「今のスキルのままで、5年後も活躍できるだろうか?」
AIの急速な進化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せる中、そんな不安を抱えていませんか。
今回お話を伺ったのは、「一般社団法人 栃木県情報サービス産業協会(略称:TISA)」理事の稲見 宏之さんです。
同協会は、伝統ある製造業の街・栃木で、産業の底力をITの力でさらに加速させるべく、20年以上にわたり地域に寄り添い続けてきました。
地域の未来をかけて始動させた「TDA認定制度」は、昨今のAIブームに乗じて生まれた「急造のプログラム」ではありません。
IT業界の老舗組織が、なぜ今「地域独自」の育成にこだわるのか。
そして、長年磨き続けてきた「時代に左右されない普遍的なスキル」が、結果としてなぜ現在のAI時代において最強の武器となり得るのか。
地域のリアルな課題を解決し、唯一無二のキャリアを切り拓くための本質的なヒントを紐解いていきます。
地域IT人材の底上げを目指す「TDA認定」の志
なぜ、栃木県独自のIT人材育成プログラムが必要だったのでしょうか。
長い歴史を持つ業界団体が、地域の未来をかけて始動させた「TDA認定制度」の背景にある熱い想いと、その本質的な目的に迫ります。
栃木県の産業構造とIT人材に課されたミッション
——貴機関が「地域DX人材育成事業」を始めた背景と、この事業に込められた想いをお聞かせください。
稲見 宏之さん私たちは、栃木県のIT企業の業界団体です。
栃木県は製造業が盛んな一方で、ソフトウェア開発などのIT分野は他県と比較してまだ伸び代があるのです。
このような地域特性を持った栃木において、私たちには「県内のIT業界を活性化させる」という重要なミッションがあります。
そのミッションに応えるためには、当然ながら「地域のIT人材の底上げ」が必要です。
具体的な解決策として企画されたのが、この「TDA研修」です。
本セミナーを受講していただくことで、IT人材としてのレベルを引き上げていこう、という明確な目的を持って運営しています。
——実際、ここ数年でAIが急速に普及してきたと思います。そうした背景も、DX人材を育成しなければならないという想いを加速させた要因の一つになっているのでしょうか?
稲見 宏之さん正直に申し上げますと、その点はあまり関係ありません。
というのも、TDA認定がスタートした当時は、AIが今ほどブームにはなっていなかったからです。
企画段階では、AIトレンドはまだ来ていなかったので、事業の立ち上げにあたってAIを強く意識していたわけではありませんでした。
——なるほど、元々の課題意識からスタートした事業ということですね。
稲見 宏之さん私たちは決して「ぽっと出」の業界団体ではありません。
私が自分の会社を創業する、さらに20年以上前からずっと栃木県内で活動を続けている組織です。
現在は県ともタッグを組んで様々なプロジェクトを進めています。
「歴史があり、しっかりとした組織なんですよ」ということをお伝えしたいですね。
なぜ今、地域独自の育成プログラムが必要なのか
——「地域独自」のプログラムでDX推進が必要な理由について、お伺いできますか?
稲見 宏之さん一番の理由は、県内企業の多くが「DXに関する意識がまだ薄い」という現状にあります。
これは良くも悪くもなのですが、DXを取り入れずとも現状は仕事が回っている点です。
本来は効率化しなければならない状況でも、今のやり方で十分に事業が成り立っている。
そのため、直近の「経営課題」としてDXが上がってこないという現状があります。
——「今困っていない」からこそ、危機感を持ちにくい状況なのですね。
稲見 宏之さんとはいえ、人手不足が進む中で、本格的にDXを取り入れないと仕事が回らなくなったり、やりたくてもできない「機会損失」につながったりするリスクがあります。
——そうした事態を避けるために、貴協会が行っている取り組みについてお聞かせください。
稲見 宏之さん今このタイミングで「DXによって、より効率的に、より高い収益を得られる」という事実を伝え、地域全体で備えるための教育プログラムが必要だと考えています。
技術とビジネスを横断する、TDA独自のカリキュラム
単なる知識の習得に留まらないのが、TDAカリキュラムの最大の特徴です。
リモート学習と実践的なハンズオン、さらにはAIなどの最新トレンドを毎年取り入れる柔軟な教育内容が、現場で即戦力となるプロフェッショナルを育てます。
リモートと物理的ハンズオンを組み合わせた実践的学び
——独自の育成プログラムやカリキュラムには、どのような特徴がありますか?技術面、ビジネススキル面の両面でお伺いできればと思います。
稲見 宏之さんカリキュラムの大きな特徴は、まずその「開催形式」にあります。
最近は増えてきたとはいえ、物理的にセミナールームへ足を運んで先生の話を聞く形式がまだ多いですが、当プログラムは基本的にリモートで行われます。
また、開催時間が「日中」であることも特徴です。
業務時間の中に時間を確保していただき、仕事の一環として受講してもらう形をとっています。
講師陣についても、様々な専門分野を持つ方が交代で講義を担当してくださるので、特定の分野に偏らず、幅広いITに関する知識を得ることができます。
——なるほど。基本はリモートで、業務の一環として学べるのですね。
稲見 宏之さんその一方で、受講者さんが物理的に講習会場に足を運んで「ハンズオン(体験学習)」を行うカリキュラムも一部用意しています。
栃木県内の教育機関の場所をお借りして、その場所で先生に教えてもらいながら、実際にIoT機器などを作る「モノづくり」を体験していただきます。
ソフトウェアやビジネス面だけでなく、ハードウェアの領域まで網羅できているのが、このカリキュラムの強みだと言えます。
——リモートとオフラインを組み合わせることで、現場で役立つ内容を効果的に学べるということですね。
稲見 宏之さんそうですね。IT業界という枠組みの中でも、ソフトウェアからハードウェア、さらにはコンサルティングやビジネススキルといった領域まで、広くカバーできているのが最大の特徴です。
大手ベンダー出身者がコーディネートする「多彩な講師陣」の魅力
——カリキュラムを支える講師陣は、どのような基準で選定されているのでしょうか?
稲見 宏之さん講師陣の質に関しては、明確な強みがあります。
実は、TDA(本プログラム)の立ち上げ当初から運営を統括している、ある1名の「ITコーディネーター」の存在が大きいのです。
講師の選定などは、基本的にその方に一任しています。
——講師陣のコネクションについて詳しくお伺いできますか?
稲見 宏之さんそのITコーディネーターは、大手ITベンダー出身という経歴を持っています。
そのため業界へのパイプが非常に太く、強力なコネクションを持っています。
その繋がりのおかげで、通常ではなかなかお目にかかれないような多彩で著名な先生のお話を聞くことができる。
これが大きな特徴ですね。
——それは貴重な体験ができそうですね。一企業の研修だとなかなか持てないパイプだと思います。
トレンドを逃さない!毎年更新される最新の教育内容
——カリキュラムについて「ここが強みだ」というポイントを挙げるとすれば、どのような部分になりますか?
稲見 宏之さんやはり「毎年カリキュラムを見直している」という点です。
今のトレンドに合わせて設定を毎年更新しています。
当然ながら、前期や次期などは「AI」というテーマを積極的にカリキュラムへ取り入れています。
必ずしも内容が固定化されているわけではなく、その時々のトレンドに合わせて柔軟にカリキュラムが設定されている。
これが私たちの大きな特徴であり、強みであると考えています。
——2年に1度などではなく、毎年見直しが行われているのはすごいですね。そうした変化がある中で、逆に「固定になっている基本」のようなものはあるのでしょうか。それとも、毎年ガラッと内容が刷新されるイメージですか?
稲見 宏之さんもちろん、変わらない基本的な部分はあります。
例えば、IT業界に限らず社会人として必須となるスキル、「プレゼンテーション能力」などがそれに当たります。
「人の心を動かすプレゼンテーションを作る」ということは、どの業界でも必須です。
こういった部分は、どんなに技術トレンドが変化しようとも「普遍的な価値」だと思いますから、しっかりとカリキュラムに入れています。
——なるほど。他にも特徴的なカリキュラムはありますか?
稲見 宏之さん少し抽象的な話になりますが、IT業界は基本的に「何かの問題を解決すること」をミッションとしています。
そのため、「こういうビジネス上の課題があるが、あなたならどう解決するか?」といったテーマでディスカッションを行う、課題解決型のカリキュラムも用意しています。
——課題解決能力の底上げまで内容に含まれているとは、素晴らしいですね。単なるDX講座の枠を超えて、実践的なトレーニングができる点は、かなり特徴的なポイントだと感じました。
AI時代を生き抜く「キャリアの分岐点」をどう乗り越えるか
AIの進化の最中である今、私たちはどのようなキャリアを描くべきでしょうか。
AIに代替されるのではなく、AIを使いこなして「新しい価値」を生み出すための役割の変化について、その核心に迫ります。
プログラマーの仕事がなくなる?AIがもたらす職種の変化
——今後、協会として強化していきたい支援メニューなどはありますか?
稲見 宏之さん今、AI技術が急速に進展しており、例えば私の会社でもそうですが、「プログラマーがプログラムを書く」という仕事がなくなりつつあります。
私は今、プログラマーという職業は大きな「分岐点」にあると思っているんです。
——分岐点、ですか。
稲見 宏之さんはい。このAI時代において、どちらの道に進むかという分岐です。
一つは、「プログラマーの仕事はプログラムを作ることである」という定義に固執する道です。
この考え方のままだと、今後はAIが生成したコードの「尻拭い」や手直しをするような、補助的な仕事をすることになってしまいます。
それだと、基本的には新しい価値は生まれないと考えています。
マネジメントと交渉力で「ジョブチェンジ」を果たす重要性
——もう一方は、どのようなことが考えられますか?
稲見 宏之さんもう一方の道は、コードを書く仕事はAIに任せて、「マネジメント」や「対人交渉」へとシフトしていく道です。
プログラマーとしての知見を持ちながら、プロジェクトを管理したり、人と交渉したりする方向へ、ジョブチェンジや職域拡大をしていくことが必要だと思っています。
——まさに今、その分岐が始まっていると。
稲見 宏之さんそうです。ですから、TDA認定のカリキュラムにおいても、AIによってもたらされる「次の仕事内容」や、「新しい価値を創出する仕組み」について考えられるような内容を強化していきたいと考えています。
——DXに馴染みのない企業の中には、「DXを導入すると仕事を奪われるのではないか」という懸念を持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし今のお話を聞いて、本来のDX支援とは仕事を奪うものではなく、人にしかできない「付加価値」をつけるためのものなのだと、改めてその意義を感じました。
あえて領域は絞らない戦略と、「ロボット分野」への展望
——今後、特に注力していきたい業界や分野などはありますか?
稲見 宏之さんそこに関しては、「ない」と言えます。
IT業界と言っても幅広いですし、その技術を提供する先も多岐にわたります。
ターゲットを狭めてしまうと、かえって機会損失になりかねません。
ですから、特定の分野に絞り込むような発想はあまり持っていませんね。
——では、これから開拓したい分野はありますか?
稲見 宏之さんパッと思いつくのは「ロボット分野」ですね。
そのあたりはまだ十分にフォローできていないと感じているので、そちら側のカリキュラムを今後取り入れても良いかもしれません。
——ロボット分野は、やはり今まさに広がっている領域なのでしょうか?
稲見 宏之さんもちろんです。「AI×ロボット」といった組み合わせは、「AIが物理的な手足を持つ」という意味で非常にホットな分野だと思っています。
現場の壁を突破する「課題解決力」の磨き方
地域企業がDXを進める上で最大の壁となるのは、技術以前の「意識の差」にあります。
保守的な現場にどう向き合い、具体的な一歩を踏み出してもらうのか。
DX認定制度をフックにした、極めて実践的な支援アプローチを紹介します。
地域DXの課題は、非IT企業への「優しい啓蒙」
——今後の地域DXにおける展望や、現在感じている課題についてお伺いできますか?
稲見 宏之さんIT業界内における「DX人材」のスキルアップや底上げといった部分は、順調に行われていると思います。
しかし、その技術の提供先である「課題を抱えた非IT企業」の皆様に関しては、正直なところ、まだDXと真剣に向き合えていないのではないかと感じています。
——提供する側(IT企業)と、利用する側(非IT企業)で温度差があるということですね。
稲見 宏之さんですから、非IT企業に対して「DXとはこういうものです」ということを、優しく丁寧に教えてあげるような活動が必要だと考えています。
TDA認定者による「IT提供側の底上げ」を進める一方で、非IT業界に対して「ITへの正しい理解」を促すような場を作っていくこと。
これが、栃木県内における現状の大きな課題ではないかと、個人的には考えています。
——非IT企業のDXに対する知見や捉え方は、肌感覚としてまだまだ進んでいないという印象でしょうか?
稲見 宏之さんそうですね。まだまだこれからだと思っています。
DX認定制度をフックにした、企業への具体的な支援アプローチ
——「何から始めれば良いか分からない」という企業様に対して、具体的にどのような支援を行っていくのでしょうか?
稲見 宏之さんまず第一歩としてお勧めしているのが、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)という国の関連機関が実施している「DX認定制度」の活用です。
これは中小企業でも大企業でも取得できる制度なのですが、認定を受けると「経済産業省のお墨付きを得たDX認定企業」として、ホームページや名刺などにその旨を記載できるようになります。
——対外的なアピールになるわけですね。
稲見 宏之さん当然、申請を通すには一定の基準をクリアする必要があります。
そのため、認定取得を目指すプロセスそのものが、DXに取り組む「きっかけ」になります。
取得しようとすれば、否応なく社内でDXの第一歩を踏み出すことになりますから。
名刺やホームページに「DX認定企業」と書ければ、新規取引のきっかけ(フック)にもなり、メリットは大きいです。
ですので、迷われている企業様には「まずはDX認定の取得を目指しましょう」とお勧めしています。
認定者が創る地域の未来と、今後の展望
講座を修了して終わりではなく、そこからが地域の課題を解決する新たな挑戦の始まりです。
認定者同士が繋がり、栃木のIT課題が自然と「TDA認定者」に集まってくる――そんな理想のエコシステム構築に向けた展望を語ります。
認定者同士のコミュニティから生まれる「新しい価値」
——本講座を通じて育成された方々が、現在、地域社会や企業の現場でどのように活躍されているのか、具体的な事例があればぜひお伺いしたいのですが。
稲見 宏之さんそうですね。現状、ホームページをご覧いただくと分かるのですが、「TDA認定者が具体的にこのように活躍しています」という事例は、まだ表にはあまり出ていないのが実情です。た
だ、水面下では着実に動き出しています。
例えば、栃木県内で発生する「IT周りの課題」などを、優先的に認定者に回すような仕組みが動き始めています。
——なるほど。地域内での優先的な発注の仕組みですね。
稲見 宏之さん加えて、認定者同士のコミュニティも形成しています。
その中で横のつながりが生まれ、新しい価値の「創造」といった動きも少しずつ出てきています。
——栃木県内にある団体だからこそ、地域の中で優先的に仕事を循環させていく。そういったエコシステムのようなものが出来上がりつつあるのですね。
理想の姿:地域のIT課題はすべて「TDA認定者」に集まる仕組みへ
——数年後に実現したい「地域の理想像」があればお聞かせください。
稲見 宏之さん現在構築しつつある段階ではありますが、栃木県内にあるIT関連の課題が、基本的に「TDA認定者」の元へ流れる仕組みを確立したいと考えています。
そしてもう一つ、仕組みを作っても知られなければ意味がありません。
「県内の非IT企業が抱える課題は、栃木県のこの組織に相談すれば受け付けてくれる」という認知を広げていくこと。
これをぜひ実現したいですね。
——その仕組みもほぼできつつあるとのことですが、現時点での完成度は何パーセントくらいでしょうか?
稲見 宏之さん仕組み自体は、半分くらいできていると思っています。
ただ、「認知」という点ではほとんど進んでいません。
認知に関してはゼロからのスタートになりますので、数年かけてじっくりと取り組んでいきたいと考えています。
当協会は栃木県とも深い繋がりがありますので、県の担当部署などを巻き込みながら、協力して認知を広げていきたいですね。
TDA認定を武器に、AIを使いこなしプロジェクトを牽引する人材へ
今回のインタビューを通じて、地域DXの推進は単なるIT化ではなく、「働く人の価値を再定義すること」であると強く感じました。
TDA認定プログラムは、そのための強力な武器となります。
AIに仕事を奪われることを恐れるのではなく、AIをツールとして使いこなし、プロジェクトを牽引できる人材へ。
栃木県というフィールドで、あなたのキャリアを再起動させてみませんか。
- 「一般社団法人 栃木県情報サービス産業協会」のイベント情報や活動報告など、最新情報についてはこちらをぜひご覧ください。
- 今回お話を伺った稲見 宏之さんが代表取締役を務める「株式会社 アルフォ」の事業内容や最新情報については、こちらの公式サイトをご確認ください。
