「学びの質」は転換期へ、教員の世代交代は何を生むのか…第6回学習指導基本調査

 ベネッセ教育総合研究所は3月22日、学校現場の変化を捉える小中高校教員対象の調査「第6回学習指導基本調査」結果を発表した。過去10年でグループ学習を意識する教員が増加しており、高校にも変化の兆しが現れている。

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第1回から調査を監修する、お茶の水女子大学教授の耳塚寛明氏。監修者の視点から、20年間の変化について分析コメントを述べた
  • 第1回から調査を監修する、お茶の水女子大学教授の耳塚寛明氏。監修者の視点から、20年間の変化について分析コメントを述べた
  • ベネッセ教育総合研究所 所長 谷山和成氏(写真) ベネッセ教育総合研究所について冒頭、説明があった
  • ベネッセ教育総合研究所 副所長 小泉和義氏(写真) 調査の企画背景と目的について説明があった
  • ベネッセ教育総合研究所 初等中等教育研究室 研究員 吉本真代氏(写真) 調査内容について報告を行った
  • 心がけている授業方法(学校段階別・経年比較・8項目) 教員回答
  • 英語指導に対する自信 教員回答
  • 外部人材のニーズ 校長回答
 ベネッセ教育総合研究所は3月22日、学校現場の変化を捉える小中高校教員対象の調査「第6回学習指導基本調査」の結果を発表した。過去10年でグループ学習を意識する教員が増加しており、高校にも変化の兆しが現れている。

 調査は、小学校・中学校・高等学校における学習指導の実態と教員の意識を探るため、全国の公立小学校・中学校と公立・私立の高等学校の校長、および教員を対象に、2016年8月下旬から9月中旬にかけて実施したもの。全学校とも、校長には学校教育目標や教員の指導力向上の取組みなどについて、また、高等学校校長には大学入試改革への対応も聞いた。教員には、指導観や身に付けさせたい力、ICT機器の活用、勤務実態や教育改革の賛否などについて質問した。

 小学校は1998年、中学校は1997年、高校は2010年から実施しており、前回(第5回)の2010年調査に続き、今回の調査は第6回にあたる。20年間の経年変化を把握でき、小中高における回答を比較できる点は、国内最大規模の調査と言える。

◆時代は「教育改革前夜」 授業方法の転換期へ

 次期学習指導要領に向けた教員の意識や学校の対応状況では、授業方法についてもっとも意識している授業方法を聞いた。結果、小中高教員はいずれもグループ活動を取り入れた協働的な授業に対する意識が高かった。「多くするように特に心がけている」と回答した教員の割合は、小学校は前回調査41.5%から49.9%へ、中学校は37.1%から47.5%へ伸長しており、高校は8.6%から24.4%へ急伸した。なお、公立高校については、特に心がけている、まあ心がけていると回答した割合は前回調査34.8%から66.1%へ、31.3ポイント増加している。

 ベネッセ教育総合研究所初等中等教育研究室研究院の吉本真代氏によると、グループ活動に対する意識が過去10年比で増えていることについては、「現行の学習指導要領で言語活動への充実が見られたこと、さらに、2020年からの次期学習指導要領改訂の議論の中でアクティブラーニングが主体的・協働的な学習として提唱されてきたこと」の影響があるという。

 一方で、小中高とも「計算や漢字などの反復的な練習」を心がけているとする教員の割合は減少しており、小学校は51.5%から36.8%へ、中学校は29.0%から23.2%へ、高校は18.0%から14.1%へ下がった。同調査を第1回から約20年にわたり監修している、お茶の水女子大学教授の耳塚寛明氏は、この結果を「良いか悪いかはすぐに判断できない」としながら、第6回調査全体では次期学習指導要領を見据えた動きが現れていることに言及し、子どもたちを取り巻く現在の教育は「学びの質的転換期」にあると述べた。

 学びの質的転換については、小中学校9割、高等学校の4人に3人の教員がアクティブラーニングの推進に「賛成」としている。グループ活動を取り入れた授業や児童・生徒同士の話合いを取り入れた授業を心がけている教員は、若年層ほどその傾向が強かった。なお、第6回調査では初めて教職経験年数31年以上の教員割合が小中高ともに減少に転じており、5年目以下の若年教員が多くなっている。授業方法に対する意識には世代差が見られることから、今後は教員の世代交代によって、学びの質的転換がより活発に促される可能性がある。

◆現場は限界、進む教員の多忙化

 調査では、多忙化の進行と外部人材ニーズについても聞いた。休日の出勤状況を問うと、休日に「ほとんど毎週」出勤している割合は中学校74.5%、高等学校52.4%だった。勤務状況には学校行事や部活動も含まれていることから、耳塚氏は学校現場教員らの疲弊状況を「もはや限界」と表現。教職員定数の見直しを含め、部活動指導者の配置や教育ICT機器を活用した校務削減など、教育の質はもちろん、教員のワークライフバランスも重視するため、教員多忙化の加速化に歯止めをかける必要性を説いた。

 調査対象校の校長に、これから増員したい人材はあるか聞くと、小学校は35.8%、中学校は22.5%が「特別支援教育に関する補助・専門スタッフ」と回答。英語教育の拡充や高大接続改革に伴う大学入試改革による教育内容の大きな変化に加え、インクルーシブ教育や特別支援教育といった近年の教育課題が垣間見える結果となった。次点には、外国語指導助手(Assistant Language Teacher:ALT)やICT支援員、理科教育支援員以外の「授業中の補助スタッフ」が小学校23.2%、中学校は21.5%と続いた。

 また、小学校教員の回答を見ると、75.6%の教員が現在の英語授業や活動に「自信がない」と回答し、今後教科として行う英語指導についても81.0%が「自信がない」と回答している。しかし、ALTの増員について求める校長回答は、小学校4.7%、中学校2.5%と少ない。これは小中学校の9割超ですでにALTを導入しているためであり、増員には値しないと判断されていることがわかる。

 ベネッセ教育総合研究所副所長の小泉和義氏は、多くの教員が英語指導に自信がないと回答しつつも、外国語活動をサポートするALTはすでに配置されている現状について、現場教員がALTと意思疎通できていない可能性を指摘。日本人教員が十分にALTとコミュニケーションを取り、ALTと教員の相乗効果によって授業の質を向上させる必要があると述べた。また、教員とALT間だけでなく、ALTの質を担保するよう、文部科学省などが共通の選定基準を設ける案も有効だろう。

 調査結果はすべて、ベネッセ教育総合研究所Webサイトの「調査・研究データ」で公開中。調査を管轄した初等中等教育研究室データ内に掲載されている「第6回学習指導基本調査」PDFデータで調査詳細や結果を閲覧できる。なお、今回の調査は2015年に実施された「第5回学習基本調査」と関連が強く、子どもの実態調査に影響を与えた現場の指導や指導観、現場状況が垣間見える結果となっている。
《佐藤亜希》

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