英語を学習している人なら、「アメリカ英語」と「イギリス英語」という言葉を聞いたことがあるでしょう。英語はさまざまな国で話されている言語ですから、当然カナダやオーストラリア、ニュージーランドなども、その国独自の英語表現などがあるわけですが、英語を2つに大きく分類すると、アメリカ英語とイギリス英語に分けることができます。
ですが、アメリカ英語もイギリス英語も、同じ英語ですから、その違いをすぐに見分けることはできないかもしれません。何が違うのかと疑問に思っている人もいるでしょう。
そこでこの記事では、アメリカ英語とイギリス英語の違いについて言及していきます。特に、将来英語を使ってビジネスをしたいと考えていたり、海外移住を考えている人は、この違いを知っておけば、自分が学ぶべき英語がどちらなのかがわかるはずですよ。
アメリカ英語とイギリス英語に違いがある理由とは?
アメリカ英語とイギリス英語の違いを深掘りする前に、なぜ同じ「英語」という言語であるにもかかわらず、この2つに違いがあるのかをご説明しましょう。
歴史的背景と地理的要因
英語は元々イギリスで使われるようになった言語です。イギリスはなかなかに歴史の長い国ですが、アメリカの歴史は意外と浅く、建国からまだ250年位しか経っていません。
それ以前のアメリカは、イギリスの植民地でした。そのため、アメリカでは英語が話されるようになったのです。
しかし、1776年にアメリカが独立して以降、アメリカはアメリカという国として独自の政治、アイデンティティ、文化的成長を遂げました。すでにアメリカに浸透していた英語という言語が別の言語に置き換わるようなことはなかったものの、イギリスと地理的にも離れていることから、英語も独自の進化を遂げたのです。
一方、イギリス国内でも、年月と共に言語が変化していっています。そもそも日本語も200年以上前と比べると、なんとか理解はできるものの、かなり違いますよね。それと同じことがイギリスでも起こり、アメリカでも起こっていて、さらに地理的に離れているとなると、アメリカ英語とイギリス英語との間に違いができてしまっても不思議ではありません。
そういうわけで、イギリス英語とアメリカ英語には違いがあるのです。
アメリカ英語を話す国とイギリス英語を話す国
英語を話す国は、アメリカやイギリス以外にもまだまだあるにもかかわらず、よく語られるのはアメリカ英語とイギリス英語の違いという点も、不思議に思う人もいるでしょう。
厳密に言えば、「オーストラリア英語」だとか「カナダ英語」だとかいうカテゴリも存在します。しかし、オーストラリア英語はイギリス英語の仲間だと分類されますし、カナダ英語はアメリカ英語に分類されます。
つまり、イギリス英語とオーストラリア英語の間には、アメリカ英語とイギリス英語ほどの違いはないわけです。アメリカ英語とカナダ英語に至っては、地理的な近さもあり、その違いを聞き分けできる人の方が少ないでしょう。
下記にアメリカ英語を話す国とイギリス英語を話す国をまとめてみました。公用語に英語が含まれる国以外では、第一外国語として英語を学ぶ国もリストアップしています。
こちらを見れば、世界的な分布がなんとなくわかるでしょう。
アメリカ英語を話す国 | イギリス英語を話す国 |
アメリカ、カナダ、フィリピン メキシコを含むラテンアメリカ諸国、 日本、韓国 |
イギリス、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、マレーシア、シンガポール、インド、パキスタン、バングラデシュ ヨーロッパ諸国、中国、ネパール、西アフリカ地域 |
こうして見ると、国の数で言えばイギリス英語寄りの国の数の方が多いのがわかるでしょう。また、地理的要因や歴史的要因が色濃く現れているのも感じ取れます。
元々イギリスの植民地だったり、英国連邦に属していたりする国は、イギリス英語を話す国が圧倒的に多いです。同じ英国連邦でも、カナダがアメリカ英語寄りなのは面白い点ですが、これは地理的要因が色濃く関係しているでしょう。ちなみにカナダ英語は全体的にアメリカ英語寄りですが、地域によっては、イギリス式のスペルが使われていたりもします。
例外的に英語を母国語とするジャマイカでは、従来イギリス英語寄りの英語が使われていましたが、地理的に近いからなのか、近年ではアメリカ英語の影響が強く現れており、どちらかに分類するのは難しい状況となっています。
こうした地域分布の違いも、アメリカ英語とイギリス英語の違いだと言えるでしょう。
アメリカ英語とイギリス英語の違い
ではここからは、アメリカ英語とイギリス英語について、言語そのものの違いを具体的にご紹介していきます。
どちらの英語を学ぶ予定の人も、この違いを知っておけば、円滑なコミュニケーションにつながるはずですよ。
発音の違い
アメリカ英語とイギリス英語は、ある程度英語が理解できる人なら、ちょっと聞けば違いがわかる程度には、発音や響きが異なります。
よく言われるのは、アメリカ英語は流れるような感じでゆったりとしていて、イギリス英語は堅く速い感じがするという点でしょうか。
実際にはスピードはアメリカ英語もイギリス英語もそれほど変わらないのですが、イギリス英語の方が音をはっきりと発音するため、音の数が多くて速く感じるのかもしれません。
ここでそのすべてをご紹介するのは難しいので、代表的な発音の違いをご紹介します。
Tの発音
アメリカ英語にしか触れたことがない人は、「water」という単語は、ウォーラーもしくはウォーダーのように発音するものだと思っているのではないでしょうか。アメリカ英語では、waterだけではなく、こうした言葉の途中に出てくるTの音が、Dのようになります。
Tをちょっとなまけて発音しているような感じでしょうか。
一方イギリス英語では、単語の途中に出てくるTの音もしっかり発音されます。つまり、ウォーターはしっかりウォー「タ」ーと発音されるということです。
日本人にとっては、逆に発音しやすいかもしれませんね。
しかしおもしろいことに、イギリス英語の方言の中には、このTを欠落させる発音の仕方もあります。しかも、結構その発音をする人は多いです。
カタカナで表すのはちょっと難しいのですが、「ウォーター」ではなく、「ウォッアァ」という感じでしょうか。こちらの発音は慣れないと、聞き取るのが難しいかもしれません。
Rの発音
次の代表的な発音の違いはRの音です。
言葉の頭に来ているRの音はアメリカ英語もイギリス英語もそれほど違いはありません。しかし、語尾につくRの音にはかなり違いがあります。また、それ以外の場所でも、基本的にアメリカ英語のRの方が舌を巻いているような音が強く、イギリス英語の方が軽めです。
語尾につくRに関しては、アメリカ英語ではしっかりとRの音で発音されます。上記で取り上げた「water」にも語尾にRがついていますが、アメリカ英語では、ちゃんとRの発音をします。
一方イギリス英語ではどうかと言うと、語尾のRはほとんど発音をせず、音を伸ばすだけです。カタカナの「ウォーター」に近いのは、イギリス英語ということです。
Can’tの発音
Can’tの発音は、アメリカ英語とイギリス英語ではかなり違います。これはぜひインターネット上の辞書を使って、発音を聴き比べてみてください。
カタカナで表すと、アメリカ英語は「キャーント」なる一方で、イギリス英語は「カーント」となります。
ちなみにイギリス英語の方は発音に気をつけなければ、かなりお行儀の悪い言葉である「cunt」に聞こえてしまいます。文脈で察することができるため、誤解を受けることはないでしょうが、イギリス英語を学ぶ人はCan’tとcuntの発音の違いに気をつけましょう。
母音の音の違い
アメリカ英語とイギリス英語は、同じ綴りをしても母音の音がかなり違うことがよくあります。外国人にとって難しいのが、この点かもしれません。
ここまでで取り上げた「water」にしても、アメリカ英語とイギリス英語では、下記のとおり発音記号がかなり異なります。
アメリカ:/ˈwɑː.t̬ɚ/ イギリス:/ˈwɔː.tər/
発音記号が読めない人でも、aの音も最後のerの音も違うことはわかるでしょう。こちらもぜひ、発音の違いを実際に聞き取ってみてください。これほど基本的な言葉でも母音がこれだけ違うのです。
ちなみに、基本的な単語の中でこの母音の違いで問題になるのは、walkです。イギリス人に対してアメリカ式発音をしたら通じることが多いですが、アメリカ人に対してイギリス式発音をすると伝わらないこともあるので注意しましょう。
よく使われる文法の違い
アメリカ英語とイギリス英語の文法は、基本的には共通しています。
しかし、イギリス英語はアメリカ英語に比べると、現在完了形が使われることが多いです。
代表的なのは、「I have a pen.」のような、所有を表す文章です。もちろん、イギリス英語でも「I have a pen.」と言うことはありますが、「I have got a pen.」と言うことも多いです。
また、過去分詞の形も、アメリカ英語とイギリス英語では異なる部分があります。上記の「I have got a pen.」は、アメリカ英語式にするなら「I have gotten a pen.」となるでしょう。しかし、イギリス英語だと「get」の過去分詞は「got」となります。
過去分詞だけではなく、過去形も異なる変化系のものがあります。また、前置詞が異なるものもあったりと、文法面でもアメリカ英語とイギリス英語では細かい違いがたくさんあるのです。
日常会話の範疇なら、あまり問題にはなりませんが、どちらがどっちなのかを覚えておかなければ、TOEFLやIELTSなどの試験のライティング問題で困ることになってしまいます。
TOEFLではアメリカ英語式でなければ減点されますし、IELTSだとイギリス英語式でなければ減点されるからです。
一部の語彙の違い
アメリカ英語とイギリス英語では、同じものを指していても、単語が異なる言葉があります。そのすべてをご紹介するのは難しいので、日常的によく使うものの範囲で、いくつかご紹介しましょう。
日本語 | アメリカ英語 | イギリス英語 |
アパート | apartment | flat |
エレベーター | elevator | lift |
請求書 | check | bill |
クローゼット | closet | wardrobe |
歩道 | sidewalk | pavement |
なす | eggplant | aubergine |
フライドポテト | French fries | chips |
ポテトチップス | chips | crisps |
ごみ | garbage / trash | rubbish |
スーパー | grocery store | supermarket |
スニーカー | sneakers | trainers |
まだまだありますが、数が多いのでこれくらいにしておきましょう。これだけ違うと意思の疎通が難しいと思うかもしれませんが、確かにちょっと困ることもあるかもしれません。
外国人としては、どちらの単語も覚えておくのがベストです。
スペルの違い
アメリカ英語とイギリス英語では、微妙なスペルの違いもあります。
こちらもその代表格をご紹介しましょう。
アメリカ英語 | イギリス英語 | 備考 |
center | centre | アメリカ英語でerで終わるものが、イギリス英語ではしばしばreとなる |
recognize | recognise | アメリカ英語で-izeとなるものが、イギリス英語では-iseとなる |
color | colour | アメリカ英語で-orで終わるものが、イギリス英語では-ourとなる |
license | licence | アメリカ英語で-seで終わるものが、イギリス英語では-ceとなる |
dialog | dialogue | アメリカ英語で-ogで終わるものが、イギリス英語では-ogueとなる |
このほかにもまだまだあるのですが、よく見かけるのはこのあたりでしょうか。
このスペルの違いは、全体的にアメリカ英語の方がアルファベット数が少なく、イギリス英語の方が長くなりがちな傾向にあります。
トーン・ノリの違い
その他の代表的な違いは、言葉のトーンの違いです。
たとえば、お店でコーヒーをオーダーする場合を見比べてみましょう。
アメリカ: I want a cup of coffee.
イギリス: Can I have a cup of coffee, please?/ Could I have a cup of coffee, please?
イギリス英語に慣れていると、アメリカ英語の頼み方はギョッとしてしまうのですが、特に無礼ではないようで、アメリカではこういう言い方をする人もよくいます。
もちろん、イギリスのようにCan Iとはじめても良いですし、pleaseをつけても問題ありませんが、イギリス英語に比べると、アメリカ英語の方がくだけた表現が使われがちです。
イギリス英語だと、家族や友人同士でも、pleaseをつけたり「Can I」や「Do you mind if」といった表現が使われますが、アメリカ英語だと気心を知れた仲でそこまで丁寧な表現を使うことはあまりありません。
アメリカ英語に慣れている人がイギリス人と話すと、失礼だと思われかねませんから、外国人の私たちは、丁寧めな表現に慣れておいた方が懸命です。
アメリカ英語とイギリス英語のどちらを学ぶべき?
アメリカ英語とイギリス英語にこれだけ違いがあると知って、どちらを学ぶべきなのか悩んでしまった人もいるでしょう。
日本の英語教育はアメリカ英語がベースとなっていますから、ほとんどの人はそのままアメリカ英語を学ぶので問題ないでしょう。なぜなら、アメリカ英語とイギリス英語に違いはあれど、お互いに理解できないレベルではないからです。
特に、アメリカの映画や海外ドラマが世界的にヒットすることが多いためか、イギリス英語を話す人たちは、なんとなくアメリカ英語の特徴を知っています。ですから、アメリカ英語を習得し、イギリスに移住したとしても、生活で困ることはほとんどないでしょう。
また、日本はイギリスを含むヨーロッパよりもアメリカとの繋がりが深いため、英語を使った職業に就こうとすると、アメリカ英語の方が役立つことが多いです。
イギリス英語寄りの中国やシンガポール、マレーシアなどとも繋がりが深いですが、中国とは日本語か中国語でやりとりをすることがそもそも多いですから、英語の違いは問題になりません。
また、シンガポールやマレーシアの英語は、イギリス英語寄りとは言え、それぞれかなり個性的な英語を話すこともあり、アメリカ英語でやりとりをしても、なんら問題にはならないでしょう。
ただし、将来イギリスやオーストラリア・ニュージーランドなどに留学する予定の人や、そうした地域への移住を決めている人なら、はじめからイギリス英語を学んだ方が良いかもしれません。
これらの地域でもアメリカ英語は通用しますが、自分がイギリス英語を理解できないかもしれないためです。
また、意思の疎通という面では問題なくても、アメリカ英語の言い回しだと、イギリスでは直接的すぎて失礼だと思われるというリスクもあります。
ちなみに、イギリス英語を身につけて、アメリカ人と話すと、イギリス英語の言い回しや発音をちょっといじられることはあるかもしれません。ですが、イギリス英語を話しているからと言って、失礼になったり、大きなトラブルになったりすることはありませんから、安心してくださいね。
アメリカ英語もイギリス英語も「英語」である
アメリカ英語とイギリス英語にはさまざまな違いがありますが、どちらも「英語」だということは共通しています。時々意思疎通に困ることはあるかもしれませんが、どちらを覚えても、ほとんどのシーンで困ることはないでしょう。
こうした違いも楽しみながら、英語学習を続けていけると良いですね。