「青春は青くない」から始まる新しい学び。無花果学園が地域社会と創る、持続可能な教育のカタチ

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「青春は青くない」から始まる新しい学び。無花果学園が地域社会と創る、持続可能な教育のカタチ

学校教育の枠組みを超え、一人ひとりの「ありのまま」を大切にする無花果学園。

無花果Inc./NPO法人無花果代表の中藤 寛人さんは、民主主義の土台としての教育を掲げ、子どもたちが自分自身の生活を自ら作り上げられる環境を追求しています。

かつて自身が経験した困難な時期に、塾の先生に支えられた原体験が、今の活動の強い源泉となっています。

今回のインタビューでは、既存の価値観に縛られない新しい学びのカタチ、そして地域社会と連携した独自の支援体制について詳しく伺いました。

単なる居場所づくりに留まらず、スタッフの教育や持続可能な組織運営、さらには教育行政への働きかけまで、無花果学園が描く「教育の未来」に迫ります。

目次

教育の原点と「無花果学園」が目指す民主主義的な学び場

一人ひとりが自分らしく生きるための土台となる「教育」のあり方。代表の中藤氏が掲げる「民主主義の教育」という理念の裏側には、自身の苦難を救った大人の存在がありました。

1人1人の自由と対話を尊重し、共に世界を創るための教育観

——無花果グループとしてフリースクールや通信制高校の運営、教員の養成など幅広く展開されていると思いますが、事業全体のビジョンについてお伺いできますでしょうか。

中藤 寛人さん

私自身「平和」というものに強い関心を持っています。その一つの形として、「民主主義の土台としての教育」を私たちは非常に大切にしています。

民主主義と言うと少し言葉が硬くなってしまう面もありますが、一人ひとりが違いを持った存在である中で、誰もが自由に生きていきたいと願っていますよね。時にそれが対立を生むこともあります。そんな時でもお互いの自由や欲求を尊重しながら、一緒にどうすればより良い世界を創っていけるか。そうした社会の土台になるのが教育だと考えています。

——まさに平和や民主主義の根幹となる考え方ですね。そうした理念は、実際の子どもたちの学びの場において、どのように体現されているのでしょうか。

中藤 寛人さん

足元の民主主義ともいえる実践を通して、一人ひとりが自分の生きたいように生きる。そして、他者と調整したり対話したりしながら、自分の送りたい小学校生活や高校生活、あるいは大学生活を自ら創っていける。子どもたちにそんな時間を過ごしてもらうことを一番に大切にしながら、グループ全体として活動しています。

絶望の中で出会った「信じてくれる大人」が教えてくれた、教育の持つ本当の力

——中藤さんがフリースクールを始められたきっかけについて、お伺いできますでしょうか。

中藤 寛人さん

私自身、高校時代に学校へ行きづらくなった時期がありました。理由は友人関係ではありませんでした。当時、祖父が社長を務め、父親も働いていた家業が廃業してしまったのです。ただ経済的に苦しくなるだけでなく、一部の元従業員から家族への嫌がらせが始まりました。

私は中学校までは、学校を1日も休まないような優等生タイプでした。しかし、その嫌がらせがひどかった時期に、初めて学校を休む出来事がありました。祖父母と二世帯住宅で暮らしていたのですが、ある日、祖父母も両親も不在で、インフルエンザにかかった妹と私だけが家に残ることになったのです。いつ嫌がらせに来るか分からない状況で、「お兄ちゃん、家にいて」と頼まれました。そこで初めて担任の先生に電話をして、「学校を休みます」と伝えました。

この1回休んだことをきっかけに、行く意味を考え始め、学校に対して少し違和感を覚えるようになり、週に1、2回休むような生活が続きました。

その時に私を強く支えてくれたのが、通っていた塾の社長や先生方との出会いでした。「君がいると塾の雰囲気が良くなるから」と、私が通いやすいように考えて言葉をかけてくださり、「今まで受けていた授業も、それ以外も無料で受けていいよ」と提案してくださったのです。夜10時頃に塾が終わった後も、家まで車で送ってくださいました。そこまで支えてくださる大人の存在があったからこそ、私はあの時期を乗り越え、地元の岡山大学に進学することができたのだと思っています。

そういった経験から、大学の学部は経済学部でしたが、教育に関心を持つようになりました。

——過去の様々な経験という点と点が、線になって現在に繋がっていらっしゃるのですね。

中藤 寛人さん

在学中は子どもたちのボランティア活動に参加したり、不登校のお子さまを持つ保護者の会で、子ども視点からお話をさせていただいたりしました。嬉しかった親の言動や、嫌だった親の言動などをお伝えする活動が繋がり、フリースクールの立ち上げに至ったという背景があります。

経済学から教育の道へ。当事者の視点を大切にした「フリースクール」への挑戦

——経済学部のご出身である中藤さんが、異なる分野である「教育」の事業に携わるにあたって、相当な勉強をされたのではないでしょうか。

中藤 寛人さん

たくさん勉強したと思いますし、現在も多くの本を読んでいます。私は教員免許を持っていませんが、最初の頃は教員採用試験の参考書などにも目を通しました。また、大学の教授とお話ししたりしながら、「フリースクールの教員としてどうあるべきか」を模索してきました。

「何を学び、どのような存在として子どもたちの前に立てば良いのか」は、私自身の中心的なテーマでもあります。ですから、その問いを常に持ち続け、今でも月に2回ほど教授の方とお話しして自身の軸を作り、スタッフとも対話を重ねながら学び続けています。

——ちなみに、フリースクールの先生と一般的な学校の先生とでは、どのような点に一番の違いがあるのでしょうか。

中藤 寛人さん

フリースクールの種類にもよると思いますが、当学園を例に挙げると、基本的には「これをやりなさい」という強制はありません。皆がある意味で自由に過ごしています。当学園は3階建てなのですが、例えば2階で活動をしていても、それに参加しないで1階や3階で過ごしてもよい、という環境がまず前提としてあります。

その上で、私たちが大切にしているのは「後追いで学びを創っていく」ということです。決まった学びを提供するのではなく、生徒の興味・関心や、「つまらない」といった感情から出発し、後追いで学びを常にアレンジしながら創り上げていきます。決まったプログラムに皆に参加してほしいと思いながらも、その魅力が伝わらず人が集まらない状況も含めて、「そこからいかに一人ひとりにとって良い学びを創っていくか」を考えます。公教育の先生方と比較すると、頭の使い方が違う部分かもしれません。

——学校の先生であれば、「この曜日はこの授業がある」と時間割が決められており、それをこなしていく形になりますよね。一方、フリースクールは基本はありつつも、さらに自由に動ける余白があるからこそ、教員の裁量が大きいということですね。

無花果学園

持続可能な「居場所」を維持するための組織哲学

「ありのままの姿」を尊重するためには、大人側が抱く固定観念を解き放つ必要があります。子どもたちが安心して過ごし続けられる「潰れない場所」を守り抜くための、無花果学園独自の組織運営に迫ります。

「ありのままの姿」を肯定する。大人の固定観念から子どもを解放する名称への想い

——「無花果(いちじく)」という名前には、果実の内側で花を咲かせるという理念が込められていると伺っております。そうした教育理念に至った背景やご自身の原体験について、先ほどのお話と繋がる部分もあるかと思いますが、さらに詳しくお聞かせいただけますでしょうか。

中藤 寛人さん

これも過去の話ですが、実は私の妹も不登校になった経験があります。妹はあまり勉強をしないタイプで不登校になってしまったため、親が心配し、一時期家族関係が非常に悪化したことがありました。その時、私は大学の授業を抜け出して母親と妹に電話をかけ、二人の関係性を取り持つようなことをしていました。

この当時の出来事や、先ほど申し上げた「保護者の会」などでお話しする機会を通じて、強く感じたことがあります。それは、保護者の方は本心では深い愛情を持っているにもかかわらず、「やはり勉強はしなければいけない」といった観念にとらわれてしまい、子どものありのままの姿が見えづらくなってしまう、ということです。

——そうしたご家族の葛藤を目の当たりにされて、中藤さんご自身は子どもたちに対しては、どのようなことを感じていらっしゃったのでしょうか。

中藤 寛人さん

私から子どもたちを見ると、「この子は絶対にこのままで、良い人生を送っていける」という大きな安心感があります。私たちがどれだけそう感じていても、保護者の方は不安に思ってしまう。そうした保護者の方の葛藤に触れる機会が多くありました。

子どもたちの目線に立ってみると、理不尽な経験をしている子が少なくありません。本当は、その子はそのままでいいはずなのに、そうはいかない環境があることは、私自身もとても辛く感じました。保護者の方も本当は温かい気持ちを持っているのに、結果的に関係性を引き離してしまうようなコミュニケーションを取ってしまう。そうしたすれ違いを何度も見てきました。

——お互いを大切に思っているからこそのすれ違いというのは、本当に心苦しいですね。そうした歯がゆい原体験が、「ありのまま」を肯定する今の教育理念や、学園のお名前に繋がっていくのでしょうか。

中藤 寛人さん

はい。「こうあるべき」という観念で子どもを見るのではなく、その子がありのままに大切にしている「その子らしさ」を尊重したいのです。そして、それをスタッフも、子ども自身も、保護者も、皆で一緒に大切にしていく。そうすることで、きっとより良い未来が生まれていくという確信があります。「無花果」という名前には、そうした私たちの思いが込められています。

——「無花果(いちじく)」という名前の発想は、どこから出てきたのでしょうか。

中藤 寛人さん

最初は、日本語の名前にしたいという感覚がありました。また、私たちは詩的な言葉のイメージから考え始めることがよくあります。

例えば、無花果の取り組みの一つに「オレンジ」というものがあるのですが、これは「青春は青くない」というキーワードから作りました。「青春は必ずしも学校の中だけにあるものではない」といった思いが込められています。

そのように、自分の大切にしたい理念を果物や動物に例えると何になるだろうか、と考えを巡らせる中で「無花果」という名前が浮かび上がってきました。

——そうしたキャッチコピーは、中藤さんご自身で考えていらっしゃるのですか?

中藤 寛人さん

私自身で考えることもありますが、同じ想いを持った仲間が集まっているので、皆で一緒に話し合いながら考えています。

「潰れない場所」であることが子どもの安心を守る。持続可能な教育組織の重要性

——事業の側面にも少し踏み込んでいきたいと思います。フリースクールなどの教育分野では、利益を出すことがタブー視されがちな傾向があるかと思います。中藤さんは今後の事業展開を見据えて、しっかりと資金調達をされていますよね。そこに至った理由や、これまでのご苦労についてお伺いできますでしょうか。

中藤 寛人さん

これまで様々なことがありましたが、苦労した面についてお話しします。例えば、学習塾であれば週に数回の授業で月額2、3万円という料金に納得感があると思います。しかし、当学園のように毎日通うフリースクールで月額3万円となると、「非常に高い」と言われてしまうことがあります。フリースクールに対する金銭的な価値観はそのような現状です。以前、フリースクール職員の平均月収が8万円程度であるというニュースを見たこともあります。

スタッフが疲弊してしまうような持続可能ではない運営形態や、スタッフ自身の手弁当で成り立っているような場所が、まだまだ多いと感じています。しかし、それではやはり持続可能ではありません。最近ではフリースクール・通信制サポート校が閉校するといったニュースも見かけます。子どもたちを預かる機関だからこそ、組織としてしっかり自立しなければならないと考えながらも、難しさを抱えているという前提がまずあります。

——持続可能性に強くこだわっていらっしゃるのには、そうした背景があるのですね。

中藤 寛人さん

はい。持続可能性にこだわる理由の一つは、まさに今申し上げた「運営が立ち行かなくなり、場所がなくなってしまうこと」を防ぐためです。フリースクールや通信制高校という場所は、途中でなくなってしまうことが絶対に許されないものだと強く感じています。子どもたちの居場所をしっかりと守っていくためにも、持続可能な組織を作る必要があります。

——子どもたちの安心を守るという点に加えて、そこで子どもたちと向き合うスタッフの方々の環境を整えるという面でも、持続可能性や資金は重要になってくるのでしょうか。

中藤 寛人さん

子どもたちと関わりたいと思ってくださる大人や先生方は、非常に専門性が高く、素晴らしい方々ばかりです。そうした方々にしっかりと関わってもらうためにも、適切な対価を支払える仕組みを作らなければ、良い先生も集まりません。

だからこそ資金は必要ですし、そもそも学校やフリースクールは「なくならない」という安心感があるべきだと考えています。実際の面談の際にも、保護者の方から「ここは潰れたりしませんか」と聞かれることがあります。

最近、あるフリースクールではトラブルになったり、また別のフリースクールでは事務手続きなどの関係で閉鎖してしまったりする出来事がありました。そういった背景から、不安を抱えている保護者の方がいらっしゃるのも確かだと実感しています。

無花果学園

共感の輪を広げる。地域社会や企業と連携した「本物の出会い」の作り方

単なるビジネスではなく、子どもの未来を最優先に考える「共感の輪」を広げる。地域社会や行政、そして志を共にする投資家たちと、どのようにして教育の質を守る強固な連携を築き上げてきたのでしょうか。

行政と連携し「すべての子に教育」を。岡山市での補助金実現

——現在、NPO法人と株式会社の両輪で事業を展開されていますが、これからの時代は公教育だけではカバーしきれない部分が出てくると思います。そこを補完する意味でもフリースクールは必要であり、オルタナティブ教育という位置づけになるかと存じます。今後、オルタナティブ教育を推進していくにあたり、公教育とどのような関係を築いていくのが理想だとお考えでしょうか。

中藤 寛人さん

考えていることは大きく分けて2つあります。1つ目は、教育行政と共に「すべての子どもたちに教育を届けていく」ということです。私たちのフリースクールも、地域の中で教育を届けるための一つの機関だと捉えています。ですから、まずは学校としっかり連携して入り口の部分を作っていくという役割は、十分に果たしていけると考えています。

例えば、岡山市の事例ですが、さまざまな教育関係者や教育委員会、時には議員の方々も巻き込みながら動いた結果、2026年度からフリースクールの利用に関して上限1万円の補助金が出ることが決まりました。こうした動きを実際に作れたことも含め、連携して全員に教育を届けていくことが1つ目の役割です。

2つ目の役割は、「これからの教育のあり方を体現し、ビジョンを見せていく」ことです。フリースクールに来る子どもたちは、ある意味で公教育では補いきれなかったり、支えきれなかったりした子どもたちが多いと捉えています。私たちが活動を始めてから4、5年経ちますが、それでも子どもたちの状況は変容しています。

時々の子どもたちの様子を知っている私たちだからこそ、「今、子どもたちが学校の中でうまく生活できない状況があるのなら、どのような形であれば公教育はより良くなるのだろうか」と考え、行動に移すことができます。これからの公教育のあり方、さらに言えば教育行政のあり方を体現し、提言していける存在でありたいと強く思っています。

——補助金のお話が出ましたが、「これから制度ができるのか」というのが正直な感想でした。やはりフリースクールに通っている子どもへの支援や、行政との連携がまだ十分に行き届いていないということなのでしょうか。

中藤 寛人さん

よく言われている課題として、市の中にフリースクールを担当する「課」がないということが挙げられます。担当部署がない以上、予算を組むことも難しくなります。

岡山市の事例で言いますと、まずは協議会のようなものを立ち上げ、市の中に連絡会議の担当者ができました。そこから「多様な学び支援室」という新しい部署が立ち上がりました。そうした組織づくりも含めて予算請求を行うといった行政内部の事情もあり、実現までに時間がかかっているという背景がありました。

——そうすると、これまではずっと各ご家庭だけの負担だったわけですね。ご家庭によっては、金銭的な負担がかなり重かったのではないでしょうか。

中藤 寛人さん

まさにその通りです。世の中には月1万円で通い放題、あるいは無料で通えるフリースクールも多く存在します。しかし当学園では、最初から月3万円、4万円といった、ある程度しっかりとした金額をいただいて運営する仕組みにしていました。

まずは「そのお金を払ってでも来たい」と思っていただける場所を作る。その上で、どうすれば金銭的な負担を下げて教育を届けていけるかを考える。私たちはその順番を大切にしています。当学園もまだまだこれからですが、現在は午前中のみ無償で通えるようにし、午後はお金をいただくという形をとっています。

やはり、お金が理由で通えないという方もいらっしゃいます。特に義務教育の段階は、絶対に教育を届けなければならないものです。ですから、金銭面についても教育行政と一緒に考えていかなければならない部分だと強く感じています。

利益追求ではなく「子どもの幸福」を最優先に。理念に共感する投資家との絆

——持続可能な運営を目指して、中藤さんが大切にされている「資金調達への想い」について、ぜひ詳しくお聞きしたいです。

中藤 寛人さん

私には「子どもたちをかわいそうだから」という同情の目線で資金を集めたくないという強い思いがあります。

寄付を集める際の観点として、「これほど困っている」といったネガティブなメッセージを打ち出した方が資金が集まりやすいという話はよく聞きます。しかし、私たちは子どもたちや保護者の方々をそのような存在としては見ていません。ですから、もっとポジティブなイメージを持ちながら関わってくださる方を増やしたいと考えています。

その前提で活動していく中で、やはり非常に難しいと感じているのは、これが「儲かるビジネスではない」ということです。

例えば、株式会社として資金調達をする場合、通常は将来的な会社の売却や上場を前提として株主に入っていただくのが基本です。しかし当学園の場合は、「利益の追求を最上位に据えなくていい」と言ってくださる方々に仲間に入ってもらっています。

——利益やリターンを第一の目的としない出資ということでしょうか。

中藤 寛人さん

そうですね。究極的に言えば、例えば1,000万円を出資してくださった方も、「リターンとして返ってくるかよりも、この資金があることでより子どもたちにとって良いことが生まれるのなら、そちらを優先してほしい」と言ってくださいます。私たちは、そう言ってくださる方から資金を集めることをとても大切にしています。

「資金を提供するからこれをしてほしい」「企業がお金を払うから講座を持たせてほしい」といった、条件付きの要望は、当学園の方針には合致していません。あくまで生徒の興味や関心が第一です。生徒が興味を持ったタイミングで、「この方と繋がれば良い学びになりそうだな」と思った時にだけご協力をお願いできる。そういった関係性が理想です。

教育や子どもたちを常に中心に据えて活動していきたいと考えた時、私たちの理念に深く共感し、良い関係性を築きながら伴走してくださる方とどのように出会っていくか。そこは事業において非常に大切にしている部分であり、同時に難しい面でもあると感じています。

岡山発のスタートアップコミュニティから広がる、教育を支える協力者のネットワーク

——利益を最優先しない投資家の方々は、非常に貴重な存在だと思います。そういった方々との繋がりは、どのようにして作られているのでしょうか。

中藤 寛人さん

幸運だったのは、学生時代から様々な方と出会える環境にあったことです。また、岡山市には行政が運営するスタートアップの支援拠点「ももスタ」があり、実は私自身もそこで相談業務を担当しています。

ところで、ベンチャーキャピタル(VC)という投資会社をご存じでしょうか。

——将来性のあるスタートアップ企業などに資金を出資して、成長を支援する会社ですよね。

中藤 寛人さん

その通りです。岡山には「Setouchi Startups」というVCがあり、その代表を務める山田と一緒に今の会社を立ち上げました。

当学園の株主の中には、VC関係者もいます。VCの事業としては出口戦略が求められ、利益を出さなければならないため出資は難しいものの、「個人として応援したいから出資したい」と言ってくださる方もいらっしゃるのです。

私が学生時代を過ごし、無花果を立ち上げたタイミングは、ちょうど岡山や瀬戸内地域で新しいVCが立ち上がるなど、スタートアップのコミュニティが非常に盛り上がっている時期でした。そうした方々とお会いし、自分の思いを伝える機会が多かったことも、仲間が集まりやすかった要因の一つだと思います。

——中藤さんご自身が積極的に動かれたことで、そうした人脈が広がっていったのですね。

中藤 寛人さん

普段から岡山だけでなく東京にも足を運び、様々な方とお会いしながら「教育の分野で一緒にできることはないか」と対話し続けることを常に大切にしています。

無花果学園

「つまらない」を学びの種に。フラットな視点で向き合う独自の教育手法

好奇心を育むためのキーワードは、意外にも子どもたちの「つまらない」という感情の中に隠されています。生徒を「救うべき対象」ではなく一人の人間として尊重し、フラットに向き合うための独自の対話術を伺いました。

結果よりも「その子自身」を応援。企業との期待値調整で築く信頼関係

——無花果学園では生徒さんに「本物との出会い」を経験してもらいたいということで、地域企業や多様な大人たちと子どもたちをつなぐ取り組みをされていますよね。このように、学校を飛び出した学び場を作る際に工夫されている点について伺いたいと思います。

中藤 寛人さん

一つは「大人ありきにしない」ということを非常に大切にしています。その上で、事前の「期待値調整」も重視しています。

というのも、大人側や連携する企業側が「一緒にこんなことができたらいいな」という思いを持ってくださっていても、子どもたちの成長の過程においては、最後までやりきれない瞬間もあるからです。万が一途中でできなくなってしまった場合でもカバーできる仕組みを作ることや、あらかじめ期待値の調整をしっかりと行った上で、子どもと企業をつなぐということを何より大切にしています。

例えば、服に関心がある生徒をアパレル企業の方とおつなぎしたことがありました。しかしその後、その生徒の興味が服からペットへと移り変わるようなこともあります。そのように当初の興味関心がなくなったとしても、「この子のこと自体を応援したい」と思っていただけるような大人の方に、子どもたちが出会えるようにしています。そこが、私たちが一番大切にしているポイントです。

「なぜつまらないのか」を問い、好奇心を揺さぶる逆転のコミュニケーション術

中藤 寛人さん

当学園では、生徒が学ぶ内容やペース、場所や時間などは、本当に一人ひとりアレンジしながら進めています。その子の興味・関心から出発すると非常に分かりやすく、「じゃあ、この大人に会ってみようか」といった具体的な行動にも繋げやすいです。

ただ、「ここからさらに学びが広がる可能性があるな」と感じた時の繋ぎ方にはよく工夫を凝らします。その子の興味・関心だけでなく、最近私たちがキーワードにしているのが「『つまらない』を出発点にした教育」です。

この「つまらない」から始まる学びも大切にしています。例えば、本を読んで「つまらない」と思ったとします。その場合、内容がつまらないのか、それとも書き方がつまらないのか。そういった観点に立った時、「では、どうすれば楽しいものになるのだろう」といった新たな問いが生まれてくると考えています。

——「子どもたちの『つまらない』に着目する」というのは、逆転の発想ですね。要するに、興味がないということは、「なぜ興味がないのか」「どのようなことに興味があるのか」というように、問いを立てやすいということでしょうか。

中藤 寛人さん

まさにその通りです。私たちも元々は「子どもたちの興味・関心から学びを創る」というキーワードを軸に持っていたのですが、それだけだとどうしても「今興味がないもの」からのアプローチが薄くなってしまうという課題がありました。そのため、「つまらない」というキーワードもバランスよく持っておく必要があると感じ、最近、スタッフともよく話しています。

「救うべき対象」ではなく対等な人間として。スタッフが磨き続けるフラットな視点

——実際に、生徒と向き合う際に工夫されている点についてお伺いできますでしょうか。

中藤 寛人さん

私たちは「最初の感じ方」をとても大切にしています。「今、良い姿だな」「少し良くないな」といった直感です。例えば、みんなでゲームを楽しんでいる時に、「この子の場合、もう少し先のことを考えた方がいいのではないか」と違和感を覚える瞬間があります。スタッフとして学べば学ぶほど、「でも、今はこの子にとってこの時間が大切なんだ」と頭で理解しようとします。しかし、まずは自分自身の最初の感じ方を大切にしたいという思いがあります。

——頭では「今のこの子には必要な時間だ」と分かっていても、大人としてつい心配になってしまう素直な感情はありますよね。ついやってしまいがちな対応について、具体的な例を一つ教えていただけますでしょうか。

中藤 寛人さん

例えば、ゲームをしている姿を見た時、「ゲームは良くないもの」と捉えた上でコミュニケーションを取ってしまうことが挙げられます。

子どもの状況を「良くない」と思った上で関わるのと、「とても素敵な時間だ」「変容の過程だ」と捉えて関わるのとでは、全く違ってきます。「今の状況を改善しなければいけない」と思ってコミュニケーションを取ろうとしてしまうのは、よくあることだと思います。

そこから派生して「もっと勉強した方がいいのでは」という声かけが中心になったり、進路のことばかり話してしまったりすることが起こり得ます。

——なるほど。固定観念を持たないように意識されているということでしょうか。

中藤 寛人さん

そうですね。固定観念を持たないようにすることや、自分が固定観念を持っていること自体を認知した上で、「これは自分が本当に大事にしたい価値観なのだろうか」と問いを持ち続け、内省していくことが重要だと考えています。

——大人が自身の内省を通じてフラットな視点を持つことが、まずは第一歩なのですね。

中藤 寛人さん

私たちは、大人が価値観を見直すことと同じくらい、ゲームから問いを生み出していくことも大切にしています。

例えば、『鬼滅の刃』などのゲームを開発している「サイバーコネクトツー」というゲーム会社があり、当学園の活動をとても応援してくださっています。生徒がその『鬼滅の刃』の対戦アクションゲームをプレイしているとします。原作では攻撃を受ける描写がないようなキャラクターでも、ゲームの中ではダメージを受けた時の声やモーションが設計されていたりするのです。

その時、「なぜゲーム会社は、このキャラクターにこのようなやられ方のアクションを設計したのだろう?」という問いを立てると、そこから生徒の学びが大きく広がっていきます。

このように、子どもがゲームに熱中している状況を「すごく素敵な変容の過程だ」とポジティブに捉えた上で、「どのような観点から見れば、この子の学びをさらに創っていけるだろうか」と考えることも、スタッフとして大切な役割です。

無花果学園

教育の未来を担う人材を育てる。既存の教育をアップデートする挑戦

無花果学園の挑戦は、一つのスクール運営だけに留まりません。スタッフの内省を支える文化から、拠点地域の外に広がる支援まで、教育の未来を創る壮大なビジョンに注目します。

毎日45分の対話が「個」を尊重する現場を支える。内省を重視する組織文化

——フリースクールなどの教育現場に携わる場合、教員免許などの資格は必要ないと伺いました。資格がなくても、「教育に携わりたい」と思ったら、「無花果学園で働きたい」と応募してこられるような形なのでしょうか。

中藤 寛人さん

まさにそのような形です。そのため、入職後は当学園が大切にしている理念などを独自の研修のような形でお伝えし、それから現場に入っていただくのが基本になっています。

——例えば前職が教育と全く関係ない方の場合、いきなり教育の現場に入るのは非常にハードルが高いことなのではないかと想像します。その点は、組織に入られた後に色々とレクチャーをしてカバーしていくという形なのでしょうか。

中藤 寛人さん

はい。ただ、レクチャーも行いますが、その中でも特に重視しているのが、先ほども申し上げた「対話の時間」です。

知識としてのレクチャーだけでなく、一人ひとりの生徒の様子を見ながら、「今の様子をどう捉えているのか」「どんなことに疑問を持ったのか」といった、「感じたことをベースにした対話の時間」を非常に大切にしています。

——なるほど、ただ知識を教え込むのではなく、スタッフの方々が現場で感じたことを共有するプロセスを重視されているのですね。その「対話の時間」は、具体的にどのようなタイミングで設けられているのでしょうか。

中藤 寛人さん

当学園では、毎日放課後に45分間、対話の時間を設けています。その中で、「頭では分かっているけれど、こう感じてしまった」という部分も含めて話し合います。

——教育者である前に一人の人間ですから、「頭では理解していても、つい感情が先行してしまう」ということはありますよね。そうした率直な思いを共有した上で、そこからどのような話し合いへと深めていくのでしょうか。

中藤 寛人さん

自分自身の価値観を言語化していくことも重視しています。本当は、子どもの話を最後まで聞き切り、その子が感じていることをそのまま知ることが何より大切です。しかし、「ゲームばかりしているのは良くない」といった価値観をこちらが持っていると、子どもの話を最後まで聞き切れない瞬間が大人にはあります。「子どもの感じていることを聞くという大切なことをやめてまで、この価値観は自分が持ち続けたいものなのか」。スタッフとは、基本的にそうした問いを共有し、大切にするようにしています。

とはいえ、一人でそうした問いに向き合うのは苦しい時もあります。だからこそ、スタッフ同士で話し合い、自分自身の内省に繋げていくことを大事にしています。悩んだ時には、「過去に似たケースがあり、このように声をかけたら変化が生まれたから、こういう行動もおすすめだよ」とアドバイスし合えるような対話の時間を何よりも大切にしています。そうした対話の文化を維持し続けているのです。

全国の親子に寄り添い続ける「無花果」の誓い

——不登校や進学先について悩んでいらっしゃるご本人や、その保護者の方々がこの記事を読まれるかと思います。そういった方々に向けて、メッセージをお願いできますでしょうか。

中藤 寛人さん

「それぞれがそれぞれのペースで学んでいける」ということが、何よりも大事だと思っています。ついつい周りの人と比べてしまったり、保護者の方も悩まれたりすることがあると思います。そして、そんな風に比べてしまう自分自身が嫌だなと落ち込んでしまうお子さまや保護者の方もいらっしゃるでしょう。

そういった葛藤も含めた上で、ご自身が送りたい高校生活や、思い描く自分らしい姿がきっとあるはずです。ただ、それを自分たちだけで決めて進んでいこうとすると、しんどい場面もあると思います。

当学園の話ですが、私たちは「チャレンジしたい」という前向きな思いと、「助けて」という声が聞こえる関係性をとても大切にしています。何か困った時にちゃんと「助けて」と言えること。あるいは、「つまらないけれどとりあえずゲームをしている」という状態から一歩踏み出して、「こんな進路に進みたい」「これを頑張りたい」と思った時に、それを素直に言える関係性があるかどうかが非常に重要です。私自身、子どもたちにとってそういう存在になりたいという思いで無花果を運営しています。

現在の当学園では、高校生であれば「月に1回は岡山に来てもらう」といった制約があるため、通える方は限られてしまうかもしれません。しかし、全国の各地域にあるフリースクールや通信制高校には、きっと私たちと同じような思いで活動されている大人の方々がいらっしゃいます。そういった素敵な大人との出会いを通じて、子どもたちが本当に自分らしく生きていけるようになることを、心から願っています。

——温かいメッセージをありがとうございます。無花果学園に直接通うのが難しい地域の方でも、そうした思いを持った方々と出会えることを願っています。今後の展望や、読者の方へのお知らせなどはございますか?

中藤 寛人さん

実は、岡山に拠点を置きながら、小田急電鉄と一緒に神奈川県や東京エリアでオルタナティブスクールを立ち上げるプロジェクトに携わっています。このように、全国にフリースクールなどの学び場を広げていく動きもしていますので、教育に関心のある企業様がいらっしゃれば、ぜひ一緒にその地域に必要なスクールを作っていけたらと思っています。

また、最近はInstagramでの発信も頑張っていますので、そちらもぜひご覧いただけると嬉しいです。

そしてもう一つ。まだ受け入れ体制が完全に整っているわけではないという前提にはなりますが、現状として保護者の方からのご相談、特に進路に関するご相談が非常に多く寄せられています。そのため、今後は全国の保護者の方からのご相談を受け入れられる体制を作っていきたいと考えています。もし何かお力になれることがあればいつでもご連絡ください、とお伝えしたいです。

無花果学園

すべての個性が尊重される、優しい社会の実現を目指して

無花果学園が目指すのは、誰もが自分らしく生き、互いの自由を尊重し合える社会の実現です。

子どもたちの「つまらない」という感情さえも学びに変える独自の対話や、地域企業とのフラットな関係性は、不透明な時代を生き抜く力を育みます。また、岡山から全国へ、そして公教育へとその波紋を広げようとする挑戦は、教育のあり方を問い直す大きな希望となるでしょう。

子どもの進路に悩むすべての保護者の方へ、ここには「正解」ではなく「納得できる生き方」を共に探す仲間がいます。

ミツカル教育通信の運営者

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