【私学訪問】自分・学校・国境の枠を越えた生徒に…鴎友学園・吉野明校長

 生徒のさまざまな挑戦を応援し、ひとりひとりの可能性を引き出す教育で近年大躍進を遂げている鴎友学園の吉野明校長に、校風や学校生活、グローバル教育などについて話を聞いた。

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鴎友学園 吉野明校長
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◆生徒主体のアクティブラーニング

--もっとも鴎友らしさを感じる行事は何ですか。

 学園祭と運動会ですね。たとえば学園祭では、中学1年生には、教員が手取り足取り助けますが、2年生からは手を貸しません。すると、中学2年生なので行き届かない点がたくさんあり、高校生からあれこれと駄目出しをされます。そうやって先輩から学びながら成長し、高校2年生にもなると、クラスの大半が何かしらの係のリーダーになります。

 組織が細分化されているので、一部のカリスマがリーダーになるわけではなく、多彩なリーダーが存在します。これから求められるリーダーシップのあり方は、このような「多様性の中でのリーダーシップ」だと思います。グローバル化は、日本が国力を強めるための、覇権主義的なものではなく、まず隣の人と仲良くなることを出発点に、自分の枠を越えてネットワークを広げていくことだと思うのです。

 まさにこれ以上のアクティブラーニングはない、と言ってもいいでしょう。さまざまなことに興味を持ち、机上の勉強以外にも積極的に取り組んでいる子の方が、将来的に伸びしろがあり、結果として社会で活躍していますね。

--今の日本の教育の問題点は何でしょうか。

 今は核家族化が進み、ひとつの価値観の枠にはめられがちです。子どもに余裕がなくなり、「いい子」を演じようとするあまり、深層心理の中に自分の思いをどんどん押し込めてしまうので、どこかでゆがみが生じてしまいます。

 私たちは、その隠された思いがどのようなものなのか、どんなふうに辛いのか、それを読み解いてあげなければなりません。自分が育ってきた価値観だけが正しいのではなく、相手の価値観を理解して受け止められるようにする。そんな心の余裕が持てるような、横の関係性を大事にしていかなければならないと思います。

 また、昨今ノーベル賞受賞に沸いたように、日本の大学のポテンシャルはまだまだ高いとはいえ、アドミッションオフィス(入学事務局)をもっと充実すべきだと思います。ひとりひとりの受験生のペーパー上の点数ではなくて、総合的な力を評価してくれる体制作りを望みます。

 しかし、今、日本の大学にはそれに充てる資金がありません。OECDの中で教育投資が低いという現実を、もっと政府が切実に自覚してほしいと思います。

--生徒にどのような成長を期待されますか。また、先生の座右の銘を教えてください。

 生徒への期待を込めて、そして座右の銘として「世界にはばたけ鴎友生!!」です。自分の枠を超え、学校の枠を超え、国境の枠を超えて、隣の人と平和な世界が作れるような人に成長してほしいですね。

 グローバルとは、「世界」という意味だけではなく、「自分の周りが広がっていく」ことだと思うのです。自分の価値観に留まらず、多様な価値観を自分の中に取り込んでいくことがグローバルだ、と思えば、どんなことにも前向きに取り組んでいけるのではないでしょうか。「はばたく」という言葉は、校内ではすっかり定着していて、中学1年生の生徒からも「私たち、これからはばたきます!」という元気な掛け声が聞こえることもあります(笑)。そういう生徒たちの明るい未来にワクワクしています。

--ありがとうございました。

 鴎友学園には強い「信念」を感じる。

 中学入試は、今でこそようやく記述が重視されつつあるが、すでに20年前から鴎友の問題は記述が中心であり、毎年、採点基準や受験生の解答例、解説などを事細かに盛り込んだ「入試対策資料集」を作成し、配布している。「マルかバツかではなく、少しでも受験生の加点要素を見つけたい」との先生方の思いが詰まった、秀逸な1冊だ。

 また、昨年度の入試からは、1日募集の人数を大幅に増加した。その理由は、「鴎友学園を第一志望にするお子さんにひとりでも多く入学してもらいたいから。」

 自らの教育に「信念」があるからこそ、自信を持って「我が道」を選ぶことができる。 愛に満ちた「信念」に、生徒たちは必ず応える。そして次々と、ますます広く、世界にはばたいていくことだろう。
《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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