現代社会は、教育の方法や子どもの発達に関する課題が多くの注目を集めています。デジタル化が進み、自然と触れ合う機会や群れで遊ぶことが減少している現代の子どもたちにとって、どのような教育が効果的で、保護者はどのように関わるべきなのかという視点は、現在の子育てにおいて非常に重要です。
今回は、子ども家庭福祉を専門とする周南公立大学の竹下徹准教授に、現代の教育環境における課題と保護者の役割についてお話を伺いました。
「現代の子育て」におけるさまざまな課題

──現代社会における子どもの教育において、特に重要だと感じる課題は何でしょうか?
竹下准教授本当にいろいろあると思うんですけど、私が特に重視しているのは「自然と触れ合う環境の少なさ」ですね。
自然のなかで五感を使いながら「群れ」で遊ぶ体験を通じ、子どもは社会性を育成します。ルールを守る重要性や人との関わり方、危険から身を守るべき理由なんかも、自然環境から学べるものだと思うんです。
──核家族化と共働きの時代では、子どもを自然のなかで遊ばせる時間を作るのも簡単ではないですよね。
竹下准教授その通りです。それも現代の子育てにおける課題の一つだと考えられます。現代社会における子どもの教育において特に重要だと感じる課題は、まず「家庭の多様化」に伴う教育環境の違いです。
かつては、祖父母をはじめ親類やご近所さんなど地域の様々な関係者の手によって子育てを支えてきましたが、その状況は一変しています。近年はシングルペアレントを含む、両親の限られた手で子どもの育ちを支えなければなりません。こうした状況は、豊かな育ちに重要となる「体験の格差」が生まれると考えます。
子どもたちが豊かな人生をおくるためには、他者と協働する力、粘り強く考え抜く力、意欲的に物事に挑戦する力、そして豊かな発想力といった、数値化できない「非認知能力」が大切です。実は、この「非認知能力」を高めることこそが、試験の点数のような数値化できる「認知能力」を伸ばす鍵とされています。そして、非認知能力を育む鍵は、五感を活用した体験にあると言えるでしょう。
仕事と子育ての両立に励むシングルペアレントや共働きのご家庭では、「子どもに豊かな体験をさせたい」と願いつつも、日々の仕事に追われ、自然の中で遊ばせる時間を確保するのは難しいのが現状ではないでしょうか。そのような状況だからこそ、子育てを社会全体でサポートする「地域力」が重要になってくるのです。
子どもの発達を支えるための関わり方とは

──子どもの発達を支える上で、保護者の望ましい関わり方はどのようなものでしょうか?
竹下准教授子どもの発達を支えるためには、保護者が積極的に関わりながら、子どもが自分自身のペースで学び成長できる環境を作ることが重要です。
保護者の方に最も大切にしていただきたいのは、「子どもを理解しようとする姿勢」です。
子どもは本来、夢中になって「遊びこむ」ことを通して、自ら成長していく力を持っています。保護者の方の役割は、まず「この子はどう成長したいと願っているのだろう」と、その思いを丁寧に見つめてあげることだと考えています。
そして、子どもの願いに応じて、主体的に活動できるような環境を整えてあげることが大切です。このように、まずは「子どもを深く理解する」こと、そしてその理解に基づいて「主体性を育む環境を整える」こと。この2つの関わり方が、子どもの発達を支える上で非常に重要になります。
──ただ声をかけるだけでなく、子どもを深く理解する姿勢が重要なのですね。
竹下准教授そうですね。それと、言葉だけで動かそうとする姿勢も望ましくない場合があります。
子どもは、親の態度や行動に影響を受ける可能性があります。
例えば、親が本を読む姿を見せることで、子どもも自然と本に興味を持ち、読むようになります。親がスマホをいじりながら「勉強をしなさい」と言っても、やはり効果は薄いでしょう。
子どもは親の姿をよく見ています。よく言われる言葉ではありますが、態度で子どもを導く姿勢が重要なのです。
──学習環境について意識すべきポイントはありますか?
竹下准教授最も大切なのは「子どもを理解しようとする姿勢」です。まずは子どもが何に興味を持っているのかを見つけ出し、子どもの「やってみたい」という気持ちを尊重する姿勢が、環境づくりの出発点となるでしょう。
また、学習環境は机や本棚などの「物」だけでなく、親をはじめとする周りの「人」も重要な要素です。家庭では、親自身が子どもにとっての「人的環境」となります。例えば、子どもが本に興味を持ち始めた時、本を手に取りやすい場所に置くだけでなく、親自身も楽しそうに読書する姿(人的環境)が大切です。
このように「人」と「場」のかかわりが、子どもの知的好奇心を広げる力になります。
家庭内における「役割分担」の重要性

──家庭環境が子どもの学習意欲や社会性に与える影響について教えてください。
竹下准教授家庭環境は、子どもの学習意欲や社会性に大きな影響を与えます。特に、親の働き方はその影響を強く持ちます。
例えば、共働き家庭では、親が忙しく、子どもとのコミュニケーションが不足しがちです。しかし、逆にその中で家庭内での協力や役割分担がしっかりしていれば、子どもにとってもポジティブな学習環境を作り出すことができます。
──家庭内の役割と言いますと、具体的にはどのようなイメージでしょうか?
竹下准教授家庭内の役割とは、家族それぞれが子どもの育ちを見守り、支える中で自然に形づくられていくものです。たとえば、子どもが困った行動をとったとき、ある家族がその行動の意味を受けとめ、別の家族が子どもの気持ちに寄り添って安心させる。そうした役割のバランスがあると、子どもは気持ちを落ち着けることができ、自分の行動を振り返るきっかけにもなります。
誰かが気持ちを引き締めるような言葉をかけたとき、別の誰かが「気持ちの逃げ場」や「安心のよりどころ」になれると、子どもは全体として温かく包まれていると感じることができます。
そのような家庭内での自然な役割分担は、子どもの情緒の安定や、家族の中での信頼感の土台づくりにとって、とても大切な要素になるのです。
──なるほど、では学習意欲に関してはどのようなことを注意すべきでしょうか?
竹下准教授学習意欲を育むうえで大切なのは、「やらせる」のではなく、子どもが「やってみたい」と思える気持ちを支えることです。そのためには、子どもが興味や関心をもったことを丁寧に見つめ、その芽を大切に育てていく家庭環境が求められます。
また、子どもが学ぼうとする背景には、「わかるっておもしろい」「できたらうれしい」といった肯定的な体験があります。小さな成功体験を積み重ね、自分なりの達成感を味わえるように、大人が見守ったり、言葉をかけたりすることが意欲を支える力になります。
ときに思うように進まないこともあるでしょう。そんなときにこそ、結果だけに目を向けず、「どう感じたのか」「どんな工夫をしてみたのか」といった過程への共感や対話が、子どもの気持ちを支えます。
学習意欲は、命令や評価によって引き出すものではなく、子どもの内側から自然と生まれるものです。その芽が育つには、「わかってもらえている」「信じてもらえている」と感じられる家庭のまなざしと、子どもの主体性を尊重する姿勢が何よりも大切だと考えています。
保護者のメンタルヘルスが子どもにもたらす影響

──保護者の不安が、子どもの発達や情緒面に与える影響について教えてください。
竹下准教授保護者の育児不安やストレスは、子どもの発達や情緒面にも大きな関連があると考えます。
研究によると、保護者がストレスや不安を抱えていると、それが子どもの情緒的な安定にも影響を及ぼすとされています。
保護者が自分のメンタルヘルスをケアし、ポジティブな心の状態で子どもに接することができれば、子どもも安定した情緒を持ち、子どもの情緒的成長が促されます。
そのため、保護者が自分自身の心身の健康を維持することが、子どもの発達にとって非常に重要です。自分の時間を確保したり、家族や友人と支え合いながら育児を行うことで、母親のメンタルヘルスが改善され、それが子どもにとっても良い影響を与えるでしょう。
──現代社会において、他者と協力しあいながら子育てをすることは簡単では無いと思いますが、保護者が孤立しないために重要なポイントは何でしょうか?
竹下准教授現代社会では、子育てを家族や地域と協力して行うことが難しくなっている面があります。核家族化や地域のつながりの希薄化により、保護者が子育てのすべてを一人で抱え込んでしまうことも少なくありません。
だからこそ重要なのは、「ひとりでがんばりすぎない」という意識です。子育ては本来、多くの人と関わりながら支えあっていく営みです。親だけで完璧を目指そうとせず、困ったときに気軽に相談できる関係や場を持つことが、孤立を防ぐ大きな力になります。
そのためには、地域の子育て支援センターや保育者、友人、親戚などとのゆるやかなつながりを保つこと、そして「ちょっと話したい」「聞いてもらいたい」と思ったときに言葉を発することをためらわないことが大切です。話すことで気づくこと、整理される気持ちもたくさんあります。
また、保護者自身が「理解されている」と感じられる経験は、そのまま子どもへの関わりにもあたたかさをもたらします。保護者が孤立せずに安心して子育てできる環境こそが、子どもの健やかな育ちにもつながっていくと思います。
子育てしやすい環境づくりのポイント

──子育てをめぐる地域資源(保育所、子育て支援センターなど)の活用が、家庭にもたらす効果について教えてください。
竹下准教授地域資源の活用は、保護者にとって大きな支えとなります。
保育所や子育て支援センターは、子どもの成長において重要な役割を果たします。子どもが集団で過ごし、社会性を育むとともに、保護者同士が情報交換を行ったり、助け合ったりする機会が得られるため、親子にとって良い影響をもたらすのです。
また、子どもにとっては新しい経験を積むことができ、保護者にとっては育児のサポートを得ることができます。特に、育児の悩みや困難を共有できる場があることで、孤立感を減らし、育児を楽しむ余裕を持つことができるでしょう。
また、地域資源は、子どもにとっても社会的なスキルを学ぶ場として重要です。
例えば、保育所での集団活動や子育て支援センターでの遊びを通じて、協力や共有、順番を待つなどの基本的な社会性が身につきます。
親にとっては、こうした施設を利用することで、育児の負担を軽減し、自分自身の時間を持つことができるため、心身のリフレッシュが可能となります。
──最後に、この記事をご覧になっている保護者の方々に向けて、メッセージをお願いします。
竹下准教授子育ては、挑戦と喜びが同時に存在する素晴らしい旅です。しかし、その旅の中で時には孤独を感じたり、不安に思うこともあるでしょう。
今回のインタビューを通じて、子どもの発達を支えるために大切なのは、保護者自身の心身の健康を保ちながら、子どもと共に成長する環境を作り上げることだと改めて感じました。
地域資源や情報を上手に活用し、子どもが自分のペースで学び、成長できるようサポートすることが、将来の社会にとっても大きな力となります。そして、何より大切なのは、子どもと過ごす時間を楽しみ、日々の成長を共に喜び合うことです。
忙しい日々の中でも、少しの余裕を持って、親として、そして人として自分を大切にしながら、子どもと共に素晴らしい未来を作り上げていけることを願っています。
── 本日は貴重なお話をありがとうございました。
竹下准教授ありがとうございました。
今回は、竹下准教授にお話を伺い、現代の子どもたちが直面する教育的な課題や、保護者としての関わり方について深く掘り下げました。
竹下准教授の貴重な知見を通じて、子どもの発達には家庭や地域のサポートがどれほど重要であるか、また親のメンタルヘルスが子どもに与える影響についても改めて考えさせられました。
お子様の小さな成長も一緒に喜び合い、温かい環境で子どもが自分らしく成長できるよう、共に歩んでいけたらと思います。
