非認知能力を可視化、海陽学園の“共通言語”が育むスキル

 日本屈指のリーダー育成の教育を誇る全寮制中高一貫校として注目が高まる海陽学園は、コミュニケーション力や問題解決能力など「非認知能力」の重要性に着目。これらの能力を可視化し伸ばすツール「海陽版ディスカバリーメソッド」を導入し3年目の生徒と先生の変化とは。

教育・受験 小学生
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左から、海陽学園 中学3年生の学年主任 武田眞史先生、中学3年生の上嶋啓太さん、鶴田明人さん
  • 左から、海陽学園 中学3年生の学年主任 武田眞史先生、中学3年生の上嶋啓太さん、鶴田明人さん
  • 海陽学園 中学3年生の学年主任 武田眞史先生
  • 「ディスカバリーメソッド」の指標の基となっている3つの領域と8つの能力
  • 「海陽版ディスカバリーメソッド」の行動サイクル。アセスメントで自分を知り、行動マーカーで確認、実践と振り返りを行うというサイクルを繰り返す
  • 「海陽版ディスカバリーメソッド」の行動マーカー
  • 海陽学園 中学3年生 鶴田明人さん
  • 海陽学園 中学3年生 上嶋啓太さん

 日本屈指のリーダー育成の教育を誇る全寮制中高一貫校として注目が高まる海陽学園。同校では、コミュニケーション力や問題解決能力といった「非認知能力」の重要性に着目し、これらの能力を可視化し伸ばしていくためのツール「海陽版ディスカバリーメソッド」(※)を2021年より導入している。

 このツールを生徒の教育にどのように生かしているのか。「海陽版ディスカバリーメソッド」導入の旗振り役を務める中学3年生の学年主任 武田眞史先生、実際にそのメソッドを学園の生活・活動に取り入れて3年目となる中学3年生の上嶋啓太さん、鶴田明人さんに話を聞いた。

「自ら成長する力」を養う

--自己紹介をお願いいたします。

武田先生:海陽学園は今年で創立18年目を迎えました。私自身は海陽学園に赴任して11年目となります。全学年の数学を担当しているほか、学生時代の経験を生かしアメフト部の顧問をしております。今回、本学園にとって新しい取組みである「海陽版ディスカバリーメソッド」の導入を2021年から先導してきました。

上嶋さん:僕は広島県出身です。小学校4年生のときに、四国の山村留学の実話をもとにした物語を読み、親元を離れて暮らす生活に憧れたことがきっかけで海陽学園に興味をもちました。海陽学園のいちばんの魅力は、24時間友達と一緒にいられること。「毎日が修学旅行みたいだろうな」という入学前の想像どおりの学校でした。

鶴田さん:僕は愛知県名古屋市の出身です。県内の学校をいろいろ検討するなかで海陽学園の存在を知りました。小学生のころ、学童で何度もキャンプに行って両親と離れることに慣れていたので、全寮制の学校に入ることに抵抗はありませんでした。ずっと友達と一緒にいられるので、より仲の良い友達ができたらと思い海陽学園に決めました。学校体験で見学した寮がとてもきれいだったこと、親に頼れないぶん日常生活面でも成長できると思ったことも、海陽を志望した理由です。

※「海陽版ディスカバリーメソッド」とは:

 Z会ソリューションズが提供している「ディスカバリーメソッド」をもとに、海陽学園の教育目標に合わせて開発したオリジナル版の非認知能力可視化・育成ツール。2つのアセスメント「スキルチェック(客観評価)」と「セルフチェック(自己評価)」とリフレクション(振返り)を通じて、生徒自身の資質や能力を測定することができる。

--まず、武田先生ご自身の「非認知能力」についてのお考えを教えてください。

武田先生:「非認知能力」という言葉自体はここ最近になって注目を浴び始めた言葉ですが、日本には昔から非認知能力を伸ばす仕組みがあったと考えています。たとえば「論語の教え」が、時代を先導するリーダー達に大きな影響をおよぼしたように、日本人はその歴史過程のなかで非認知能力を伸ばしてきました。かつての「論語」のような役割を担いつつ、現代の学校教育にマッチする手立てはないかと考えたときにZ会ソリューションズが提供している非認知能力可視化ツール「ディスカバリーメソッド」の存在を知りました。

「ディスカバリーメソッド」の指標の基となっている3つの領域と8つの能力

--非認知能力を伸ばすと、どのようなメリットがあるとお考えでしょうか。

武田先生:リーダーシップやコミュニケーション能力、自己管理能力といった非認知能力を伸ばすことで何が起こるかというと、能力そのものを伸ばすことはもちろん、「自分で自分自身を成長させていくことができる力」の育成につながると考えています。

 教員が生徒を成長させるという認識でいると、おそらく生徒の成長というのは教員と同じレベルで止まってしまいます。ですが、生徒自身が「自分で成長していく力」をもっていれば、教員の力をはるかに超えたところまで成長していってくれるでしょう。

『生徒自身が「自分で成長していく力」をもてば、教員の力をはるかに超えたところまで成長していってくれる』(武田先生)

--6年間の海陽学園での教育活動によって生徒に身に付けてほしいと考えている力と、その力が必要な理由を教えてください。

武田先生:やはりハウス(寮)生活があるというところで、集団の中で人とうまくやっていく力は不可欠ですね。人の上に立ってリーダーシップを発揮する力もそうですし、リーダーに対するフォローアップをしっかり発揮できるといった、集団のなかでの立ち位置をしっかり見極めてほしいなというところがまずひとつ。

 もうひとつは、本校の建学の精神である「将来の日本を牽引する人材の育成」を見据えた力。高い教養を身に付けるという学力の部分だけではなく、相手への共感力や対人能力においてもしっかりとしたものをもっていてほしいと思っております。日本のリーダー、世界のリーダーとして、人の上に立ったときに、そこでしっかり輝ける能力を身に付けてほしいですね。

--その生徒たちの力を可視化し伸ばそうと着目したのが「ディスカバリーメソッド」なのですね。

武田先生:海陽学園の生徒たちを見ていて、日頃の教育活動を通じて非認知能力もきちんと育まれているという思いはありました。しかし、その非認知能力を伸ばす方法は、教職員の勘であったり経験であったりと、形として見えてこないという課題もありました。

 「ディスカバリーメソッド」を導入することで、「非認知能力」を可視化して測ることができるようになり勘や経験に頼っていたものを方法論としてしっかりと確立できるようになるという2つの意義は大きいと感じました。

--入学して間もない2021年5月に初めて先生方も生徒の皆さんも「ディスカバリーメソッド」を受検したそうですが、そのときの感想を教えてください。

武田先生:まず実施したのはセルフチェックが20分、スキルチェックが40分、トータル60分で行うアセスメントです。私自身も初めての挑戦だったので「どんなことをやるんだろう」という生徒たちと同じ気持ちで受検しました。「これをやる意味は…」と堅苦しいことは伝えずに、楽しんで取り組みました。

上嶋さん:入学したばかりだったので、まったく先入観がないまま受けました。自分が答えたものがスコア化された結果を見て「自分ではできると思っていたけど、意外とできない」という項目や「この能力、結構高いんだ」という部分がわかったのはおもしろかったですね。

鶴田さん:はじめは、小学校の道徳のアンケートみたいなのものかな? と思いながら取り組みました。徐々に「リーダーを育成する」という海陽学園の教育方針に関係してくるのかなと感じました。

海陽生としての行動の指標を策定

--第1回受検後に開発したオリジナル版「海陽版ディスカバリーメソッド」の特徴を教えてください。

武田先生:「ディスカバリーメソッド」定型の行動マーカー*をもとに、海陽学園の教育目標にあった行動マーカーを選定しました。入学したばかりの中学1年生に向けて「自己管理」「チームワークと集団行動」「コミュニケーション」といった自律的行動に関するものを意識して選定し、海陽生向けに文言をブラッシュアップしました。生徒たちには、まずはアセスメントで自分を知ってもらい、行動マーカーを指針とした望ましい行動について座学を行うことで理解を深めていきます。そのうえでさまざまな機会で実践を行い、振り返りを行う、というサイクルを繰り返していきます。*行動マーカー:行動を振り返り自分自身を知るための指標

アセスメントで自分を知り、行動マーカーで確認、実践と振り返りを行うというサイクルを繰り返す

--現在導入から3年目となりますが、どのように教育活動に組み込んできたのでしょうか。

武田先生:生徒たちは、定期試験や学期ごと、体育祭や課外活動など、行事ごとに常に振り返りを行います。なぜこの行動がうまくいったのか、うまくいかなかったのか、うまくいった理由はどの行動マーカーに関わるところなのか。この行動を指針としたらもっとうまくいったのではないか、ということをシートに記入をしながら振り返っていくのです。

 冒頭に「論語の教え」について述べましたが、論語というものはたとえ意味がわからなくても子供たちは声に出して読んでいますよね。それと同じように、何度も行動マーカーの指針に触れることが、海陽学園の教育目標を理解することにつながると考えています。また、日常生活の中で教職員が生徒に声がけをするときも、行動マーカーを意識した言葉を使うことで、「この行動にはこういう意味がある」という意識を定着させるようにしています。

--特別なワークショップもあるそうですね。

武田先生:たとえば、定期試験の振り返りはどうしても自己管理の部分に偏ってしまいがちです。また、リーダーシップをとる子はだいたい決まっているなど、役割がある程度固定されてしまう側面もあります。そこで、生徒たちにあえて疑似的な立場を与えることで「こういう役割だったらどう行動すればよいのか」ということを経験させるのがワークショップの狙いです。ロールプレイを通して、ふだんとは違った立場に立つことで、多様な視点での振り返りにつなげています。

--どのようなワークショップだったのでしょうか。

鶴田さん:みんなで協力してトランプを積み上げて、一番高く積み上げたチームが勝ちというワークショップが印象に残っています。はじめにトランプとテープが配られて、テープを使って順調に積み上げていたのですが…途中でテープを取られるというアクシデントに見舞われました。この“途中で何か問題が発生する”というのは予告されていたのですが、それがテープを取られるということがわかって。そういった予想外の事態も考慮して行動していくことや、いかにリカバリーをしていくかという方法についても考えさせられました。

海陽学園 中学3年生 鶴田明人さん

上嶋さん:僕たちのチームにはトランプとホチキスが配布されたのですが、ホチキスを使える回数にも限りがあって。高く積み上げるためには、一段にこのくらい使えばいいという戦略を立てたのですが、それを計算しているうちに時間がなくなってしまって…。とりあえず手を動かすことも大事だということを実感として学びました。

「自分自身の変化」を実感

--2年間続けてきて、行動マーカーを意識して取り組んだ具体的な例を教えてください。また、自分自身の変化やスキルが向上したと実感できた体験について教えてください。

上嶋さん:問題が起こったら行動マーカーに置き換える、困ったら何か行動マーカーにヒントがあるんじゃないかなと考える機会が増えています。僕は野球部ですが、先輩との代替わりで、初めて自分たちでいろいろ決めていかなければならないとき、なんとなく1人を責めるような感じになってしまったのですが、それでは余計に関係が悪化するだけですよね。そこで「誰が間違っているかではなく、何が問題か」という行動マーカーに基づいて、“輪を乱す人ではなく乱させるような原因を考えよう”と思い立ち実行しました。結果として、練習のやり方を変えることでうまくいったという経験がとても印象に残っています。

--上嶋さんは課外活動として、数学オリンピックや科学の甲子園にも出場されています。そのスキルは生かせたのでしょうか。

上嶋さん:特に科学の甲子園はチーム戦で行うので、リーダーシップフォロワーシップといったコアなコミュニケーションが必要になります。それぞれの得意分野は引っ張って、苦手分野は助けてもらう、それがうまくいったおかげで全国2位という好成績をおさめることができたのかなと思っています。

海陽学園 中学3年生 上嶋啓太さん

--鶴田さんはいかがでしょうか。

鶴田さん:僕は自己管理という面で、最近少しずつ計画性が身に付いてきたと思います。春休みや夏休みといった長期休暇になると、学校からたくさんの課題が出るのですが、1年生のころは最終日ギリギリで終わるような感じでした。高校2年生の終わりの春休みの課題は3日前には終わらせることができました。常に自分の行動を振り返って、行動マーカーを思い出して自分と向き合い考える習慣が、この2年で身に付いたからこそ変われたと感じています。

--先生から見て、生徒たちにどのような変化が見えますか。

武田先生:アセスメントの結果にも表れているのですが、1回目と2回目ではセルフチェックのスコアが下がりました。どういうことかというと、最初は、なんとなくの自己評価だったのが、2回目には自分ができることとできないことが具体的に見えるようになったということ。行動マーカーの振り返りを通じて、自分自身を深く知ることができるようになってきていると思います。

 1年生のときは「自己管理」と「チームワークと集団行動」に関する行動マーカーの指標をメインに選定し意識させていました。それを2年生になった時点で「リーダーシップ」「コミュニケーション」についての行動マーカーに意図的に選定をし直しました。2年間の結果から、意識させたところのスキルは伸びていて、後回しにしているスキルは下がったという変化が見えました。行動マーカーを通じて彼らに伝えていることに意味はあると可視化できたことも興味深いですね。

--どの分野のスキルが伸びていると感じますか。

武田先生:集団行動とチームワークに関するスキルはかなり上がっています。ハウスでは何をするにもまわりの理解を得ることが欠かせません。自分の意見を前面に押し出すのではなく、まず他の人の意見を受け入れる、円滑に自分の意見を通すということがうまくなっているという気はします。自分の意見ばかりを言う子に対しても、否定するのではなく「こういう意見もあるよね」と、一歩引いたところで見られるようになっていて、みんな大人になったなと思います。

行動マーカーは先生と生徒の共通の“ものさし”

--今後の海陽学園の非認知能力向上の取組みの展望を教えてください。

武田先生:「海陽版ディスカバリーメソッド」で策定した行動マーカーは、先生も生徒もハウススタッフにも浸透している共通の指針です。これは共通の“ものさし”みたいなものがたくさんでき上がったということ。たとえば、この学年はこの力が弱いからもっとこうしていこう、この子のこの部分を伸ばしていこうといった、共通の言語ができ上がったことで、子供に向けたアドバイスはもちろん教職員の間でも話が通じやすくなりますよね。学園全体でひとつの指針を共有していくことの意義はとても大きいと感じています。

 中学3年生の彼らが卒業するころには、中学1年生~高校3年生全学年の海陽版の行動マーカーができ上がりますが、それが完成形だとは考えておりません。どの学年にどの行動マーカーを割り当てると、生徒たちの非認知能力向上につながっていくのか、より良くアレンジし「海陽版ディスカバリーメソッド」が学園の文化として根付くようアップデートしていきたいと思います。

--最後に、ご自身が特に伸ばしていきたい力について教えてください。

上嶋さん:将来、どこでどんな生き方をするにしても、人とのコミュニケーションは絶対に必要になります。集団にいると自分と気が合う人ばかりではありません。だからといって付き合わないではなく、どううまく関係を保っていくかが大事。ひとつのゴールを目指すために、どんな人とも協力していけるような力を伸ばしていきたいと思っています。

鶴田さん:僕も、コミュニケーション力を伸ばしていきたいなと思っています。海陽学園のハウスでは先輩も後輩もひとつの寮で生活をします。昨年は、中学3年生の先輩とあまり会話ができなかったなという反省があったので、今年はもっと自分から積極的にコミュニケーションをとりたいと思っています。そうやって自分をもっともっと成長させていきたいです。

--ありがとうございました。


 行動の振返りを繰り返し、社会で必要なさまざまな能力を伸ばしていく海陽学園の生徒たち。これまで測定が難しいとされていた「非認知能力」が見えるようになったことで、自分自身のふるまいや、強み、弱みを知ることができる機会は成長過程の子供たちにとって、大きな意味をもつに違いない。「中高一貫の6年間で、非認知能力を精一杯伸ばし、いっそう大きな器を備えて世の中に羽ばたいてほしい」という海陽学園の先生方の思いが、その取組みのようすからも伝わってくるインタビューだった。

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《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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