教育インフルエンサー「じゅそうけん」が語る中学受験で“やってはいけない”受験校選び

 現在フォロワー数約9万人のXアカウント「じゅそうけん」を運用する、新進気鋭の若手学歴研究家、伊藤滉一郎さん。365日絶えず受験情報を収集し続けているじゅそうけんさんに、令和の受験のリアルと“やってはいけない”受験校選びについて話を聞いた。

教育・受験 小学生
Xアカウント「じゅそうけん」を運用する、新進気鋭の若手学歴研究家、伊藤滉一郎さん
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 現在フォロワー数約9万人のXアカウント「じゅそうけん」を運用する、新進気鋭の若手学歴研究家、伊藤滉一郎さん。このたび、溢れる情報に惑い悩む親たちに向けて、『中学受験 子どもの人生を本気で考えた受験校選び戦略』(KADOKAWA)を上梓した。

 365日絶えず受験情報を収集し続けているじゅそうけんさんに、令和の受験のリアルと“やってはいけない”受験校選びについて話を聞いた。

親が先走り、子供が置き去りにされる中学受験

--なぜこの本を書こうと思われたのか、その背景を教えてください。

 私はおもにXで発信していますが、そこには子供の中学受験に伴走する“中受パパ・ママ”アカウントがたくさんあり、結構賑わっています。

 中には、アカウントに子供の塾名や所属クラス、受験年度を入れ、模試や入試の結果まで公開しているような投稿もあり、熱心になるあまり親ばかり先走って、肝心の子供が置き去りにされているような様相を呈していることに違和感がありました。

 情報やデータに頼るだけでなく、子供ひとりひとりに向き合った中学受験をしてほしい。そう痛感したことが、本書の執筆に至ったきっかけです。僕自身は中学受験関係者でも親でもないので、ある意味客観的な視点から書けることがあるんじゃないかな、と。

--タイトルに「子供の人生を本気で考えた」とありますが、なぜタイトルにこの言葉を入れようと思ったのですか。

 少し前、中学受験が“ポケモンゲーム化”しているという指摘が話題になりました。わが子をポケモンに見立て、親がトレーナーになって課金し、さまざまな武器を持たせてより強い敵、つまり偏差値の高い学校を倒すというものです。このように、親が知らず知らずのうちに前のめりになってしまう背景には大きく2つ要因があると思っています。

 ひとつは少子化の進行です。ひとりっ子が増え、親が子供にかける時間もお金も1人に集中投下されています。さらに今は両親共働きの家庭も多く、必然的に「この1人を立派に育てたい」という意識がひと昔前よりも強くなっているのではないでしょうか。

 もうひとつは、今の親世代が就職氷河期を経験した世代であること。就活で苦労されている方が多いので、有名大学の学歴や難関国家資格を身に付けさせようと、子供には早めに安定したルートに乗せておきたいという思いがあるのでしょう。

 でも、中学受験をして入学する中高一貫校は、子供が6年間毎日過ごす場所です。だからこそ、「子供の人生を本気で考えた」という言葉を入れることで、前のめりになっている親御さんたちに「親主導ではなく、ちゃんと子供自身が主体となって決めた方が良いんじゃないか」というメッセージを伝えたいと思いました。

--受験に前のめりな家庭に特徴的な傾向はありますか。

 夫婦ともに年収700万円を超えているパワーカップルのご家庭が多いですね。そういう人たちは、ざっくりと2パターンに分かれています。ひとつは、地方の公立高校から大学進学を機に上京し、そのまま就職、結婚してパワーカップルになり、タワーマンションに住んで子供を中学受験に向かわせる層。もうひとつは、もともと首都圏在住で、自身が中学受験をした経験から子供も中高一貫校にと考える層。ちなみに僕のフォロワーは半々くらいです。

 『息が詰まるようなこの場所で』や『タワマンに住んで後悔してる』といった、いわゆる「タワマン小説」では、上層階と下層階における階級や序列だけでなく、中学受験のリアルもつぶさに描かれています。著者から直接聞いたのですが、とても丁寧に取材を重ねて書いたとのことで、決してフィクションではない、と。つまり、首都圏や関西の一部には、高学歴で大企業に勤めて年収も高く、さらに子供も名門私立に通って…みたいなハイスペックなステイタスを求める風潮は現実にあるんですよね。

 実際、東京の芝浦や豊洲といったタワーマンションが林立する湾岸エリアは、小学校の校舎を増設するほどファミリー層が激増していると聞きます。当然、塾もどんどん増えていますし、こうした人の流れに目をつけた学校が、感度の高いパワーカップルに向けて「共学化」「国際化」といったキーワードを並べてこのエリアに進出してきているというのも戦略として頷ける話です。

大学全入時代、それでも中学受験をする意義とは

--生まれた子の3人に1人が東京圏(東京・神奈川・埼玉・千葉の1都3県)というデータにもあるように、都市部では人口が集中し、受験が過熱する一方で、地方では少子化が加速し、部活動ができなくなったり、学校の統廃合が進んだりしています。日本全体で見れば「大学には選ばなければ全員入れる」と言われる時代にあっても、中学受験をする価値があるとしたらどういうところなのでしょうか。

 おっしゃるとおり、現状を見ると、正直言って半分ぐらいの人は高校受験でも良いんじゃないかなと思うんですよ。それでもあえて、お金と時間をかけて中学受験をする意義があるとすれば、「こういう環境に行かせたい」という明確な軸があるかどうかではないでしょうか。

 それが大学附属校なのか、男女別学なのか、宗教のある学校なのか。中高一貫校にはそれぞれの学校に個性やカラーがあります。家庭の中で、子供にはこういう環境で6年間学んでほしいといった希望があるなら、環境を選ぶことができるという点で中学受験には価値があるんじゃないかなと思います。

 もうひとつ、これも重要だと思うのは、明らかに中学受験にしか向いてない子がいるということです。高校受験は内申が大きな比重を占めることも多く、学級委員をやったり、課外活動や副教科ももれなく頑張ったりできる子は有利になる一方、テストの順位や成績は良くても、発言量が少なかったり、主体性のアピールが苦手だったりする子には不利です。中学受験ならペーパーテスト一発勝負なのに、高校受験を選んだために内申点のせいで志望校に行けなかったというケースは少なくありません。ですから、お子さんが高校受験には不利なタイプだと感じるなら、中学受験をする価値は大いにあると思います。

“トロフィーキッズ”を求めていないか

--数ある中高一貫校の中から、子供の受験校を絞り込んでいくのは難しいと思うのですが、じゅそうけんさんから見た「やってはいけない」受験校選びとは、どういう選び方ですか。

 その子の特性に向き合わずに、親のイメージやブランド、偏差値だけで選んでしまうのはよくないですね。子供がその学校についてどう思うかは二の次で、親が自分のアクセサリー感覚で学校のブランドが欲しくて、志望校を押し付けてしまうようなケースは結構ありますからね。

--“トロフィーワイフ”ならぬ、“トロフィーキッズ”にしてはいけない、ということですね。

 本当にそう思います。「うちの子にはこういう学校が合っていると思う」と口では言うものの、結局のところ偏差値とブランド、あるいは社会のトレンドで選んでいるのでは? というのが透けて見える相談はたくさんありますよ。有名校を受けさせたいと願う親心もわからないではないですが、蓋をあけてみると、受験指導がまったくなく、気づいたら学力的にかなり沈んで深海魚となってしまうなど、学校と子供の相性が合わず、辛い思いをしているケースも多いです。

 まだ小学生だと親にさほど反抗しないからといって、親の意向どおりにコントロールできたとしても、中学受験はそれ自体がゴールではありません。6年後には、もはや親がコントロールしきれない大学受験というふるいにかけられるわけですから、偏差値が少々下でも、お子さんのタイプに合った学校を選んだ方が伸びやすいんですよね。

--やってはいけない受験校選びをしてしまったその後の、印象的なエピソードはありますか。

 ガツガツ勉強したいとか競争心のあるタイプではないおっとりした子が管理型の進学校に入ってしまい、周りのペースについていけずに退学したとか、逆に、まったく管理されず、自主性に任せた自由な校風で、自分がどうして良いかわからなくなって心を病み、退学せざるをえなくなったケースもあります。

 また、オタク気質の男子が、「勉強も行事も恋愛も全力で」みたいな“リア充”系の共学校に入ってしまい、スクールカーストの下位に居続けることになって、結局不登校になったというケースもありました。もし、そうしたオタク気質が集う男子校だったら、異性の目を気にせずに自分らしくいられたんじゃないかなと思うんです。

 受験後のさまざまなエピソードを聞くと、マイペースで自由に伸び伸びできる、自主性を重んじる学校が向いている子もいれば、学校がきちんと面倒を見てくれる管理型の学校のほうが過ごしやすい子、あるいは共学より別学が向いている子もいる。繰り返しになりますが、学校選びでは子供をよく観察し、その子にフィットする環境を選ぶことが本当に大事です。

 そんな学校選びの手掛かりになればと、今回の著書には最初に「受験校マッチング診断」というフローチャートを付けています。

「受験校マッチング診断」/じゅそうけんさん著『中学受験 子どもの人生を本気で考えた受験校選び戦略』より

 別学か共学か、進学校か付属校か、管理型か自由型かといったいくつかの項目があり、チャートに沿ってYES/NOに答えることでざっくりお子さんの特性に合う学校のカラーがわかるようになっていますので、よかったら参考にしてみてください。

発達障害への対応は思い切って学校に相談を

--この本には、「発達障害の子の受験校選び」という章があります。この章を書かれたのはなぜですか。

 最近は発達障害という言葉が広く知られるようになりましたが、発達障害と診断がつかないグレーゾーンを含め、発達に特性のある子をもつ親御さんは学校選びに苦労されている印象があります。周りと比べて注意力が足りず、落ち着きがなかったり、コミュニケーションがうまくとれなかったりといった傾向がある子にこそ、その子に合った学校選びが大事かなと思います。

 一部の私立校、特に男女別学では、発達障害という概念が普及する前から、そういう子供たちも受け入れ、自然に学校生活が送れるような土壌ができているところが多い気がします。「ちょっと変な奴」と思われても、その子の特性をそのまま長所として伸ばしていけるので、中学受験は発達に凸凹のある子にも向いていると思います。 

 その一方で、正しい理解が追いついておらず、「それは甘えだ」というスタンスの学校もあるようなので、ここはやはり、学校説明会や個別相談で「こだわりが強い傾向があるのですが…」などと思い切って直接相談してみることをおすすめします。

中学受験はコスパが悪い?

--じゅそうけんさんは、「中学受験を“コスパ”で考えてはいけない」とおっしゃっていますね。

 それこそ、最終学歴としてMARCH(明治大・青山学院大・立教大・中央大・法政大)あたりに行かせたいなら、公立中学→公立高校から指定校推薦で目指すのが最安ルートです。

 中学受験にかかる費用の相場が、小学校4年生から6年生まで3年間の塾通いで約300万円、それに加えて低学年からの入塾や家庭教師、個別指導、さらに私立中高6年間の学費などを合わせると、中学受験を選択することは、公立に進学する場合と比べて1000万円程度余分に資金を注入することになります。

 ところが、中学受験で資金をかけ、親子ともに大変な思いをしてMARCHの附属の中学に入った子と、高校まで公立育ちの子が結局大学で一緒になるケースはものすごく多い。また、仮に1000万円かけて開成に入れたとしても、全員が東大に入れるわけではありませんし、現役で東大に受からない子の方が多いんです。

 つまり、中学受験をすることで良い大学に入れるかをコスパで考えたら、1000万円というのは決してパフォーマンスの良い数字とは言えません。そこは冷静になった方が良いというのが僕の考えです。ご家庭の方針が決まっておらず、ピンとくる学校がないのに、「周りの子が中学受験するからうちもしなきゃ」とか、「中学からはどこか私立に入らなきゃいけない」といった不安を感じる必要はまったくないと思いますね。

--そう考えると、親世代には学歴観のアップデートも必要ですね。

 親御さん世代と今との30年のギャップはとても大きいです。今年の大学受験を振り返っても、同学年が200万人を超える団塊ジュニア世代と比べ、今はすでにその半分で、今後はずっと右肩下がりです。

 かつてのMARCHは今でいう早慶並みに難しく、7割が浪人するような時代でしたが、今は、少子化によって一般選抜以外の入試(総合型選抜など)がメジャーになりつつあり、随分ハードルが下がっています。早慶に比肩する難関私大と言われる上智も、最近では推薦枠が急増して入りやすくなっています。

 自分が高校生だったころの感覚と今とでは様相が大きく変わっているので注意が必要です。これを機に、じゅそうけんのXをフォローして、学歴観のアップデートをしていってもらえたらと思います。

--冷静に広い視野であらゆる受験の最前線を見てこられたじゅそうけんさんから、今、まさに中学受験「沼」の渦中にいる親御さんたちに向けて、メッセージをお願いします。

 沼にハマっていると「この学校しかない!」と視野が狭くなりがちですが、いろいろな選択肢に目を向けてほしいです。偏差値やブランド、社会のトレンドに惑わされず、目の前にいるわが子はどんなタイプなのか。さらに、一歩引いたところから、そもそも本当に中学受験をする必要があるのか、高校受験という選択肢ではダメなのかといったことも考えてみてはどうでしょうか。親の凝り固まった価値観にとらわれず、いろいろな選択肢を相対化して判断してみてください。

--ありがとうございました。


 中学受験では成績を上げることばかりに目が向きがちだが、それ以上に子供の人生に大きく絡むのが「受験校選び」だと実感した。すばらしい教育方針に輝かしい進学実績、魅力的な中高一貫校はたくさんあるが、その学校が子供の個性に本当にあっているのか。子供の志望校が「親が行かせたい」学校になっていないか、もう一度自分の胸に手をあてて考えたい。学校選びの指針がギュッと詰まった本書は、「受験沼」にどっぷりハマっているみなさんはもちろん、アップデートされた令和の受験事情を知りたいと思っている方にも必読の一冊だ。


中学受験 子どもの人生を本気で考えた受験校選び戦略
¥1,760
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)


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《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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