授業でタブレットではなく電子辞書を使う理由、アミークス国際学園

 沖縄本島のほぼ中央、うるま市にある「アミークス国際学園」は、授業に電子辞書を活用している。その理由や効果を先生と児童に聞いた。

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アミークス国際学園の授業風景
  • アミークス国際学園の授業風景
  • 授業に電子辞書を活用
  • 英語の授業では電子辞書がフル稼働
  • 授業内容や目的によって使う辞書を変える
  • 授業内容や目的によって使う辞書を変える
  • インタビューに答える4年生の児童たち
  • 絵を描く資料に電子辞書を使ったりもする
  • 弟も使いたがる電子辞書
 沖縄本島のほぼ中央、うるま市にある「アミークス国際学園」は、授業に電子辞書を活用している。電子辞書は、同校のインターナショナルスクールという特色を生かした授業には欠かせない存在のようだ。

 前回のレポートでは、電子辞書を使った授業がどんなものかを伝えた。今回は、なぜタブレットではなく電子辞書なのか、先生にその目的や効果について聞くとともに、児童にも話を聞いた。

 まず、利用実態から整理してみよう。学校として使い方について細かい規定はないようで、学年や担任の先生ごとに使い方はさまざまだ。ボルトン先生の英語の授業では、電子辞書は4年生から使い始めたという。1年生から3年生までは辞書を引く能力も養うため、紙の辞書を使わせていた。4年生から電子辞書を使わせるようになったのは、それだけ学習量が多く濃くなるため、紙の辞書を引いていては時間が足りないからだそうだ。

 ボルトン先生・ナパ先生のクラス(同校では2人担任制)では、授業の内容を豊かにし、幅を広げるためのツールとして電子辞書を活用している。クラスには1/3ほど自分専用の電子辞書をもっている児童がおり、学校にももってくるよう指導している。電子辞書をもっていない児童や、自分専用でないためもってこられない児童は、学校が用意した端末を使う。自分専用の電子辞書を勧めるのは、収録されている辞書・辞典を含めて使い慣れているもののほうがよいという判断からだ。

 子どもたちは英英、英和、和英を目的に応じて使い分けている。インタビューに答えてくれたある児童は、英語で調べる場合はオックスフォードの英英辞典を使い、単語の意味を調べるときにはジーニアスの英和辞典を使っているそうだ。お気に入りの辞書も児童によってそれぞれ好みがあるようだ。英英辞典が好きな児童もいれば、和英やカタカナで引ける辞書を使う児童もいた。

 アミークスのイマージョンクラス(日本語が母語の生徒達が英語で授業を受けるクラス)に入学してくる子どもたちのほとんどが、この学校で始めて英語に接するという状態だそうだ。イマージョンクラスの多くの児童たちは、家ではほとんど英語を使わないという。しかし4年生くらいになれば、英語のみの授業でも電子辞書があれば大きな支障はないそうだ。

 ボルトン先生は「高学年、中学になると小学生向けの英和、英英では収録語数で不足を感じることがあります。学校へは電子辞書のグレードアップを相談したりもしています。」という。また、インターナショナルクラスを担当する大城真理子先生も「インターナショナルでは、小学生向け辞書には載っていない単語が必要ですので、支給端末の場合、上位モデルやオプションで辞書を追加している端末の奪い合いになることもあります。」と語る。アミークスのような英語の授業は特殊な例ではあるが、電子辞書を活用しているからこそ成立している授業ともいえる。

 単語を調べたり調べ学習をするなら、パソコンやタブレットという選択肢もある。アミークスでもパソコンやタブレットを使った授業は存在しているが、全教科を通じて利用しているのは電子辞書である。その理由や電子辞書のメリットを先生と子どもたちに聞いたところ、多くの先生方は、iPadやPCなどの(インターネットの)情報は、整理されておらず、ほしい情報に到達しにくい点を指摘し、電子辞書の体系化された情報と検索性の良さをあげた。ネット上の情報の間違いやリスクを懸念する声もあった。英語の例文や文法など、ネット上の情報は間違いが多いのだが、子どもたちは、大量の情報や間違った情報を弁別するスキルが高くないので、最初の段階で電子辞書から入るメリットは高い。

 電子辞書の画面を閉じる動作が、板書や先生に注目させたいときにきっかけを作ったり、授業にメリハリをつける効果を指摘した先生(上江洲先生)もいた。

 子どもたちからは、言葉の意味がすぐに分かるという点をメリットとしてあげる声が多かった。中には、パソコンで調べ学習をしながら、わからない単語や言葉を電子辞書で引きながら勉強するという使い方をしている児童もいた。4年生のある男子は、たくさんの辞書を持ち運びできる、電池で動く(電源・充電不要)、ページをめくらなくてよい(タッチスクリーンやペンでの入力)、発音も調べられる、インターネット回線がいらない、筆順もわかる、単語登録もできる、と紙にまとめて発表してくれた。

 授業以外でも、絵を書くときの資料として百科事典を利用したり、英検の受験に役立てている児童もいる。アミークスでは、カシオ製の小学生モデルの電子辞書を基本としているが、英検の問題集なども収録されている。この児童は、4年生だが準2級まで合格しているそうだ。

 児童たちは、ごく自然に電子辞書を使っているが、特定のツールや機器に依存しているわけではない。授業で活用しつつも、電子辞書にない機能を試す授業や新聞、書籍を利用した授業も積極的だ。上江洲先生のクラスのある5年生女子は、自分専用の電子辞書はもっておらず、普段は紙の辞書や百科事典のほうが使い慣れているという。百科事典ではDorling Kindersleyのイラスト百科事典が好きで、よく使っているそうだ。

 教育分野で、グローバル人材を育てる、ICT利活用といった場合、ついタブレット利用など新しいテクノロジーに向きがちだ。2020年までに小中学校での情報端末1人1台環境を整備するには予算の壁が大きく実現を危ぶむ声もある。タブレット利用は、授業の効率化を向上させたり幅を広げてくれるが、ほかの選択もある。導入ありきで進めて、児童や保護者に負担を強いるようなら、もっと簡単に導入できる電子辞書の活用を、英語授業の一部からでも考えてもよいのではないだろうか。
《中尾真二》

中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。エレクトロニクス、コンピュータの専門知識を活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアで取材・執筆活動を展開。ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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