研究に惹かれ広尾学園で医サイ進学、大学で生きる学びとは

 先進的なICT教育を実践している広尾学園中学校・高等学校の特徴のひとつ「医進・サイエンスコース」は、第一線で活躍できる医師や研究者の育成を目的としている。この医進・サイエンスコースの木村健太教諭と、卒業生の吉田楓さんに、医サイコースの魅力を聞いた。

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医進・サイエンスコース卒業生 吉本楓さん(左)、マネージャー 木村健太教諭
  • 医進・サイエンスコース卒業生 吉本楓さん(左)、マネージャー 木村健太教諭
  • 和やかな雰囲気で取材が行われた
  • 吉本さんの学生時代にも、進路や学習についてよく話し合っていたという
  • 医サイの学びのうち、大学の学びで生きていることを語ってもらった
  • 医進・サイエンスコース卒業生 吉本楓さん
  • マネージャー 木村健太教諭
  • 医進・サイエンスコース卒業生 吉本楓さん(左)、マネージャー 木村健太教諭
  • 高校時代、研究活動に励む吉本さん
 iPadやChromebook、Google Appsの活用など、先進的なICT教育を実践している広尾学園中学校・高等学校。同校の特徴のひとつ「医進・サイエンスコース」は、“第一線で存分に活躍できる医師、研究者、先端エンジニアの育成を目的とした、医学部、理系学部を目指す”コースとして2011年に新設された。

 この医進・サイエンスコース(以下医サイコース)のマネージャーである木村健太教諭と、2014年に卒業した吉本楓さんに、医サイコースならではの魅力を聞いた。木村教諭は、医サイコースのコースマネージャーで、生物を担当。吉本さんは、中学校から広尾学園に入学し、高校1年から3年まで医サイコースに在籍。のち、2015年3月に卒業し、現在は横浜市立大学国際総合科学部の理学系で学んでいる。

◆「研究」に惹かれ医サイコース進学を決断

--吉本さんが医サイコースを選んだ理由を教えてください。

吉本さん:医サイコースでしかできないものがたくさんあったから選びました。中学3年生の時に、校内で開催された医サイコースの説明会に参加し、「ここでなら研究活動ができる」と思いました。

 私は理系教科が最初から好きだったので、理系に行く選択しかありませんでした。もともと母が理系で、小さい頃から医学特集や宇宙、細胞に関するテレビ番組を見ていました。また妹が難病だったため、病院に行く機会も多く、再生医療に興味をもっており、最初は医者になりたいと思っていました。

木村先生:中学生ぐらいですと臨床の医者しか想像できないけれど、高校生になるともっと視野が広がり、研究者という選択もあるということに気付きます。吉本さんは、グローバルな視点でさまざまなものに興味をもっていたので、早いうちから医者だけに絞るのはもったいないと思っていました。ですので、教師からは「こうしなさい」とは言わず、「いろいろな人に会いなさい」とアドバイスしてきました。

◆第一線で働く方からの学び

吉本さん:医サイコースで、国立がんセンターの先生などから直接お話をうかがう機会があり、実際にさまざまな科学者の方とお話していくうちに、「医者以外のことがしたい」と気付きました。

木村先生:医サイコースでは、その世界の最先端の方々と会える機会もたくさん作っています。理系の方だけでなく、たとえばカリフォルニア大学デービス校で英語を教えている日本人の先生がいらっしゃるのですが、来日された際に講演していただきました。そのあとに1時間ほど医サイコースの生徒たちとディスカッションを行い、とても盛り上がりました。昨年は2週間渡米し、実際に英語のプレゼンテーションを学び、最後にスタンフォード大学のリサーチャーの前で生徒たちがプレゼンテーションを行いました。

◆最先端に触れ感じた悔しさ…iPS細胞研究の思い出

吉本さん:プレゼンテーション自体は、中学1年生から経験しているので困ることはありませんでした。参加者と先生で夜遅くまで練習もしました。私はきちんと論文を読み、バックグラウンドも理解し、そのうえで課題を自分で見つけて研究者として発表したつもりでした。

 けれど、現地のリサーチャーの方からしたら、私はただの高校生としか見られず、「高校生としては頑張っているね」と言われて、本当に悔しかったです。自分は頑張ったつもりでしたが、事前準備やテーマ設定も足りず、研究結果も特別なものではなかったことに初めて気付きました。

木村先生:吉本さんは、受け止め方がかなりストイックなんです(笑)。たとえば、吉本さんは高校在学中から自力でiPS細胞の研究を行っています。iPS細胞については、すでに京都大学の山中教授がまとめられていますが、その論文をもとに、iPS化しづらい、老化した細胞を効率化するテーマに取り組んでいました。

 この研究は、高校生としてはものすごいことでしょう。スタンフォードの研究者たちは、ひとりの研究者として見てくれたため、かなり鋭い質問をし、そこでうまく答えることができなかったのが悔しかったようです。

◆医サイコースの学びと主体的に学ぶ力が現在の原動力

--医サイコースで学んだことのうち、大学で生きていることはありますか。

吉本さん:プレゼンテーションのスキルと、レポートの書き方ですね。課題で問題提起されたものに対する考え方や視点は、医サイコースでなかったら経験できなかったし、ディスカッションの機会も少なかったと思います。

 また、プレゼンテーションのスキルにおいても、資料の作り方や、論文を読みレポートとして文章にする際の科学的用語や言葉の使い方も医サイコース時代にしっかり学んでいたので、自然と身に付きました。実は、大学に入ってからの方が、医サイコースで学んだことが役立っています。

木村先生:医サイコースは、従来の一般的な教育方針と異なることを行ったものです。生徒の自主性にまかせ、「生徒たちに教えない」という教育方針から始めたため、最初はとても不安でした。

 私たち教員は生徒に答えを教えません。その代わりに、知識は自分で身に付けてほしいので、やりかたや考え方、そして調べ方は必死で教えました。結果として、卒業生たちの活躍を見て「これでよかった」と、教える側も自信がつきました。今この医サイコースがあるのも、生徒たちのおかげです。

《相川いずみ》

教育ライター/編集者 相川いずみ

「週刊アスキー」編集部を経て、現在は教育ライターとして、ICT活用、プログラミング、中学受験、育児等をテーマに全国の教育現場で取材・執筆を行う。渋谷区で子ども向けプログラミング教室を主宰するほか、区立中学校でファシリテーターを務める。Google 認定教育者 レベル2(2021年~)。著書に『“toio”であそぶ!まなぶ!ロボットプログラミング』がある。

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