「英語を話せるようになりたい!」そう思って英会話スクールに通い、ひたすら会話練習を重ねていませんか?
しかし、「話す」ことばかりに注力しても、なかなか実践的な英語力が身につかないと感じている方も多いのではないでしょうか。
今回お話を伺ったのは、通訳として活躍されたご経験を持つ、一般社団法人 EIGC 代表理事 教室代表講師・服部 優子さんです。
英語学習者が陥りがちな「会話練習の罠」を解き明かし、真に「伸びる英語力」を身につけるための本質的なアプローチ、そして世界を舞台に活躍する「グローバル人材」へと成長するための秘訣を徹底解説します。
あなたの英語学習の常識が、今、変わるかもしれません。
英会話練習の「落とし穴」とは? ——基礎力の重要性
英会話の練習は、英語を話す度胸をつける上で一定の効果があります。しかし、実践的な英語力を向上させ、多様な状況で自在にコミュニケーションをとるためには、会話練習だけでは不十分だと服部さんは指摘します。
会話練習だけでは伸び悩む理由:テニスの例えから学ぶ本質
ー EIGCさんのウェブサイトを拝見しました。サイトでは「英語学習においては、会話練習よりも構文理解やリスニングが大切」と述べられていましたが、そのようにお考えになる理由を具体的にお聞かせいただけますでしょうか。
一般社団法人 EIGC 代表理事 教室代表講師 服部 優子さん
まず、会話練習そのものを否定しているわけではありません。もちろん、会話練習にも効果はあります。特に、英語で話した経験がない方が物怖じせず、間違いを恐れずに話せるようになるためには、ある程度の「場慣れ」が必要です。そうした場慣れをするという意味において、会話練習は有効だと考えています。
しかし、ただ会話練習を繰り返すだけで、様々な状況で質の高い会話ができるようになるかというと、おそらくそうではないでしょう。
私はテニスが好きなのですが、テニスに例えると分かりやすいかもしれません。試合ばかりしていても、なかなか上達しないという感覚は、ご理解いただけるのではないでしょうか。
ーええ、よく分かります。
テニスでは、まずフットワークがしっかりしていることが大前提です。ボールが飛んでくる場所まで素早く走り込み、自分の理想的なフォームで打つ、という一連の動作が重要になります。
それと全く同じで、会話も練習さえすれば良いというものではありません。語彙力が不足していたり、「この内容を伝えたい」と思っても、どのような構文を使えば的確に表現できるのかが分からなかったり、そういった基礎が身についていなければ、話すことはできないのです。
ベース作りの鍵は「読解(構文理解)」と「リスニング」
ー基礎となる「ベース」がなければ、会話は成り立たないということですね。
基礎を築く上で重要なのが、まずリーディングです。読解を通して、文章で使われている語彙や構文などを着実に自分のものにしていくことが非常に大切になります。
そして、リスニングも同様に重要です。会話は自分だけが話すのではなく、相手とのキャッチボールです。したがって、相手の言っていることを正確に聞き取れなければ、会話は成立しません。
「ニュース英語」が英語学習にもたらす革新
多くの学習者が目指すのは、単に「英語が話せる」ことだけではありません。自分の考えや意見を英語で適切に表現し、深い議論ができるようになること。その鍵となるのが、服部さんが提唱する「ニュース英語」を活用した学習法です。
日常会話を超えた「意見を言える英語力」の育成
ー実際の教材として、ニュース英語を取り入れられている点が大きな特徴だと感じました。一般的な日常会話の構文などではなく、あえてニュース英語を教材として選ばれた理由やきっかけについて、詳しくお聞かせいただけますでしょうか。
日常英会話で使われる表現は、それほど難しいものではありません。シンプルな内容を伝えることであれば、ある程度の学習で誰でもできるようになるでしょう。しかし、もう少し踏み込んだ話題について話したり、自分の意見を述べたりする場面では、話す内容、つまり「中身」そのものがなければ会話は成り立ちません。意見を求められても、何も言えなくなってしまいます。
そういった場面で力を発揮するのが、ニュース英語です。たとえ今は自分の中にない知識でも、日本や世界で今まさに起きている出来事など、興味を持てるテーマについて読んでいくのです。
例えば、国際政治の動向が話題になることがありますが、なぜそのような現象が起きているのかといった背景を、英語の学習と同時に学んでいきます。そうすることで、知的好奇心を刺激する効果も期待できるでしょう。
実際に、受講されている中高生からは「他の友人が知らないことを知ることができて嬉しい」といった声も聞かれます。また、ビジネスパーソンにとっては、こうした知識が会話の糸口になるため、「ニュース英語を学ぶことで、英語での会話の幅が広がった」というご意見もいただいています。
世界情勢と多角的な視点への理解を深めるグローバル人材教育
もう一つ重要だと考えているのは、当法人のミッションとも関係があります。私たちは、受講生の皆様に英語を身につけることで、世界中の様々な場所で活躍していただきたいと願っています。
現在の世界は大変な状況にありますが、そうした中で世界の平和に貢献したり、あるいは様々な分野で人々の生活をより良くするために尽力したりする、そのような人材になっていただきたいのです。そのためにも、ニュース英語を通じて世界が直面する状況を学んでおくことは、多様な人々の立場の違いを理解することに繋がると考えています。
ーなるほど。EIGCさんで英語を学ぶことは、ミッションに掲げていらっしゃる「グローバル人材の育成」に直結しているのですね。
はい。そしてそれは、必ずしも海外の人々と関わることだけを指しているわけではないのです。
中高生も夢中になる!「難易度と興味」のバランス
ー中高生にとって、ニュース英語は少し難しいのではないかと感じますが、その点はいかがでしょうか。
教材はレベル分けされており、基礎レベルのクラスでは、日本でも知られている世界的な話題や世界共通のテーマなど、比較的親しみやすい内容のニュースを選んで扱っていますので、中学生でも十分に取り組むことができます。
もちろん、英語そのものは少し難しく感じるかもしれません。しかし、それ以上に重要なのは、そのニュースの「内容」に興味が持てるかどうかです。例えば、小学校高学年にもなれば、社会科の授業などを通じて、国内外の出来事についてある程度の知識は学んでいます。そうした事柄に本人が興味を持てるかどうかが、最も重要になります。
ー特に若年層であればあるほど、未知のことに対する知的好奇心は旺盛な傾向にありますね。
はい。逆に言えば、たとえ英語が多少難しく感じても、内容自体を面白いと思うことができれば、生徒は自ら積極的に取り組んでくれるのです。
元通訳・翻訳家が語る「真の英語理解」
通訳や翻訳の最前線で培われたご経験を持つ服部さん。単なる言語の変換を超え、「相手の意図を深く、正確に理解する」という本質的なコミュニケーション能力の重要性について伺いました。
通訳・翻訳経験から得た「相手を正しく理解する」重要性
ーEIGCさんの教育方針には、服部さんご自身の通訳や翻訳のご経験が、どのように活かされているのでしょうか。
私が通訳や翻訳の仕事で常に感じていたことが、教育方針の根底にあります。それは、人が話したり書いたりしたことを「いかに正しく、忠実に理解するか」が最も重要だということです。私は翻訳の仕事をしていた頃から、「翻訳者こそが、相手の言いたいことを最も素直に、そしてその意図を深く理解しようと努めている人間だ」と話してきました。
というのも、普段の会話では、自分が理解できる部分だけを無意識に拾い上げ、相手の発言の全体像を完全には理解できていないケースが多いのではないでしょうか。
ーおっしゃる通りですね。特にインタビューのような場面では、そうした傾向があるかもしれません。
それに対して、通訳や翻訳は、いわば黒子として相手の意図を正確に捉え、それを別の言語で伝える職業です。「正しく聞き、正しく読んで理解する」ことそのものが仕事なのです。この姿勢は、より良い異文間コミュニケーションを成立させる上でも当然重要だと考えており、だからこそ私たちは「正しく理解する」という点を非常に重視しています。
文脈で学ぶニュアンスと単語帳学習の危険性
ー「正しく理解する」という点に関連して質問です。英語学習では、同じ表現でも「日本ではこう解釈されがちだが、現地のニュアンスは少し違う」といった場面が多々あるかと思います。そうした細かなニュアンスの違いは、学習の中でどのように伝えているのでしょうか。
はい。そのために、私たちは実際の英語に触れることを重視しています。例えば、メディアが発信するニュース記事のほか、「TED Talks」なども教材として活用しています。
TED Talksでは、様々な話者によるスピーチが扱われます。そうした実際のトークの中で、「この表現は、こういうニュアンスで使われている」という点を授業で解説していきます。やはり、単語やフレーズが実際にどのような文脈で使われているかを理解することが、ニュアンスを掴む上で最も効果的だと考えています。
ーなるほど、授業を通じて、文脈の中から自然にニュアンスを学んでいくわけですね。
日本で最も避けるべきなのは、単語の参考書などで「この英単語=この日本語」というように、一対一で暗記してしまう学習法です。これは誤った使い方に繋がる危険があります。そうではなく、実際に使われている文脈の中で語彙力を養っていくことで、そうした細かなニュアンスは自然と身についていくと考えています。どのような文脈でその単語が使われていたかが、知識として蓄積されていくからです。
伸びる人に共通する3つの資質
長年英語教育に携わってきた服部さんは、あらゆる分野において著しい成長を遂げる人に共通する「3つの資質」があると言います。
英語学習に限らない「素直さ」の力
ー服部さんからご覧になって、「こういう力を持っている人は伸びる」と感じる方に、何か共通点はありますでしょうか。
これは英語に限らず、あらゆることに通じると思いますが、最も大切なのは「素直さ」です。
ー物事を習得する上で、本当に基礎的で、かつ最も重要なことですね。
はい。相手が言っていることを、まずは先入観なく真っ直ぐに受け止める力。そのように素直に受け止めることで、初めて相手の言葉を深く吸収できるのです。これが、成長において何よりも重要な資質だと考えています。
自分で「考える力」を養う重要性
ただ、単に人の言ったことを吸収するだけでは、そこで成長が止まってしまいます。その次に重要となるのが、「自分で考える力」です。
ー素直に受け入れた上で、今度は自分で考える、ということですね。
例えば、「あの人の意見は確かに参考になるが、今の自分の状況ではどうだろうか」と考えたり、「この方法は本当に自分に合っているのだろうか」と吟味したりする。そのような、主体的に考える力が不可欠です。
失敗を恐れない「粘り強さ」の重要性
そしてもう一つは、「粘り強さ」です。うまくいかない時でも、最後までやり遂げる力です。多くの方がおっしゃることですが、成功は多くの失敗を積み重ねた先にあります。この考え方を持って努力を続けられるかどうか。この大切さを理解している人は、自ずと伸びていくものです。
ーなるほど。「素直さ」と「考える力」に加え、「粘り強さ」も重要なのですね。
先ほどの「素直さ」の話に戻りますが、人の意見を受け止める前に、まず自分の主張を始めてしまう方が時折いらっしゃいます。それでは、せっかくの成長の機会を自ら手放してしまい、非常にもったいないと感じます。
服部さんの教育哲学に見る「人間力」の育み方
自分の意見を持つことは大切ですが、それを主張するだけでは、うまく話はまとまりません。相手の立場を尊重しながら、どのようにコミュニケーションを取るべきか。そうした姿勢も、ニュース英語を通じて一緒に学んでいくことができます。
ー単に英語を教えるのではなく、ニュース英語を通じて時事問題を学び、それによって様々な国の方々とより深く関われるようになる、ということなのですね。
おっしゃる通りです。そして、そのスキルは、実は海外の方とのコミュニケーションに限った話ではありません。例えば、ご自身の家族や身近な友人との対話でも全く同じです。相手が誰であれ、その人の立場を考えながら発言できるかどうかで、コミュニケーションの結果は大きく変わってきます。
日本の英語教育への提言と未来の展望
英語学習は、単に言語を習得するだけでなく、学習者の人生に多岐にわたる価値をもたらすでしょう。キャリア形成における「英語プラスアルファ」の重要性から、シニア層の健康維持に貢献する役割まで、服部さんの見解を掘り下げます。
入試制度が阻む「実践的英語力」の育成と改善の兆し
ー服部さんは長年英語教育に携わっていらっしゃいますが、現在の日本の学校教育について、「ここが課題だ」と感じられる点はございますか。
非常に大きなテーマですが、多くの方が指摘している通り、やはり根本には「入試制度」の問題があると考えています。入試制度のあり方が、どうしても中学校や高等学校における指導の方向性を縛ってしまっているのが現状です。
昨今、制度は変わりつつありますが、依然として入学者の選抜を筆記試験の点数のみで判断するケースが圧倒的に多いのではないでしょうか。
海外では、エッセイを課したり、面接を重視したりと、学力試験の点数だけではない多角的な評価が一般的です。筆記試験の点数だけで評価しようとすると、どうしても「知識の暗記や習得」に焦点があたります。
「モチベーション」が学習を加速させる:目標明確化の力
ー学習者がつまずくポイントや、逆に大きく伸びる瞬間に、何か共通する特徴はありますでしょうか。
やはり、学習者が大きく伸びるのはモチベーションが高まっている時です。そのような時は、当然ながら意欲的に学習に参加しますし、自ら進んで復習も行うようになります。
ーモチベーションを高めるためには、やはり明確な目標を持つことが重要になるのですね。
はい。例えば当教室の社会人の受講生の中には、万博などで通訳ガイドとして活躍することを目指して学習に励み、通訳士の資格を取得した方がたくさんおられます。ほかにも日本語教師など、明確な目標をお持ちの方もおられます。
ー目標を明確にすることが大切だというお話でしたが、学習を始める前に、目標設定のためのプロセスなどを設けていらっしゃるのでしょうか。
いえ、特に決まったプロセスを設けているわけではありません。最初から明確な目標を持って入校される方もいますが、特に学生さんの場合は、まだ目標がはっきりしていないことも多いです。しかし、当教室で学ぶうちに、自分の興味を見つけて目標を定める生徒は少なくありません。
当教室ではニュースを通じて様々なテーマを扱うため、生徒が自身の興味を発見しやすいのです。例えば、環境問題に関心のある生徒なら、プラスチックごみを解決する新素材開発のニュースに惹かれるかもしれません。技術開発に興味があれば、変形可能な新素材を使ったソーラーパネルが日本の再生可能エネルギーをどう変えるか、といった話題から将来の道を考えることもあります。以前には、ピラミッド内部に未知の空間が発見されたというニュースから、考古学に興味を持つようになった高校生もいました。
多様な世代が「英語を学ぶ目的」:キャリアアップから認知症予防まで
ー子育てを終えた女性やシニア層など、特定のライフステージにいる方々にとって、英語学習はどのような自信や選択肢をもたらすとお考えでしょうか。
これもよく言われることですが、英語は「プラスアルファ」のスキルとして機能します。英語はあくまで言語ですので、「英語ができる」だけでは強みになりにくいのが実情です。しかし、例えばITスキルや簿記・会計といった専門知識に英語力が加われば、それは大きな力になります。メーカーや商社などで働く場合も同様で、何かしらの専門スキルと英語力が組み合わさることで、非常に大きな強みとなるのです。
ー単なる足し算ではなく、時には掛け算のような相乗効果を生む力がありますね。
シニア層の方々については、また別の側面があります。最近、特に60代、70代以上の方々の間で関心が高いのが「認知症の予防」です。年齢を重ねるにつれて、ご自身の健康が心配になる方も多いでしょう。実は、第二言語の学習は脳の活性化に非常に良い効果があると言われています。
脳が非常に活性化するため、その機能の衰えを防ぐ効果が期待できるのです。実際に「認知症予防のためにEIGCに来ている」と公言されている受講生もいらっしゃいます。
ーそれも学習を続けるための、立派な目的の一つですね。
また、現役時代に英語を使って活躍されていた方が、退職後も生涯学習の一環として継続したい、という理由で通われているケースもあります。
「なぜ学ぶか」から始める。あなたの英語学習をアップデートするために
今回は、英語学習のプロフェッショナルである服部さんへのインタビューを通し、効果的な英語学習の本質、そして真にグローバルな人材を育む教育理念について深く掘り下げました。会話練習の前に、読解やリスニングといった基礎力を固めることの重要性、そして知的好奇心を刺激するニュース英語が、単なる語学力だけでなく、世界に対する深い理解と多角的な視点を養う鍵となることが明らかになりました。
また、通訳・翻訳の経験から得られた「正しく理解する」ことの重要性や、素直さ・思考力・粘り強さといった人間性が、学習の伸びを左右する共通点であるという洞察は、英語学習者だけでなく、あらゆる分野で成長を目指す人々にとって示唆に富むものでしょう。
日本の教育システムが抱える課題にも触れつつ、一人ひとりが「なぜ英語を学ぶのか」という目的を明確に持ち、自ら探求する学びの姿勢こそが、学習を継続させ、最終的な成功へと導くことを再認識させられました。
読者の皆様が、自身の英語学習、さらには人生をより豊かにするための新たなヒントを見つけ、一歩踏み出すきっかけとなれば幸いです。
