教育ICT用語

【NEE2012】韓国・シンガポールの教育ICT最新情報

教育ICT その他

富山大学 人間発達科学部の山西潤一教授
  • 富山大学 人間発達科学部の山西潤一教授
  • 教育のICT化は、情報教育、授業におけるICT活用、校務情報化がある
  • 韓国の教育情報化政策
  • シンガポールでの取組み
  • 韓国教育学術情報院(KERIS)CHO, Kyubok博士
  • 韓国の一般教員向けの授業改善サイト
  • 韓国の教育情報化政策の詳細
  • シンガポール 国立教育学術研究所(NIE)WOO, Huay Lit博士
 New Education Expo 2012において6月8日、「未来の学校と教員のICT活用指導力」をテーマに、パネルディスカッション形式のセミナーが開催された。

 コーディネーターを務めたのは、富山大学 人間発達科学部 山西潤一教授だ。パネラーとして自国の教員のICT活用研修について発表したのは、韓国教育学術情報院(KERIS)のCHO, Kyubok博士、シンガポール 国立教育学術研究所(NIE)のWOO, Huay Lit博士の2名だ。

 山西氏は、このセッションの目的を「21世紀の子どもたちに必要とされるコンピテンシーたるスキルに、ICT活用やグローバルな視点があります。そのために主体的な学習、共同学習のような考え方が重要とされています。これは、日本だけではなく、世界中の国において共通するものです。しかし、国によって具体的な取組みや浸透の度合いなどは異なります。お2人の博士はそれぞれの国で、教員研修やICT活用の研究を専門に行っている方たちです。それぞれの国の現状や取組みについての発表は、みなさんの活動におおいに参考になると思います。」と語った。

 韓国とシンガポールの状況だが、韓国は国の政策として、経済格差を教育の格差につなげてはならいという視点から、学校でのICT活用を進めている背景がある。シンガポールについては、校務の情報化はほぼ終了していて、現在は授業等へのICT活用を強化し、実験校やモデル校の知見を全国の学校へ浸透させようとしている段階だという。

 日本は、ネットワークやPC、電子黒板などのインフラ整備、教材やツールといったコンテンツ整備、その先の効果的な利活用(ユビキタスラーニングからスマートラーニングへ)のプランはできているが、実際には教える側の指導力の格差が課題となっているとした。

◆ICT指導力を高めるための先導教員制度…韓国

 続く韓国のCHO博士の発表では、教員のICT指導力を高めるための先導教員制度が紹介された。これは、ICT活用についてオンライン、オフラインでもスキルが高く、専門知識をもった中央先導教員(現在110人程度)を頂点に、先導教員(1,600人)、一般教員と段階的にICT活用スキルの展開を狙ったものだ。

 中央先導教員は、新しい技術の研究や授業プログラム等の開発を積極的に行い、ICT技術の習得と授業での活用方法を研究しながら、スマート教育に関する研究会、公開授業、コンサルティングなどを実践する。その活動の中では、FacebookなどのSNSを活用したコミュニティも作られているという。SNSコミュニティは、韓国教育部が主催するものとKERISが主催するものがあるそうだ。

 CHO博士によれば、中央先導教員は、「スマート教育コンサート」という研究成果や新しい授業内容などの発表会も行っている。このコンサートは教育部が主催している。先導教員は、中央先導教員でカバーしきれない一般教員や教育員会などへの講義や指導を行う存在だ。先導教員の研修は、教員のキャリアや役職によってプログラムが細分化されているのが特徴だそうだ。一般教員のICT研修は義務ではないが、3年間での研修時間の目標は設定されている。また、一般教員向けに教育研修情報サービス(TTIS)というポータルサイトが整備され、ICT教育に関する情報発信や情報交換ができるようになっている。ICTを使った授業内容の改善についても、教員どうしでコンテンツや授業プログラムを共有できるサイトが存在している。

 韓国では政策的にスマート教育を推進しているが、CHO博士のところにも現場の教師から、どのような授業をすればいいのか、こういう授業でよいのか、といった相談が寄せられており、教員もとまどっている現状はあるという。そのような背景には、スマート教育に求められるスキルの指標が明確でないからと博士はみている。そして、現場では、ICTの技術やその利用に関する知識が優先され、どのように授業に活用するかのスキル向上への取り組みが不十分だともいう。また、教育部や教育委員会への研修、教員育成の教育課程での研修、認知科学や教育心理学など他分野との連携などが今後の課題だとした。

◆量的な指標だけでなく授業の質を考えたICT活用…シンガポール

 最後はシンガポールのWOO博士の発表だ。シンガポールでは、教育ICTについて1997年から5か年ごとのマスタープランに沿った施策を実施している。マスタープラン1では、ネットワーク環境などのインフラ整備と基本的なICTリテラシーの普及活動を実施し、マスタープラン2では、コンテンツ開発とその活用を広げていったそうだ。しかし、たとえば授業の30%はICTを活用したものにしなさいと指導を行ったとしても、ソフトを起動し、そのまま普通の授業をするという教員も出てくる。このような問題から、マスタープラン3では、時間や回数のような量的な指標だけでなく授業の質を考えたICT活用を、マスタープラン1、2をよりリッチなものにする施策を中心に考えられたそうだ。教員の指導や研修が重要な項目のひとつとなる。

 マスタープラン3では、子供たちに必要なのは21世紀のスキルだとして、コミュニケーション能力、共同学習、コンピュータの利用、継続的な学習、批判的思考(クリティカルシンキング)、創造性、異文化交流などを掲げている。そして、これらを実践するには、子どもたちの自己判断能力と共同学習能力を育てるという2本の柱を立てている。教師が、何らかの目標や課題を与えたとする。子どもたちは、客観的、論理的な思考や創造性をもって課題に取り組む。そこで新たな疑問や問題が出てくれば、友達などと話し合ったり議論が必要となる。この繰り返しによって課題を克服していくようになれば、先にあげた項目のスキルが高まっていくとの考え方だ。

 WOO博士によれば、この哲学をベースに、新任教師や大学の教育実習では、自己判断学習、共同学習、実社会コンテキストでの思考、知見・知識との連携、実践による学習という5つの項目を設定している。NIEでは、「E-Learning Hub」というこの5つのアプローチに特化した、オーサリングシステムを開発したり、TEL(Technological Enabled Lesson)」と呼ばれるツールなども活用しているそうだ。

 現役の教員に対しても、自己判断学習と共同学習という2つの柱について、その理念や役割を浸透させるべくオンラインを含む議論やグループ研究などによって、これまでの授業スタイルの再構築を行っている。
《中尾真二》

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