「学校に行きたくない」という切実な悩みから、「学校の勉強だけでは物足りない、もっと自分の『好き』を突き詰めたい」という旺盛な好奇心まで。
画一的な教育の枠組みに我が子の個性が収まりきらないとき、その可能性をどのように広げてあげればよいのか、不安や迷いを感じる保護者は少なくないでしょう。
しかし、今の時代、学びの場は教室の机の上だけではありません。
本記事でご紹介するのは、メタバース(仮想空間)とリアルな地域拠点を融合させた不登校オルタナティブ小中一貫校「NIJINアカデミー」です。
「学校に戻ること」を唯一のゴールとせず、自宅から社会へ直接つながる機会を提供しています。
さらに、同社では小中学生対象の「NIJINプロジェクト塾」として、探究スクールでの活動も展開されています。
今回は、NIJINアカデミー青森浪岡校教室長の兼田 綾子さん、NIJINアカデミーメタバース担任スタッフ/広報担当の松本 真実さんに、「NIJINアカデミー」の取り組みを中心にお話を伺いました。
子供たちが本来持っている輝きを取り戻し、自信を持って社会へ飛び出していくための仕組みとは何なのか。
教育の最前線にある「子供主体の学び」と「社会との新しい繋がり方」を紐解いていきます。

自宅が社会への扉に。メタバースとリアルを融合した「新しい学びの場」
物理的な「通学」が難しいお子様にとって、自宅は安心できる場所である一方、社会との接点が遮断されがちな空間でもあります。
NIJINアカデミーは、最新のメタバース技術と全国のリアル拠点を活用することで、自宅にいながら世界中と繋がり、学校としての「出席」も認められる画期的な学習環境を構築しました。
メタバース通学で「出席扱い」も可能。学びを可視化する独自のポートフォリオ
——NIJINアカデミーでは、実際の教室を設けて不登校のお子様が通われていますが、そこで「学校に行った」という認定、つまり出席扱いを受けられるということでしょうか?
兼田 綾子さんその通りです。
全国にある拠点以外に、オンライン上のメタバース空間にも教室があります。
そこで学習したものは全て出席扱いになるようにカリキュラムを組んでいます。
具体的には、学びのポートフォリオを作成しており、学習の記録がそこに全て記載されていく形ですね。
——NIJINアカデミーとして特に力を入れている点や、独自の取り組みについて伺いたいと思います。
兼田 綾子さんNIJINアカデミーは、不登校の子どもたちの学びの場が、安心できる「自宅」から「社会」へ直接つながっていく機会を提供する、新しいスタイルのオンライン型オルタナティブスクールになっています。
特に力を入れているのは、やはりメタバース空間にある校舎ですね。
まるでゲームの世界のような空間で、子どもたちは自分をキャラクターとして操作しながら、大好きな友達や先生とつながって勉強していきます。
あとは「プロジェクト型」の学びを実践している点も大きな特徴です。
——実際にお子様たちとは、リアルな場でもメタバース内でも関わっていらっしゃるのでしょうか?
松本 真実さんNIJINアカデミーに入学する基本の土台として、全員「メタバース通学」という形をとっています。
そこでメタバースに通学しつつ、「学校には行けないけれど、リアルの場での人との関わりや、信頼できる大人との関わりが欲しい」というお子様には、リアル教室への通学も出来るプランを用意しています。
ですので、メタバースをメインに活動する子もいれば、オンラインも活用しつつリアルでも活動するという、いわゆるハイブリッドな形で過ごすお子様もいますね。

都市部から地方まで、全国に広がる30以上の教室。どこにいても学びを諦めない
——全国各地からいろいろなお子様が参加されていると思いますが、実際には都市部よりも地方の方が多いといった傾向はあるのでしょうか?
松本 真実さん私も兼田(青森浪岡校教室長)も、不登校オルタナティブ小中一貫校である「NIJINアカデミー」のスタッフとして、今回のインタビューも兼田は青森、私は北海道からオンラインで参加しています。
生徒の内訳としては、現状ではやはり関東や関西の「都市部」からの在籍者数の方が多いですね。
ただ、東北や九州、北海道といった地方の方にも少しずつ認知が広がっていて、人数が増えてきている状況です。
——NIJINアカデミーの公式Instagramを拝見していて、「地方での教育格差」という話題が出ていたので、てっきり地方の方が多いのかなと思っていました。
松本 真実さんそうした「格差」があるからこそ、地方でも広めていきたいという思いを持って活動しています。
現在、開校準備中の教室を含めると33教室(拠点)が展開されているのが実態ですので、これからさらにその差を埋めていけたらと考えています。
「無理やり」を卒業する。子供の自主性とタイミングを最優先する教育
教育現場や家庭でつい口にしてしまいがちな「どうしてやらないの?」という問いかけ。
NIJINアカデミーでは、大人が無理に背中を押すのではなく、子供の心が自律的に動き出すまで徹底して「待つ」姿勢を貫いています。
この「自己選択」を重んじる関わり方が、子供たちの折れた心にどのような変化をもたらすのでしょうか。
物理的な距離を越える信頼関係。デジタルツールで一人ひとりの「心」に寄り添う支援
——実際に活動時間内にお子様と関わっている中で、彼らが抱えやすい問題や課題といったものはありますでしょうか?
兼田 綾子さん課題として浮かぶものは2つあります。
まず1つ目は、メタバース空間での学びがメインになるため、活動している間ずっと私たちが物理的に隣にいるわけではないという点です。
ですので、Slackなどのオンライン上でメッセージをやり取りできるツールを使ったり、お互いの顔や様子が見えるメタバース空間を活用したりしています。
「今作っているものを実際に見せて」といったやり取りを含め、つながりの時間を意図して持つことがすごく大事になると感じています。
学習中に詰まってしまったり、手が止まってしまったりしたお子様が、そこで声を上げやすい関係を作れるかどうかがどうしても必要になりますね。
——リアルであれば表情も見えますし、「どういう気持ちなんだろう」と予想しやすいですが、メタバース上だと分からない面が多いですよね。
兼田 綾子さんそしてもう1つは、私のところ(リアル校舎)に通っている生徒の話になりますが、たとえ自分から「やりたい」と言って始めたこと、例えば「料理が好きだ」といったことでも、やはり「気分が乗らないな」という日も当然あるということです。
これまでの学校教育や習い事であれば、「無理やりやらせる」ことがあったかもしれません。
でも、NIJINアカデミーの子供たちには、それは違うかなと思っています。
無理やりさせるのではなく、「今どんなふうに気持ちや意識が変わっていったのか」を対話しながら探っていきます。
その興味関心の方向の変化に合わせて、また舵を切り直す。
そうやってしっかり関わっていくのが、NIJINアカデミーやプロジェクト塾の教員としての役割だと思います。
松本 真実さん私はメタバース空間での活動をメインに担当しており、オンライン上での彼らの様子を主に見ているのですが、本当にいろんなお子様がいます。
最初から声を出せる子もいれば、Zoomなどにある「リアクション機能」ひとつ使うのにも、「これを出すことで相手にどう思われるんだろう」と躊躇してボタンが押せない子もいます。
最初はやはり、リアルで関わるときと同じように気を使いますし、距離感がある様子を見せることもあります。
でも、だんだんと慣れていく中で、リアルと変わらないくらい話せるようになったり、最初はリアクションもできなかった子がスタンプを押せるようになったりします。
それもまた「大きな一歩」ですし、そうやって子供たちは歩みを進めていますね。
教科書のない「マイプロジェクト」。自分の「好き」が社会と繋がるエンジンになる
——先ほどお話いただいた「『プロジェクト型』の学び」というのは、プロジェクト塾のホームページで見せていただいた「マイプロジェクト」のことでしょうか?ぜひ詳しくお聞かせください。
兼田 綾子さんNIJINアカデミーの学習の中では、普通の学校にあるような「教科書」というものがありません。
もちろん、国語・算数・社会・英語、それに家庭科や体育、プログラミングなど、プロの教師による授業はたくさん提供されています。
ただ、それを一方的に受けるのではなく、そこから刺激を受けて「僕はゲームを作りたい」「ボードゲームが好きだ」といった、自分の「好き」を見つけるきっかけにしています。
ひとつ好きなものが見つかると、そこから派生して「じゃあ自分で作ってみよう」となったり、好きな仲間とつながって制作している企業へ社会科見学に行ったりします。
さらに、見聞きしたことから新しいアイデアを生み出して企業にプレゼンさせていただくこともありますし、実際に物の販売にチャレンジするお子様もいます。
そういった一連の活動を含めて「プロジェクト」と考えています。
——子供たちの学習意欲や、「やってみよう」という自主的な気持ちを育むために、特に意識していることはありますか?
兼田 綾子さん意識していることは大きく2つありますが、まず1つ目は「自分のタイミング」を大切にすることです。
やはり自分で選んで学ぶので、子供たちにも「ちょっと気分が乗らないな」「今日はどうしてもやりたくないんだ」という日は当然あります。
その中で「どうしてやらないんだ」と責めるのではなく、「あ、今はそうなんだね」と受け止めるようにしています。
子供たちが「何か今だ!」と思えるタイミングを、スタッフはずっと待っています。
「自己選択」が何よりの幸せにつながると思っているので、無理強いではなく、きっかけを作るという点をまず第一に考えています。
もう一つ意識しているのは、地域での活動で「できるだけ生の体験を取り入れる」という点ですね。
——そういった活動を通して、社会性や人との関わりも一緒に育むことができるということでしょうか。
兼田 綾子さんただ自分が「やりたい」という思いだけではプロジェクトは進みません。
相手にとっても「それはいいね、一緒にやっていこう」と思ってもらえなければ始まらないからです。
「なぜ自分がこれをやりたいのか」という思いを伝えるプレゼン力や、普段のコミュニケーションを通して、そういった力も子供たちは身につけていっているなと感じます。

社会全体を学びのステージに。「生の体験」が子供たちの自信を育む
教科書をなぞるだけでは得られない、本物の社会と触れ合う「手触り感」のある学びこそが、子供たちの瞳に輝きを灯します。
りんご飴の販売から企業へのプレゼンまで、大人と同じ土俵で挑むプロジェクトの数々は、彼らが「自分も社会の役に立てる」と実感する大きな一歩となります。
青森のリンゴ販売からクッキー作りまで。地域と連携した「本物」のビジネス体験
兼田 綾子さん私の教室は青森なので、名産のリンゴをテーマにしました。
子ども食堂とコラボして、農家さんから80個ものリンゴを提供していただいたんです。
山積みのリンゴを前に、子供たちは呆然として「どうする?」と。
そこで「よし、これを調理して地域の子供たちと一緒に食べるイベントにしよう」と企画しました。
包丁を持ったことのない子が恐る恐る皮をむいたり、「熱湯はどう扱ったら安全か」を考えたり。
まさに生きた学びです。
「お金はどう受け取る?でも子ども食堂だからお金は受け取りにくいよね」といったことも、子ども食堂の大人や、NIJINのリアル校の子供たちと一緒に相談しながら作っていきました。
他のリアル校(名古屋西校)では、お店の方とコラボして「NIJINクッキー」を作成し、パッケージまで作って販売しました。
確か300個くらい売れたんですよね。
収益を得て、子供たちが「じゃあその収益を次はどう使う?」と全部考えていく。
やはり、そうした「生の体験」が大事だなと思います。
——商品を作るだけでなく、販売からパッケージのデザインまで……。子供たちがそこまで考えるというのはすごいですね。
兼田 綾子さんなかなか体験できないことです。
いわゆる「お店屋さんごっこ」のような形であればできるかもしれませんが、本物を作って最終的に売るところまでを学ぶ機会はそう多くありません。
大人や地域の方と一緒に本気で取り組む。
これがまさに「プロジェクト」だなと感じます。
既存の枠を壊す子供の発想。企業との共創で開花する無限の可能性
——地域の方や外部企業との連携の中で、今後はどのような広がりを考えていらっしゃいますか?現状と、これからの展望についてお伺いできればと思います。
兼田 綾子さんまず、私たちは「不登校の子供たちの幸せ」のために動いています。
ですので、NIJINアカデミー以外にも地域にあるフリースクールと横の連携をとって、合同イベントを行うこともあります。
あとは先ほどお伝えしたような子ども食堂であったり、地域の大学や面白い活動をしている中小企業の方に見学に来ていただいたりもしています。
不登校の子供たちには「元気がない」という印象があるかもしれませんが、「NIJINの子たちは、楽しい学びに触れていて、めちゃくちゃ元気だね!」と知ってもらう。
体験していただくと「この子たち面白いね、素敵だね」と言ってくださるので、そこから次のイベントに繋がっていく……という循環が今、生まれてきています。
——具体的には、その子ども食堂さんとの連携以外には何か事例があるのでしょうか?
兼田 綾子さん他のリアル校(拠点)ではもっと多様なコラボレーションが見られます。
例えば、東京の世田谷や竹ノ塚にある教室は商店街の中に位置しているので、アーケードの装飾を商店街の方と一緒にプロジェクトとして行ったりしています。
対外的なもので言うと、JICA60周年ファッションショーに子ども達が自分でデザインした衣装で参加しました。
松本 真実さん私たちは「学校だけが学びの場ではない」という地点からスタートしています。
地域の方々、地元の企業さん、大企業から中小企業まで、社会全体を「学びの場」として教育を広げていくこと。
それが子供たちにとって一番いい学びであり、「生きた学び」なんじゃないかという考えのもとで動いています。
——なるほど、社会全体を学びの場とするわけですね。
松本 真実さんはい。子供が「やりたい」と思ったことを聞いて、私たちスタッフが伴走しながら社会と繋げていく役割を担っています。
「こういう企業とタッグを組んだら、この子の才能はもっと開花しそうだな」とか、「こういう環境を提供してあげたらもっと世界が広がるんじゃないか」といったことを常に考えています。
少し抽象的な話にはなりますが、そういったマッチングこそが私たちの使命だと思っています。
——実際に一緒に活動された企業の方からは、どのような声が寄せられていますか?
松本 真実さん「本当に面白いね」と言っていただくことが多いです。
子供たちと組むことにワクワクして、「さらにいろんなことができそうだ」と未来への期待を膨らませてくださいます。
「たかが子供」ということは全くなくて、むしろ私たち大人よりもすごい発想を持っています。
既存の考えをいい意味で壊してくれるので、そこに圧倒されつつも、「もっとこういうことができそう」と一緒に歩んでくださる企業さんが多い印象です。
デジタルでの葛藤も成長の糧に。自己肯定感を取り戻すコミュニティの力
オンライン特有のコミュニケーションの難しさを、単なるトラブルで終わらせず「生きた学び」に変えていくのがNIJIN流です。
異なる個性を「才能」として認め合う温かなコミュニティが、いかにして子供たちの折れた心を癒やし、自己肯定感を育んでいくのかを紐解きます。
チャットのトラブルも「生きた学び」。メタバースで育む高度なネットリテラシー
——保護者の方とのコミュニケーションについてお伺いできますか?
松本 真実さん私も元々学校現場にいた人間ですが、物理的な距離が離れているからこそ、デジタルツールを駆使して保護者の方と連絡を取り合うことには気をつけています。
そうして連携が取れていれば、お子様がもがいている状態でも、ある日すっとアクションを起こせるようになったりしますから。
——保護者の方の中には、まだネット空間に馴染みがない方もいらっしゃると思います。例えば学童保育などでは、子供同士の揉め事やトラブルがあって連絡が来ることもありますが、メタバース上でもそういったトラブルには発展するのでしょうか?
松本 真実さん「ないか、あるか」の2択で言えば、やはりあります。
例えば、チャット機能を使って、普段話しているような空気感でポンと文字を打ってしまった時に、自分の意図しないニュアンスで相手に伝わってしまう……といったことは起こりますね。
でも、私たちはそれを「ダメなこと」としてネガティブに捉えるのではなく、「じゃあ次はどうしていこうか」と考える起点にしています。
人間なので合う・合わないはどうしてもありますよね。
メタバース空間の良いところは、逆にそれが「いい意味で距離を置ける」ことです。
「ちょっと気分が乗らないな」と思ったら、カメラやマイクをオフにして少し離れることもできます。
程よい距離感で接することができるのは、一つのメリットだと感じています。
——なるほど。大人よりも子供たちの方が、そういった距離感をうまく使い分けできそうな気がしますね。
兼田 綾子さんネットリテラシーの力はすごくつくんじゃないかなと見ています。
今の子供たちは、私たち大人が通ってきていない道を、低学年のうちから進んでいますから。
その中で「人を傷つけない言葉」や「自分の思いをどう伝えたら伝わるか」をたくさん学んでいく。
まさに「生きた学び」をしているなと感じます。
——まさに、今の学校で学ばせたい内容そのものですね。
復学はゴールではない。個性を「才能」と全肯定する環境が、自発的な一歩を引き出す
——NIJINアカデミーにいたことによって、お子様に変化があったというエピソードはありますか?
兼田 綾子さん私たちは「復学(学校へ戻ること)」をゴールにはしていませんが、実は復学率も高いんです。
これまでの卒業生がおよそ200名ほどいるとしたら、そのうちの7割から8割は「学校に行けるようになった」とか「リアルの場に出かけられるようになった」と言って卒業されていますね。
——それはすごいですね。
兼田 綾子さん発達障害があるようなお子様は、良くも悪くも注目されてしまって、学校では浮いてしまうことがあります。
でも、NIJINアカデミーという学びの場を通して、受け入れてくれる先生や仲間に出会えるんです。
「その飛び抜けた個性こそが才能だね」と言ってもらえるので、そこで自信を持つことができます。
そうすると、「自分は不登校ではない」「もう不登校とは言わない」と胸を張って卒業していくんです。
あとは、「学校でしか学べないものもきっとあるから、学校で学ぼう」と自分で決めて卒業していく姿もあります。それも成長の1つですよね。
特性を持っているお子様も、そうやって大活躍していっています。
——学校には特別支援学級もありますし、今は放課後等デイサービスの数もものすごく増えていると思います。もしかしたら、NIJINアカデミーさんもそういった役割を果たしているのではないかと思ったのですが、いかがでしょうか?
兼田 綾子さんその通りだと思います。
私は元々、特別支援学校で勤務していた経験があるのですが、「こういうお子さん、確かに学校にもいたよね」という子がたくさんいます。
すごく元気でパワフルだったり、おしゃべりが止まらなかったりして、学校の中では「落ち着きがない」「多動だ」と言われていたようなお子様が、ここでは「いいね!」と言われてリーダーシップを発揮していたりするんです。
一方で、学校では「引っ込み思案」だと言われる子が、さりげなくチャットでフォローしていたりもします。
そういった相乗効果が生まれているのは、めちゃくちゃ面白いなと思っています。
みんなの違いを受け入れ合えるという「土壌」が子供たちの中にすでにあるので、それを信じてやっていれば、既存の枠の中に収めなきゃいけない、なんてことは一切ないんだなと感じますね。
扉を開けるのは自分自身。未来を彩る「不揃いの美」を信じて
適切な環境さえあれば、子供たちは大人の想像を遥かに超えるスピードで、自ら未来を切り拓き始めます。
完全不登校から自発的なリーダーへと成長を遂げた劇的なエピソードを通じて、環境の変化がもたらす希望と、専門家から贈られる温かなエールをお届けします。
完全不登校から校長を招いた発表会へ。少年の自信を取り戻した劇的な変化
——これまでの活動の中で、子供たちの成長が感じられた印象的なエピソードがありましたら、ぜひ詳しく教えていただけますか?
兼田 綾子さんそれぞれに成長のドラマがあるので選ぶのが難しいのですが……そうですね、青森校に通っている、ある男の子の話をさせてください。
彼は元々、学校の門の前に行くと泣き崩れてしまい、教室に入ろうとすると震えて「お家に帰りたい」と言ってしまうような状態でした。
丸2年ほど完全な不登校が続き、病院に行くと「適応障害」や「不安障害」といった診断名がつけられてしまうような状況だったんです。
そんな時にお母さんがNIJINアカデミーを見つけて連れて来てくれました。
NJINアカデミーに出会う前は本当に小さな声で、隠れるように過ごしていた彼ですが、リアル校に入ってからはすぐに打ち解けて、元気に過ごしていました。
話してみると「料理が好きだ」ということが分かったんです。
そこで「すごいね、こんなのも作れるんだ」「次はこれやってみたい」と少しずつ会話が生まれるようになり、そこからヒントを得て、私は子ども食堂とのコラボを思いついたんです。
そして先日、彼が市内の探究学習の発表会に登壇しました。
あんなに「学校が嫌だ」と言っていた彼が、自分から学校へ行き、校長先生に「地域の探究発表会に出ることになったので来てください」と直接招待しに行ったんですよ。
当日は校長先生も見守る中、何十人もの前でマイクを握り、自分の「お弁当作り」に対する探究の成果を大きな声で発表しました。
「不登校だからこれができない」「人が怖い」といったある種のトラウマや思い込みから、NIJINでの活動を通じて「僕にもできることがある」「みんな応援してくれている」という自信へと変わっていった。
「あ、行ってみたい」と一歩踏み出す姿を見て、子供ってこんなにも違う一面を見せてくれるんだなと、私自身がすごく感動させてもらいました。
——聞いているだけで泣けてくるようなお話ですね。
兼田 綾子さん実は、彼はお母さんが夜勤のお仕事をしているので、家にいる時間を使ってお母さんのためにお弁当を作って持たせているんです。
これが彼の仕事であり、まさに彼だけの「プロジェクト」なんですよね。
——お母さんのために……素晴らしいですね。
兼田 綾子さん「どんなおかずを入れたら喜ぶかな」と一生懸命考えて作っています。
その探究発表会の場に、たまたま地元のかまぼこ屋の社長さんがいらっしゃったんですが、彼の発表を聞いて「かまぼこが入っているね!ぜひうちの商品を使って弁当を作ってみてくれ」「将来はぜひうちの会社に」と声をかけてくださったんです。
冗談めかした会話だったかもしれませんが、それを見ているお母さんも本当に嬉しそうでした。
そうやって社会と繋がりながら、「自分の活躍の場所は学校だけとは限らない」ということを、子供たちは日々見つけてくれています。
子供たちが自走したオンライン運動会。大人の想像を超える「自律」と「連帯」
——松本さん(広報担当)にもお伺いしたいのですが、これまでの活動で特に印象に残っているエピソードはありますか?
松本 真実さんつい最近のことですが、大阪でNIJINアカデミーとして初めての「運動会」が開催されました。
実はこれ、主催したのは子供たちなんです。
きっかけは半年ほど前、愛知県で行われたセミナーでした。
うちのスタッフが「先生として登壇してみませんか?」と子供たちを誘ったんですが、そこで出会った2人が意気投合して。
セミナーの準備などで連携する中で、「次は運動会をやろう!」という流れになったんです。
準備のやり取りは基本的に全てオンラインのメタバース上で行っていました。
実際にリアルで会ったのは1、2回あるかないか……という状態で、当日の運動会を迎えたんです。
——ほとんどオンラインだけで準備を完結させたんですね。
松本 真実さん私たち大人は、これまでオンラインの経験が少ない分、「リアルの方が深い話ができるんじゃないか」「オンラインでは限界がある」と思いがちです。
もちろん、その考えも間違いではありません。
でも、子供たちはメタバース空間を使って深く話し合い、目標を立てて「自走」できるんだということを、彼らに見せてもらいました。
不登校、低学年・高学年、そういった属性は関係ありません。
「やりたい」と思った子はどんどん進んでいくし、ゆっくり進みたい子は自分の「歩幅」で成長している。
それを認めてあげられる空間なんだな、ということを日々感じています。
——非常に柔軟で、個人のペースが尊重されているんですね。
松本 真実さん学校を否定するわけではありませんが、集団生活である以上、「ある一定のところまでみんなで行こう」という考え方はどうしても必要になります。
今の学校の仕組み上、やむを得ない部分もあります。
でも、その枠から解き放たれた子供たちが、ここまで才能を開花させるんだという事実には、常に圧倒されています。
やっぱり「環境」が一番なんだな、と。
学校が合う子もいれば、こういった空間が合う子もいる。
それが「選べる」世の中になることが今一番大事ですし、私たちのミッションでもあると感じています。
「そのままのあなたでいい」保護者と子供たちへ贈る、NIJINからの温かいエール
兼田 綾子さんNIJINアカデミーは「虹色」がキーワードですし、「不揃いの美」こそが何より大事だと考えています。
例えば「プロジェクト塾」の方では、学校には行っているけれど「学校だけでは物足りない」という子供たちも来ています。
「1対1の専属サポートが必要」というお子様から、「もっと学びたい」というお子様まで、その子にとっての「ちょうどいい」場所をチョイスしてもらえるようプロジェクトを組んでいます。
だからこそ、どんな色の子供たちでも受け入れられると思っています。
——不登校のお子様から、学校へ通いながら放課後にいろんなことをやってみたい子まで、本当に幅広いお子様が集まるんですね。
兼田 綾子さんはい、海外から参加する子もいます。
時差はありますが、アーカイブも残りますし、オンラインなので時間調整も可能です。
また、起立性調節障害で睡眠時間がずれてしまうお子様も、自分の起きている時間に仲間と繋がることができます。
「それすらも選んでいいんだよ」というスタンスなんです。
——最後になりますが、NIJINアカデミーやプロジェクト塾の利用を検討されている保護者の方、そしてお子様へメッセージをお願いいたします。
兼田 綾子さん一番伝えたいのは、「ぜひ、そのままのあなたで飛び込んできてください」ということです。
特別なことができる必要はありませんし、パソコンの技術がなきゃ入れないといったことも一切ありません。
実際に小学1年生から入学している子もいます。
「そのまんま」の状態でいいんです。
まずはそこで出会えた大人や仲間との交流を楽しんで、自分の中にある「芽」をもっともっと大きく伸ばしてほしいなと思います。
松本 真実さん私は「1人じゃないよ」と伝えたいです。
ここに来ると、自分が今まで悩んでいたことをみんなが分かってくれるし、同じように感じてくれる仲間がいます。
でも、それを特別視することなく「みんな一緒だよね」と自然に受け入れてくれる。
そんな空気感の中で学んでいける雰囲気がすごく素敵なんです。
「みんな来ていいんだよ、いつでも待ってるよ」ということを伝えたいですね。

地域社会と連携し、子供が「自走」し始める教育の在り方
インタビューを通じて見えてきたのは、NIJIN流の教育が単なる「学校の代替」の枠を超えているという事実です。
メタバースと地域のリアルな場を往復しながら、子供たちは「自分らしく社会と繋がる術」を自ら獲得していました。
大人が無理に背中を押すのではなく、不揃いな個性を才能として全肯定し、自律的に動き出す瞬間を信じて待つこと。
その深い安心感こそが、子どもたちが自分色で輝くための虹の架け橋となるでしょう。
