「学校に行きたくない」という子どものSOSに直面したとき、保護者の多くは「この子の将来はどうなるのか」と深い不安に包まれます。しかし、既存の教育システムに馴染めないことは、決してその子の価値を否定するものではありません。
今回インタビューした「フリースクール・アソマナ学園」の理事長・太田 樹男さんは、教育業界ではなくビジネス業界出身の経歴を持ち、独自の視点で子どもたちの自信を取り戻す支援を行っています。
同園の特徴は、遊びを学びの入り口に変える柔軟な発想と、公認心理師や産業カウンセラーなどの専門家チームによる科学的な分析・サポートの両立にあります。
特筆すべきは、学校への復帰をゴールに据えるのではなく、子ども自身が「自分はここにいていい」と思える「共同体感覚」の育成を最優先している点です。
不登校という現状を、自己効力感を育むための貴重なプロセスへと変えるアソマナ学園の実践。その具体的なアプローチと、共に悩む保護者の方へ伝えたい想いについて、詳しく伺いました。

遊びが学びの扉を開く。アソマナ学園が大切にする支援の原点
勉強を無理強いするのではなく、なぜ「遊び」が学びの入り口になるのでしょうか。アソマナ学園の根底にある、子どもたちが本来持っている「リソース」を引き出し、自己信頼を取り戻すための独自の理念と歩みについて伺います。
勉強嫌いを生む「比較」から解放し、遊びの中で本来のリソースを伸ばす
——「遊び」と「学び」を融合させた「アソマナ」という名前ですが、ここに込められた想いや、活動の根底にある理念についてお伺いできますでしょうか。
太田 樹男さん「アソマナ」という名前には、子どもたちが遊びの中から自然に学びを見つけてほしいという想いを込めています。多くの子どもたちは、勉強そのものが嫌いなわけではありません。「できない」「わからない」「比べられる」、あるいは「失敗するのが怖い」といった経験によって、学ぶことから距離を置いてしまうことが多いのです。ですから、私たちは最初から「勉強しなさい」とは言いません。
——最初から「勉強」を強制するのではなく、まずは一歩引いて子どもたちを見守るのですね。では、具体的にどのようなステップから関わりを始められるのでしょうか。
太田 樹男さんまずはその子が何に興味を持つのか、何をしているときに表情が変わるのか、そして、どんな環境であれば安心して参加できるのかを見極めます。子どもにとって遊びとは、人と関わる力や工夫する力、試してみる力、そして失敗してもやり直す力など、大切な学びの入り口なのです。
——確かに、遊びの中にはたくさんの要素が詰まっていますね。
太田 樹男さん私たちの根底にある理念は、子どもたちの中にすでに備わっている力を伸ばすことであり、これを私たちは「リソース」と呼んでいます。好きなことや得意なこと、興味のあること、過去にできた経験、そして人とのつながり。そうした一つひとつを手がかりにして、子どもたちが自分自身への信頼を少しずつ取り戻していけるように支援しています。これらが「遊んで学ぶ」という「アソマナ」の形につながっています。
——親の立場からすると、一見「遊び」と「学び」は切り離されたもののように感じてしまいがちですが、学びの入り口として遊びがあるのですね。
太田 樹男さん実際に、子どもたちが「やりたい」と思えるような環境づくりが、まずこの遊びの中に散りばめられていると考えています。
大人の正解を押し付けない「選べる余白」が子どもの自発性を引き出す
——子どもへの接し方や見守りの姿勢について、アソマナ学園として大切にされている特徴を教えていただけますでしょうか。
太田 樹男さん不登校や学習の遅れを経験している子どもたちの多くは、実は本当に一生懸命頑張っています。その中で「もう学校には行けない」というSOSを出して、今アソマナ学園で休んでいる子どもたちがたくさんいます。私たち大人の目には、彼らが立ち止まっているように見えるかもしれません。しかし、子どもたちの内面では、葛藤したり不安と向き合ったりしているのです。ですから、私たちの支援としては「今、この子に何が必要なのか」を丁寧に見ていくことから始めます。
——表面的な行動だけでなく、内面の動きをじっくり見極めるのですね。
太田 樹男さん学習が必要なのか、まずは安心できる居場所が必要なのか、あるいは人との関わりを少しずつ取り戻すことが必要なのか。子どもによって、スタートラインは全く異なります。そのため、接し方としては、こちら側から「これが正解だよ」と押し付けることはしません。子ども自身が選べる「余白」を大切にしています。
——「余白」ですか。具体的にはどのようなアプローチをされるのでしょうか。
太田 樹男さん例えば「これをやりなさい」と指示するのではなく、「今日はどうかな?」「少しだけやってみる?」「見ているだけでも大丈夫だよ」といった声をかけます。選択肢を提示し、本人の意思を尊重する関わり方を大切にしています。
フリースクールの原点:30年に及ぶ障害者向けダイビング指導
——理念や関わり方で大切にされていることの背景についてお伺いします。太田さんのこれまでのご経験の中で、「こうした経験があったからこそ、アソマナ学園を立ち上げたい」と思われたきっかけなどがあれば、ぜひお聞かせください。
太田 樹男さん私はもともと、身体障害者の方へのスキューバダイビング指導を、アメリカのトレーニングを日本で初めて導入しました。それが今から40年ほど前のことで、現在もその活動を続けています。
——40年も前から取り組まれているのですね。
太田 樹男さん身体障害のある子どもたちへのサポートや、メンタル面での心理的サポートが必要な子どもたちを海へ連れていく活動もしていました。その一環として「海の自然学校」を開校し、さまざまな子どもたちをお預かりしてサポートしていたのです。
——そこから、どのようにフリースクールへとつながっていったのでしょうか。
太田 樹男さん自然学校に参加されていた保護者の方から、「実はうちの子が学校に行けていない」というご相談をいただいたのがきっかけです。最初は、私たちがフリースクールを立ち上げて勉強を教えるなどということは、全く考えていませんでした。しかし、何度も相談を受けるうちに「それなら、まずは一度やってみよう」とスタートしたのです。
だからこそ、私たちの原点は「勉強」ではなく、海での体験と同じ「遊び」なのです。

「できた!」の積み重ねが自信に。科学的根拠に基づいた個別プログラムの工夫
子どもが自信を取り戻す鍵は、ありのままを認める自己肯定感のその先にあります。心理師による科学的な分析に基づき、小さな成功体験を「自己効力感」へと変えていくための具体的なメソッドと、子どもの内面的な変化のプロセスを深掘りします。
自己肯定感の先にある「自己効力感」――小さな成功体験を可視化する
——個別学習やプロジェクト活動など、多様なプログラムを展開されていますね。ここで、子どもたちの自己肯定感、あるいは最近よく耳にする「自己効力感」が芽生える瞬間についてエピソードがございましたら、ぜひお聞かせください。
太田 樹男さん自己効力感(セルフ・エフィカシー)という言葉は、私たちが40年前に障害者向けの活動を始めた頃は、まだ誰も使っていませんでした。本当に最近になって広く言われるようになった印象がありますね。ただ、私たちは当時からこの「自己効力感」をずっと重視してきました。これは「自己肯定感」とは少し違って、「やれた」「できた」「わかった」という小さな「OK」を積み重ねていくことがスタートになります。
子どもたちの変化というのは、劇的に一気に起こるわけではありません。本当に些細な場面から始まることが非常に多いのです。
——具体的には、どのような変化から始まるのでしょうか。
太田 樹男さん例えば、オンライン授業で最初は画面をオンにできなかった子が、少しだけ声を出せるようになる。あるいは、スクールに来ても最初は部屋の隅っこから見ているだけだった子や、自分のスマートフォンをいじっているだけだった子が、自分から活動に参加してみようとする。学習が苦手だった子が、「これならちょっと分かるかもしれない」と取り組んでみる。
こうした瞬間に、子どもたちの中で少しずつ何かが動き始めたことを感じます。これこそが、私たちが大切にしている「自分にもできるかもしれない」と感じる力、つまり自己効力感なのです。
——無理に引っ張るのではなく、内面から湧き出る変化を見守るのですね。
太田 樹男さん「小さな成功体験」を積み重ねて、「昨日より少しできた」「前より怖くなかった」「自分で選べた」と感じ、今の自分を好きになっていくことです。自分を変える必要はなく、「そのままでいいんだ」と受け入れた上で、その中から踏み出せた小さな一歩に「よくできたね」と勇気づけをしていく。そのような関わり方をしています。
高い目標に向かって無理に進ませるのではなく、安心できる環境の中で、自分の中から少しずつ何かが湧き出てくるのを待つことが大切だと思っています。
——結果としての目標達成ではなく、その子が1歩踏み出した「プロセス(過程)」そのものを応援されているのですね。
「自己肯定感」だけだと、「できない自分でもいいんだ」というところで立ち止まってしまう印象もありますが、「自己効力感」があるからこそ「自分にはできた」という成功体験につながり、次の一歩に踏み出せるのですね。
太田 樹男さんそうです。本当に小さく小さく、さっきまでできなかったことでも「今できたこと」を大事にしようと伝えています。「今、ここ」にある変化を大切にするということです。周りの誰かと比べるのではなく、比べる対象はあくまで「自分」です。
学習の前に「非認知スキル」を育む。対人関係を土台にする理由
——お話を伺っていると、自己肯定感を育むこと以上に、自己効力感を育むアプローチは繊細で難しいのではないかと感じました。アソマナ学園のプログラムにおいて、この自己効力感を育むためにどのような工夫をされているのか、大切にしているポイントを教えていただけますか。
太田 樹男さん子どもたちに必要な要素が何であるかを考えたとき、私たちはまず「非認知スキル」を身につけることが重要だと考えています。アソマナ学園が重視する非認知スキルとは、遊びや体験を通じて育まれる「人と関わる力」、つまりコミュニケーション能力のことです。
今までやったことがなかったことに挑戦することはもちろん、目の前の小さな出来事もすべて大切な体験です。様々な体験を通じて人と関わることで、小さな「共同体感覚(集団の中で自分の居場所があると感じる感覚)」を作っていきます。
——最初から決まった枠組みに当てはめるわけではないのですね。
太田 樹男さん「こういうプログラムにしましょう」と大人があらかじめ形を決めて押し付けるのではなく、自然な関わりの中から発生した子どもの興味や変化を、一つひとつ大切に拾い上げていくこと。それが、私たちが一番大切にしている工夫です。
これに対して、いわゆる勉強や学習の領域は「認知スキル」と呼ばれます。
——「非認知スキル」と「認知スキル」、その2つにはどのような関係があるのでしょうか。
太田 樹男さん私たちは、まず「非認知スキル」を丁寧に育むことを最優先にしています。そして、それがある程度伸びて土台ができた段階で、次のステップとして「認知スキル(学習)」の領域へと移行していきます。この順番でスキルをうまく育てていかないと、自己効力感も自己肯定感も伸びていかないのです。ですから、日々の遊びや様々な活動をしっかりと行うことが、すべての土台になります。
心理師による科学的アセスメントで、一人ひとりの「苦手な理由」を解明する
——不登校を経験したお子さまや、既存の教育的な枠組みに悩みを感じているお子さまは非常に多いと思います。アソマナ学園に通う中で、印象的な成長のエピソードがあれば教えていただけますか。
太田 樹男さんあるお子さまの例です。最初は外に出ること自体が難しく、生活リズムも崩れていて、学習にはほとんど手がつかない状態でした。保護者の方も非常に不安を抱えられており、「本当にこのままで大丈夫なのか」「どんどん勉強が遅れてしまうのではないか」と深く悩まれていました。
しかし、先ほどお話しした通り、私たちは最初から「認知スキル(学習)」を強く求めることはしません。まずは「この場所は安心できる場所なんだ」と本人が思えるように、少しずつつながりを作っていきました。「お友達と関わる時間は10分でも20分でもいい」というところからのスタートです。
——安心感と、スモールステップでの関わりを大切にされたのですね。
太田 樹男さんそのうち、プログラミングや、外に出てみんなと遊ぶこと、一緒にご飯を食べることなど、興味のある活動に自分から取り組み始めました。これらもすべて大切な学びです。こうした「小さなOK」を積み重ねていくことで、子どもは「自分もやっていけるんだ」「お友達とも話せるし、ご飯も一緒に食べられるんだ」と、少しずつ自信をつけていきます。その結果、自分から話す場面がだんだんと増えていきました。
——素晴らしい変化ですね。学習面については、どのように進められたのですか。
太田 樹男さん学習についても、いきなり学校の勉強に追いつかせるようなことはしません。私たちは独自の「スクリーニングテスト」を行い、その子が何が得意で、何が苦手なのか、そして「なぜそうなっているのか」を科学的に分析します。専門的なアセスメント(客観的評価)を行うのです。
——感覚に頼るのではなく、科学的に分析するのですね。
太田 樹男さん例えば、ワーキングメモリ(作業記憶)の特性上、一度に多くの情報を処理することが難しいお子さまにとっては「大人数の教室の中で、先生が黒板に書いた文字を目で追いながら話を聞く」という行為は非常に困難です。私たち心理師がそうした特性をきちんと把握した上で、その子に合った個別のプログラムを作成します。
経験則や感覚だけではなく、科学的なアプローチを取り入れることで、確実な支援が成り立ちます。私たちの支援は、「学校に戻れたか」「どれだけ勉強したか」という結果だけを見るのではありません。その子が持つ本当の「強み」を見逃さず、そこを伸ばしていくことを大切にしています。

異色のキャリアが形にした、既存の枠組みにとらわれない「理想の居場所」
ビジネスの世界から教育現場へ飛び込んだ太田さんだからこそ実現できた、既存のフリースクールの常識に縛られない支援の形とは何でしょうか。保護者の視点から追求された「理想の教育」と、現在の不登校支援が抱える社会課題への鋭い視点に迫ります。
ビジネス視点で追求した「自分の子を通わせたい」と思える理想の教育環境
——お話を伺っていると、「非認知スキル」の部分では人間性を重視した温かみのあるアプローチを大切にされている一方で、「認知スキル」に対しては非常に科学的なアプローチを取り入れられています。このユニークなシステムは、設立当初から構想されていたのですか。それとも運営していく中で作られていったのでしょうか。
太田 樹男さん私はもともと、教育界ではなくビジネスを中心としたキャリアを歩んできました。教職に就いていたわけではありません。通常、フリースクールを立ち上げるとなれば、他のスクールを見学したり調べたりすると思うのですが、私は他の情報に一切触れませんでした。
「もし自分の子どもを通わせるなら、どんなことをしてほしいか」という視点を中心に据え、仲間の経営者たちにも「もし自分の子が不登校になったら、どうしてほしい?」とインタビューやアンケートを重ねました。そこから「理想の形」を追求してスタートしたのです。
——そうだったのですね。既存のフリースクールの枠組みをあえて見なかったからこそ、この画期的で温かいシステムが生まれたのだと、非常によく理解できました。
太田 樹男さんもう一点、大切な視点があります。現在、フリースクールに通えているお子さまは、不登校問題を抱えているお子さまのうちのほんの一部だということです。
私たちのスクールも、費用は無料ではありません。月に数万円というお月謝をいただきます。子どもが学校に行けなくなると、保護者の方が仕事をやめざるを得なくなったり、送り迎えや付き添いが必要になったりと、生活が大きく変化します。そうした経済的・時間的な余裕があるご家庭のお子さまは、氷山の上に出ている一部に過ぎません。その下にある、さらに深い層のご家庭へのサポートが、社会全体で全く追いついていないのが現状です。
私立の学園としての自覚。高品質なサービスと価値の提供
——最近では国や自治体による公的な施設、あるいは学校内でのサポートといった受け皿も増えつつありますが、現場からご覧になって、それらの支援は子どもたちへどのように届いていると感じていらっしゃいますか。
太田 樹男さん学校というシステムそのものに拒絶反応を示している子どもたちにとって、行政や学校が作る「箱(施設)」に再び戻ることは、非常にハードルが高いのが現実です。そこに行けるのであれば、すでに学校の保健室や別室登校にも戻っているはずですが、それができない子どもたちがまだまだたくさんいます。
——学校という枠組みの外側に、本当の意味で心が休まる別の居場所が必要とされているのですね。
太田 樹男さんそうした状況の中で、アソマナ学園を選んで通ってくれている子どもたちは、ある意味で新たな一歩を踏み出せたと言えます。だからこそ、お子さまをお預かりする私たちは、ここを単なる預かり所ではなく「私立の学園」であると自覚しています。通常の公立学校に通うよりも、そしてお預かりしている費用に見合う以上の、十分に価値のある高度なサービスを提供しなければならないと考えています。
——民間のスクールとして、それだけの強い覚悟と責任感を持って向き合われているのですね。
太田 樹男さん大切なお子さまをお預かりする以上、「その子がどうすれば本当に幸せな未来を迎えられるか」「これからの人生を生き抜く力をどう身につけさせてあげられるか」を、私たちは常に考え続けています。その結果として、当学園では現在、90%のお子さまが自分自身の力で学校へ戻っていくという実績を実現しています。
——90%ですか。それは本当に素晴らしい実績ですね。
太田 樹男さん私たちは無理に学校へ戻そうと説得するわけではありません。子どもたちがここで自信を取り戻し、「自分で決めて、自分で行動して、学校に戻る」という道を選んで進んでくれています。
「不登校は誰のせいでもない」家族療法のアプローチで家族の絆を再生する
——子どもが新しい環境へ一歩を踏み出す際、保護者の方も大きな不安を抱えられているというお話がありました。そうした保護者の方々に対して、具体的にどのようなコミュニケーションや支援を行っていらっしゃいますか。
太田 樹男さん私たちの大きな特徴は、私を含めてスタッフに心理師やカウンセラー、産業カウンセラーといった資格を持つメンバーが多く、心理の専門家集団としてチーム体制を組んでいる点です。そのため、私たちは心理学における「家族療法」というアプローチを非常に大切にしています。
——「家族療法」について、詳しく教えていただけますか。
太田 樹男さん周囲の目に見えているのは「子どもの不登校」という問題ですが、その背景には、先ほど申し上げた保護者の方の仕事の調整や、ご家庭内での関わり方など、家族全体に潜んでいる様々な課題が複雑に絡み合っています。一般的なフリースクールでは、どうしても子ども個人のケアに終始してしまいがちですが、私たちは心理学をベースに多くのケースを見てきた中で、そこだけでは収まらない部分がたくさんあると実感してきました。「家族全体をサポートしていかなければ根本的な解決にはならない」と考え、ご家族を中心とした支援を行っています。
——子どもだけでなく、ご家庭の背景まで丸ごと受け止める体制なのですね。
太田 樹男さんその通りです。例えば、保護者様の仕事での悩みや、家族関係の悩みなどに対しては、産業カウンセラーが中心となって定期的にお話を伺っています。そうした様々な悩みの中心に、不登校という問題も地続きで存在しているからです。
やはり、ご家族が幸せでなければ、お子さま自身も幸せを感じることはできません。一番近くにいる保護者の方が不安を抱えていると、子どもたちもその空気を察して辛くなってしまいます。学校に行かないという行動は、表面化している形に過ぎず、その奥にはたくさんの要素が隠されているのです。
——だからこそ、まずは保護者の方が安心できる環境が必要なのですね。
太田 樹男さんそのためには、いつでもカウンセラーが寄り添い、しっかりと話を聴ける体制が欠かせません。アソマナ学園では、産業カウンセラーなどの有資格者が常駐しており、子どもと保護者の双方をサポートしています。「いつでも悩みを聴いてもらえる場所がある」という安心感を持っていただくことで、ご家庭全体の生活リズムや心のゆとりを取り戻していく。こうした全方位の心理的サポートを行っている点が、他にはない私たちの強みだと考えています。
——産業カウンセラーが常駐し、保護者の相談にここまで深く乗ってくれるスクールはあまりお見掛けしないので非常に驚いています。「保護者へのサポートも絶対に必要だ」と考えられたことに、何かきっかけがあったのでしょうか。
太田 樹男さんこれは、私が長年続けてきた障害者向けのダイビング指導での経験が原点になっています。障害を持つお子さまのご家庭では、障害を持つお子さま本人のケアが中心になり、その兄弟や姉妹(きょうだい児)が置き去りになって悩んでしまうケースが多々ありました。そして、その状況を目の当たりにしている保護者自身も、非常に心を痛め、疲れ果てていたのです。
私はその様子を見て、「家族の一部だけではなく、全体をしっかりとサポートしなければいけない」と痛感しました。そこで当時は、きょうだい児が主役になって「パパやママを独占できる日」という企画を作ったのです。私たちが障害のあるお子さまを見守っている間、保護者の方ときょうだい児の皆さんには思いきり遊んだり、色々な時間を過ごしたりしてもらいました。そこで、家族全体の中に「共同体感覚」を作っていくことが何より大切だと学びました。
——そのご経験が今の家族支援の土台になっているのですね。貴学園のホームページを拝見した際、「不登校はお子さまのせいでもなく、保護者の方のせいでもない」と書かれていたのがとても印象的でした。本日お話を伺って、その言葉の真意が「家族みんなで解決していく」という温かいメッセージだったのだと分かりました。
太田 樹男さん目の前にある問題は「子どもの不登校」かもしれませんが、その子一人だけを無理に変えようとしても、状況は変わりません。家族全体がひとつのチームとして課題に取り組むからこそ、子どもは自信を取り戻し、自己効力感が上がっていくのです。子どもを支える上で、保護者の方は最も大切な「サポーター」ですから、私たちはそこを全力で支えにいきます。


社会と繋がり、未来を切り拓く。全国の学びを繋ぐ新しいハブ構想
メタバースを活用したオンラインの学びから、地域のフリースクールへと橋渡しする「ハブ構想」まで、テクノロジーを駆使した支援の広がりを紹介します。画面を閉じた後も子どもが決して一人ぼっちにならない、全国的なネットワークが作り出す「新しい居場所」の可能性に迫ります。
メタバース活用とキャリア支援。進路に合わせた多様な学びの選択肢
——地域社会や外部機関との協働についてお伺いします。子どもたちが社会や学校とのつながりを感じられるよう、外へ踏み出していくための具体的な取り組みについて教えていただけますでしょうか。
太田 樹男さん私たちは、子どもたちが「安心できる居場所」を持つことを何よりも大切にしています。そのためのアプローチとして、私たちは現在「オンラインスクール」と「リアルなスクール」の2つを運営しています。
——オンラインのフリースクールはいつ頃スタートされたのでしょうか。
太田 樹男さん2年ほど前からです。メタバース(仮想空間)の環境を構築し、まずはサンプルとして色々と試行錯誤をしながら基盤を作ってきました。
——2年前からメタバースを活用した空間を作られていたのですね。
太田 樹男さんオンラインの空間でも、先ほど申し上げた「自己効力感」、つまり「わかった」「できた」「やれた」という小さな成功体験を積み重ねながら学習を進められます。ただ、それだけでは足りない部分が出てきます。それを補うのがカウンセリングです。
私たちは独自のメタバース教室を活用してオンラインでのカウンセリングを行っています。また、スクールの近くに住んでいるお子さまであれば、直接来ていただいて対面でカウンセリングを行うこともあります。専属のカウンセラーが定期的にしっかりと伴走することで、子どもたちが自信を回復していけるような仕組みを整えています。そのため、オンラインスクール自体を卒業された後も、カウンセリングの継続だけは希望されるというケースもあります。
オンラインと地域のかけ橋として――孤独にさせない支援のネットワーク
——オンラインでの支援を続けていく中で、何か新たな課題や気づきなどはあったのでしょうか。
太田 樹男さんオンラインを運営する中で、「オンラインだけの関わりで終わってしまうのはもったいない、足りない部分がある」と感じるようになりました。そこで、リアルとオンラインを結びつける取り組みをまさにこれから本格的にスタートさせるところです。
具体的には、日本全国にいらっしゃるオンラインスクールの生徒たちを、それぞれの地元にある信頼できるリアルのフリースクールさんへ繋ぎ、ご紹介していくという仕組みです。これによって、全国どこにいても強固な居場所のネットワークができると考えています。
——アソマナ学園がハブとなって、全国のフリースクール同士の繋がりを提案していくのですね。
太田 樹男さん現在はポータルサイトの構築を進めており、全国のフリースクールを網羅した総合窓口を作ろうとしています。
オンラインを活用しているスクールは全国にありますが、オンラインの画面を閉じ、一歩外に出た瞬間に子どもがひとりぼっちになってしまっては意味がありません。そこで、私たちの理念に共感していただける全国のフリースクールさんと提携し、私たちがコンサルティングとしても入りながら、オンラインの生徒たちを地域のリアルな居場所へと還元していく。そんな全国的なハブとしての役割を、これから担っていきたいと考えています。
——その構想は、2年前にオンラインスクールを立ち上げられた当初からあったものなのですか。
太田 樹男さんそうですね。私たちが単独でオンラインスクールを立ち上げたところで、すでに先行して運営されている他のスクールさんと競争する形になってしまいます。しかし、私たちの目的はそこではありません。
オンラインはあくまで「便利なツール」として使っていただくのが良いと考えています。私たちが生徒を独占して囲い込むのではなく、オンラインの利便性を活かしながら、全国のリアルな居場所と繋ぐための窓口になりたいと考えています。

「学校の物差し」を超える。子どもたちの真の価値と可能性を育むために
画一的な「学校の物差し」だけで子どもの未来を決めつけるのではなく、一人ひとりが持つ多様な輝きを見出すための視点を提案します。生涯の力となる「共同体感覚」の重要性や、どこでも自分らしく学べる社会を目指す太田さんの熱いビジョンとメッセージを伺いました。
安心の居場所で「共同体感覚」を培い、自分らしく社会に貢献できる力を
——これまで様々な画期的な取り組みを実践されてきましたが、こうした「多様な学び」に触れることで、子どもたちの将来や人生にはどのような変化が生まれると感じていらっしゃいますか。
太田 樹男さん一番の変化は、子ども自身が「学校以外の場所であっても、自分は十分に成長していけるんだ」と実感できるようになることだと思います。現在の教育環境では、どうしても「学校の物差し」だけで子どもを評価しがちです。「授業についていけているか」「集団行動ができるか」「決められた時間に登校できるか」などですね。もちろん、それらも大切な要素であり、必要な力だとは思います。しかし、それだけが子どもの価値や可能性をすべて決めるわけではありません。
——確かに、学校の物差しは一つしかないので、そこで測れるもの自体も限定的になってしまいますよね。
太田 樹男さん子どもたちの中には、静かな環境だからこそ集中力を発揮できる子もいれば、オンラインだからこそ安心して参加できる子もいます。あるいは、体験活動を通して初めて学びに興味が湧く子、好きなことをきっかけに学習意欲が湧き出る子など、本当に多様です。多様な学びを提供することの意義は、その子に合った「学びの入り口」を一緒に見つけることだと考えています。そこを入り口にして、自分の可能性を広げていってほしいですね。
そして、私たちが大切にしている最終的な目標の1つに、「共同体感覚」というものがあります。
——先ほど「非認知スキル」の土台としてお話しされていたキーワードですね。子どもたちの将来や人生における「最終的な目標」としてどのように繋がっていくのか、改めて詳しくお聞かせいただけますか。
太田 樹男さん簡単に言うと、「周りの人を敵と見なすのではなく、仲間だと感じられる感覚」のことです。不登校やひきこもりを経験した子どもたちの中には、過去の人との関わり方において深く傷つき、周囲に対して強い不安を抱えている子がたくさんいます。
そうした子たちが、まずは安心できる居場所で少しずつ人と関わり、「自分はここにいていいんだ」「自分も誰かの役に立てているんだ」と感じられるようになること。それこそが、私たちの目指すゴールです。
——学力という数値だけでは決して測れない、人間としての根源的な変化ですね。
太田 樹男さんその通りです。これは子どもたちが将来を生き抜くために、非常に大切な力だと言えます。だからこそ、私たちは遊びと学び、そして「非認知スキル」と「認知スキル」の両方をバランスよく育てていくアプローチを続けています。
——例えば、学校の勉強が苦手でも、キャンプのようなサバイバルの環境で力を発揮する子もいれば、お料理が得意で家庭スキルがある子もいますよね。「自分はここで輝けるんだ」という場所に気づくことこそが、人生に大きな変化をもたらすのですね。
太田 樹男さんまさにその通りです。子どもたち一人ひとりが、自分の輝ける場所を見つけられるよう、これからも全力で伴走していきたいと思っています。
——太田さんは40年前から子どもたちに向けた様々な活動をされ、その中でフリースクールも立ち上げられたと思います。この30年間で、学校や進路に悩む子どもたちの「悩みの傾向」に変化を感じられる部分はございますか。
太田 樹男さん子どもたちの抱える悩みはそれぞれ異なりますが、私たちはよく「ミラクルクエスチョン」という問いかけを行います。「朝起きて、君に奇跡が起きていたら、どんな奇跡が起こっている?」と聞いてみるのです。すると、多くの子どもたちが「天才になっている」「テストで100点を取っている」「頭が良くなっている」という風に答えます。
——勉強や成績に関する答えが返ってくるのですね。
太田 樹男さんこれはどういうことかというと、子どもたちにとって「学校」という場所は、自分の中で今でも非常に大きな存在であり、大切な場所なのだということです。それと同時に、「学校でうまくやれない自分は受け入れられない」「学校に行かなければいけないのに、行けない」という現状に、ものすごく大きな負担を感じていることが分かります。
最近は、悩みが自分の内面に向かってしまい、「自分はダメなんだ」と内にこもってしまう子が多くなっている印象があります。
——周囲の環境のせいにするのではなく、自分自身を責めてしまう傾向が強くなっているのですね。
太田 樹男さんあくまで私の経験上の話ではありますが、そのように感じています。もう一つ、「ひきこもり」について考えてみてください。子どもたちがひきこもる場所は、誰かの家でもどこかの施設でもなく、自分の「おうち」です。ということは、子どもたちにとって家は「安全な場所」だと認識されているわけです。
では、なぜ家から出られなくなってしまうのかといえば、やはり学校に原因があるからです。学校というあの箱の中が、自分にとっては「安心できない場所」であり、「自分を否定される場所」になってしまっている。そのため、学校へ行くことによって自己効力感がどんどん下がってしまい、「自分は何もできない」と自分を責めてしまうのです。
——学校で傷つき、家へ逃げ込んでいる状態なのですね。
太田 樹男さん家へ帰ればひとまずは安心できるはずなのですが、そこで周囲の大人から「なんで学校に行かないの?」「なんで勉強しないの?」などと責められてしまうと、逃げ場を失い、「自分はダメなやつだ」とさらに追い詰められてしまいます。今、そのような悪循環の中で苦しんでいる子どもたちが非常に多いと感じています。
「学びの場所はどこでもいい」。それぞれに最適な学習環境の実現へ
——既存の教育の枠組みに苦しむお子さまが増えている背景について、どのような要因があると考えていらっしゃいますか。
太田 樹男さん私は、まさに学校教育のシステムそのものに問題があると考えています。現代の家庭にはパソコンやスマートフォンがあり、YouTubeやゲームなど、子どもたちを惹きつける楽しいものが溢れています。それにもかかわらず、朝起きてランドセルを背負って学校へ行くと、そこにあるのは私たちが通っていた時代から何一つ変わらない、黒板と机が並んだ教室です。
AIまで登場している時代であるにもかかわらず、まるで昭和の時代にタイムスリップしているかのような印象さえ受けます。つまり、世の中の進化に対して、教育の仕組みはまだアップデートが間に合っていないのが現状です。「GIGAスクール構想」によってiPadが1人1台配布されましたが、現場では「何に使うのか」が明確になっておらず、先生が話す授業をただ画面越しに聞くだけのケースも散見されます。それでは、真のICT教育とは言えません。
——時代やテクノロジーの進化に、教育現場が追いついていないのですね。
太田 樹男さん最先端の教育手法を日本はまだまだ取り入れられていません。文部科学省がどれだけ新しい方針や指示を出しても、教育委員会や学校現場の末端までそれが浸透していないため、結果として子どもたち一人ひとりに応じた個別の支援が成り立っていないのです。
本来、不登校などの課題を解決するためには、こうした個別支援が重要なのですが、現在の学校の体制では対応が難しいのです。どうしても「学校」という大きな箱の中に、子どもたちを当てはめざるを得ないのが現状です。
——その現状を打破するために、今後はどのような仕組みが必要だとお考えですか。
太田 樹男さんもっと行政が私たちのような民間機関を柔軟に活用し、様々な組織と協力しながら「学びの場所はどこであってもいいんだよ」と言える社会を作っていくべきだと考えます。「小学校や中学校の校舎だけが学びの場所であり、そこに行くことだけが学校だ」という固定観念を捨てる必要があります。
地域社会の多様な場所がすべて子どもたちの学びの場となり、どこにいても質の高い教育を受けられる。そのような環境を社会全体で整えていくことこそが、今起きている様々な不登校や教育の課題を解決する本質的な鍵になるのではないかと強く感じています。
——太田さんがアソマナ学園を通して何を成し遂げたいのか、その根底にある熱い想いとビジョンが本当によく理解できました。
太田 樹男さん私たちが目指しているのは、子どもたちを無理に変えることではありません。安心できる環境の中で、子どもたち自身が本来持っている力をしっかりと身につけ、自分らしく学びながら社会に繋がっていけるように支えていくことです。
本来、学ぶこととは苦しいことではなく、とても楽しいことのはずです。新しい知識や経験を得ることは、自分の世界を広げることに他なりません。私たちはこれからも、子どもたちに「学ぶ楽しさ」を伝えていきたいですし、それを実感できる居場所を、これからもっとたくさん作っていきたいと考えています。
今の状況だけで未来を決めない――子どもと保護者に寄り添う伴走者のメッセージ
——現在の教育環境の中で悩んでいたり、自分らしい学びの場所を探したりしているお子さまや保護者の方はたくさんいらっしゃると思います。そうした方々に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。
太田 樹男さん今、学校に行けていないことや、学習が思うように進まないということで悩んでいる子どもたち、そして保護者の皆様にお伝えしたいのは、「今の状況だけで、その子の未来を決めないでほしい」ということです。
子どもたちは、安心できる環境と自分に合った関わり方さえあれば、必ず何かしらの形で自ら動き始めます。それは、明日からいきなり学校に行けるようになる、といった劇的な変化ではないかもしれません。しかし、「朝起きられた」「今日は少しお話しできた」「自分でオンラインの画面をつけられた」「教室に来られた」「好きなことに熱中できた」という、そのちょっとした一つひとつが、未来へと繋がっていく大切な一歩なのです。
——小さな一歩の積み重ねが、何よりも大切なのですね。
太田 樹男さん不登校や発達特性への支援というのは、家庭だけで背負うものではないと思っています。そのため、どうか一人で抱え込まないでいただきたいです。お子さまに合った学び方や安心できる居場所、そして信頼できる人との関わり方を、周囲と一緒に探していくことがとても大切です。
私たちアソマナ学園は、子どもたちの「できないところ」を見る場所ではありません。その子の中に眠っている可能性や好きなこと、強み、そしてまだ見えていない力を一緒に見つけていく場所です。
子どもたちが自分の人生を諦めず、「自分にもできるかもしれない」と思えるようになること。そして保護者の方が「この子のペースで大丈夫なんだ」と少しでも安心できること。私たちは、そのための伴走者であり続けたいと考えています。

子どもの可能性を信じ、共に歩むための第一歩
今回のインタビューを通じて、アソマナ学園の取り組みは不登校を「問題」ではなく、子どもが力を再発見する「プロセス」と捉えているのだと分かりました。太田さんが語る「遊びを通じた自己効力感の育成」や「家族全体のサポート」は、今の教育システムに苦しむ多くの家庭の救いになると感じます。既存の基準だけで未来を決めつけず、子どもの中に眠る無限の「リソース」を信じることが大切です。信頼できる伴走者と歩み出すことで、子どもたちが自らの力で未来を切り拓いていく姿が見えてくるような取材でした。
