未来を生きる力を育む 「言葉の力」と「異文化への寛容」

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― 櫻井千佳子教授と深める、子どもの言語発達への視点 ―

子どもの言語発達について、多くの保護者の方が関心を寄せていらっしゃるのではないでしょうか。グローバル化やAI技術の進化が進む現代において、子どもたちがどのように言語と向き合い、社会の中で心豊かに生きていく力を育んでいくべきか、そのヒントは日々の暮らしの中に隠されているかもしれません。

今回は、子どもの言語発達や第二言語習得、英語教育を専門とし、武蔵野大学グローバル学部グローバルコミュニケーション学科で教鞭を執られている櫻井千佳子教授にお話を伺いました。

目次

幼少期の感性を育む言葉の世界との出会い

子どもたちの言葉の世界を豊かにするためには、認知能力の発達段階に応じた働きかけが重要です。

櫻井千佳子教授

幼少期の特徴のひとつに、新しい音や言葉に対する感受性の高さがあります。言語の音に対する知覚に関しては、生後6か月から1歳頃までに「音声知覚の臨界期」があるとされ、この時期には母語以外の音の違いも聞き分けることができます。しかしその後、聞き慣れない音の区別は次第に難しくなります。

また、外国語の発音の習得については、9歳頃までが特に大きな影響を受けやすい時期とされています。この時期までに豊富な言語インプットを受けることで、より自然で正確な発音に近づける可能性が高まると考えられています。

さらに、幼少期は「間違えたら恥ずかしい」という気持ちがまだあまり強くない時期でもあります。そのため、「英語で話してみよう」といった場面でも、心理的抵抗感が少なく、積極的に言葉に挑戦できるという特性があります。

年齢に応じた無理のない働きかけの中で、子どもたちが言葉と自由に出会える環境を整えることが、将来の豊かな表現力や思考力を育てる第一歩になるのかもしれません

親子の「共同注視」が織りなす言葉の世界

子どもの言語発達において、親子の関わりは非常に重要な役割を果たします。櫻井教授はその中でも、「共同注視」という概念に注目しています。 

櫻井千佳子教授

「共同注視」とは、二人以上の人が同じ対象に注意を向け、そのことをお互いに認識している状態を指します。例えば親子が一緒に絵本を見ながら、その内容に関心を向ける場面が挙げられます。同じものに注意を向けることで、語彙獲得などの言語習得を促進することが、マイケル・トマセロの研究などで明らかになっています。

特に幼児期の単語習得においては、共同注視がとても重要で、ただ単に単語を提示するよりも、親が指差しや視線を使って子どもの注意を対象に合わせるほうが、言葉の定着がしやすいと言われています。

タブレットでの読み聞かせなどにもその役割はありますが、親子の共同注視から得られる安心感や豊かなやりとりは、対面での読み聞かせならではの価値があると言えるでしょう。

共同注視は、言語がまだ発されない時期から始まっており、絵本の読み聞かせもそのひとつの場面として機能します。櫻井教授は、親子が絵本を一緒に見ながら「これは何かな?」「次はどうなるんだろう?」といったやりとりを楽しむことが、子どもの言葉の力を育むうえで非常に効果的だと語ります。

感情と言葉の繋がり 「心」を育む対話

子どもの豊かな感情は、言葉を通じて育まれます。最初は「嬉しい」「悲しい」「怒っている」といった感情を体全体で表現していた子どもたちが、徐々にそれらを自覚し、言葉で伝える力を身につけていきます。このプロセスは、「心の理論」とも深く関係しています。

櫻井千佳子教授

心の理論は、他の人が自分とは違う考えや気持ちを持っていることに気づき、想像できる力のことを指します。たとえば、大人であれば、「相手の立場だったら…」と想像できるかもしれませんが、子どもは対話や経験を通して少しずつそのことを身につけます。

「自分が見ているもの=相手も見ている」とは限らないと気づく力、自分とは異なる視点の存在を認識することが、社会性や協調性の基盤になっていくのです。

実際に、日常的に“気持ち”や“考え”について会話することの多い家庭では、子どもたちの心の理論の発達が早く、社会的な協力行動も豊かになる傾向があるという研究報告もあります。
「その時どう思ったの?」「どんな気持ちになった?」といった問いかけは、単なる会話ではなく、子どもの心を育てる重要なコミュニケーションです。

対話を通じて、子どもは相手の立場に立って行動することを学び、共感力を身につけます。対人理解や感情のコントロール力は、SNS上でのいじめや、気づきにくい誤解といった、目に見えにくい現代の課題を回避し、他者と良好な関係を築くための土台となります。

親のウェルビーイングが子どもの安全基地を作る

子どもが安心して育つためには、「安全基地」の存在が欠かせません。心理学で言う安全基地とは、日常的に関わる信頼できる大人、多くの場合において親などの身近な存在を指します。

櫻井千佳子教授

子どもが安心して成長していくには、「自分は大切にされている」、「ここにいていいんだ」と感じられることが大前提です。心理学で広く知られるジョン・ボウルビィの愛着理論には、安全基地という概念があります。子どもは安全基地から外の世界に少しずつ出て行き、不安なときにはまた戻ってきます。探索と安心を行き来しながら自信をつけていくのです。

子どもが安心して過ごせる安全基地を提供することは、身近で信頼できる大人が担う重要な役割です。多くの場合、その役割の中心となるのは多くの場合に親ですが、その役割を果たすにあたり、親自身の心のゆとりが重要となります。忙しいなかでも、少しでも自分の好きなことや自分らしさを保てる時間を持つことが結果的に、子どもに安心感やあたたかな関わりとして返っていきます。

現代の保護者は子育てに加えて仕事や介護など、複数の役割を同時に担っているケースも少なくありません。自分らしくいることが難しいと感じる方も多いでしょう。だからこそ、少しずつでも自分を大切にする時間を意識的に取り入れることが、結果的に子どもの育ちにもつながっていくのだと櫻井教授は語ります。

思考力を深めるメタ認知的な対話の力

家庭での会話は、子どもの思考力や言語発達に大きな影響を与えます。特に近年は、メタ認知視点の対話が注目されています。「どうしてそう思ったの?」「他にも考え方はあるかな?」といった問いかけを通じて、子どもの思考を深めていくことができます。このような「対話を通じた認知の発達」は、ロシアの心理学者レフ・ヴィゴツキーが提唱した社会文化的理論とも深く関連しています。ヴィゴツキーは、子どもは他者とのやりとりを通じて、より高次の認知機能を発達させていくとしています

櫻井千佳子教授

単に子どもに知識を教えるのではなく、考え方そのものに目を向けるやりとりも重要です。たとえば「なぜそう考えたの?」「他にどんな見方ができるかな?」といったメタ認知的な問いかけです。

メタ認知の視点を持った対話が繰り返されることで、言葉によるやりとり自体が深まり、思考力も育まれていきます。知識を増やすことにとどまらず、思考の幅や柔軟性、そして言語表現の質が変わっていくことが、さまざまな研究でも示されています。

「間違えても大丈夫」と感じることで、子どもは論理的な思考や、自分の考えを自信を持って表現する素地を築きます。子どものその時々の気持ちや状況によって、対話が思うように進まないこともあるかもしれませんが、こうした対話の積み重ねが、長期的には他者との信頼関係や信頼感につながります。

「日本語らしさ」の習得と論理的な表現への意識

言語には、“その言語らしい”表現があります。日本語らしい表現もあります。これは、相手との関係性や場面に応じた気遣いといった、文脈による言語表現であり、それは体験を通して少しずつ身についていくものです。

櫻井千佳子教授

たとえば、「すみません」という言葉には、謝罪だけでなく、感謝や呼びかけの意味も含まれています。日本語を母語としない人にとっては、こうした多機能な使い方を理解するのが難しいとされています。

しかし日本語を母語とする子どもは実際のやりとりを通して、「いつ・誰が・どのような場面で」その表現を使うのかを体験的に学んでいます。
文脈に応じた意味の変化を自然に蓄積していくことで、日本語らしさを身につけていきます。

また、場面にもよりますが、日本語は英語に比べて因果関係を明確に表現することが少なく、文脈や言外の意味に頼る部分が多いとされています。筋道を立てて話す力や、なぜそうなのか、どうしてそうなったのかといった論理的な流れを意識的に学ぶことは、異なる言語や文化背景を持つ人と理解し合い、円滑にコミュニケーションをとるために必要です。

多言語社会を生きる「自分だけの問い」の発見

AIの翻訳技術が進化する現代において、言葉は単なる情報伝達のツールとして扱われることもあるかもしれません。しかし言葉の本質的な価値は、単なる情報のやりとりにとどまりません。文化や価値観、そして人の内にある「思い」を伝える媒体としての力が、言葉にはあります。

櫻井千佳子教授

「AI翻訳があるから、外国語を学ばなくてもよいのでは?」という考えも聞かれます。しかし、言葉にはその背景にある文化や価値観、そして話す人の思いが込められており、それらを理解し伝える力は機械には代えられません。だからこそ、これからの社会で多様な人と深くつながるために、外国語を学ぶことはますます重要になっています。

たとえば、同じ内容を伝えるにしても、どの言葉を選ぶか、どう表現するかには、その人なりの背景や感性が反映されます。言葉に込められた価値観や文化的なニュアンスを丁寧に受け取り合うことが、異なる文化を持つ他者との信頼関係を築く第一歩になります。

これからの社会を生きる子どもたちに求められるのは、知識やスキルの習得だけではありません。情報があふれる時代だからこそ、「自分は何に関心があるのか」「どのようなテーマについて深く知りたいのか」といった、自分ならではの創造的な問いを立て、他者と対話しながら考えを深めていく力が、ますます重要になっていくでしょう

未来を生き抜く言葉と心の力を育むために

櫻井教授の言葉からは、子どもの言語発達が、家庭での対話──特に「共同注視」や「メタ認知的な対話」によって深く育まれることが読み取れます。豊かな感情や「心の理論」を育てるには、親が「安全基地」となり、安心感に支えられたコミュニケーションを積み重ねることが重要です。そのためには、親自身が心のゆとりを保ち、自分を満たす時間を持つことも必要です。

言葉は、単なる情報伝達の手段ではなく、文化や価値観、思いを伝えるための大切な手段です。多様な言語や視点に触れ、違いを理解し合い、他者と向き合う力を養うことは、複雑な社会を生きていく子どもたちにとって、大きな力となります。

人とのあたたかな対話や、自分自身の問いを育む時間の積み重ねが、子どもたちの未来をひらく礎になります。今こそ、日々のやりとりの中にある「言葉と心の育ち」に目を向けることが求められているのかもしれません。

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