保育士は国家資格である保育士資格を所有した人が、乳幼児の保育および保護者指導を行う人のことを指します。幼稚園教論とは異なり免許制ではないため、資格を一度取得した後は更新する必要がありません。
令和3年度に実施された厚生労働省の調査によると、保育士の年収は平均約382万円でした。国税庁が調査した令和2年度時点の民間平均給与は約433万円なので、約50万程度年収の差があることが分かりました。
そこで、今回は以下のような内容について調査を実施しました。
【当ページの内容をざっくりまとめると…】
・保育士の平均年収は382万円と、専門性が高いながらも給料は低め
・年齢別でチェックすると経験も長くなる30代後半から50代にかけて高くなる傾向
・男女別でチェックすると全体構成比10%以下と数が少ない男性保育士の方が年収は高め
・私立保育園であれば独立して非常勤になっても年収は大きく下がらない
・年収を上げるコツは「公立保育園でキャリアアップ研修を受けて処遇改善を図る」
今回は、上記の内容をそれぞれ詳しく解説していきます。(5分ほどでサックリ理解できるようまとめました。)
保育士の平均年収はおよそ382万円
保育士の令和3年度時点の平均年収は約382万円です。賞与込みで計算してみるとひと月あたり31.85万円でした。専門性の高い国家資格の必要な職業にも関わらず、十分満足した年収を受け取れているとは言えません。年齢別や男女別の年収についても分けているので、早速詳細を確認してみましょう。
【年齢別】保育士の年収データまとめ
構成比(%) | 平均年齢(歳) | 勤続年数(年) | 所定内実労働時間数(時間) | 超過実労働時間数(時間) | きまって支給する現金給与額(万円) | うち所定内給与額(万円) | 年間賞与その他特別給与額(万円) | 年収(万円) | |
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計 | 100.0 | 38.1 | 8.8 | 166 | 3 | 25.65 | (25.03) | 74.40 | 382.20 |
~19歳 | – | – | – | – | – | – | – | – | – |
20~24歳 | 17.0 | 22.8 | 2.0 | 170 | 3 | 22.14 | (21.57) | 46.83 | 312.51 |
25~29歳 | 17.3 | 27.2 | 4.6 | 167 | 3 | 24.29 | (23.61) | 71.03 | 362.56 |
30~34歳 | 12.5 | 32.6 | 7.5 | 166 | 3 | 25.48 | (24.89) | 74.46 | 380.22 |
35~39歳 | 11.7 | 37.4 | 9.8 | 164 | 4 | 26.88 | (26.14) | 83.86 | 406.42 |
40~44歳 | 10.3 | 42.5 | 10.6 | 165 | 4 | 26.47 | (25.66) | 80.73 | 398.37 |
45~49歳 | 11.4 | 47.3 | 12.4 | 166 | 3 | 27.97 | (27.31) | 85.53 | 421.17 |
50~54歳 | 8.0 | 52.5 | 14.6 | 166 | 2 | 28.35 | (27.86) | 94.13 | 434.33 |
55~59歳 | 6.9 | 57.6 | 13.7 | 166 | 2 | 27.55 | (27.08) | 87.67 | 418.27 |
60~64歳 | 3.6 | 62.3 | 17.3 | 165 | 2 | 25.85 | (25.49) | 67.34 | 377.54 |
65~69歳 | 0.7 | 66.9 | 23.6 | 166 | 4 | 25.51 | (24.80) | 65.50 | 371.62 |
70歳~ | 0.6 | 74.6 | 29.0 | 167 | 0 | 28.19 | (28.09) | 84.51 | 422.79 |
令和3年度時点の年齢別の保育士の年収データを見てみると、20代から30代前半にかけては300万円台、30代後半から50代までは400万円台と年齢が上がるに連れて年収も上がることが分かりました。
保育士は70歳以降も資格があれば働ける職業ですが、70歳の方でも400万円台の年収をゲットできるので、長く働き続けられる魅力ある資格ですね。
一番年収に差があるのは20代前半の312.51万円と50代前半の434.33万円で約121万円も年収に違いがあります。
【男女別】保育士の年収データまとめ
構成比(%) | 平均年齢(歳) | 勤続年数(年) | 所定内実労働時間数(時間) | 超過実労働時間数(時間) | きまって支給する現金給与額(万円) | うち所定内給与額(万円) | 年間賞与その他特別給与額(万円) | 年収(万円) | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
男女計 | 100.0 | 38.1 | 8.8 | 166 | 3 | 25.65 | (25.03) | 74.40 | 382.20 |
男 | 4.7 | 33.0 | 6.9 | 167 | 5 | 28.54 | (27.50) | 78.48 | 420.96 |
女 | 95.3 | 38.4 | 8.9 | 166 | 3 | 25.51 | (24.91) | 74.19 | 380.31 |
※役職者除く | 構成比(%) | 平均年齢(歳) | 勤続年数(年) | 所定内実労働時間数(時間) | 超過実労働時間数(時間) | きまって支給する現金給与額(万円) | うち所定内給与額(万円) | 年間賞与その他特別給与額(万円) | 年収(万円) |
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男女計 | 100.0 | 37.3 | 8.2 | 167 | 3 | 25.01 | (24.40) | 71.17 | 371.29 |
男 | 4.6 | 32.4 | 6.5 | 167 | 5 | 27.91 | (26.93) | 76.29 | 411.21 |
女 | 95.4 | 37.6 | 8.3 | 167 | 3 | 24.87 | (24.23) | 70.92 | 369.36 |
男女別の年収データは、役職者の含有無しで統計データを分けて紹介します。
役職者を含む場合、男性は4.7%、女性は95.3%と依然女性が多い職場であることが分かります。しかし年収で見てみると、男性は420.96万円、女性は380.31万円で約40万円も年収に差があります。
一方で役職者を除いた場合、男性は4.6%、女性は95.4%と男性の役職者が減った分の影響と推測できます。また、年収についても男女で約41万円差があり、役職の有無に関わらず年収の男女差が若干あることが分かりました。
女性が多い職場の中で男性保育士の役割は重要です。たとえば力仕事が必要な時や、保育時の安全面においても効果があります。こういった利点や男性保育士の少なさから、年収が若干高いと推察できます。
【まとめ】保育士は年齢や性別によって優位性はあるのか?
保育士という職業は国家試験での資格取得が必要です。しかし、一度資格を取得すれば何年経っても保育士を続けることができる魅力的な職業でもあります。20代のうちから保育士を続けていると、30代や40代に差し掛かって保育士としても経験を評価され、データで見ても年収が高くなる傾向にあります。
また、男女差も約40万円程度年収に差があり、とくに保育士の数が少ない男性だと、園内での力仕事やセキュリティ面でも活躍しやすいでしょう。
【企業によって違う?】求人から分析する年収データ
JPホールディングス(万円) | 株式会社こどもの森(万円) | ポピンズ(万円) | |
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平均年収 | 259.00~411.20 | 266.00 | 364.00 |
保育業界でも大手の3社をピックアップして平均年収を比較してみました。保育士は採用される地域によって給与に差があるため、どこで保育士を務めても平均年収通りということはありません。
こうしてみると、厚生労働省の調査結果による平均年収382万円より企業の平均年収は100万円程度低くなることが分かります。しかし、企業の採用情報などから確認した賃金から計算した年収の情報なので、20代から30代を想定した年収です。そのため年齢別で見るとだいたい300万円前半が厚生労働省の調査による平均年収とみて、企業の平均年収もあまり差がないことが分かります。
大手企業や地域によって年収に差があるので、保育士を目指す方は採用情報で平均給与もチェックしてみてください。
保育士は独立によって年収が増えるのか?
職種 | 私立 | 私立 | 私立 | 私立 | 私立 | 私立 | 私立 | 私立 |
常勤 | 常勤 | 常勤 | 常勤 | 非常勤 | 非常勤 | 非常勤 | 非常勤 | |
構成比 (%) | 平均 勤続 年数 (年) | 1人あたり 給与月額 (賞与込み) (万円) | 年収 (万円) | 構成比(%) | 平均 勤続 年数 (年) | 1人あたり 給与月額 (賞与込み) (万円) | 年収 (万円) | |
施設長 | 2.7 | 25.8 | 56.59 | 679.08 | 0.4 | 20.7 | 53.62 | 643.38 |
主任保育士 | 6.6 | 21.7 | 42.30 | 507.57 | 0.3 | 26.1 | 34.42 | 412.93 |
保育士 | 73.9 | 11.2 | 30.19 | 362.19 | 57.9 | 10.1 | 18.79 | 225.39 |
保育補助者(無資格) | 0.3 | 4.9 | 22.36 | 268.31 | 14.4 | 6.1 | 16.86 | 202.28 |
調理員 | 6.5 | 24.4 | 26.96 | 323.45 | 11.0 | 7.1 | 17.33 | 207.95 |
栄養士 | 4.1 | 8.2 | 29.84 | 358.04 | 1.4 | 5.7 | 23.12 | 277.35 |
看護師准看護師 | 1.6 | 12.3 | 34.02 | 408.18 | 3.1 | 9.8 | 24.89 | 298.60 |
事務職員 | 3.2 | 10.4 | 34.10 | 409.11 | 4.6 | 11.2 | 24.61 | 295.25 |
その他 | 1.0 | 15.7 | 37.52 | 450.21 | 7.0 | 9.0 | 19.01 | 228.02 |
職種 | 公立 | 公立 | 公立 | 公立 | 公立 | 公立 | 公立 | 公立 |
常勤 | 常勤 | 常勤 | 常勤 | 非常勤 | 非常勤 | 非常勤 | 非常勤 | |
構成比 (%) | 平均 勤続 年数 (年) | 1人あたり 給与月額 (賞与込み) (万円) | 年収 (万円) | 構成比 (%) | 平均 勤続 年数 (年) | 1人あたり 給与月額 (賞与込み) (万円) | 年収 (万円) | |
施設長 | 5.6 | 31.8 | 63.30 | 759.58 | 0.2 | 8,9 | 58.80 | 705.56 |
主任保育士 | 8.8 | 25.1 | 56.18 | 674.07 | 0.2 | 20.9 | 25.76 | 309.04 |
保育士 | 68.5 | 11.0 | 30.32 | 363.74 | 54.7 | 7.8 | 16.29 | 195.44 |
保育補助者(無資格) | 2.5 | 4.9 | 14.88 | 178.47 | 24.6 | 5.9 | 14.93 | 179.09 |
調理員 | 10.4 | 14.9 | 32.93 | 395.06 | 14.0 | 5.4 | 14.44 | 173.27 |
栄養士 | 0.9 | 12.6 | 37.26 | 447.05 | 0.5 | 5.6 | 23.60 | 283.14 |
看護師准看護師 | 1.4 | 12.4 | 39.70 | 476.32 | 0.6 | 5.1 | 20.84 | 250.07 |
事務職員 | 0.5 | 6.4 | 25.90 | 310.72 | 1.0 | 4.0 | 13.94 | 167.22 |
その他 | 1.3 | 13.2 | 31.85 | 382.09 | 4.2 | 4.9 | 13.90 | 166.73 |
保育士として独立する場合、ベビーシッターなどの仕事のほかにも、特有の保育施設に所属せず非常勤で働くという道もあります。ここでは、厚生労働省が調査した経営実態調査より、私立保育園・公立保育園別に各役職や常勤・非常勤の平均給与をまとめてみました。
私立保育園でみてみると、資格のある保育士は常勤と非常勤で約136万円も差があります。一方で公立保育園だと、約168万円と更に差が広がっていました。主任保育士で見てみても、私立保育園であれば常勤非常勤にあまり年収の差がないため、独立してからも収入が下がりにくいのではないかと推察できます。
保育士が年収を上げるためのポイントとは?
最後に、保育士を仕事とするうえで、年収を上げるためには「どのような行動を起こせばいいのか?」について考察したいと思います。
ポイント① 公立保育士として公立保育園内での昇進を目指す
地方公務員として保育士になった場合のみ公立保育園に所属できます。私立保育士と公立保育士で比較してみると約1万円しか差がありませんが、主任保育士という役職がつくと約166万円も差がでてくることが分かります。長く続けながら年収を上げたいという方は、地方公務員として公立保育士になり、主任保育士へ昇進を目指しましょう。
主任保育士は定員90名程度の保育園であれば、園長と共に1人だけ配属される役職です。平均勤続年数21年で主任保育士を目指せます。しかし一方で、主任保育士になるまでに期間が長いこと・それまでの年収が上がる機会がないことを不安視される方もいるでしょう。こういった問題を解決するために、ポイント②の年収アップ方法をチェックしていきます。
ポイント② 厚生労働省創設のキャリアアップ研修を受ける
厚生労働省では、役職を持たない保育士の処遇改善策として、平成29年度にキャリアアップ研修を創設しました。この研修は乳児保育や障害児保育などの分野別に体系化され、各都道府県で実施されます。研修を受けた保育士は当てはまる要件別に「職務分野別リーダー」、「浮く主任保育士」、「専門リーダー」という役職になることができます。
職務分野別リーダーは保育士経験が概ね3年以上で研修を修了した場合なれる役職で、月額5,000円の処遇改善が適用されます。90人規模の園で3人が職務分野別リーダーになるよう設定されています。
副主任保育士または専門リーダーは、保育士経験が概ね7年以上で職務分野別リーダーを経験したことがある、更に研修を規定の数修了していれば昇進できます。それぞれの処遇改善は月額4万円です。5人程度の保育士がこの役職になれるよう設定されています。
主任保育士を目指すまでに新しい役職が設定され、毎月5,000円もしくは4万円の処遇改善が適用できるので、研修は積極的に参加しましょう。
ポイント③ 待遇のいいほかの保育園へ転職する
企業によって平均給与も変わってくるので、今所属している園の処遇に満足できない場合は転職も検討してみてください。保育士向けの転職支援サイトや企業情報が分かるサイトもあるので、給料が高いほかの保育園を見つける方法はいくらでもあります。積極的に転職活動を進めてみてください。