「幼保一体化」園長は否定派、保護者は肯定派が多数

 第一生命保険のシンクタンク、第一生命経済研究所は、幼稚園・保育所の園長と保護者を対象に実施した「幼保一体化に関するアンケート調査」の結果を公開している。

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施設の開始時間と終了時間、実際の利用時間(施設調査、保護者調査)
  • 施設の開始時間と終了時間、実際の利用時間(施設調査、保護者調査)
  • 幼稚園・保育所に対する要望
  • 幼稚園・保育所の満足度
  • 望ましい幼稚園と保育所のあり方
  • 短時間の幼児教育を求めるニーズと長時間の保育を求めるニーズという保護者のニーズの違いは今後も残るか
  • 「幼保一体施設」(仮称)をつくることについて
  • 「幼保一体施設」(仮称)がつくられた場合、自園は移行するか/「幼保一体施設」(仮称)へ移行する場合、0~2歳児の保育も行うことができるか
  • 「幼保一体施設」(仮称)を導入して、既存の幼稚園と保育所の一部または全部が移行するとした場合、どのような効果があると思うか
 第一生命保険のシンクタンク、第一生命経済研究所は、幼稚園・保育所の園長と保護者を対象に実施した「幼保一体化に関するアンケート調査」の結果を公開している。

 幼稚園は教育基本法に定められた幼児教育を行う学校であり、児童福祉法に基づく認可保育所は親が就労している等の理由により家庭で保育をできない子どもを預かる児童福祉施設になっている。これまで幼稚園と保育所を一元化することについての議論があり、2006年には幼稚園と保育所の機能をもつ認定こども園の制度がつくられた。現在、政府は幼保一体化などを行う子ども・子育て新システムの法案を国会に提出している。

 同調査は、全国2,000施設の私立幼稚園・私立保育所の園長と、3歳以上の幼稚園・保育所に通う子どもをもつ母親400名を対象に、それぞれ郵送とインターネットによるアンケート調査を実施。国が検討がしてきた幼保一体化が、幼稚園・保育所の現場および保護者からどのように捉えられているかを調査している。

 保護者の幼稚園と保育所の実際の利用時間(登園・降園)をみると、登園時間の差は幼保で小さく、降園時間は幼稚園では14時台、保育所は16〜17時台が多い。保育所の利用児の75%が登園する時間は幼稚園の約8割が開始している時間で、保育所の利用児の約8割は幼稚園の約9割がまだあいている時間以前に降園しており、保育所の利用児の多くは、登降園時間が、幼稚園の開始時間から終了時間の範囲に収まっているという。

 幼児教育・保育面に対する保護者の要望をみると、幼稚園児の保護者は「保育時間の延長」「長期休業中の保育」、保育所の保護者は「休日の保育」の充実を求める割合が高くなっている。幼稚園児の実際の利用時間は短いが、保育時間の延長に対する要望は多くなっている。

 施設面に対する要望の全体の回答では「園庭の遊具」(22.8%)がもっとも多く、「図書室または図書コーナー」「園庭」などとなっている。幼稚園と保育所のいずれにおいても、保護者が満足していると答えた割合は90%を超えている。

 望ましい幼稚園と保育所のあり方を尋ねた質問では、施設調査では、「幼稚園と保育所が並存」をあげた割合が過半数となった。「幼稚園と保育所に加えて、幼保の機能をあわせもつ施設が並存」は21.5%、「全ての施設が幼保の機能をあわせもつ」は16.4%で、幼稚園と保育所の回答は類似している。保護者調査では、「幼稚園と保育所に加えて、幼保の機能をあわせもつ施設が並存」が過半数となり、幼稚園と保育所の保護者の意識に大きな差はみられない。

 幼稚園と保育所が並存する背景には、専業主婦家庭は短時間の幼児教育を求め、母親が就労する家庭は長時間の保育を求めるというように、保護者の側のニーズの違いが存在していることがある。こうした保護者のニーズの違いが、今後も残るか否かを尋ねた質問では、「そう思う」と答えた割合は、施設調査・保護者調査とも高くなっており、施設の約8割、保護者の約9割が「短時間の幼児教育を求めるニーズと長時間の保育を求めるニーズという保護者のニーズの違いは今後も残る」と考えている。

 幼児教育と保育をともに実施する「幼保一体施設」(仮称)をつくることに対する賛否を尋ねた質問に対し、施設調査では、「すすめるべきだと思う」と答えた割合は26.6%、「すすめるべきとは思わない」は46.8%で、否定的な意見が多くなっている。一方、保護者調査では、「すすめるべきだと思う」(41.8%)、「すすめるべきとは思わない」(13.8%)で、肯定的な意見が多くなっている。幼保一体施設をつくることに対して、幼稚園・保育所よりも保護者の方が肯定的という結果となった。

 幼保一体施設がつくられた場合、自園が移行するか否かを尋ねた質問で、「直ちに移行を検討したい」と答えた施設は、幼稚園の8.1%、保育所の6.2%と少ない。また、「移行を検討したい」は、幼稚園が28.3%、保育所が21.2%。

 「幼保一体施設」(仮称)へ移行する場合、0~2歳児の保育も行うことができるかを尋ねた質問で、保育所は「できる」と回答した割合が約4割。幼稚園では、「できる」と回答した割合は全体の約1割であり、「難しい」が34.4%にのぼっている。

 「幼保一体施設」(仮称)を導入して、既存の幼稚園と保育所の一部(または全部)が移行するとした場合、どのような効果があるかを尋ねた質問では、施設調査では、「0~2歳児の待機児童減少」をあげた割合は38.6%で、以下「家庭に対する育児支援強化」(30.7%)、「施設の効率利用」(24.3%)。保護者調査をみると、「幼保一体施設」(仮称)を増やすことが、保育所の待機児童を減らすことにつながるか否かという点については、「そう思う」「そうは思わない」「わからない」の回答が約3分の1ずつに分かれている。また、幼児教育の水準を高めることにつながるか否かという点については、「そうは思わない」が約4割で、「そう思う」と答えた人のおよそ倍となった。

 施設調査において、「幼保一体施設」(仮称)を導入し、移行する際の不安や懸念を尋ねた質問で、もっとも多くあげられた不安は「十分な財源が確保されない」(52.3%)であり、次いで「教員・保育士の負担増」「幼児教育も保育も中途半端に」となっている。

 幼保別にみると、幼稚園の方が「自主的な幼児教育・保育の余地が狭まる」「幼児教育も保育も中途半端に」「教員・保育士の負担増」をあげた割合が高く、保育所の方が「十分な財源が確保されない」をあげた割合が高くなっている。

 保育所の待機児童を減らすために必要な施策を尋ねた質問では、施設調査では、「保育所(0~2歳児)の増設」(32.5%)、「保育園が0~2歳児、幼稚園が3~5歳児に特化」(27.6%)をあげた割合が高くなった。一方、保護者調査では「保育所(0~5歳児)の増設」「保育所(0~2歳児)の増設」をあげた割合が高くなっている。また、「幼稚園の預かり保育の拡充」をあげた割合も34.8%と比較的高くなっている。「幼保一体施設の増設」をあげた割合は、いずれの調査でも低いが、施設よりも保護者の方が待機児童対策として効果があると考えていることがわかる。
《前田 有香》

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