【中学受験2017】四谷大塚に聞く、合不合判定テスト志望状況と中学受験動向

 受験生が全国最多、40年以上の長い歴史を持つ首都圏随一の公開テスト「合不合判定テスト」を実施し、中学入試をリードしてきた四谷大塚。2017年の中学入試の展望について、情報本部 岩崎隆義本部長に話を聞いた。

教育・受験 小学生
四谷大塚 情報本部 岩崎隆義本部長
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 首都圏の中学入試も12月1日の千葉(専願)を皮切りにいよいよ本番を迎える。受験生が全国最多、40年以上の長い歴史をもつ首都圏随一の公開テスト「合不合判定テスト」を実施し、オリジナル教材「予習シリーズ」は長年にわたるベストセラーであるなど、中学入試をリードしてきた四谷大塚。2017年の中学入試の展望について、情報本部 岩崎隆義本部長に話を聞いた。

◆受験率は上昇、東京23区では4人に1人が受験


--2017年の首都圏における、受験者数の志願者数に変化はありますか。また、その背景にはどのような要因があげられますか。

 今年(2016年)の首都圏における中学受験者の総数は、首都圏の小学校6年生の児童数297,634人に対し、47,000人でした。受験率としては15.8%です。2017年は小学校6年生の児童数が6千人弱減少しますが、受験者数は今年と横ばいでしょう。つまり受験率は上昇することになります。

 日本では今、「少子高齢化」が深刻ですが、東京都に限って見てみると、意外にも子どもの総数は増えています。現在東京都の小学校6年生は96,794人ですが、小学校1年生は102,298人、また平成27年4月から28年3月における東京都の出生数は112,318人と増加傾向にあります。

 東京都の平均年収は日本で唯一の600万円超となる断トツの1位で、中学受験のための通塾や私立校の学費などに対して経済的な基盤がある家庭が多いです。交通網の整備により、都心から千葉、埼玉、神奈川の学校にも通いやすくなったこともあって、東京23区での中学受験率は25.0%、実に4人に1人が中学受験をしていることになります。

 この背景には「多感な中高6年間を、我が子にとって最良の教育環境で学ばせたい」と考える保護者の強い思いがあります。少子高齢化が進む、混沌としたこの国の未来を生き抜く力を身に付けて欲しい。AI(人工知能)で既存の職業の65%がなくなると言われる時代に「未知の課題を解決できる力」を身に付けさせたい、と。

 2020年の大学入試改革による新テスト開始に向けた議論が進む中で、先日、全国普通科高等学校長会が47都道府県の進学校188校を対象に行った調査によると、その6割が、小論文や面接を使った多様な選抜方法に対し「指導が難しい」と考えていることがわかりました。新たに導入予定の記述式には9割が「高校3年生に悪影響が生じたり、活動に制約が出たりする」という懸念を示しています。

 一方、多くの私学では、ゆとり教育の時代にも一切カリキュラムの変更は行わず、むしろアクティブラーニングやオーラルイングリッシュなど、今、教育改革が目指そうとしている方向性に当時から積極的に取り組んできました。

 そもそも、難関校をはじめとする一部の私学の入試問題は、40年以上も前から記述中心です。まさに「未知の課題に対して論理的に答えを導き出す力」を問うています。この力を身に付けるための勉強は、すなわち今、教育改革で声高に叫ばれている学びそのものです。子どもたちは中学受験を通じて、受験を突破する力だけではなく、将来に向けて「考える力」を育んでいることになります。

 また、大学附属校では大学受験がない分、高大接続の恩恵が最大限に受けられ、中高時代から第二外国語や大学での一般教養科目などを幅広い選択肢から学べる、リベラルアーツ教育への期待が高まっています。

 こうした私学ならではの環境への期待からも、首都圏の中学受験志向は今後も続くと思われます。

◆複数回受験のメリット


--受験生は1人あたり何校くらい受験するのでしょうか。また、入試に大きな変更点や傾向がありましたら教えてください。

 同じ学校を複数回受けるケースがあるため、四谷大塚では「6試験回」という数え方をしています。学校の数で言えば、1月に試験のある千葉や埼玉の、いわゆる1月校の入試から入れば4校、1月校を受けない場合は2~3校です。

 そうした中では千葉の東邦大付属東邦が、12月1日に専願入試を始める影響は大きいと見ています。理系教育に定評がある進学校で、東京の難関校を目指せる学力の高い受験生が数多く志望しており、高い人気となっています。一方、この影響で、同日の昭和学院秀英の志願者は減少傾向です。

 1月入試では、ほとんどの受験生が栄東からスタートします。その後、渋谷教育学園幕張、浦和明の星、立教新座、東邦大付属東邦、市川などを受けるパターンが多いのですが、今年注目すべきは専修大学松戸の志願者の増加です。大学附属校ですが、専修大学に進学するのは全体の1割未満で、国公立大や早慶への進学を目指す進学校としての期待から人気が高まっています。また、中学受験の進学者の約4分の1が東京からの通学で、都心部から通いやすい立地も好評の一因です。

 2月で注目すべきは、1日、3日と2回入試を行う早稲田と海城です。特に早稲田は、東大にも数多くの合格者を輩出しており、大学附属としてよりは進学校として選ぶ受験者が増えています。これらの学校は、1日に開成や麻布を受ける受験者が3日に選ぶ傾向がありましたが、最近では1日から第1志望として受験する生徒が増えており、1日と3日の難度差が縮まってきています。

 共学の渋谷教育学園渋谷、女子校の豊島岡、鴎友学園女子、吉祥女子、洗足学園などもそうですが、偏差値的には後の日程の方が高めに出るため、1回目が不合格だと2回目を諦めようとするご家庭が少なくありません。しかし私は、そこは諦めずに2回目以降もチャレンジするようアドバイスしています。

 実際にこれらの学校の先生方も、複数回受験による合格者が毎年必ず一定数いると仰っています。第1志望が複数回入試を行う場合は、できれば、1月校の中で通ってもよいと思える学校を1つ確保したうえで、2月には目一杯チャレンジするというパターンの方が、最終的には満足の行く結果を出せている場合が多いように感じますね。

◆大学附属が注目


 大学附属も今年は非常に人気が高いです。附設の大学にエスカレーターで進学できるという利点だけではなく、中高6年間で、大学附属だからこそ可能な、第二外国語や一般教養などの学びの機会や、部活などを通じたコミュニケーション能力の向上といったことへの価値を見出すご家庭が増えているからだと思います。

 徐々にではありますが、ご家庭の価値観が多様化してきています。中学入試が終わったら、次は6年後の大学入試に向けて、再び学校と塾と自宅の往復という生活で果たして良いのかと。だからこそ大学付属が面白いのではないでしょうか。

◆合不合判定テスト受験者の志望状況


--どんな学校に人気がありますか。その理由は何でしょうか。

 四谷大塚が主宰する合不合判定テスト受験者の志望状況を見る限り、共学では渋谷教育学園幕張、渋谷教育学園渋谷、男子校では、早稲田、武蔵、早大学院、麻布、女子校では、鴎友学園女子、女子学院、吉祥女子、雙葉、立教女学院などの人気が高いです。

 理系志向の子ども向けには、来春開校する横浜市立サイエンスフロンティア高校附属中、豊洲に新校舎が完成する芝浦工業大学中が注目されています。

 芝浦工大中は大学附属ですが、全員が併設の芝浦工大に進学するわけではなく、6年間かけてしっかりと手厚い教育を受けられることで、国公立大に進学することも可能です。東京では珍しい、社会が不要な国語、算数、理科の3教科入試でありますが、今年は多くの受験生を集めるでしょう。

--男子・女子の人気校と、一般的な併願パターンを教えてください。

 先ほどもお話ししたように、1月は大半の受験生が栄東からスタートします。その後、立教新座や浦和明の星、東邦大東邦、市川、渋谷教育学園幕張、淑徳与野、昭和秀英、専修大松戸などが続きます。

 そして2月に注目すべき存在は広尾学園です。特に2月1日と2日の午後入試の志願者が増えています。駅から近く、グローバル教育やICTなどにも非常に積極的で、難関校志望者の併願校として完全に定着しています。特に2月2日の午後には、医進・サイエンスコースとインターナショナルAG(アドバンスト・グループ)コースの入試があり、最先端の教育環境への期待から、1日の難関校を辞退してこちらを選ぶ受験生もいるほど、年々人気が高まっています。

【男子】
1日開成、麻布、武蔵、駒場東邦など→2日AM:渋谷教育学園渋谷(渋渋)、本郷、城北、攻玉社など→2日PM:広尾学園(医進サイエンスまたはインターナショナルAG)→3日:筑波大学附属駒場、早稲田、海城、浅野など

【女子】
1日桜蔭、女子学院、雙葉、鴎友学園女子、渋渋など→2日AM:豊島岡、渋渋、白百合など→2日PM:広尾学園(医進サイエンスまたはインターナショナルAG)

◆子どもを伸ばすのは親の率先垂範


--受験生と保護者に向けて、アドバイスをお願いします。

【保護者の皆さんへ】
 あと2か月だからこそ、「ダメね、何度言ったらわかるの」といったネガティブワードは禁物です。今、一番危機感を感じているのは子どもたち自身です。誰もが自分はダメかもしれない、これで受かるのかと不安に思う時期です。子どもを合格へ導くためにも、ポジティブワードの声かけをしてあげてください。そして今日まで積み重ねてきた努力の「プロセス」を褒めてあげてください。

 また、子どもを「伸ばす指導」で有効なのは、「XXXしなさい」という一方的な命令ではなく、親が率先垂範することです。漢字や歴史の問題を一緒にやってみたり、時事問題について話をしたり、食事の際に一緒にニュースを見るだけでも構いません。あと2か月、お子さんを「主役」に、塾とタッグを組んでサポートしていきましょう。

【受験生の皆さんへ】
 皆さんの夢は何ですか? 中学生になったら、何がしたいですか? その目標のために、今頑張って努力している…。
 初心を忘れずに。

--生徒に対して心がけている点や指導方針などがありましたら、教えてください。

 四谷大塚では、30年後、40年後の社会、世界で活躍できるリーダーを育てたいと考えています。未知の状態から課題を見つけ解決できる人財、世の中にないものを「想像」「創造」し、新しい付加価値を生み出す人財、世界を舞台に多くの人の心を動かし、仕事ができる人財を輩出していきたいです。

 中学受験のための勉強は、それに向けての大きな一歩です。単に知識を詰め込む教育ではなく、論理的思考力、表現力が養われるような指導を心がけることで、これからの時代に必要な「論理的課題解決能力」を育んでいきたいと思っています。

--ありがとうございました。
《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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