境です。
自分自身の分野でデータを価値に変え、業務をより良くしたり、新しいサービスを提案したり、次のキャリアを見つけたりしたい。
そんな意欲を持つ方々を支えたいという強い思いを持って、私たちはこのプログラムを運営しています。
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社会人と大学院生の「化学反応」がもたらす、大学で学ぶ真の価値
実務経験豊富な社会人と、最先端の知を持つ大学院生。
背景の異なる両者が一つのチームとして机を並べることで、一般的なスクールでは決して得られないどのような「相乗効果」が生まれるのでしょうか。
現場の「推進力」とアカデミックな「論理力」が融合するチーム演習
——先ほどお話しいただいた「大学院生と社会人が一緒に学べる」というユニークなポイントについて、もう少し詳しくお伺いさせてください。両者が共に学ぶことで、非常に面白い化学反応(ケミストリー)が生まれるのではないかと想像しているのですが、具体的にどのような付加価値やメリットがあるとお考えでしょうか。
中岩 浩巳先生はい。まず私たちのプログラムには、非常に多様なバックグラウンドを持つ社会人が集まっています。
一方で大学院生も、情報学の専攻に限らず、医学、農学、経済学など専門分野は多岐にわたります。
このように異なる専門性や知識を持つメンバーが同じチームになり、それぞれの知見をベースにして「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤しながら課題を解いていくプロセスそのものが、大きな価値になっています。
——学生と社会人、それぞれの視点から見たメリットを教えていただけますか。
中岩 浩巳先生まず大学院生にとっては、社会人と組むことで「プロジェクトを推進する力」を肌で感じられるのが大きなメリットです。
学生はまだ社会に出ていないため、チームで実務を進める作法や、課題解決のプロセスに慣れていないことが多いのですが、プロの仕事の進め方を間近で学ぶことができます。
——社会人の方々にとっては、いかがでしょうか。
中岩 浩巳先生社会人にとっては、大学院生が持つ学術的な専門知識や、最先端のテクニカルな思考、そして高い論理的思考能力が大きな刺激になります。
この融合によって、1+1が3にも4にもなるような相乗効果が生まれるのです。
これは自社内のプロジェクトではなかなか得られない経験でしょう。
データサイエンスやAIの教育コースは他にも数多くありますが、ここまで社会人と大学院生がしっかりとタッグを組んで取り組む場は、他に類を見ないのではないかと思います。
——学びの過程で多様な視点に触れ、新しいソリューションを生み出す実体験が、そのまま将来の糧になるのですね。
総合大学ならではの強み。多分野の専門教員がアドバイザーとして伴走
——前のお話にも通じますが、単なるツールの習得を超えて、大学という場でDXを学ぶ価値について、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。
中岩 浩巳先生はい。大学で学ぶ強みはいくつかありますが、大きく三つのメリットが挙げられます。
まず一つ目は、大学院生がチームのメンバーとして加わっている点です。
社会人が大学院生と共に学ぶプロセスの中で生まれる「化学反応」は、まさに大学という環境だからこそ得られる大きなメリットです。
二つ目は、総合大学としての圧倒的な専門性の広さです。
名古屋大学や岐阜大学といった総合大学には、多様なバックグラウンドを持つ教員が多数在籍しています。
——具体的には、どのような形で教員の専門性が活かされているのでしょうか。
中岩 浩巳先生企業や自治体の実課題を解決する際、そのトピックに応じた専門家がアドバイザーとして伴走します。
例えば過去には、「倉庫内の物品の最適配置」という課題がありました。
効率的なレイアウトを決めるために、「組み合わせ最適化」という数学的な専門分野の先生にアドバイザーとして入っていただいたことがあります。
また、マーケティング系の課題であれば経済学部の先生がアドバイスを行うなど、大学が持つ高度な「知」を直接演習に取り入れています。
特定の分野に詳しくない受講生でも、専門家の助言を得ながら深い学びに到達できるのが、大学ならではの強みですね。
——各分野の第一人者から基礎を学びつつ、最先端の知見に触れられるのは非常に贅沢な環境ですね。
企業の枠を超えた、中立的な立場でフラットに学べる環境
——三つ目のメリットはいかがでしょうか。
中岩 浩巳先生大学という機関の「中立性」です。
企業同士の連携では、どうしても利害関係やしがらみが影響することがありますが、私たちは東海地区を代表するニュートラルな教育機関です。
バイアスがかかることなく、自然体で多様な企業や自治体とフラットにお付き合いができる。
この「中立な場」で学べる意義は大きいと思います。
また、私たちは営利目的ではなく、次世代の教育を主眼に置いています。
そのため、運営可能な範囲での適切な受講料で社会人の方々に学びを提供できていることも、補足的ではありますが重要なメリットですね。
——様々な分野の第一人者から基礎をしっかり学びつつ、最新のトレンドも取り入れられる。さらに「学生」というフラットな立場に戻れるのは、社会人にとっても非常に貴重な環境ですね。
中岩 浩巳先生おっしゃる通りです。実課題を解くPBLだけでなく、オンデマンド講義も幅広く用意しています。
機械学習や信号処理、プロジェクトの進め方から、生成AIの実践まで、学内外の先生方の協力を得て非常に質の高いコンテンツを揃えています。
——まさに「異業種交流」をしながら、アカデミックなエッセンスを吸収できる場ですね。
中岩 浩巳先生まさにそうです。
チーム編成にも工夫を凝らしており、社会人と大学院生の比率、男女比、専門分野のバランスなどを考慮して、多様なメンバーが混ざり合うようにしています。
同じデータに対して複数のグループが切磋琢磨して取り組むため、自分たちとは異なる視点の解決策に驚かされることも多いはずです。
ここで生まれたネットワークは終了後も続いているケースが多く、社会人同士、あるいは社会人と学生という枠を超えた、新しいコミュニティの場としても活用されています。
理論倒れにならない、実社会の「生課題」を解くカリキュラムの秘訣
教科書通りの「整理されたデータ」を扱うだけでは、現場で通用する本質的な解決力は身に付きません。
企業や自治体が抱える切実な「生の課題」に泥臭く挑む、圧倒的に実践的なカリキュラムの真髄を紐解きます。
「綺麗なデータ」は扱わない。企業の現場で眠る「正解のない問い」に挑む
——大学院生と社会人が共に学ぶことで、多様な視点からアイデアが生まれ、新しいソリューションを生み出すプロセスをその場で体験できるのですね。
中岩 浩巳先生その通りです。
私たちのプログラムがユニークなのは、いわゆる「Kaggle(カグル)」などのコンペティションで用意された、整形済みの「綺麗なデータ」ばかりではない点にあります。
練習用の簡略化された課題(トイ・プロブレム)ではなく、企業や自治体が現場で本当に困っている「生の課題」を扱います。
そのため、まずはデータの理解という入り口から始まり、バックグラウンドの異なるメンバーがそれぞれの立場でアイデアを出し合いながら、一歩ずつ解決へと導いていきます。
このプロセスこそが、本プログラムの真髄です。
——想像するだけでワクワクするような学びの場ですね。
中岩 浩巳先生はい、実際に受講された方々からも「非常によかった」という声を多数いただいています。
——テスト用の課題ではなく、企業が本当に解決したい切実な課題に向き合うからこそ、先方に喜んでもらいたいという「本気の力」が身につくのだと感じました。企業側からのフィードバックも得られるのでしょうか。
中岩 浩巳先生もちろん、演習の最後には報告会を行います。
そこで終わらせず、各企業や自治体の現場で成果を実際に活用していただくことを目指しています。
私たちは受講生に対し、「現場で活用してもらうためには、どのような情報を提供すべきか」を常に意識するよう指導しています。
最終的な報告書だけでなく、分析に使用したプログラムのサンプルなども補足資料として提供し、受講後もスムーズに実装へ移れるようサポートしています。
成果を実務で使える形にまとめ上げる経験自体が、受講生にとって非常に重要な学びになります。
——自分の出した成果が実社会で動くというのは、大きな自信に繋がりますね。
中岩 浩巳先生そうですね。多くの企業様からは「期待以上の成果が出た」という驚きの声をいただいています。
これは、単にAIの勉強をしている個人が参加しているのではなく、社会人と大学院生がチームを組み、適切な進捗管理のもとで組織的に取り組んでいるからこその結果だと言えます。
もちろん、中には非常に難易度が高く、苦戦するケースもゼロではありません。
しかし、ほとんどのケースで企業側・受講生側の双方が満足する「Win-Win」の結果となっています。
課題を提供してくださった企業様からも「我々自身も非常に勉強になった」と言っていただけることが多いですね。
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マネジメントと技術の掛け算。役割分担で最大化するチームの解決力
——大学が持つ高度な理論と、企業が切実に求めている実践スキルを一つのカリキュラムとして融合させるのは、非常に難しいことだと思います。理論倒れにならず、かつ目先のテクニックだけで終わらせないためのポイントはどこにあるのでしょうか。
中岩 浩巳先生私たち教員側が「お膳立て」をしすぎないことですね。
教員が綺麗なデータを用意し、ゴールを「機械学習による最適化」だけに絞ってしまうと、単なる計算演習で終わってしまいます。
そうではなく、まずは職場や研究室で直面している「答えのない状況」をそのままチームに投げます。
「何をしたいのか」「そのためにどう問題を分解(ブレイクダウン)すべきか」という上流工程から、受講生自らに考え抜いてもらうのです。
——まさに実務と同じプロセスを体験させるのですね。その際、多様なメンバー構成も鍵になるのでしょうか。
中岩 浩巳先生はい、そこが最大のメリットです。
チームには、企業で部課長を務めるマネジメント経験豊富な方もいれば、研究室で日々機械学習を回している大学院生もいます。
全員が同じ理論を完璧にマスターする必要はありません。
それぞれの得意分野を活かし、議論しながらプロジェクトを進める。
この「複合的な学び」があるからこそ、共同研究とも、既存のデータ分析コンペとも違う、本質的な解決力が身に付くのです。
——1人で挑むのではなく、チームで挑むことで課題解決力を最大化していく。まさに現場で求められる力ですね。
中岩 浩巳先生その通りです。将来的に最も重要になるのは、自分とは異なる専門性を持つ人たちと一緒に仕事をするスキルです。
そのため、本演習では「自分がチーム内でどのような役割を果たしたか」を、最終報告会で明確に説明してもらいます。
単に「プログラムが書けた」という結果だけでなく、組織の中でどのように貢献したかも評価の重要な項目に含めています。
つまずきを熟知した「QTA(博士後期課程学生)」による手厚い個別支援
——受講生の中には、学習の途中でつまずいてしまう方もいらっしゃるかと思います。そうした挫折を防ぐための具体的なサポート体制について教えていただけますか。
中岩 浩巳先生各チームには「QTA(Qualified Teaching Assistant)」として、本プログラムを優秀な成績で修了した博士後期課程の学生が付き、伴走します。
名古屋大学には「QTA」という正式な制度があります。
これは通常のTA(ティーチング・アシスタント)よりもさらに高い専門性を持ち、教育支援に深く関わる役割として位置づけられています。
私たちはこの制度を最大限に活用し、受講生の皆さんが挫折することなく、最後まで学び抜ける環境を整えています。
——博士後期課程の学生という、いわば「直近の先輩」に直接教えていただける環境は、受講生にとって非常に心強いものだと感じます。
中岩 浩巳先生はい。QTAを務める学生たちは、自身の専門性が高いだけでなく、少なくとも一度はこのプログラムの演習を経験しています。
そのため、「受講生がどこでつまずき、どこを難しいと感じるか」「どうすればそれを解決できるか」を自分事として理解しています。
中には数年にわたってQTAを担当しているベテランもおり、過去の受講生が陥りやすいポイントを熟知しています。
彼らから非常に身近な目線でアドバイスを受けられることは、受講生にとって大きな有益性があるはずです。
——「分からない人の気持ちが分かる」方に教わる安心感は大きいですね。
中岩 浩巳先生おっしゃる通りです。
PBLのような実践形式の演習は、座学以上に教え方が難しい側面があります。
実際に演習を体験し、自ら困難を乗り越えた経験があるからこそ、受講生の悩みに対しても的確なサポートができるのです。
——具体的にはどのようなサポートを行っているのでしょうか。
中岩 浩巳先生内容面のアドバイスはもちろん、データの実行環境をどう準備するかといった、初期のテクニカルな部分についてもQTAがかなり細かくサポートしています。
実は、博士課程の学生をこれほど手厚く配置する体制は、非常に珍しいものです。
他の大学のリカレント教育(学び直し)でも、ここまでの制度はあまり類を見ないのではないでしょうか。
文系・初心者でも安心。学習のハードルを徹底的に下げるサポート体制
「数学やITは苦手」と、DXの扉を叩くのを躊躇している方も多いはずです。
オンデマンド講義から博士後期課程の学生による個別支援まで、受講生の心理的・技術的ハードルを解消する手厚い体制の全容をご紹介します。
自分のペースで弱点を補完できる、充実のオンデマンド講義と補助教材
——数学やIT分野に苦手意識がある方でも、「これなら自分にもできそうだ」と思えるような、学習のハードルを下げるための工夫や配慮についてお聞かせください。
中岩 浩巳先生先ほども申し上げましたが、まず前提として、このプログラムはデータサイエンスや機械学習の専門家だけをターゲットにしているわけではありません。
多様なバックグラウンドを持つ方々が、それぞれの専門領域でAIやデータを活用するスキルを高めることを目指しています。
具体的な工夫の一つ目は、科目の選択制です。
修了対象となるメインの講義は8科目あり、それ以外にもトータルで10数科目の補助講義を用意していますが、社会人の修了要件は2科目以上となっており、その中から自分の学びたい科目を選択できるようになっています。
——全てを網羅しなければならないわけではなく、自分の興味やレベルに合わせて選べるのですね。
中岩 浩巳先生その通りです。
二つ目は、「データサイエンスがまだ全くわからない」という方向けに、リテラシーレベルの補助講義を充実させている点です。
まずは導入として「データサイエンスとはどのようなものか」を学んでから、ステップアップして専門的な講義に進める構成になっています。
初心者の方でも、基礎を固めた上で次の段階へ進むことができます。
——ステップを踏んで学べるのは安心ですね。講義の受けやすさについてはいかがでしょうか。
中岩 浩巳先生全ての講義がオンデマンド形式であることも大きな特徴です。
メインの講義がスタートしてから約1週間後に演習が始まりますが、演習を進める中で「この知識が足りない」と感じる場面が出てきます。
その際、いつでも講義コンテンツに戻って復習できるのです。
「座学が終わってから演習」と完全に分かれているのではなく、実課題を解決するプロセスの中で、必要な知識をその都度補完しながら進める。
このサイクルを回せるのは、オンデマンドならではの利点ですね。
——アウトプットとインプットを繰り返しながら、段階的に身につけていけるわけですね。
中岩 浩巳先生まさにそうです。
また、システム面だけでなく人的なサポートも手厚く行っています。
アドバイザーの先生に質問して解決するのはもちろん、「こういったキーワードで調べてみてはどうだろう」といった具体的な助言をもらうことで、自学自習のヒントを得ることもできます。
さらに、QTAも強力な味方です。
彼らは博士後期課程の学生であり、かつ本プログラムを優秀な成績で修了した、いわば「頼れる先輩」です。
学術的な専門性と受講生としての経験を兼ね備えた彼らが身近に寄り添うことで、非常に手厚い支援体制を整えています。
上司も納得する成果。相互評価とAIを活用した「学びの見える化」フィードバック
——実際の現場では、一人ですべてを完結させることは稀で、組織やチームで動くことがほとんどですよね。この演習でも、チームの中での振る舞いが重視されるのでしょうか。
中岩 浩巳先生その通りです。そのため、最終報告や発表会では「自分がどのような役割を担い、どう貢献したか」を必ず説明してもらいます。
本プログラムは名古屋大学の正式な履修証明プログラムですので、当然、修了要件に基づいた評価プロセスがあります。
そこでは、単に課題を解けたかだけでなく、それぞれの役割を全うし、チームに貢献できたかという点もしっかりと見ています。
——先生方が評価するだけでなく、「相互評価」という仕組みも取り入れているそうですね。
中岩 浩巳先生はい。教員がすべての学生の細かな活動を把握し続けるのは難しいため、同じグループの受講生同士で評価し合う「相互評価」を導入しています。
この演習は約3ヶ月間にわたり、週に1回のミーティングを12回ほど繰り返します。
各チームにはQTAが付き、密に伴走しますが、彼らであってもすべての活動を把握できるわけではありません。
そこで、多様なバックグラウンドを持つメンバーが、お互いの活動を独自の視点で評価し合う「多面的評価」が非常に有益になります。
誰が議論をリードし、誰が細かな実務を支えたのか。
受講生同士だからこそ見える貢献度をフィードバックに反映させることで、公平かつ納得感のあるアセスメントが可能になります。
——多面的な評価をもらうことで、自分では気づかなかった「強み」や「価値」の発見にも繋がりそうですね。
中岩 浩巳先生ええ。さらに工夫しているのが、そのフィードバックの「質」です。
データ活用能力や異分野連携といった5項目を5段階で評価するだけでなく、具体的な記述式のコメントも集めています。
これら膨大な評価データや受講生自身の報告書を、生成AI技術を活用して統合し、一人ひとりに最適化された最終的な「活動報告レポート」としてフィードバックしています。
——生成AIを活用してフィードバックを文書化しているのですか。
中岩 浩巳先生はい。「何を学び、どのようなスキルを得たのか」を言語化して本人に返すのです。
これには理由があります。以前、企業から派遣された受講生の方から「上司に、プログラムで何を学んだのか伝わりにくいと言われた」という声がありました。
そこで、上司や同僚の方々が見ても、その受講生が具体的に何を持ち帰ったのかが一目でわかるよう、成績証明書と合わせて詳細な活動報告をフィードバックするようにしたのです。
——プロセスが可視化されることで、受講生自身の振り返りになるだけでなく、社内でのアピール素材にもなるわけですね。
中岩 浩巳先生おっしゃる通りです。本プログラムを修了すると、名古屋大学の正式な履修証明が授与されます。
履歴書に記載できるのはもちろん、デジタルバッジも発行していますので、学んだ成果を外部へ明確に証明し、キャリアアップに活かしていただける環境を整えています。
修了後も続く「知の循環」。修了生コミュニティがもたらす長期的な価値
——修了後のサポートについてもお伺いしたいのですが、どのような取り組みをされていますか。
中岩 浩巳先生修了生同士のコミュニティ形成には非常に力を入れています。
昨年からは「アルムナイ(卒業生)フォーラム」を開始しました。
ここでは最新トピックの紹介や招待講演、近況報告、そして交流会などを行い、修了後も継続的に繋がれる施策を展開しています。
——学びが終わった後も、共に切磋琢磨した仲間との「横の繋がり」を持ち続けられる環境があるのは、受講生にとって大きなプラスですね。
中岩 浩巳先生まさにその通りです。
受講生同士が自主的にネットワークを維持し、年に一度はオフラインで集まっているといった話も耳にします。
私たちは、そうした自発的なつながりを組織としてもしっかり支援していくべきだと考えています。
というのも、修了生のコミュニティは、私たちのプログラムをより発展させるために極めて重要だからです。
欧米の大学、例えばスタンフォード大学などの西海岸の大学ではOB会が非常に強力で、修了生が大学に資金を提供してセンターを設立するような文化が根付いています。
——海外の大学では、それほどまでに修了生との絆が深いのですね。
中岩 浩巳先生はい。そこまでの規模はすぐには難しくても、私たちのプログラムでスキルアップした修了生が、将来的に講師として戻ってきてくれたり、新しい受講生を推薦してくれたり、あるいは自社の課題を演習のテーマとして提供してくれたりといった「循環」を期待しています。
修了生との繋がりを維持し、プログラムを共に進化させていくことは、私たちの最重要課題の一つです。
現在、まさにこの修了生コミュニティの立ち上げに向けて動き出しているところです。
——多様なバックボーンを持つ受講生たちが生み出した「掛け算」のアイデアやソリューションが、卒業後も続いていくのですね。
中岩 浩巳先生加えて、この分野は非常に進歩が早いため、修了後も最新情報を提供し続けたいと考えています。
先日のフォーラムでは、Googleの方をお招きして「AIエージェント」や生成AI系の最新サービスについてご講演いただきました。
——Googleの方から直接お話を伺えるのは、非常にかつ貴重な機会ですね。それだけで受講料以上の価値があるように感じます。
中岩 浩巳先生そう言っていただけると嬉しいです。
それこそが、このプログラムを受講することの長期的なメリットだと考えています。
こうした機会を継続的に提供することで、修了生が常に最先端で活躍し続けられるよう支援しています。
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キャリアを拓く「課題解決のプロ」へ。生成AI時代を生き抜く力
プログラムでの学びは、修了後のキャリアをどう変えていくのでしょうか。
生成AIを「脅威」ではなく「強力なツール」として使いこなし、実社会で成果を出し続ける修了生たちの姿から、これからの時代を生き抜くために必要な「解釈力」の正体を探ります。
修了生の変貌。データサイエンスの専門家や著者として活躍する姿
——実際にプログラムを終えられた皆さんが、地元の企業や組織の現場でどのような成果を出されているのか、具体的なエピソードがあればぜひお伺いしたいです。
中岩 浩巳先生受講後の状況をヒアリングしたのですが、非常に頼もしい報告を多数受けています。
例えば、もともとはデータサイエンスとは全く無縁の部署にいた方が、本プログラムで学んだことをきっかけに、今では社内の課題をデータで解決する専門家として活躍されています。
——専門部署ではなかった方が、そこまで変貌を遂げられるのはすごいですね。
中岩 浩巳先生他にも、ここで得た実践的な知識をもとに、データ活用に関する書籍を出版された方もいらっしゃいます。
受講生の多くが、身につけたスキルを武器に次のキャリアアップを実現しています。
大学院生についても、すでにデータソリューション系の企業への就職が決まっている学生が現場で即戦力として動いていたり、就職活動において本プログラムでの学びを強力なアピールポイントにしたりと、それぞれの立場でメリットを実感していただいています。
——多くの方が目に見える成果を出されているのですね。これほどまでに成果を出せる要因は、中岩先生から見てどこにあるとお考えですか。
中岩 浩巳先生大きな要因は2つあります。
1つは、自分の興味に合わせて自由に学べる多様な講義群を提供していること。
そしてもう1つは、それらの知識を実際の課題解決にぶつける「演習」があることです。
単に講義を聞いて「なんとなく分かった」で終わるのではなく、チームを組んで実社会の課題に挑む。
そのプロセスを経験しないと、学んだ知識が現場でどう生きるのかを本当の意味で理解することはできません。
「この知識が足りないからもっと学ぼう」という自発的なモチベーションも、実践の場があるからこそ生まれるのです。
——知識を実務にどう活かすか、その落とし込みがプログラム内で完了しているということですね。
中岩 浩巳先生そうですね。
実際の現場では、異なるセクションの人や現場の方々など、多様な立場の人と連携しなければなりません。
この演習では、バックグラウンドの違うメンバーとコミュニケーションを取りながら進めるため、実社会に近い環境を疑似体験できます。
この「本物の体験」を提供できることが、私たちの最大の強みです。
——現場で必要とされる本質的な力を、包括的に身につけられる場なのですね。
中岩 浩巳先生はい。まさにそのような姿を目指して、このカリキュラムを実装しています。
生成AIは「敵」ではなく「ツール」。解釈力を磨き、最先端を使いこなす
——昨今のテクノロジーの進化、特に生成AIの台頭には目覚ましいものがあります。時代の変化が非常に速い中で、このプログラムでは生成AIをどのように捉え、活用されているのでしょうか?
中岩 浩巳先生生成AIが登場してから、仕事のやり方は劇的に変わりつつあります。
こうした変化を前に、「自分の仕事がなくなってしまうのではないか」と恐れるのではなく、むしろAIを活用して課題を解決できるスキルを身につけることが重要です。
激動の時代にあっても、先頭に立って周囲を引っ張っていけるような人材を育成したい。
そんな思いから、本プログラムの演習でも、今年度から生成AIを積極的に活用して課題解決に取り組むよう推奨しています。
——AIを「使いこなして」課題を解決できる人材を育てていく、ということですね。
中岩 浩巳先生その通りです。
例えばPythonのコードを書くにしても、今は生成AIがかなりの精度でソースコードを生成してくれます。
私たちの目的は「コーディングのプロ」を育てることではなく、あくまで「課題解決のプロ」を育てることです。
AIで効率化できる部分は、どんどん使ってもらえばいいと考えています。
「大学教育として何を教えるべきか」という議論はありますが、この実践的なプログラムにおいては、便利なツールを最大限に活用して、目指すべきゴールに到達する経験を積むことが最優先です。
多様な人材と協力し、AIを一つの強力なツールとして使いこなす。
それが私たちの描くこれからの人材像です。
——課題解決のプロセスを正しく理解していれば、AIに仕事を奪われることを過度に恐れる必要はないのだと、お話を伺って非常に腑に落ちました。
中岩 浩巳先生AIを活用する上で重要なのは、3つのステップです。
一つ目は、AIに対して適切な問いを投げる「プロンプト」のスキル。
二つ目は、AIが出してきた回答を正しく「解釈」する力です。
AIは時に誤った情報を出すこともありますから、その真偽を見極め、必要に応じて問いを修正していく力が求められます。
そして三つ目は、得られた結果をどのように「ビジネスへ展開」するかという構想力です。
これら3つの経験は、実際に生のデータを扱って課題解決に取り組んだ経験がなければ、なかなか身につくものではありません。
——データを「咀嚼(そしゃく)する力」と言い換えてもいいかもしれませんね。
中岩 浩巳先生おっしゃる通りです。
演習ではまず、データを可視化して「何が起きているのか」を解釈するところから始めます。
変数間の相関を見たり、生産性を上げるための主要因を探ったりといった分析の基礎は、AI時代でも変わりません。
むしろ、AIが出した結果を解釈するためには、統計的な知識や検定の考え方といった基礎がより重要になります。
数字を鵜呑みにせず、その結果が信頼に足るものかどうかを判断できる「解釈力」こそが、これからの時代を生き抜く武器になるはずです。
経営者と現場が手を取り合い、地域全体でDXを加速させる未来
——実際、現場で必要とされる本質的な力を、この学びの場で包括的に習得できるのだと強く感じました。
中岩 浩巳先生はい、まさにそれを目指してプログラムを実装しています。
——そこで育ったDX人材が現場でフルに力を発揮するためには、受け入れる組織側の準備も必要かと思うのですが、今の地域産業に対して期待されることはありますか。
中岩 浩巳先生企業や産業によって状況には「濃淡」があるのが実情です。
DXで成功している企業に共通しているのは、経営層のモチベーションが非常に高いという点です。
「DXやAIの活用はビジネスチャンスであり、業務改善や社員の意欲向上に不可欠だ」という強い意識を持たれています。
私たちのプログラムは現在、主に現場で知識を活かす実務者やマネジャークラスを対象としていますが、今後は経営層の方々にも「DXによって自社がどう変わるべきか」というビジョンをより深く持っていただけるような教育機会も提供していく必要があると考えています。
——現場だけでなく、トップの意識変革もセットで進めていく必要があるのですね。
中岩 浩巳先生そうですね。
実際、自動車産業のグループ企業とは非常にタイトに連携しており、社員の皆さんが私たちのプログラムを活用してスキルアップできるような仕組みを議論しています。
企業内での人材育成と、大学が提供する高度な教育をシームレスに組み合わせていく。
こうした産学連携の新しい形を、今まさに模索しているところです。
——人材育成のみならず、受け入れ体制の構築までサポートされているのでしょうか。
中岩 浩巳先生私たち大学のリソースだけでは限界もありますが、外部の支援団体とも積極的に連携しています。
例えば、中部経済産業局や、各県の中小企業を支援する団体などです。
受講生が学んだ後に、それをどう自社のDX化に繋げるかという実務的なフェーズを、こうした団体に細かくサポートしていただく形です。
——役割を分担しながら、地域ぐるみでDXを推進しているのですね。
中岩 浩巳先生データの統合やセンサーの配置といった、現場の「泥臭い」リアルな課題解決については、支援団体と手を取り合いながら進めています。
まだ完璧にできているとは言い切れませんが、少なくともこの東海地区を中心とした地域産業との連携は、非常に多くの組織と共業しながら着実に進んでいます。
——最後になりますが、これからDX人材として一歩踏み出そうとしている方々や、人材育成を検討されている経営者の皆様に向けて、中岩先生からエールとなるメッセージをいただけますでしょうか。
中岩 浩巳先生現在、DXを取り巻く動きは非常に速くなっています。
しかし、「変化が速いからもう少し様子を見よう」と待つのではなく、むしろ今すぐ最新の解決方法を学び、飛び込んできていただきたいです。
大切なのは、新しい技術を自分の組織や研究室にどう取り込んでいくべきか、その全体像を正しく理解することです。
私たちのプログラムを通じて、データサイエンスの「感覚」や「実践経験」を掴み、それを自身の事業や研究の発展に繋げていただければと願っています。
また、経営者の方々にお伝えしたいのは、社内には学びに対して高い意欲を持つ社員の方がたくさんいらっしゃるということです。
そうした方々が積極的に学べるよう、ぜひ背中を押してあげてください。
経営層や管理職の方々がプログラムの内容を理解し、自ら学ばれることも非常に重要だと考えています。
皆様の挑戦を、私たちは全力でサポートいたします。
——具体的な募集のタイミングなどはどのようになっていますか?
中岩 浩巳先生私たちのプログラムは年2回、受講生を募集しています。
直近では4月にオンラインでの説明会を予定しております(※2026年度は4月7日を予定)。
詳細については公式ウェブサイトに掲載しておりますので、少しでもご興味のある方は、まずは説明会にご参加いただき、受講をご検討いただければ幸いです。
皆様とお会いできるのを楽しみにしております。
AIを相棒に、自らの手で未来を切り拓く一歩を
DX人材への第一歩は、最新ツールを覚えることではなく、目の前の課題に対して「どうデータを使えば解決できるか」を考える姿勢を持つことです。
名古屋大学のプログラムは、大学院生との協働や実データでの演習を通じて、その本質的な「思考力」を磨く絶好の機会を提供しています。
「自分には無理だ」と扉を閉ざす必要はありません。
手厚いサポートと、修了後も続くコミュニティがあなたの挑戦を支えます。
変化の激しい時代だからこそ、今、勇気を持って学びの場に飛び込み、AIを使いこなして自らのキャリアと組織を革新する「先導者」を目指してみませんか。
今回ご紹介した「名古屋大学 数理・データ科学・人工知能教育研究センター」の最新情報は、プログラムの紹介ページをご確認ください。
また、約1分20秒でプログラムのことがわかるショート動画も公開されていますので、こちらもぜひチェックしてみてください。
