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リーダー不在の日本に必要な教育とは…近未来教育フォーラム2010

教育・受験 その他

近未来教育フォーラム2010
  • 近未来教育フォーラム2010
  • 進行役のデジタルハリウッド大学学長 杉山知之氏
  • 文部科学省大臣官房企画官 伊藤学司氏(左)とソフトブレーンの創業者でマネージメント・アドバイザーの宋文洲氏
  • ビデオで様々な意見を述べた衆議院議員 石井登志郎氏
 デジタルコンテンツのクリエイターやプロデューサーの育成を目指す大学、大学院、専門スクールなどを運営するデジタルハリウッドが30日、企業や教育関係者向けの「近未来教育フォーラム2010」を開催した。

 「デジタルコミュニケーション時代の人材育成とは?」と題した基調講演では、デジタルハリウッド大学学長の杉山知之氏の進行で、文部科学省大臣官房企画官(鈴木寛副大臣室担当)の伊藤学司氏と、ソフトブレーンの創業者でマネージメント・アドバイザーの宋文洲氏により、次世代の教育と社会のあり方が活発に語り合われた。

 伊藤氏は、当初登壇予定だった文部科学省副大臣の鈴木寛氏の代わりを、衆議院議員の石井登志郎氏が務めるはずが、さらにそのピンチヒッターとして参加。鈴木氏、石井氏とも急きょ公務が入ったためだが、石井氏は前日に撮影されたビデオで“登壇”し、実質4名のさまざまな意見が交換された。その要旨をここで紹介する。

◆日本の大学の現状

 まず、日本の高等教育機関である大学の現状と、その問題点を浮き彫りにした。日本の大学は政府からの制約がなく、各大学が独自の方法で自由な教育を行っている。それはもちろん大事なことだが、一方で社会人としてどう生きていくかや、社会に役立つ人間をどう育てるかが考えられていないと指摘。「どういう人材を大学が育てていくべきかを、もっと真剣に考えていかなければならない。逆に、それを考えられない大学は、少子化の中で生き残っていけない」(伊藤氏)。

 また、「どんな時代になっても対応できる力と基礎力を、4年間でのびのびと学べればよい」(宋氏)のだが、その実現は難しい。

 国際的に見て、日本の大学は魅力があるのかどうかについては、先日発表された世界大学ランキングで、日本の大学は軒並み順位を落としたものの、分野別に見ると世界をリードする分野が多数あり、実際日本に来る留学生は増えてきている。学ぶ意欲の高い留学生の存在は、大学の活性化とともに、日本の学生にはとてもいい刺激になっている。

◆英語教育の必要性

 国際化には欠かせない英語が、来年4月から小学校で必修となる。小学生のうちから英語を習わせるべきだろうか、もっと早くから始めないと意味がないのではないか、などの議論は今も絶えないが、大きな一歩であることは間違いないだろう。

 英語を教える先生の負担は大きいが、「IT、ICTの活用はその大きな手助けとなるし、自治体ごとに、海外生活経験のある保護者や地域の方たちに手伝いを求めるなど、対策次第でよりよい授業ができる」(伊藤氏)と見られている。

 ただし、「英会話はだいぶ進みそうだが、インターネットの中にある有用な知識は7割が英語という現状で、『読む力』をどう身につけるかが課題」(杉山氏)という。これまでの日本の英語教育は、受験での必要性からその読解力を重視してきたはずだが、だれもが大学に入れるようになり、『読む力』は低下してきているのが現状だ。

 では、英語をしっかり身につけるにはどのようにすればよいか。「単に勉強するだけではだめ。強い目的意識が大事」と強調するのは宋氏。どうしても留学したくて英語は2年間で覚え、日本語は日本に留学してから、コミュニケーションをとりたい一心で1年間でしゃべれるようになったという。自らの経験に裏付けされた言葉だけに説得力がある。

 杉山氏も、「動機付けがあれば上達は早い。たとえば、自分たちが作ったデジタルコンテンツを使ってもらうためには、絶対に英語が必要。なぜなら世界では毎年1億人以上の子どもが生まれていて、顧客となりうる30歳以下の人の数は世界の半数以上になるからと説けば、皆納得する。そのため、本学では英語圏への留学をカリキュラムとして組み込み、行けば短期間でもかなり覚えて帰ってくる」と、英語教育の必要性を強調した。

◆日本に足りないものとは

 では、日本の大学に足りないものは何か。

 3氏もビデオ参加の石井氏も「プロデューサーの育成」と指摘した。「ひとつの分野の専門教育が中心の日本の大学院では、プロデューサーは育たない。もっと広く様々なことを学び、コーディネイトする力をつけるようにしなければならない」(伊藤氏)。「プロデューサーというよりリーダー。企業、組織、政治の中でもリーダーが必要なのに育成されていない」(宋氏)。

 その原因のひとつが「大学の徒弟制度」(杉山氏)。深く掘り下げた研究をする人はたくさんいるが、指導教授や研究室などの閉ざされた中での教育のため、他に意見を求めたり見識を広げたりする機会が少ないという。

 さらに、少子化が進む日本では、大学の質が落ちたとも言われている。だが「衰退したとは思えない。日本の教育のよさはベースがしっかりして、落ちこぼれをあまり出さないところ。その反面、エリート(=プロデューサー)教育をしていない」と宋氏。伊藤氏も「実は、中にはすごいことを考え、実行する学生もいる。一方で、少子化で競争がなくなり新たなチャレンジをしない学生が多くなっていて、両極に分かれている」と問題点を挙げた。そして、格差のない教育方針のもと、極端のよいほうを伸ばすことをしていない。長年エリート教育がタブー視されてきたが、大学飛び級など制度は少しずつ変わっているのに、それに手を挙げる人が少ないのが現状だ。

◆人材育成の鍵は意識改革

 日本にも格差はある。住んでいる地域や親の収入により、子どもに与えることができる教育の質が違ってくることは、今や周知の事実だ。そうした実情を踏まえて、今後の日本の教育はどうあるべきなのだろうか。

 地域、親の収入差から起こる格差は国が是正すべきで、私学助成金を学ぶ意欲のある個人に分配したらどうかという意見もあるが、「そもそも機関(大学など)への投資があまりにも少ない」と長年教育行政に携わっている伊藤氏は指摘する。

 杉山氏は、長引く景気低迷と先の不透明さが及ぼす影響に危機感を募らせていて、「フィンランドや韓国がそうであったように、国が危機に瀕しているときこそ、教育へ投資(人材の育成)しなければならない。すぐに効果はでないが、実際5年、10年先には必ず効果が見られる」と強く主張した。

 宋氏は、「政治、国、学校は、やるべきことはやっているのではないか。限界がある。むしろ、競争をさせよう、格差があっていいと、大人たちが発想を変えることで教育が変わる」と発言。それに合わせて、杉山氏、伊藤氏も大人の意識改革の必要性を説いた。

 それは、子どもたちが自由に自分の道を選べるようにするために、知名度や偏差値にだけにこだわる身近な大人たちの意識の改革でもある。また、社会の変化を見極め、知識社会における大学の役割を変えなければいけないという、大学人の意識の改革でもあるという。

 コミュニケーションのデジタル化が急速に進む中で、現代そして次世代に必要な人材=プロデュースできる人材を育てるには、われわれ大人たちの意識改革がまず必要だということを確認して、基調講演は終了した。
《鈴木良子》

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