旅好きから始まり、平和の理念へ──検定が目指す本当の価値

観光の知識から始まった、世界遺産検定の原点
ミツカル学び編集部(以下、編集部):世界遺産検定は、どのような背景や社会的ニーズから生まれたのでしょうか?
世界遺産検定事務局 広報担当 藤本さん(以下、藤本さん):世界遺産検定は、もともと「人気の旅行先である世界遺産に詳しくなってから旅行に行こう」というコンセプトで、2006年に始まりました。しかし、世界遺産は観光のためだけにあるのではありません。
編集部:観光のためだけではない、というのはどういう点でしょうか。
藤本さん:世界遺産は「教育、科学、文化の振興を通じて、戦争の悲劇を二度と繰り返さない」というユネスコの理念の下、保護や保全、広報活動が行われています。検定もユネスコの理念を広めて世界遺産の保全の輪を広げることに重きを置くようになりました。
学校教育に導入されたことも大きな転機で、国際的な課題や教養を学ぶ教材として活用されるようになりました。
中心は10〜20代。 “ 教養 ” として根づく若年層の支持
編集部: 来年で20周年を迎えるそうですね。これまでの受検者数や層の変化について教えてください。
藤本さん:はい。世界遺産検定は2006年に始まり、2025年3月時点で累計受検者数は40万5000人を超えました。多くの方に受けていただいています。
編集部:どの年代の方が多いのでしょうか?
藤本さん:現在は、10代後半から20代で7割近くを占めています。
編集部:それは学校教育との連動が関係していそうですね。
世界遺産検定事務局 営業担当 柳井さん(以下、柳井さん):おっしゃる通りです。私たちが学校に対して世界遺産検定の提案を積極的に行うことにより、団体受検が増えています。社会に出る前に身につけておくべき知識・教養として認知され、若い層の受検が拡大しています。
世界遺産検定は今、若い世代にとっての「教養の土台」として、確実に根づきつつあります。
学び続けられる “ 生涯教養 ” としての位置づけ
編集部:文部科学省の後援を受けていると伺いました。
藤本さん:はい。世界遺産検定は、社会に出る前に身に着けておくべき教養であり、社会に出てからも学び続けていくことができるコンテンツであることが評価され、文部科学省の後援事業として実施されています。
単なる知識のテストではなく、国際的な課題や現代社会に必要な教養を学べる教材として認められています。
中学受検にも世界遺産に関する設問が出るように、教育現場で世界遺産が活用されるケースは増えていますし、大人になってからも学び続けられる内容なので生涯教育のコンテンツとして役立てられています。
履歴書に “ 世界観 ” を──キャリアに活きる世界遺産検定のチカラ

転職・キャリアチェンジでのメリット
編集部:転職やキャリアの方向転換を考えている方にとって、世界遺産検定の取得にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
藤本さん:特に旅行・観光業界への転職を考えている方には、業務に直結することが多い分、大きな武器になると思いますね。検定で得た知識は、ツアーの企画や提案時にすぐ役立ちますし、何より「この分野で頑張りたい」という意思表示にもなります。資格そのものが意欲の証になるんです。
採用の場面では、「珍しい資格」であることが、思わぬ効果を生むこともあるといいます。
柳井さん:はい、「珍しい資格」だからこそ、履歴書に書いてあると面接官の目に留まりやすいです。「世界遺産検定ってどんな資格ですか?」と聞かれることも多くて、そこから話が広がります。「どのようなことを学ぶんですか?」「なぜ取ろうと思ったんですか?」といった質問から、自分のバックグラウンドを自然に伝えられる場面が生まれます。
編集部:たしかに、そうした話の展開ができると、他の応募者との差別化にもつながりそうです。
藤本さん:知識があることで相手からの信頼を得やすいという点もありますね。例えばツアーコンダクターのような職種では、世界遺産の知識があることでお客様に安心してもらえる場面もあると思います。
グローバル企業でも評価される、文化的リテラシー
編集部:旅行・観光業界以外でも、検定の知識が役立ったという声はありますか?
藤本様:受検者の中には、報道や出版、広告、ウェブメディアなどの業界にいる方も多くいます。世界の歴史や文化、国際情勢の理解が求められる場面で、知識が役立ったという声をいただいています。
編集部:なるほど、メディア業界などでも活かされているんですね。グローバルなビジネスの現場でも、求められる知識ではないでしょうか?
藤本さん:そうですね。たとえば、海外との取引がある企業では、国や地域に関する基本的な背景知識が欠かせません。世界遺産の知識を通して、その土地の文化や成り立ちを理解できていれば、リスク分析や戦略立案にも活かせますし、実際に「仕事で助かった」という声も届いています。
編集部:具体的なエピソードも教えていただけますか?
藤本さん:世界遺産の知識があると海外のビジネスパートナーとの関係構築に役立つという声はよくいただきます。先方の国に対し強い関心を抱いているということを態度で示すことにつながるのだそうです。一方、海外の方の日本に対する興味も大きなものがあるので、日本の遺産のことを説明できるのも有益だという声をいただいています。
履歴書に一行以上の価値を生む、セルフブランディングを助ける検定
編集部:履歴書や面接での自己PRとしても、世界遺産検定は強みになるのでしょうか?
藤本さん:自分の個性を伝えるためのツールとしても、すごく使える検定だと思います。
世界遺産には、歴史や文化、地理、建築、環境といった様々な要素が詰まっています。だからこそ、教養としての幅も出せますし、「この人はいろいろな視点を持っているな」という印象を与えられると思います。転職活動などである一定以上の知識や教養を持つ応募者は、国際情勢や環境問題などにも関心があると思うのですが、世界遺産を学んでいるとそうした国際情勢や環境問題などを普通とは異なる視点から語ることができます。
編集部:たしかに、今の企業はグローバルな視野を持つ人材を重視していますよね。
柳井さん:今の企業は、国内だけではなく、グローバルな視点で働くことができる人材を必要としています。世界遺産を通して学んだ知識は、「世界を意識して働くことができる人」という印象づけにもつながると思います。
他の応募者にはない切り口で、自分の興味や考え方を伝えられ、身近なニュースや時事問題への理解なども含めて「深く考える力がある」と評価してもらえる可能性があります。
知識が “ 生きる力 ” に変わる──世界遺産が育む思考力と国際感覚

地球規模の課題を “ 自分ごと ” として考える視点が身につく
編集部:国際的な課題が複雑化する中で、世界遺産を学ぶことにはどんな意味があるのでしょうか。
柳井さん:世界遺産を通して世界情勢を見ると、国際的な時事問題を深く理解できるという側面があります。そのため、世界遺産を学ぶことで、他の人とは異なる深い視点を持っているというアピールもできるでしょう。
世界遺産には、紛争や環境破壊といった地球規模の課題と向き合う入り口になります。学びを進めるほどに、それらの背景にある歴史や価値観への理解が深められます。。
藤本さん:世界遺産は世界の文化や自然を代表するものなので、それを学び、その保全に意識を向けていくことは、多様性の受容や保護、そして持続可能性といった概念について理解を深めることにつながります。
単なるテキストの暗記にとどまらず、その背後にある本質的なテーマに触れていくことで、社会を読み解くための思考力や価値観が自然と磨かれていきます。
文化を知り、世界とつながる──多様性とサステナビリティを学ぶ力
藤本さん:世界遺産は、紛争や環境破壊を伴う経済活動がなかなかゼロにはならないなかでも、「人類共通の宝物だけは守ろう」という考えから生まれたものです。平和、多様性、環境保護、持続可能性といった考え方が、その根底にはあります。こうした概念は、今や世界的に社会から強く求められています。
柳井さん:世界遺産を学ぶということは、その国が「大切にしている価値観」を学ぶことにもつながります。それぞれの国の文化や歴史、価値観を知ることで、自分自身の生き方や大切にしている価値観を見つめ直すきっかけにもなると思います。
こうした学びの積み重ねが、結果として、キャリアのさまざまな場面で活かされていくはずです。企業も今、サステナビリティや多様性への理解を社員に求めていますから、人生における財産としての価値は年々高まっていると感じます。
編集部:遺産保護を通じて育まれる「平和」や「持続可能性」への意識は、単なる国際教養にとどまらず、社会人としての視野を広げる大きな力になるのですね。
世界遺産は “ 誰とでも話せる ” 共通言語
柳井さん:世界遺産検定を学ぶと、雑談に強くなります。歴史、地理、文学や音楽、建築様式など、関連する分野が幅広いので、どんな人とでも話ができるようになる気がします。
編集部:たしかに、世界遺産というテーマは世代を問わず話しやすいですよね。お子さんからお年寄りまで、どんな場面でも会話のきっかけになりそうです。
藤本さん:そうなんです。特に海外の方との交流では、相手の国の世界遺産について話すと、とても喜ばれます。「この国にはこういう遺産があるよね」と一言添えるだけで、距離が一気に縮まるんですよ。
自分だけの知識というより、共通の関心事として使える。会話を広げる力がつくというのは、まさに実感される方が多いところです。
世界遺産に関する知識は、単なる教養を超えて、人間関係を豊かにし、異なるバックグラウンドを持つ人とも円滑にコミュニケーションを取るための大きな助けになると思います。
忙しくても続けられる!合格へ導く学び方と試験の全体像

小学生向け図鑑も活用?楽しみながら知識を定着
編集部:仕事や家事などで忙しい方も多いと思いますが、限られた時間の中で効率的に学習を進めるためには、どんな工夫が効果的でしょうか?
柳井さん:社会人の方は仕事で忙しいので、スキマ時間を活用していただくのがまず有効だと思います。朝の15分や通勤中など、短時間からでも十分に始められます。
それから、週末にまとめて勉強するよりも、毎日コツコツとやった方が、知識の定着率が良いと感じます。短時間でも毎日の積み重ねが大切ですね。
編集部:継続がカギになるんですね。インプット以外にも、学びを定着させるための工夫はありますか?
柳井さん:学んだ内容を家族に話してみたり、好きな世界遺産についてSNSで発信してみたりするのも効果的です。人に伝えることで記憶にも残りやすくなりますので、楽しみながら続けられると思います。
あと、公式テキスト以外にも様々な教材を使うと理解が深まります。私は図書館で小学生向けの図鑑を読むこともありました。やさしい言葉で書かれているので、世界遺産の概要をつかむのにすごく役立ちました。
編集部:さまざまな工夫を取り入れることで、無理なく、そして楽しく学びを継続できる環境が整えられそうですね。
世界遺産検定・各級の違いと学習の目安
世界遺産検定は、4級から始まり、3級・2級・準1級・1級、そして最高峰のマイスター級まで段階的に設けられています。
編集部:それぞれの級にはどれくらいの学習時間が必要なのでしょうか?
柳井さん:3級は約2週間から1ヶ月、2級は1ヶ月から2ヶ月が平均的な学習期間です。1級になると3ヶ月から半年ほどかかる方が多いです。
難易度の違いは、試験範囲となる遺産の数で明確に現れます。各級で日本の遺産26件はすべて試験範囲になりますが、それに加えて世界の遺産が4級は35件、3級は100件、2級になると300件。3級から2級に上がるタイミングで、200件一気に増えるので、ここでぐっと難易度が上がったと感じる方が多いようです。
藤本さん:昨年、準1級が新設されました。対象遺産数は日本の全遺産+世界の遺産700件で、1級(全世界遺産1200件以上)とのギャップを埋める位置づけですね。
それぞれの級の対象や難易度、推奨される学習期間は以下の通りです。
4級: 日本の全遺産+世界の有名な遺産35件。主に中高生が中心で、小学生でも受検可能。中学年くらいからがおすすめです。
3級: 日本の全遺産+世界の代表的な遺産100件。平均学習期間は2週間〜1ヶ月ほど。社会人の方にも取り組みやすい初級レベル。
2級: 日本の全遺産+世界の代表的な遺産300件。平均学習期間は1ヶ月〜2ヶ月。3級から一気に遺産数が増えるため難易度が上がります。
準1級: 日本の全遺産+世界の遺産700件。1級との間を埋めるために新設。
1級: 世界遺産全件(1200件以上)。学習期間は3ヶ月〜半年が目安。
このように、学習者のレベルや目標に応じて、段階的にステップアップできる設計になっているのが特徴です。
必要なのは “ 自分の言葉で伝えるチカラ ” ──マイスター級で問われる総合力
編集部:柳井さんはマイスター級の資格をお持ちですよね。難易度や試験内容を教えていただけますか?
柳井さん:マイスターは論述試験です。4級から1級までは選択式ですが、マイスター、出題テーマに対して自分の言葉で自分の意見を論じる必要があります。
もちろん全世界の遺産が対象で、試験では毎回テーマが違います。
知識の量だけではなく、自分の考えを正確な情報で根拠を示さなければならないため、論理的思考力や文章の構成力も求められる試験です。
世界遺産の成り立ちや制度など、テキストに載っている基礎知識はもちろん、最新の時事問題やニュースにも関心を持っておかなければならないのががマイスター試験の特徴です。
編集部:時事問題も出るんですね!
柳井さん:最近で言えば、オリンピックの開会式での文化財活用や、知床での携帯電話基地局の整備に関する話題などが出題されました。そうしたテーマに対し、世界遺産の視点から自分の考えを論じる必要があります。
マイスター試験は、単に「知っている」だけでは通用しません。全世界の遺産に関する幅広い知識と、その背景を読み解く洞察力、そして時事と結びつけて論理的に展開する力が求められるので、「世界遺産への総合力」が試される試験です。
実際に訪れて、話して、考える。「いいサイクル」が学びを循環させる
編集部:世界遺産検定の認定者には、検定をどのように活かして欲しいと考えていますか?
藤本さん:世界遺産学習を座学で終わらせるのではなく、行動につなげてほしいと願っています。
大切なのは、学びが個人の体験と結びつくことだと思っています。
実際に世界遺産を訪れて感動し、そこから何らかのアクションを起こしてもらいたい。そうして気づいたことを、また学び直したり、誰かに話したり。そういう「良いサイクル」ができればと思っています。
編集部:検定を取得することで、社会貢献にもつながる。いち検定にとどまらない可能性を感じます。
藤本様:はい。受検をきっかけに、人々が行動を起こし、結果として社会にも良い影響を与える。私たちはそうした価値を、この検定に込めています。
検定は単なる通過点ではなく、「学びを起点に、社会とつながる」ツールとしての役割も担っていると思います。
世界遺産検定はキャリアや人生に深みを与えてくれる資格。 “ 自分が何を大切にするか ” を考えるきっかけにも

編集部:最後に、受検を検討している方々へのメッセージをいただけますか?
藤本さん:世界遺産は、本当に多様な分野とつながっています。だからこそ、皆さんの日常や人生とも、思っている以上に関わっているかもしれません。
得た知識は「誰かに話したくなる」ものが多いんです。それが雑談力にもなり、自分の中に “ 深み ” が生まれる。人との関係性を円滑にしてくれることもあると思います。
この検定は、いわゆるスキル検定ではありません。ですが、人生やキャリアにポジティブな影響を与えてくれる可能性は、十分にあると信じています。ぜひ、多くの方に挑戦していただきたいですね。
柳井さん:世界遺産を学ぶことは、その国が大切にしている価値観を学ぶこと。そういった価値観に触れることで、自分自身の人生や働き方を見つめ直すきっかけにもなると思います。
たとえば転職を考えている方にとっては、「自分は何を大切にして生きていきたいのか?」という自分軸を再発見するヒントになるかもしれません。
仕事やキャリアについて考える中で、今まで知らなかった自分に出会えたり、新しい業界への関心が芽生えたり。そんな選択肢の広がりも生まれると感じています。
学ぶことで世界とつながる──人生を豊かにする世界遺産検定

今回お話を伺って感じたのは、世界遺産検定が「ただの資格試験」ではないということです。
その背景には、ユネスコの平和や保全の理念があり、知識を得ること以上に、自分の価値観と向き合う時間が詰まっていました。
受検者の中心は、これから社会へ羽ばたいていく10〜20代の若者たち。
文部科学省の後援を受けるなど、公的にも認められているその学びは、教育の一部としても根づき始めています。
また、旅行・観光業界をはじめ、出版や広告、グローバル企業など、さまざまな分野で「世界を知る力」として生きる場面があるというのも印象的でした。
世界遺産を通じて視野が広がり、誰かとの会話が生まれる。
知って、話して、動いてみる。その循環が、きっとまた誰かに届いていく。
世界遺産検定は、そんな“学びのサイクル”を生む、静かだけれど力強い存在なのだと感じました。
