ICTは「生徒の手を借りて」、現場は実体験をサポート…広尾学園実践報告

 12月15日、東京にある広尾学園中学校・高等学校で「広尾学園 ICTカンファレンス2015」が開催された。当日は、教育関係者や企業など約200人が参加し、生徒によるパネルディスカッションや、講演会、広尾学園での実践報告などが行われた。

教育ICT 先生
iPadを用い授業を受ける本科の高校1年生
  • iPadを用い授業を受ける本科の高校1年生
  • 高校1年生の国語の授業では、ロイロノート・スクールを活用
  • 生徒たちは、iPadにキーボードを付けるなどして、それぞれ使いやすい工夫を行っていた
  • 中学3年生の英語授業
  • 中学から高校までの本科や医サイコースの生徒によるパネルディスカッション
  • 広尾学園では、キャリア教育などにもICTを活用している
  • 広尾学園 医進・サイエンスコースマネージャー木村健太教諭
  • 医進・サイエンスコースの3つの目標
 12月15日、東京にある広尾学園中学校・高等学校で「広尾学園 ICTカンファレンス2015」が開催された。当日は、教育関係者や企業など約200人が参加し、MacBook ProやiPad、Chromebookを活用した公開授業のほか、生徒によるパネルディスカッションや講演会、広尾学園での実践報告などが行われた。

◆ロイロノート・スクールで意見を共有

 午前の公開授業では、中学1年生から高校1年生までの授業が各教室で行われた。科目は、英語や国語、理科、社会、保健体育などのほか、広尾学園独自のコースである「医進・サイエンスコース(医サイ)」の生徒による理数研究進捗報告会なども開催された。

 中学1年生の英語の授業では、実際の道案内の仕方をとおしてスピーキングとリスニングの学習をした。普段の授業から、生徒たちは「ロイロノート・スクール」や「Keynote」といったアプリのほか、辞書などでもiPadを活用し、英語の授業に役立てているという。

 ロイロノート・スクールは、このほかにもさまざまな授業で使われていた。高校1年の国語(現代文)では、「日本語は本当に退化しているのか」をテーマに、生徒ひとりひとりに意見を書かせた。その後、ロイロノート・スクールの機能を使い、生徒たちの回答を一覧表示し全員で共有していた。

 授業を行った寒川教諭によると、「ロイロノートは縦書きに対応していないため、国語ではしっくりこない場合もある。しかし、こういった授業を行うと生徒たちの反応もよく、一生懸命聞いている。紙に書くことも大事なので、使い分けをしている」という。

◆中学生もChromebookを自主的に活用

 今年度より中学生のコースも始まった医進・サイエンスコースでは、中学1年生と高校1、2年生による理数研究の進捗報告会が行われた。生徒たちはChromebookのGoogleスライドを使い、化学や生物などの研究報告をした。医サイではプレゼンやディスカッションを日常的に体験していることもあり、大学のゼミさながらの質疑応答が行われた。

 中学1年生の理科を受け持つ榎本教諭は、「イベントごとに作文を書いているが、生徒たちはChromebookで下書きを書いて推敲し、さらに文字カウントまで行って書き上げたうえで、改めて手書きで提出している。文章力の高さだけでなく、自主的な活用方法にも驚いている」と語った。データで提出することを提案してみたそうだが、生徒たちの「作文は紙に書きたい」という強い希望があったという。

◆科目によって手書きもデジタルも使い分ける

 午後は、広尾学園の生徒によるパネルディスカッションや、講演会、実践報告などが行われた。まず、パネルディスカッションでは普通科、インターナショナルコース、医サイ、それぞれのコースから生徒が登壇し、実際の授業のようすを語ったり、来場者から寄せられた質問に答えたりしていた。

 家庭でのICT機器の利用については、「自宅でiPadを使い勉強していたら、親に遊んでいると思われてiPadを取り上げられてしまった友だちがいる」といった、デジタル機器を使う家庭ならではの悩みなども披露された。また、中学1年の生徒は「英語などの記憶する科目は、手書きのほうが覚えやすい。科目によって使い分ける」というように、アプリを活用し、iPadやChromebookなどを自分の道具として使いこなしている一方で、アナログの大切さも認識している印象を受けた。

 続いて、ITジャーナリストの林信行氏と、FabLab Kamakura(ファブラボ鎌倉)代表・国際STEM学習協会代表理事の渡辺ゆうか氏が講演を行い、新たなネットやデジタル機器の登場により学習や教育そのものが変わっていく最新の現状を語った。

◆ICTの活動は生徒の手を借りる

 広尾学園の実践報告では、同校の教務開発統括部長の金子暁教諭と、医進・サイエンスコースマネージャーの木村健太教諭が登場。金子氏は、「ICTの活動は、教員だけで行なうのはもはや不可能で、生徒の手を借りて行っていくもの。我々の想定を超えて、生徒たちはICTを活用し、動き始めている。一方で、成長段階にある生徒に欠けている実体験の部分を補っていくことで、“最先端”と“人間としての根の部分"を融合させた教育を行っていきたい」と語った。

 広尾学園というと、「ICT教育を積極的に取り込んでいる先進的な学校」というイメージが強いかもしれないが、実際に中を見てみると、生徒たちはICTの有無に関係なく自分の興味に従ってそれぞれの研究や学習を行っている。好きなことをつき進めていくと時間がいくらあっても足りない。それらの学習・研究の利便化、時間の節約としてのICT活用を、上手く行っていると感じた。

 ICT機器を使うつもりで使われていたり、使いこなせず準備に時間がかかってしまったりと、本末転倒になりがちなICT教育の課題に、広尾学園はツールとして使いこなす好例を示しているといえるだろう。
《相川いずみ》

教育ライター/編集者 相川いずみ

「週刊アスキー」編集部を経て、現在は教育ライターとして、ICT活用、プログラミング、中学受験、育児等をテーマに全国の教育現場で取材・執筆を行う。渋谷区で子ども向けプログラミング教室を主宰するほか、区立中学校でファシリテーターを務める。Google 認定教育者 レベル2(2021年~)。著書に『“toio”であそぶ!まなぶ!ロボットプログラミング』がある。

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