「学校に行けない」「勉強が遅れている」——そんな不安に寄り添うのが、信州中央高等学院長野学習センターです。
今回は、20年の予備校運営を経て通信制教育の現場に立つ、センター長の幾川 公之先生にインタビューを行いました。
そこで見えてきたのは、単なる学習支援を超えた「人生の再構築」への情熱です。
生徒一人ひとりの「今」を肯定し、社会への信頼を取り戻していくプロセスには、保護者が知っておくべきヒントが詰まっています。
大人が楽しそうに働く姿を見せることが、いかに生徒たちの希望になるのか。小規模校だからこそできる、きめ細かなサポートの実態を紐解きます。
教育理念と個性を尊重するカリキュラム

単なる卒業資格の取得にとどまらず、同校が最も大切にしているのは生徒と保護者の双方が「笑顔」になることです。大人が人生を謳歌する姿をロールモデルとして示すことで、生徒が社会への信頼を取り戻していく独自の教育方針について詳しく伺いました。
保護者も笑顔に:寄り添いと「社会で生き抜く力」の育成
——信州中央高等学院長野学習センターでは、どのような教育理念を大切にされていますか。また、その理念は日々の学習指導や生徒との関わりの中でどのように実践されているのでしょうか。
幾川 公之先生私たちは「生徒・保護者の笑顔のために、一人ひとりに寄り添い、悩みや不安を共有して支援する」という教育理念を大切にしています。
ここで重要なのは、生徒だけでなく、保護者の方も笑顔になっていただくことです。保護者の方が笑顔でなければ、お子様の心も決して安定しないからです。
——生徒だけでなく保護者の方へのサポートも重視されているのですね。その他に掲げている理念はありますか。
幾川 公之先生もう一つは「社会で生き抜く力を育てる」ことです。これには、まず「自分の人生に希望を持てるようになる」ことが必要不可欠です。人生の楽しみ方を知り、ある程度自分に自信を持てるようになった上で、社会を知り、自分自身を知っていくというステップを大切にしています。
職員は人生のロールモデル:大人が楽しむ姿を見せる教育
——先ほどお話いただいた「人生の楽しみ方を知る」というステップは非常に興味深いです。生徒さんへの声かけは一人ひとり異なると思いますが、先生が日頃から必ず伝えている言葉はありますか。
幾川 公之先生「人生は楽しい」ということは、言葉で伝えるだけでなく、行動でも示したいと思っています。
——行動でも示す、とは具体的にどのようなことでしょうか。
幾川 公之先生まず、私たち教職員が日々生徒に明るく元気に接することです。そして何より、職員自身が楽しく仕事をすることですね。職員が辛そうだったり、いつも何かに追われていたりすると、いくら言葉で伝えても生徒には響きません。
ですから、楽しそうな様子や職員同士の仲の良さを見せることで、私たち自身が「人生を楽しむロールモデル」になれればと考えています。人と人とのコミュニケーションやつながりの大切さを、大人の背中で伝えていきたいですね。
——先生方ご自身が、生徒にとって一番身近なロールモデルになるというのは素晴らしいですね。
幾川 公之先生日々の学習やホームルームだけでなく、学校行事として遠足や美術館見学などの特別活動も含めて、さまざまな場面を通じて人生の楽しみ方を伝えています。例えば、日々の学習で身につく「学ぶ力」や「やり遂げる力」、そして学んだ内容そのものが、今後の人生でどう役立つのかを意識づけています。これが分かると、ゲームのような趣味の活動をより深く楽しめるようになったり、将来の仕事を楽しめるようになったりするのです。
——学びが人生の楽しさに直結していくのですね。先ほど仰っていた「一人ひとりに寄り添う」という点について、学習面では具体的にどのようなサポートをされているのでしょうか。
幾川 公之先生学習面では、個別指導で丁寧にサポートを行っています。「わかる」「できる」という成功体験を積み重ねることで、少しずつ自信を持ってもらうことが目的です。私たちは生徒の様子をよく観察し、結果だけでなく、努力や取り組みの過程、そして成長した部分を積極的に褒めるようにしています。たとえ答えを間違ってしまっても、「締め切りを守って提出できた」といった姿勢をしっかり評価し、承認することを大切にしています。

目的に合わせた3つのコース:卒業から大学受験、中3支援まで
——通信制高校のサポート校は全国に増えていますが、長野学習センターならではのカリキュラムや学習コースの特徴にはどのようなものがありますか。
幾川 公之先生当校では、生徒の目的に合わせて大きく3つのコースをご用意しています。まず1つ目が「通信制高校サポートコース」です。こちらは、高校卒業資格の取得を目指す基本のコースとなります。
——基本のコースとのことですが、日々の学校生活や進路指導はどのように行われているのでしょうか。
幾川 公之先生多彩な学校行事を通じて高校生活をしっかりと楽しんでいただくと同時に、高校1年生の段階から定期面談やキャリアガイダンスを実施しています。必要な情報を早期から提供し、生徒が希望を持って進路選択ができるよう丁寧にサポートしています。
——卒業後の進路を見据えた手厚いサポートがあるのですね。では、大学進学を希望する生徒に向けたコースもあるのでしょうか。
幾川 公之先生2つ目に「大学受験サテライトコース」があります。こちらは、当校に併設している東進衛星予備校を活用して、大学進学を目指すコースです。
——大手予備校の授業を併用できるのは大変心強いです。こちらのコースならではの強みはありますか。
幾川 公之先生通信制高校での学習と並行して、東進衛星予備校の質の高い授業を受講できる点が最大の強みです。さらに、2025年度からは新たに「総合型選抜・推薦型選抜対策講座」がスタートしました。これにより、通信制高校の生徒の強みを活かした、最適な受験対策が可能となりました。
——時代のニーズに合わせた受験対策も充実しているのですね。高校生だけでなく、これから進学を控える中学生向けのサポートもあると伺いました。
幾川 公之先生3つ目が「中3生対象・高校生活準備・サポート講座」です。これは高校進学にあたって、学力面や環境の変化に不安を抱えている中学3年生を対象としています。毎年6月から月2回、無料で学習支援を行っており、実際の雰囲気を知るための体験授業としてもご利用いただけます。
未来を描くための段階的な進路指導

「次に何をすべきか」という不安を抱える生徒に対し、同校では3年間をかけた段階的なアプローチで向き合います。焦らず、しかし着実に自らの足で未来を描けるようになるための、学年ごとのきめ細やかな支援体制を紐解きます。
1年次:学校生活への定着と自己理解のスタート
——1年次では、具体的にどのようなステップで進路指導をスタートされるのでしょうか。
幾川 公之先生1年次は、何よりもまず「新しい学校生活に慣れること」からスタートします。自分のペースで通学し、安心して過ごせるようになることが第一歩ですね。
——新しい環境に慣れることが最優先なのですね。学校生活に慣れてきた後は、どのように進路について考えていくのでしょうか。
幾川 公之先生高校生活に少しずつ慣れてきた段階で、「興味チェックテスト」や「職業レディネステスト」といった適性検査を実施します。そして、その客観的な結果をもとに個別の面談を行い、進学や就職といった将来の方向性について、生徒と一緒にじっくりと考えていきます。
——早い段階から自己理解を深め、将来の選択肢を探っていくのですね。学習や進路面以外でのサポートはいかがでしょうか。
幾川 公之先生進路に向けた土台作りとして、日々の生活習慣の改善に向けたアドバイスも行っています。また、社会経験としてアルバイトを始めてみたいという生徒がいれば、その心構えや始め方についても丁寧にサポートしています。
2年次:多様な体験を通じた選択肢の絞り込み
——1年次で学校生活に慣れ、自己理解を深めた後、2年次ではどのようなステップに進むのでしょうか。
幾川 公之先生2年次は、とにかく「いろいろなことにチャレンジする年」と位置づけています。
——具体的には、どのような活動へのチャレンジを促しているのですか。
幾川 公之先生例えば、アルバイトや大学のオープンキャンパスへの参加、職場見学、ボランティア活動などです。職場見学やボランティアに関しては、学校側から生徒に紹介し、参加をサポートすることもあります。
——学校外での活動を通して、実際に社会に触れる機会を増やすのですね。そうした体験と並行して、自身の適性を見極めるための取り組みなどはあるのでしょうか。
幾川 公之先生学校では「職業適性検査」を実施しています。さまざまな体験に加えて、この検査で自分の適性を客観的に知ることで、進学先の学部や将来の職種を具体的に絞り込んでいくための材料にしています。
——実際の体験と客観的なデータの両面から、将来の選択肢を明確にしていくわけですね。そうして迎える2年生の最後には、どのような指導を行っていますか。
幾川 公之先生2年生の学年末面談において、いよいよ3年次に向けた具体的な計画を立て、本格的な進路実現に向けた準備を開始します。
3年次:具体的な進路実現に向けた万全の対策体制
——2年生の終わりで本格的な進路実現に向けた準備が始まるとのことでしたが、いよいよ3年次ではどのようなサポートを行っていくのでしょうか。
幾川 公之先生3年次では、生徒一人ひとりが目標とする、具体的な進路の実現に向けた本格的な支援を行っていきます。
——まず、大学や専門学校などへの進学を希望する生徒に対しては、どのような指導をされていますか。
幾川 公之先生進学希望者に対しては、進学ガイダンスの実施や各種奨学金に関するご案内をはじめ、個別の進路面談を通じて、学部・学科別の志望校選定をサポートします。
——志望校が決まった後の、具体的な受験対策についてはいかがでしょうか。
幾川 公之先生受験校の最終的な絞り込みはもちろん、志望理由書の書き方指導から面接対策、さらには各教科の学習指導まで、合格に向けてきめ細かくサポートしています。
——非常に手厚いですね。では、進学ではなく就職を希望する生徒へのサポート体制についても教えてください。
幾川 公之先生就職希望者には、就職ガイダンスを実施した上で、求人票のご案内やその見方から丁寧に指導します。さらに、企業見学の設定、履歴書の書き方指導、面接対策、筆記試験対策など、採用試験に向けて必要となる準備を万全の体制でサポートしています。
——生徒さんのなかには、体調などの理由ですぐに進学や就職を決めるのが難しい方もいらっしゃるかと思います。そうした生徒さんへはどのように対応されていますか。
幾川 公之先生そういった生徒に対しても、決して焦らせることはありません。体調等の理由ですぐの進学や就職が難しい場合であっても、将来に向けてどのような選択肢があるのかを一緒に考え、一人ひとりのペースに合わせて丁寧に支援しています。どんな状況であっても、最後までしっかりと寄り添うことを大切にしています。
不安を安心に変える「心のケア」と「学習支援」

不登校の経験や学習の遅れは、決して「人生を諦める理由」にはなりません。少人数制だからこそ可能な、一人ひとりの心身の状態に寄り添った「現実的」かつ「温かい」伴走の形をご紹介します。
入学時の不安を希望へ:多様な背景を持つ生徒への配慮
——貴校にはどのような背景や悩みを持つ生徒が多く入学しているのでしょうか。また、入学時にはどのような点を大切にして生徒一人ひとりの状況を把握されていますか。
幾川 公之先生まず挙げられるのは、小学校や中学校でさまざまな事情があり、学校に行きづらくなってしまった生徒です。
——そうした生徒さんは、具体的にどのようなお悩みを抱えていることが多いのでしょうか。
幾川 公之先生人間関係のトラブルなどが原因で、人間不信になってしまったり、同年代の生徒に対して強い恐怖心を抱いてしまったりするケースが多く見受けられます。
——人との関わりに深い不安や痛みを抱えていらっしゃるのですね。
幾川 公之先生体調面や特性による理由もあります。例えば、起立性調節障害などの体調不良を抱えている方や、ADHD、自閉症、限局性学習症といった発達の凸凹がある方ですね。
——体調やご自身の特性によっては、毎日決まったスケジュールで通学することが負担になる場合もありますよね。
幾川 公之先生おっしゃる通りです。それに加えて、不安症やうつ、場面緘黙といった精神疾患などを抱えており、毎日通学する全日制高校への進学が難しいと判断されて当校を選ばれる方も多くいらっしゃいます。
——本当に多様な事情や不安を抱えた生徒さんがいらっしゃるのですね。そうした皆さんが入学される際、先生方はどのようなことを大切にされているのでしょうか。
幾川 公之先生入学時には、新しい高校生活に少しでも希望を持ってもらえるようなお声がけを大切にしています。具体的には、同じような状況からスタートしても、現在この長野学習センターで楽しく高校生活を送っている先輩や、卒業後に就職・進学先で立派に頑張っている先輩の様子をお伝えしています。
少人数制ならではのきめ細かいメンタルサポート
——不登校経験のある生徒や学校生活に不安を抱える生徒に対して、メンタル面ではどのようなサポートを行っていますか。日常の関わり方や工夫していることがあれば教えてください。
幾川 公之先生まずは、毎日登校した生徒の様子をしっかりと観察し、小さな変化にも気づけるようにしています。日々の挨拶や雑談の中で、不安や悩みをさりげなく聞き出し、必要と感じた場合には時間を取ってカウンセリングを実施しています。また、LINEを通じて悩み相談をしてくれる生徒や保護者の方も多いですね。
——日常的なコミュニケーションや身近なツールを活用して、気軽に相談できる環境を整えられているのですね。定期的な面談などは設けられているのでしょうか。
幾川 公之先生はい、年3回の三者定期面談を実施しています。そこで生徒や保護者の方の不安や悩みをお聞きし、その後の指導内容を一人ひとりに合わせて改善・調整しています。
——定期面談のタイミング以外でも、相談する機会はありますか。
幾川 公之先生もちろんです。ご要望があれば、いつでも二者面談や三者面談を実施しています。先ほども申し上げた通り、私たちは、生徒ご本人だけでなく、保護者の方のメンタルケアも非常に重要であると意識して対応しています。
——ご家庭との連携も密に行われているのですね。学校外の機関と連携してサポートすることもあるのでしょうか。
幾川 公之先生はい、ご家庭からの要望や状況の必要性に応じて、医療機関や出身中学校などを交えた支援会議も実施しています。外部の専門機関とも連携することで、より適切なサポートができるよう心がけています。
——日々の些細な変化への気づきから、専門機関との連携まで、非常に手厚い体制が整っていると感じます。
幾川 公之先生そうですね。こうした日々の見守りや柔軟な面談、関係機関との連携は、少人数制の学校だからこそ実現できる強みです。一人ひとりに寄り添った、きめ細かい対応を今後も大切にしていきたいと考えています。
基礎から「わかる」を積み上げる:個々の習熟度に合わせた指導
——生徒さんによって学力や学習習慣に差が生じてくると思います。それぞれの状況に合わせた学習支援はかなり難しいかと思いますが、具体的にどのような工夫をされているのか伺ってもよろしいでしょうか。
幾川 公之先生生徒間の学力差は非常に大きいです。例えば、昨年入学した1年生の生徒のケースですが、中学生の時に体験授業に来てくれた際、繰り上がりの足し算ができない状態でした。そこから先の算数が、ほぼ全て理解できていなかったのです。
——そうだったのですね。
幾川 公之先生そのため、保護者の方や生徒本人とざっくばらんに話し合いました。限られた時間の中で、高校の学習内容を全て理解するのは正直なところ不可能です。そこで、まずは教科書の例題を見て、真似をしながら問題を解くことから始めました。数学に関しては、合格の最低基準となる点数だけを頑張って取るという目標を設定したのです。
——ある種の割り切りや、優先順位をつけて取り組まれたのですね。
幾川 公之先生その生徒は、英語や国語は得意だったので、そちらに力を入れて伸ばしていく方針にしました。
——確かに、苦手なところばかり一生懸命やろうとすると、勉強に対する苦手意識をより強めてしまいますよね。
幾川 公之先生おっしゃる通りです。それでは途中で挫折してしまいますからね。全日制高校に通っている生徒でも、授業の内容を100%理解できている子は少ないはずです。
ただ、彼女の場合も四則計算や分数など、大人になって日常生活で困らない程度の計算力は必要です。そこで保護者の方にもご協力をお願いしました。
——保護者の方と連携しながら進められているのですね。実際に「四則計算ができないので、小学校低学年のレベルからやり直しましょう」と提案された際、保護者の方の反応はいかがでしたか。
幾川 公之先生保護者の方も、お子様の現状については理解されていました。ただ、それに対して具体的にどう対処すればいいのかが分からず、悩んでいらっしゃる状態だったのです。
そこで、保護者の方には具体的に「このような問題集を買ってください」「こういうペースで進めてください」「この単元はやらなくて大丈夫です」といったことを細かくお伝えしています。やり方さえ分かれば、ご家庭でもサポートしていただける部分はたくさんあると思いますので、そのように連携しています。
自己否定を乗り越えた生徒たちの成長

実際の支援の現場では、どのようなドラマが生まれているのでしょうか。ネット中心の生活や進学校での葛藤を乗り越え、自分らしい進路を掴み取って笑顔を取り戻した生徒たちの、具体的な変容の軌跡をたどります。
ネット生活からの脱却:リアルな楽しさが拓いた大学合格
——先生方の熱意や工夫ある指導を通じて、実際に生徒さんの意識や目標が変化したと感じられたエピソードはありますか。
幾川 公之先生お二人の生徒の顔が浮かんだのですが、まず一人目のケースをお話しします。その生徒は小学5年生の頃から不登校になり、そこから中学校を卒業するまで、ずっとインターネット中心の生活を続けていました。基礎学力はあったため当校に入学していただき、勉強面では最初はすごく苦労したものの、なんとか続けることはできていました。
——学習面以外でのご様子はいかがでしたか。
幾川 公之先生私たち教員はもちろん、同級生など周囲の人と全くコミュニケーションが取れない状態がしばらく続いていました。そこで、まずは「リアルの世界も楽しいんだよ」ということを知ってもらおうと考えたのです。ただ、昼夜逆転の生活を送っていたため、学校行事の日であっても朝起きられない状態でした。
——生活リズムを整えるところからのスタートだったのですね。
幾川 公之先生そこで保護者の方にもご協力いただき、なんとか行事の日だけでも送迎をお願いして、学校に来てもらうようにしました。そうした取り組みを続けていく中で、少しずつ同級生との関わりが生まれたり、私たちとも話をする機会が増えたりしていきました。やがて、自分のことも話してくれるようになり、同学年の中で言葉を交わせる友人もできたのです。
——周囲のサポートによって、少しずつ心を開いていったのですね。
幾川 公之先生ええ。そうしてリアルの世界での時間が少しずつ増えていくにつれて、インターネットに費やす時間も自然と減っていきました。これが1年生の時のことです。
——素晴らしい変化ですね。その後、2年生になってからはどのような成長が見られましたか。
幾川 公之先生2年生になると、かなり仲の良い友人ができ、一緒に遊びに行くまでになりました。その様子を見て、「将来のことも前向きに考えられるようになってきたかな」と感じたので、時間を作って将来について話し合うことにしました。最初は消去法でしたね。「高校を卒業してすぐに働く?」と聞くと「それは無理です」と答えるので、「では進学する?」と尋ねていきました。そして話し合ううちに、昔から好きだったプログラミングなどの分野であれば興味があるかもしれない、と進路が見えてきたのです。
「国公立」の呪縛を解く:自分らしい学びを見つけるまで
——もう一人、印象に残っている生徒さんがいらっしゃると伺いましたが、どのようなケースだったのでしょうか。
幾川 公之先生はい、もう一人は地域のトップレベルの進学校から転校してきた生徒です。
——進学校からの転校だったのですね。
幾川 公之先生その生徒には「どうしても国公立大学に行かなければならない」という非常に強い思い込みがありました。しかし、なかなか成績が伸びず、進学校の中では下位の成績だったことで深く悩み、心身の調子を崩して当校へ転校してきたのです。2年生の終わり頃のことでした。
——高い目標を持つことは素晴らしいことですが、それがプレッシャーになってしまったのですね。
幾川 公之先生そうですね。「こうしなければならない」という強い気持ちがプラスに働くこともありますが、彼の場合はマイナスに働いてしまっていました。自分の現在の学力と、掲げている目標とのギャップが大きすぎたのです。そこで私は、「どこの大学に入るかではなく、大学で何をするか、何をしたいかで進路を選ぶんだよ」という話を繰り返し伝えました。
——ご家庭の反応はいかがでしたか。
幾川 公之先生幸いなことに、保護者の方が「本人が本当に勉強したいことができるのであれば、どこの大学でもいいよ」と言ってくださったのです。そのおかげで、彼自身もなんとか気持ちを切り替えて、新しいスタートを切ることができました。
——ご家族の理解があったことは、彼にとって大きな救いになったでしょうね。
幾川 公之先生ええ。ただ、それまで国公立大学しか視野に入れていなかったため、いざ私立大学を探すとなると非常に大変でした。全く考えていなかった選択肢の中から第一志望の大学を見つけるため、一緒に懸命に調べました。なんとかいくつか候補を見つけて見学に行き、夏頃にようやく第一志望の大学が決まりました。
——ご自身のやりたいことと向き合い、納得のいく進路が見つかったのですね。
幾川 公之先生そうなのです。第一志望が決まり、自分がやりたい勉強ができる環境で、なおかつ保護者の方も応援してくれているという状況になって、初めて彼の顔に笑顔が戻りました。それまでは、ずっと思い詰めたような暗い表情をしていたのです。
——心のつかえが取れた瞬間だったのでしょうね。その後、学校生活に変化はありましたか。
幾川 公之先生そこから受験勉強にも前向きに取り組むようになり、学校行事にも参加してくれるようになりました。2年生の後半に転校してきたため、それまでは友人もいなかったのですが、行事に参加することで友達もできるようになりました。
——学習面でも生活面でも、大きな変化があったのですね。
幾川 公之先生最後の半年間は、本当に安心して見守ることができました。勉強にもすごく集中して取り組めるようになり、最終的には見事、第一志望の大学に合格を果たしました。
自信の回復:不登校を乗り越えリーダーシップを発揮した成長
——入学当初は不安を抱えていた生徒が、学校生活を通して前向きに変化したと感じる場面はありますか。印象に残っている生徒の成長のエピソードがあれば教えてください。
幾川 公之先生中学1年生から不登校だった生徒のケースです。自分に自信がなく、当校へ来る前は人とのコミュニケーションも本当に少ない状態でした。ただ、中学3年生の頃から見学などで足を運んでくれていたため、時間をかけてゆっくりと話しかけるようにしました。そうするうちに少しずつやり取りが増え、次第に笑顔を見せてくれるようになりました。
——中学時代から丁寧に信頼関係を築かれてきたのですね。入学後は、どのようなご様子だったのでしょうか。
幾川 公之先生入学後は、私たち職員とは少し話せるようになったものの、同級生とはなかなか話せずにいました。そこで、学校行事にはできるだけ参加するように声をかけてみたのです。あるとき、屋外での活動で気持ちが開放的になった際、同性の同級生と仲良くなることができました。それからは、一緒に遊びに行ったり、連れ立って登校したりするようになりました。
——お友達ができたことで、学校生活も大きく変わったのではないでしょうか。
幾川 公之先生そこから本人も自信を持てるようになり、自分の将来についても前向きに考えられるようになりました。勉強に対する意欲も格段に高まりましたね。また、保護者の方がお子様のペースを尊重し、変化を辛抱強く待ってくださったことも非常に良かったと感じています。
——ご家庭の温かい見守りも大きな後押しになったのですね。進路については、どのように決めていったのでしょうか。
幾川 公之先生高校2年生の2月に第一志望校を決めました。それからは、総合型選抜や推薦型選抜での合格を目標に、継続して努力を重ねていきました。
——目標に向かって真っすぐ努力できるようになったのは、素晴らしい成長ですね。
幾川 公之先生さらに学習面だけでなく、下級生に対しても優しく気遣いをしてくれるようになりました。入学式では在校生代表として挨拶を務め、さまざまな学校行事でも先輩として立派にリーダーシップを発揮してくれたのです。そして最終的には、見事第一志望校に合格することができました。
卒業の先にある「幸せ」を掴むために

教育の真のゴールは進路決定だけではなく、その先にある長い人生を自分らしく幸せに生き抜くことにあります。卒業までに生徒へ授けたい「三つの力」と、後悔しない学校選びのために保護者が知っておくべきアドバイスをお届けします。
この学び舎で授けたい「自己肯定感」と「他者への信頼」
——ここまで、生徒さんたちの卒業までの具体的なエピソードをお聞かせいただきました。改めて伺いたいのですが、生徒さんが卒業するまでに、どのような力や姿勢を身につけてほしいとお考えでしょうか。
幾川 公之先生改めて考えてみたのですが、大きく分けて3つあります。
1つ目は、先ほどもお話ししたように、「自分の人生は生きるに値するものだ」という感覚や実感を、しっかりと持たせてあげたいということです。
——自己肯定感や、生きる希望のようなものでしょうか。
幾川 公之先生そうですね。その実感さえあれば、これから先の人生で多少挫けることがあっても、時間はかかるかもしれませんが、また回復して頑張れると思うのです。
そして2つ目は、「人生の楽しみ方」を知ってほしいということです。「人生は楽しいんだよ」ということを伝えていきたいですね。
——ネットの世界でしか、具体的な人生の楽しみ方を知らない生徒さんも多いのでしょうか。
幾川 公之先生おっしゃる通りです。だからこそ、当校ではリアルな体験を大切にしています。例えば、今年の5月に遠足で初めて植物園に行きました。実は当初、同僚の職員からは「植物園なんて生徒はつまらないよ」と反対されたのです。
——確かに、高校生の遠足先としては少し渋いと思われるかもしれませんね。
幾川 公之先生ええ。それでも「まずは1回やってみよう」と半ば強行して行ってみました。すると後日、生徒たちから「これからは登下校の道で花を見てみようと思います」「初めて花を真面目に見ました」といった感想をもらえたのです。本当にやってよかったなと思いました。
——リアルな体験を通して、日常の中にある新しい楽しみ方を発見できたのですね。
幾川 公之先生そして3つ目は、「社会や他者に対する信頼感」を持てるようにしてあげたい、ということです。
先ほどもお話ししたように、不登校の経験の中で人間不信になっている生徒がいます。例えばいじめなどが原因で同年代の子がすごく怖くなった、あるいは、学校で男性教師にひどい怒られ方をした経験から、大人の男性が極端に苦手になってしまった生徒もいます。
そういう生徒は、今の学校そのものを信用できていませんし、もっと広く言えば、社会全体に対する信頼感を失ってしまっているのだと思います。しかし、他者や社会に対する信頼感を取り戻してあげないと、その後の人生で幸せを感じることがなかなか難しくなってしまいます。
だからこそ、当校での生活を通じて「社会もまだまだ捨てたものじゃないな」と感じてほしいと願っています。
進学指導の最前線を知るからこそ提供できる「心に寄り添う教育」
——先生のご経歴についてもお伺いしたいのですが、以前は予備校でお仕事をされていたそうですね。
幾川 公之先生はい。20年間ほど予備校の校舎長を務め、その後現在の職に就きました。
——予備校時代と現在とでは、生徒さんとの関わり方などにどのような違いを感じていらっしゃいますか。
幾川 公之先生以前とは全く違うことをやっているような感覚はあります。進学校の生徒を難関大学に合格させるというのも、当然やりがいのある仕事でしたし、そうした生徒たちとは日々非常に刺激のある会話ができていたと思います。
——そうした大きなやりがいがある中で、今の学校の生徒さんたちと接していて感じることは何でしょうか。
幾川 公之先生本当の意味で助けを必要としているのは、今この長野学習センターに来てくれている生徒たちなのかな、と強く感じています。
——先生のその温かい思いが、日々のきめ細かいサポートや生徒さんへの寄り添いに繋がっているのですね。
後悔しない学校選び:見学で「自分に合う環境」を見極める
——通信制高校やサポート校への進学を検討されている中学生や高校生、そして保護者の方に向けて、学校選びのポイントやメッセージをお願いいたします。
幾川 公之先生私もこの仕事を始めたばかりの頃は、通信制高校の仕組みが本当に分かりづらく、パンフレットを見ただけでは全く理解できませんでした。
——確かに、全日制高校とは異なる複雑な仕組みがありますよね。
幾川 公之先生最初は先輩の先生に説明してもらって、ようやく理解できたことばかりでした。そのため、やはり一番重要なのは実際に「学校見学」に行くことです。大抵の方は3〜4校ほど見学に行って比較されますので、まずは気軽に、たくさん見学に行かれると良いと思います。
——実際に足を運んで比較することが大切なのですね。
幾川 公之先生最終的には生徒ご本人が「合うか合わないか」が一番大切ですので、ご本人に合う学校を選んでいただくのが良いと思います。ただ、不登校などで元気がない状態のお子様ですと、何校も見学に行くのは負担が大きいこともあります。
そのため、最初のうちは保護者の方だけで見学に行く形でも構いません。保護者の方がある程度見学して仕組みを理解した上で、「ここは良さそうだから子どもを連れて行こう」と絞り込むやり方もあると思います。
——とにかく実際に足を運んで話を聞き、ご自身の目で見ていただくのが良いということですね。見学の際には、どのような点に注目すればよいでしょうか。
幾川 公之先生校舎の雰囲気ですね。当校は少人数制ですので、比較的落ち着いた環境を好む方に向いていると思います。一方で、もっと規模が大きく賑やかな環境の方が好きだという方もいらっしゃるでしょう。そういった環境面や、実際に教えてくれる先生との相性を確かめることが大切です。
——環境や先生との相性以外にも、チェックすべきポイントはありますか。
幾川 公之先生あとは「通いやすさ」も重要ですね。どんなに良い学校でも、通学に1時間もかかると負担になります。
実際に当校にも1時間以上かけて通ってくれている生徒はいますが、やはり大変だろうなと感じています。学校が遠いと、どうしても足が遠のきやすくなってしまいます。「今日は雨が降っているから休もう」といったことにもなりかねませんので、無理なく通える場所かどうかも含めて検討されると良いと思います。
当校は長野電鉄の市役所前駅からも近く、沿線にお住まいの方はとても通いやすい立地です。
——毎日の通いやすさも、学校選びの大きなポイントになりますね。その他に、学習面や学校のシステムなどで確認しておくべきことはありますか。
幾川 公之先生学校選びの際には、学習や進路のサポート体制が自分に合っているかどうかが非常に重要です。各学校で特徴が大きく異なるため、大人数が合うのか少人数が良いのか、学習をある程度自分で進められるのか、それとも細やかなサポートが必要なのかといった点を総合的に判断してください。
また、学校行事やスクーリングの仕組みも学校によって全く違います。特に、強制参加となる行事があるのか、どのような雰囲気で行われているのかといった点は、見学時に詳しく聞いておくと安心できると思います。
自分の人生は「生きるに値する」――笑顔で未来へ踏み出す一歩を
信州中央高等学院長野学習センターが目指すのは、単なる卒業資格の取得ではなく、生徒が「自分の人生は楽しい」という実感を持って社会へ踏み出すことです。
学力の優先順位を整理し、大人が人生を楽しむ背中を見せることで、生徒たちは少しずつ自信と他者への信頼を取り戻していきます。大切なのは、焦らず一人ひとりのペースで進むこと。
学校選びの際は、ぜひ複数の校舎を訪れ、先生との相性や空気感を肌で感じてみてください。
