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【NEE2012】ICTフル活用授業で見えたものとは…筑波大附属小

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【算数】大野桂教諭と日直の児童
  • 【算数】大野桂教諭と日直の児童
  • 【算数】デジタルペンを使って目標位置を指定
  • 【算数】「線を見い出し」電子黒板上に記入
  • 【算数】気づきをノートに記入
  • 【算数】タブレットPCに4人からの等距離を記入
  • 【算数】4グループの画面を、電子黒板に4分割画面で共有
  • 【算数】画面上に用意されたピザやネギ、定規などのツール
  • 【算数】ツールを使い、楽しそうに円形に人を配置する児童
 New Education Expo 2012で6月9日、筑波大学附属小学校3年生の児童による、デジタル教科書・教材を活用した国語と算数の公開授業が行われた。

 授業は算数、国語を1時間ずつ、2グループに分けて実施。電子黒板と児童3人に1台のタブレットPCを無線LAN(Wi-Fi)で接続し、黒板・ホワイトボードを併用して行われた。出席した児童たちは通常の授業ではタブレットPCは利用しておらず、前日に2時間ほど使い方を学んで公開授業に臨んだという。

 授業終了後には放送大学 ICT活用・遠隔教育センター教授の中川一史氏がコーディネイターを務め、算数の授業者である大野桂教諭、国語の授業者の青山由紀教諭、上越教育大学 学校教育実践センター教授の石野正彦氏、元國學院大學栃木短期大學 初等学科 教授の正木孝昌氏による授業の振返りが行われた。

◆輪投げを素材に「円」の概念を理解…大野桂教諭 算数

 大野桂教諭による算数の授業は、輪投げを素材に「円と球」の単元について実施された。児童が「まるいかたち」「まんまる」など曖昧にしか認識できていない「円」について、その中心や半径に着目させることにより、その概念を理解させることを目的に行われた。

 デジタル教材には内田洋行のスクールプレゼンターEXが用いられ、電子黒板に仮想的に「輪投げ」の状況を作り上げ、2人が目標まで等距離で平等に輪投げができるようにするための、目標位置を点でプロットすることから授業は開始された。数名の児童が順に、電子黒板上に、デジタルペンを使って目標位置を指定した。背伸びをする児童には大野教諭が「君たちには電子黒板は少し高過ぎるね」などと声をかけながら、サポートしていた。大野教諭は「どうなの?」「だめなの?」などと児童に問いかけることで、子どもたちの意欲を引き出し、授業を進めていった。

 2人からの等距離の点の集合に、子どもたちは「線を見い出し」電子黒板上に記入した。大野教諭はこの「見える」ということを大事に、図形に関する感覚を身につけさせたいという。振返りで、算数が専門の正木氏は「(図形の授業においては)考えようではなく、子どもたちが試行錯誤するなかで“見えてくる”ことが大切」と、この授業を評価した。

 2人の場合について理解した児童たちに大野教諭は、「3人ではどうなるの?」「4人ではどうなるの?」と質問を投げかける。児童が手元のタブレットPCに、4人からの等距離を記すと、そのうちの4グループの画面を、電子黒板に4分割画面で共有し、皆で議論する。こうして瞬時に議論できる状況を作り出すことができ、自由にやり直しをしながら、さまざま方法を考えられることが、ICT活用の良さだと大野教諭は説明した。

 4人のあとは一気に人数が増え、大勢の人が映し出された。「円が見えている」児童は、タプレットPCの画面上に用意されたピザやネギ、傘、定規などのツールを使い、楽しそうに円形に人を配置していた。振返りでは、少人数から一気に多人数に移行するのではなく、順に増やしていくほうがよいという意見も出たが、子どもたちが夢中になって取り組むようすから、面白いツールを使わせることで、ワクワク感を引き出す大野教諭の意図も感じられた。

 近未来の算数授業のあり方について考えることを目的に、あえてICTをフル活用して行われた公開授業であったが、大野教諭は「板書のタイミングが難しく、授業の流れが見えなかったのではないか。」と、板書との併用に課題があったと振返った。それでも、「ICTの活用は、気軽にできることからやっていくことが大事」とし、「子どもの生き生きとした姿を引き出せる良さがある」とICT活用に意欲を見せた。

◆説明文から筆者の考えを読み取り、自ら表現…青山由紀教諭 国語

 青山由紀教諭による国語の授業は、光村図書出版のデジタル教科書から「すがたをかえる大豆」の説明文教材を用いて実施された。通常は電子黒板での一斉提示のみで利用される教材だが、この授業では特例として、タブレットPCでの利用も行われた。

 通常の授業でもデジタル教科書を利用している青山教諭は、授業の冒頭で児童に音読をさせながら、手際よく電子黒板の準備を行っていた。この授業が単元全10時間のうちの第6時に当たることから、電子黒板には、これまでの授業で「(大豆を原料とする)食品名」「作り方」「工夫」「つなぎ言葉」別にマーカーで色分けされた教科書が提示され、授業が開始された

 説明文の授業では、「述べ方を踏まえて筆者の考えを読み取り」、その内容を「自分はどう受け取り」、それに「どういう考えをもち」、「どう表現をしていくか」と、表現までが求められる。この読取りのあとは説明文を書く授業へ展開する計画で、この日の授業は「読みから表現への過渡期に当たる授業」だったと青山教諭は説明した。

 この日は「電子黒板に映した教科書データにこだわって説明しようとして授業を進めた」とのことで、デジタル写真やマップも用いられた。児童のタブレットPC利用は練習を含めてこの日が2度目とのことであったが、タブレットPC上に色分けや線だけでなく、文字を書くグループも見られたという。

 青山教諭は、「従来の授業では、発言する児童は数名にとどまるが、タブレットPCの利用では、グループでまとめた意見を記入後、画面を教壇に向けて示すことで、短時間で多くの意見を確認することができ、見取りに有効である」と、ICT活用による時短化のメリットを説明した。時短により、児童の思考を止めずに授業できる良さがあるのだという。「自分の考えを構築することに効果的」でもあるという。

 また、たとえば過去の授業で説明を記入した写真を読み出して提示することで、視覚的に過去の学習を思い出せることに効果があるとも説明した。

 この授業では3人に1台のタブレットPCが使われたが、対話の効率化やサイズ(内容の見やすさ)の問題から、2人に1台がもっとも効率的ではないかと、青山教諭は指摘した。理解度の個人差が大きい小学校低学年においては、タブレットPCの利用で、個々に応じた対応が可能になることにも期待しているという。

 授業を通じて児童は、活発に挙手をして発言し、タブレットPCへの記入が終わると競うように教壇に画面を向けてアピールしていた。子どもたちは生き生きと授業に参加しており、やや時間オーバーした正午過ぎに青山教諭が授業の終了を告げると、児童からは「早い!」などの声があがったことが印象的だった。国語が専門の石野氏はこの授業を「思考を深める場面を巧みに作っていた」とし、ICTの活用で「協働・個別・一斉を有機的に結びつけていた」と評価した。

 2時間の授業を石野氏は「(教師の側が一方的に提示するカリキュラムではなく)子どもと生成していくカリキュラム」であったと振り返り、子どもたちの教育においては「メディアの活用と体験の充実が必要」とした。正木氏は専門家の立場から辛口のコメントもあったが「授業においては働きかけることが大切であり、クラス全体で情報を共有し、働きかけることにICTが有効」とし、中川氏は「(ICTの)考えるツールとしての可能性に期待する」と締めくくった。

 授業の振返りでは、「板書でできることをPCで気軽にやってもよいのではないか」との意見も出たが、コストのかかる導入の実現にはやはり効果や必然性が求められるだろう。石野氏の「実社会でもデジタルを使って生きて行かなくてはならない今の子どもたちが、学習にデジタルを使うのは当たり前のこと。インターネットが自分の頭の外部デバイスである現代において、(デジタルとアナログの)ハイブリッドを、バランスよく使っていく力をつける必要がある」とのコメントに、その解があるように感じた。

 各科目ともわずか1時間の公開授業であったが、ICT利活用の効果への期待とともに、現時点での課題も見えた。活用がより拡大し、現場の教師や児童・生徒の多くの声が教材開発に反映されることで、教育ICTが成熟していくことを期待する機会となった。
《田村麻里子》

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