教育とテクノロジーの祭典…21世紀教育の姿とは

 シリコンバレーIT教育法をモチーフとした中高生向けIT教育プログラムを運営するピスチャーは5月27日、教育とテクノロジーを考える「Edu × Tech Fes'12」を開催。会場は、中高生を含む約400人の来場者でにぎわった。

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Edu × Tech Fes'12、開会の挨拶(ピスチャー代表水野雄介氏)
  • Edu × Tech Fes'12、開会の挨拶(ピスチャー代表水野雄介氏)
  • 元Google日本法人社長、村上憲郎氏
  • 東京大学大学院教育学研究科、三宅ほなみ教授
  • 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科、中村伊知哉教授
  • ジークラウドCEO、渡部薫氏
  • MOVIDAJAPAN代表取締役CEO、孫泰蔵氏
  • 講演は、Ustreamでライブ中継された
 シリコンバレーIT教育法をモチーフとした中高生向けIT教育プログラムを運営するピスチャーは5月27日、教育とテクノロジーを考える「Edu × Tech Fes'12」を開催。会場は、中高生を含む約400人の来場者でにぎわった。

 第1回開催となった今回のEdu × Tech Fes(エデュテックフェス)は、テクノロジーから教育を、教育からテクノロジーを考える祭典。中村伊知哉氏、茂木健一郎氏、孫泰蔵氏、夏野剛氏といった著名人のほか、灘高校とアメリカン・スクール・イン・ジャパン (ASIJ)の高校生や東大生も登壇した。

 内容は講師の専門性によりさまざまだったが、現在の教育システムへの不安を浮き彫りにし、21世紀型教育のあり方を模索した1日だった。

 慶應義塾大学大学院の中村伊知哉教授は、子どもの教育環境の活性化に関する講演を行った。中村教授によると、いつの間にか学校は家より遅れた環境になってしまったという。家庭にない装置や機械が学校にあり、それらに触れることが学校に行く楽しみを作り出していた時代があったが、今は学校に行く楽しさが減っているようだ。

 また、日本では、勉強を面白いとも役立つとも思っていない子どもが増えているという。算数を面白いと感じる日本人小学生が39%だったことに対し、世界平均は67%。また、算数の勉強が役立つと感じている生徒は世界平均の90%に比べ、日本は71%だという。世界平均に比べると、いずれも低い数値となった。

 今後は、中村教授が副会長を務めるデジタル教科書教材協議会(DiTT)を通じて、ひとり1台の情報端末の普及、LAN環境の整備、デジタル教科書の提供などを行っていくという。タブレット端末やデジタル教科書の利用で、学校に行くことや学ぶことの楽しさを子ども達に発見してもらうことが学習意欲の向上につながるだろう。

 東京大学大学院の三宅なほみ教授の講演で興味深かったのは、次回の経済協力開発機構(OECD)生徒学習到達度調査(PISA)についてだ。2015年のPISAでは、協調型問題解決課題が新設され、ひとりでは解けない問題を少人数で話し合って解決し、次のゴールを見い出す能力が問われるという。

 少人数で課題を解いていく過程で、ITを活用し、情報収集や整理を行う。三宅教授が語る21世紀の教育とは、使っているうちにITを使いこなせるような教育と、協調型教育を教室で実現すること。難しく思われることが多いとしながらも、すでに変化は始まっているという。特に県や市町の教育委員会では、協調型の課題を教室に取り入れようと努力しているところも多いようだ。

 また、PISAに協調型問題解決課題が新設されることで各国が注目するのが国別ランキングだ。具体的な順位の予想は難しいとした上で、三宅教授は、フィンランドやカナダなど協調型問題解決課題に比較的長い間取り組んできた国は有利だという。一方で、先生重視の授業方式が主流の韓国やシンガポールは苦戦するかもしれないと説明する。

 元Google日本法人社長の村上憲郎氏は、教育と就職を結びつけ、今後の英語運用能力の大切さを強調。英語で授業を行っていない大学や大学院に行くのはもはや得策ではないと説明する。今の欧米社会では、年齢、性別、国籍、人種、思想信条、家族構成など、能力と関係のないことが採用で問われることはないという。今後日本の企業でも同じ採用方法がとられ、日本人学生は世界中の求職者と競争することになるという。

 村上氏によると、そのような環境の中で、人類は今後、英語運用能力によって2分され、英語運用能力のない人にチャンスはないと言い切る。もちろん英語以外の実務能力も必要だが、英語は最低限の必須項目だと位置づける。特に今の英語教育を懸念し、英語運用能力とはかけ離れていると説明した。

 さまざまな講演内容を通して一貫していたのは、現在の教育に関する懸念と、教育業界の改革、そして学生の意識変化を求める声だった。登壇者が日本の教育環境や学生との比較対象としたのは、常に米国や英国の名門校であり、そこから日本の教育業界が学ぶべきことを提案した。国内の大学間、高校間だけで競い合うのではなく、よりグローバルな広い視野をもつことが21世紀教育につながるのかもしれない。

 なお、ピスチャーは、今回の講演のライブ中継を録画し、Ustreamで公開している。各登壇者の講演はもちろんだが、講演会というよりは「祭典」という言葉がふさわしいにぎわいも感じ取れるのではないだろうか。
《湯浅大資》

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