英語学習で伸び悩んでいませんか?
「話す機会がない」「なかなか定着しない」といった悩みは、多くの学習者が抱える共通の課題です。
今回「ミツカル英会話」編集部は日本での英語教育に30年以上携わる専門家、トンクス・バジル先生にインタビューを行いました。
バジル先生は、自身の日本語習得経験から生まれた独自の「独り言勉強法」がこれらの英語学習の課題を解決する鍵だと語ります。
本記事では費用をかけずに実践でき、高い定着率が期待できるこの勉強法について、その具体的な方法から活用術まで、バジル先生の解説を交えながらご紹介します。
英語専門家トンクス・バジル先生の多岐にわたるキャリア
── 本日は「ミツカル英会話」のインタビューにお越しいただき、ありがとうございます。 私は「ミツカル英会話」編集部の山崎と申します。よろしくお願いいたします。さっそくバジル先生の自己紹介をお願いできますでしょうか。
私はトンクス・バジルと申しますが、名前が難しいので「バジル」と呼んでいただければと思います。イタリア料理によく出てくるハーブと同じなので、覚えやすいかと思います。
私はイギリス人の両親のもと、カリブ海のトリニダード・トバゴで生まれ、幼少期にカナダへ移住しました。
学生時代は東洋史に興味があり、トロント大学で中国史と中国語を専攻し、ブリティッシュ・コロンビア大学大学院で東アジア研究と日本語を専攻しました。
私は語学の勉強が好きで母国語の英語とフランス語のほかスペイン語、中国語、そして日本語を話します。
現在は韓国語とインドネシア語を勉強中です。
最近、ハングルが読めるようになりました。
電車に乗っている時に駅を降り損ねそうになったときに、ハングルで書かれた駅名の表示が読めて非常に役立ちました!
日本には1992年に来日してから、もう33年になります。
教育業界、特に英語教育の分野でさまざまな仕事をしてきました。
最初は英会話の講師、その後は講師のトレーナー、マネージャーと経験を重ねました。
その後は英会話のフランチャイズスクールを立ち上げ、教材の作成者(クリエイター)としても務めていました。
時代とともに紙の教材から当時ハイテクだったCD-ROMやDVDを使った教材、そして初期のEラーニング教材も制作してきました。
最近では政府や都道府県主催の講演会の出演、外国人の人材育成のほか、教育系アプリ開発やこの2〜3年でAIを活用した学習ツールの開発なども手掛けています。
仕事は主に日本で行っていますが海外との取引も多く、海外でセミナーやトレーニングを実施することもあります。
── ありがとうございます。語学の勉強がお好きでたくさんの言語を操られるとのことで驚きました! さまざまな国と連携されているとのことですが、具体的にどのような国や大手企業と取引されているのでしょうか?
日本語の教材も開発・提供していますので、日本語に関してはインドネシアやスリランカなどとも関わりがあります。東南アジアが中心です。
日本の教育業界のトップ3に入るような企業とも取引があり、 大手から中小まで、さまざまな企業と仕事をご一緒しています。
── 英語だけでなく、日本語教育も推進されているのですね。
1つ目の「株式会社 Advanced Education」は幼児教育の会社で、幼児向けの英語や国語、算数、そして健康や体操のプログラムを提供しています。
2つ目の「株式会社 エドベック」は主に英語教材を開発し、民間の教育教室に提供しています。
3つ目の「株式会社 ポテンシャルプラス」は人材育成の会社で、 日本語教育を中心に人材の育成や外国人の人材紹介も行っています。 すべて教育分野ですがそれぞれ異なるセグメントを扱っています。
「独り言勉強法」が生まれた意外なきっかけ
── 日本には英語を学びたいけれど、たくさんの悩みを抱えている学習者がいらっしゃいます。 どうすればスピーキングの力をつけられるのか、何かヒントになることをお話しいただけると伺いました。 先生が開発された「独り言勉強法」というものがあると伺ったのですが、これはどのような勉強法なのでしょうか?
私はこれまで英語の先生としてさまざまな教え方や勉強法を学んできましたが、今日ご紹介する勉強法は私が日本語を勉強した経験から見つけたものです。
言語が上達するための4つの条件とは
──日本語がとてもお上手ですよね。ぜひその秘訣を教えてください。
私は非常に恵まれた環境で日本語を勉強しました。
カナダのブリティッシュ・コロンビア大学大学院で学び、そこでは1年間で3年分の日本語を学びました。
ネイティブの先生もたくさんいて、勉強できる施設もあり、非常に良い環境でした。
しかし、日本に来た時は苦労しました。
海外で日本語を勉強するのと日本で英語を勉強する状況は似ていると思います。
私たちは4つの技能(リスニング、ライティング、スピーキング、 リーディング)を全て学びますが、どうしてもスピーキングの時間が少ないのです。
私が勉強していた当時はカセットテープやCDを使っていましたが、 練習時間は限られていました。
日本に来てからはそのギャップに苦労しました。
聞き取れないし、自分の言いたいことも言えませんでした。
どのような言語でも、上達するための条件は4つあると私は考えています。
知識(Knowledge): 文法や単語の知識を得ること。
能力(Ability): 新しい言語を習得する能力は誰にでも備わっています。
モチベーション(Motivation): 学習の動機です。これは非常に重要で、全てと言ってもいいかもしれません。
機会(Opportunity): 実際に言語を使う機会です。これがないと上達は厳しいです。
この「K・A・M・O(カモ)」が揃えば、どの言語でもマスターできるカモ!?(笑)
私は恵まれた環境で日本語を学びましたが「機会」が圧倒的に少なかったのです。
大学院では先生や友達と話す機会がありましたが、それでも決まったフレーズでの練習でした。
先生1人に対して生徒が30人もいる状況では、スピーキングの練習時間は5分か10分しかありませんでした。
日本にいる英語学習者の皆さんも同じような経験をしていると思います。
モチベーションが高くてもアウトプットの機会が足りないのです。
そこでこの機会を補い、問題を解決できる勉強法として「独り言勉強法」を紹介したいと思います。
「独り言勉強法」の具体的な手順と効果
①テレビからマスターしたいセリフを一つピックアップする
例えば「大変ですね」など、どんなフレーズでも構いません。
文脈から意味がわかるものを選びます。
もし難しい単語や文法があれば、辞書などで調べます。
②スラスラ言えるまで一人で練習する
声に出して何度も練習します。
「お姉さん、大変だ」「お姉さん、大変だ」と、食器を洗っている時や部屋を片付けている時など、いつでもいいので言い続けます。
③できる限りその日のうちに会話の中で使ってみる
無理やりにでも、そのフレーズを使える状況を見つけます。
そして、周りの人の反応を見て、自分の意図が通じたかどうかを確認します。
④通じたら「マスターした」と判断する
「通じた」という達成感は、次の学習へのモチベーションになります。
後に調べたところ、この学習法には【教育的な意味】があることがわかりました。
第一に、言葉を「塊」として勉強できる点です。
単語や文法をバラバラに覚えるのではなく、ワンパッケージとして覚えることが重要です。
私たちは日々のコミュニケーションの55%〜80%で、決まったパターンやフレーズを使っています。
独り言勉強法は、この決まったパターンを習得するのに非常に適しています。
第二に、声に出して勉強することです。
声を出すことで話せるようになるのはもちろん、実はリスニングのトレーニング方法でもあるのです。
── ありがとうございました。一つの勉強法にこんなに深い話があるとは想像していませんでした。 不便な環境にいたからこそ、スマホもアプリもない時代に生まれた勉強法なのですね。 本当に何もないところから生まれたこの勉強法は、現在さまざまな教材やアプリがある中で、どんな点が優れているとお考えですか?
まず一つは、コストがゼロだということです。
教材やアプリは必要ありません。
二つ目は、利便性です。
いつでも、どこでも、隙間時間を使って学習できます。
そして、最も重要なのは定着率が高い点です。
独り言勉強法は、自分の知っている英語をベースに始めます。
既に覚えているものを活性化させ、それを実際に使ってみることで記憶が再構築されます。
特に「言いたいけれど言えない」というモチベーションが高い部分を学ぶので、覚えやすく、定着率が高いのです。
アプリで表示されたフレーズをただ聞いたり繰り返したりするだけでは表面的な学習になりがちで、すぐに忘れてしまいます。
── おっしゃる通りですね。 自分が「なんて言えばいいんだろう?」と思ったことを調べて覚えると、本当に記憶に定着します。
自分の「気になる部分」を学ぶと早く、長く覚えられます。
初心者から上級者まで、実践的な勉強
── 日本の英語学習者は本格的に勉強を始めるのが中学生頃からですが、大人になっても「自分の英語レベルは中学生レベルだ」とおっしゃる方が多いです。 そのような英語に苦手意識を持つ学習者が1日10分くらい独り言勉強法を取り入れる場合、どのような流れで練習するのがおすすめですか?
ピックアップするフレーズは、自分が話したい、使いたい英語で構いません。短いフレーズでも、長いフレーズでも大丈夫です。
隙間時間を使って、まずはスラスラ言えるようになるまで練習します。
そして可能であれば、どこかで実際に試してみるのが一番良いです。
先生や英語を勉強している仲間がいれば、オンラインでも良いので使ってみると良いでしょう。
最近ではAIとの会話でも練習できます。
とにかく「声に出すこと」が大切です。
── では、例えば病院の待合室で、目の前にあるものを英語で言ってみる場合、声に出さずに心の中で言っても大丈夫ですか?
── 日本人は恥ずかしがり屋で、発音や文法に自信がないと、心にバリアを張ってしまいがちです。独り言を声に出すのが恥ずかしい学習者には、どのようなアドバイスができますか?
上手くならない人は声に出さず黙ってしまう傾向があります。
口に出してスラスラ言えるようになれば、自信を持って話せるようになります。
何も練習せずにいきなりその場で話そうとするから「どう思われるだろう」「笑われるかもしれない」と心配になるのです。
何度も口に出して練習していれば、「言えるんだ!」という自信がつくので不安になることもありません。
── では、恥ずかしさがなくなるまでとにかく一人で練習し、自信がついたら実際に使ってみる、という段階を踏むのが良いのですね。
何も考えなくても口をついて出てくるように、自動化されるまで何度もトレーニングすることが重要です。
── この勉強法は、初心者から上級者まで、どのレベルの人にも向いていますか?
例えば数字を数えるだけ、テーブルの上にあるものを数えるだけでも構いません。
色の種類を数えてみるなど、何でも良いのです。
このように、基礎的なレベルからでも始められると思います。
上級者になると抽象的な概念についても独り言で練習したり、目に見えるものだけでなく、目を閉じて聞こえるものを全て説明してみる、という方法もあります。
── ビジネス目的で英語力を上げたい社会人の方にも向いていますか?
今の時代、シンプルな情報伝達はAI翻訳の方が正確で早いです。
これからの時代に求められるのは、AIの翻訳を超える英語で私は「協約英語」と呼んでいますがそれが必要です。
人を動かす、関係を築く、謝る、褒める、提案するといった、自分の声で言った方が良い英語です。
これらは決まった言い方や慣用表現が多いためフレーズとして覚えておき、いざという時にスラスラ言えるようにしておくことが重要です。
「独り言勉強法」のさらなる可能性
──「 独り言勉強法」は誰でもでき、どんな場面でも使えますがこれ一本でやるのではなく、他の勉強法と組み合わせて使うのが基本的な考え方ですね。
しかし、独り言勉強法は非常に効果的でメリットも大きいので、 誰にでもできる素晴らしい勉強法だと思います。
── もし組み合わせるとしたら、独り言勉強法と何を組み合わせるのがおすすめですか?
アプリ学習が好きな人もいるでしょうし、オンライン英会話のレッスンを受けたい人もいるでしょう。
サロンなどで学習仲間と交流したい人もいるかもしれません。
私自身も現在、周囲にインドネシア人がいないのでアプリを使っています。しかし、会社に一人インドネシア人のスタッフがいるので月曜日の会議で勉強したことを試すようにしています。
── 会議とは全く関係ないことでも?
「私は牛乳が好きです!」など、いきなり言ってみるのです。
通じると「学んだことが理解してもらえた!」と達成感があります。
相手も「私も牛乳が好きです」と返してくれたら、嬉しいですよね。
──では、状況に関係なく誰か聞いてくれる人がいたら、とりあえず言ってみる勇気が大切なのですね。
無理やりにでも使ってみる。
その「牛乳が好きです」というフレーズはパターンなので、単語を入れ替えれば他のことも言えるようになります。
アウトプットの時間と、それが通じた喜びを味わうことが大切だと思います。
── ありがとうございます。日本人の学習者にとっても、すごく勇気が持てる内容でした。 ぜひ、できるところからこの方法を取り入れていきたいと思います。本日はありがとうございました。
──また次の機会もよろしくお願いいたします。
