学習塾で結核の集団感染、責任は誰にある? 弁護士に聞く損害賠償の可能性

 千葉県船橋市で発生した、結核の集団感染。子どもが学習塾で感染症にかかった場合、その責任は誰にあるのか、また、医療費や通院費など、慰謝料は請求できるのだろうか。アディーレ法律事務所の篠田恵里香弁護士に聞いた。

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船橋市 結核集団感染事例の発生について 更新日:平成28(2016)年8月30日(火曜日)
  • 船橋市 結核集団感染事例の発生について 更新日:平成28(2016)年8月30日(火曜日)
 千葉県船橋市で発生した、結核の集団感染。少なくとも、発端となる男性患者Aの勤務先では56人が結核に感染したことが確認されている。秋以降ともなればインフルエンザの流行も予想され、ネット上では「どこの塾か」「感染拡大は防げなかったのか」「受験生がかわいそう」など、子どもが感染症にかかったらと不安な保護者も多い。アディーレ法律事務所の篠田恵里香弁護士に、学習塾で感染症にかかった場合の責任所在について聞いた。

◆子どもが学習塾で集団感染、責任は誰にあるのか? 損害賠償責任の可能性も

 学習塾で集団感染が生じ、その感染源が塾講師だった場合の法的責任がどうなるかは、とても難しい問題です。

 法的には、その塾講師については、「自身が結核であることを知りながら、菌を周囲にばらまいて、結核菌を感染させた」ということであれば、故意に他人の身体の生理的機能に支障を生じさせたものとして、傷害罪が成立する可能性も皆無ではありません。少なからず、自身が結核と知っていた(知ることができた)のにそれをあえて告げずに菌をばらまき、結核菌を感染させたということであれば、民法709条の不法行為として、損害賠償責任を負うことになります。

 不法行為が成立するためには、「故意(わざと)または過失(うっかり)」という条件が必要なので、今回の結核感染につき、その塾講師に「故意・過失があった」と認められるかがひとつのポイントとなります。今回も、塾講師は身体の異常には気づいていたようなので、感染させてしまうような病気であったと気づけたか否かという点がポイントになってきます(編集部注:8月29日に船橋市が発表した資料によると、塾講師である患者Aは平成24年から平成27年にかけて肺の異常を指摘されていたが、医療機関を受診していない。また、平成28年6月には肺炎と診断され、抗生剤を内服したが症状が改善しなかったため、別の医療機関を受診し、肺結核と診断された経緯がある)。

 また、塾講師の結核菌によって、集団感染が起こったという因果関係も必要です。一般には、「結核発症の原因が何だったのか」その感染ルートを立証すること自体難しいとは言われています。なので、「故意・過失」に加え、この「因果関係」も認められる場合に限り、塾講師に賠償責任が生じることになります。

◆塾自体に責任を問える可能性も

 塾自体に責任を問えるとすれば、塾講師を雇用していた使用者としての「使用者責任」がまず考えられます。従業員(雇用されている側)が、職務の執行に関し、他人に損害を与えた場合には、使用者側(雇用している側)も賠償責任を負うことになっています(民法715条)。塾の講義の際に、講師が故意・過失により結核菌を感染させたという評価になれば、塾自体も原則として賠償責任を負うことになります。

 塾が責任を負うケースとしてはもうひとつ、「入塾契約に付随する安全配慮義務違反」を理由に賠償責任を問われる可能性があります。

 塾と生徒(親)との間には、「塾は生徒に対して教育サービスを行い」、「これに対して生徒側は受講料を支払う」といういわゆる入塾契約が成立しています。この入塾契約に付随して、塾側には、教育サービスを提供する前提として、「塾において、生徒の身体・安全等に支障が生じないよう配慮する義務(安全配慮義務)」があると考えられています。

 今回も、(1)結核の感染等、生徒の身体に支障が生じることが予想され、(2)これを回避できる方策があったにもかかわらず、(3)これを避けるための具体的な措置を講じることなく放置し回避義務を怠った、ということであれば、塾側の安全配慮義務を理由に、賠償責任を問うことができることになります。

◆感染源が明らかな場合、発病者に治療費や入院費を請求できるか

 先に述べたように、感染源である人物に不法行為が成立する場合や塾側に使用者責任・安全配慮義務違反が成立する場合、これらの者に対し、損害賠償請求をすることができます。

 賠償の内容は、結核を感染されたことによって生じた損害ということになり、具体的には、入院費、治療費、慰謝料、会社を休んだ分の休業損害等となります。基本的には、感染された側に過失がない限り、これら全額を相手に請求することができます。なお、慰謝料は通常入院2カ月で約100万円が法的な考え方となっています。

 賠償されるべき損害がどこまでの範囲・金額であるかは、なかなか難しい問題ですので、具体的な額等については専門家である弁護士にご相談いただくのがベストでしょう。
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篠田恵里香(弁護士)
 東京弁護士会所属。外資系ホテル勤務を経て、新司法試験に合格。債務整理をはじめ、男女トラブル、交通事故問題などを得意分野として多く扱う。夫婦カウンセラー(JADP認定)資格保有。独自に考案した勉強法をまとめた「ふつうのOLだった私が2年で弁護士になれた夢がかなう勉強法」(あさ出版)の執筆ほか、「Kis-My-Ft2 presentsOLくらぶ」(テレビ朝日)などメディア出演も多い。

協力:アディーレ法律事務所
《編集部》

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