千葉大学インターカルチュラル・スタディセンター(ICSセンター)が、令和7年度に千葉県から受託して実施した「県立高等学校での外国人生徒等受入れ体制構築に向けた実態調査」の結果を報告します。
本調査で対象とした「外国にルーツをもつ生徒」とは、外国籍の生徒だけでなく、日本国籍であっても保護者のいずれかが外国籍または外国出身である生徒を含みます。また、日本語指導が必要な生徒だけではなく、日本語で日常生活を送ることができる生徒も対象としています。
外国にルーツをもつ生徒の増加と、多様化する教育現場
近年、日本では在留外国人数が増加を続け、2025年には約400万人と過去最多を更新しました。こうした増加に伴い、文部科学省の調査によれば、公立学校に在籍する「日本語指導が必要な児童生徒」はこの10年間で約2倍に増加し、2023年度には約6万9千人と過去最多となりました。外国にルーツをもつ児童生徒が増加している状況に対して、日本では「特別の教育課程」による日本語指導の制度化など受入れ体制の整備が進められてきましたが、外国にルーツをもつ児童生徒が直面する課題は言語の問題にとどまらず、文化的摩擦、同化圧力、進路形成の困難、社会的排除のリスクなど複合的な課題が指摘されています。特に高校段階では、日本語指導が必要な生徒の中退率や非正規就職率の高さ、大学進学率の低さが指摘されており、教育機会の保障の観点から重大な課題となっています。
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外国ルーツ児童生徒を取り巻く千葉県の現状
千葉県では、外国人住民数が全国6位となる約24万8千人に達し、166の国・地域にルーツをもつ人々が暮らしています。外国人住民は千葉市、船橋市、松戸市、市川市、柏市など県北西部を中心に多く居住していますが、県内全域にも広がっています。こうした定住化の進展に伴い、外国にルーツをもつ児童生徒も増加し、日本語指導が必要な児童生徒数は2014年度から約2倍に増加しました。国籍や言語、生活背景も多様化しており、日本語指導だけでなく、学習支援、進路支援、生活適応支援など、一人ひとりの状況に応じた支援の充実が求められています。こうした状況を踏まえ、千葉県では「外国人児童生徒等教育の方針」を策定し、日本語指導教員の配置や教育相談員の派遣、教員研修などの施策を進めています。しかし、高校段階における受入れ体制や支援の実態については十分な調査・検証が行われていませんでした。
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高校段階の実態は十分に把握されていなかった
外国ルーツをもつ生徒への支援は、小・中学校を中心に進められてきましたが、高校段階では、学習や学校生活、進路、家庭との連携などを含めた実態調査は全国的にも少なく、自治体レベルで体系的に調査された事例は限られていました。また、外国ルーツをもつ生徒が抱える課題は、日本語能力だけでは説明できず、学習、生活、家庭環境、文化的背景など、さまざまな要因が関係していることが指摘されています。
そこで本調査では、高校段階における外国ルーツをもつ生徒の実態を総合的に把握するとともに、学校・教員・生徒・保護者それぞれの立場から現状を明らかにし、今後の支援のあり方を検討することを目的として実施しました。
学校・教員・生徒・保護者の4者を対象に実態を調査
調査名:県立高等学校での外国人生徒等受入れ体制構築に向けた実態調査調査対象:
・千葉県の県立高校(95校)
・外国にルーツをもつ生徒の担当教諭(294名)
・外国にルーツをもつ生徒(276名)
・外国にルーツをもつ生徒の保護者(122名)
調査期間:2025年11月~2026年3月
調査内容:学校の受入れ体制、教員の実践、生徒の学習・学校生活の状況、保護者の学校理解や支援ニーズ等
調査方法:オンラインによるWebフォーム回答
調査から見えてきたこと
学校では実態把握に課題学校への調査では、外国ルーツをもつ生徒の在籍数を把握していない高校が約40%、また、国籍についても把握していない高校が67%あることが明らかになりました。外国にルーツを持つ生徒の中には日本で生まれ育つ子どももおり、取り立てて意識していないためということも考えられますが、個人情報保護を守りつつ、多様な子どもたちの実態を把握していくことの重要性が認識されました。
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教員への調査からは、対応マニュアル等が未整備の学校が多く、教員は保護者対応や学習支援の方法などに課題を感じながら、一人ひとりの状況に応じた支援を行っている実態も確認されました。
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外国ルーツをもつ生徒は一人ひとり背景が異なる
外国ルーツをもつ生徒の約半数は日本生まれである一方、中学校以降に来日した生徒も一定数存在していました。来日時期や家庭で使用する言語、教育歴などの背景は多様であり、「外国ルーツをもつ生徒」を一つの集団として捉え、支援することについての危うさも明らかになりました。
学校は楽しい-生徒への調査から
学校生活については約9割が肯定的に回答し、友人関係も良好であることが調査から伺えました。多くの生徒が学校生活を「楽しい」と捉えていることは、肯定的に評価できる結果です。この背景には、学校生活の中で関わる教師や友人、クラスメイトなどとの人間関係が良好であり、安心して学校生活を送ることができていることが影響している可能性が考えられます。こうした良好な対人関係は、生徒の学校適応や学校生活への満足感を支える重要な要因の一つであると考えられます。
一方、作文や国語、教科書理解など、「書く力」や学習言語に課題を抱える生徒が多いことも分かりました。また、日本語支援を必要と感じていない生徒も一定数存在し、一律ではなく、一人ひとりの背景や状況に応じた支援の必要性が示されました。
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保護者は学校制度や進路情報への不安を抱えている
保護者の多くは長期在住者でしたが、日本語での日常会話はできても、読み書きには課題があるケースがみられました。また、進路に関する情報や学校制度について十分な情報が得られず、不安を抱えている実態も明らかになりました。
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本調査の特徴 ― 4者の視点から支援を考える
本調査の特徴は、学校・教員・生徒・保護者の4者を対象に調査を実施し、それぞれの立場から実態を比較した点にあります。その結果、教員や学校は支援上の課題を強く認識している一方で、生徒は学校生活を比較的前向きに捉え、保護者は学校とのつながりや進路情報に不安を抱えているなど、立場によって課題の捉え方や認識に違いがあることが明らかになりました。こうした認識の違いを理解し、それぞれの立場をつなぐことが、今後の支援体制づくりに重要であることが示されました。
本調査から、外国にルーツをもつ生徒の支援においては、
(1)従来型の限界
- 日本語中心の支援
- 一律的な支援
- 教員個人への依存
(2)必要な転換
- 日本語・学習・生活を統合した支援
- 背景に応じた個別最適化
- 生徒の自己認識を踏まえた支援
- 学校全体での体制整備
- 保護者への情報提供と支援
- 認識や情報のズレを前提とした関係の再構築
の重要性が示されました。
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今後に向けて
本調査から、外国ルーツをもつ生徒への支援は、日本語指導だけでなく、学習・生活・進路・家庭との連携を含めた総合的な支援へと発展させる必要があることが明らかになりました。また、一人ひとり異なる背景を踏まえた個別最適な支援を進めるとともに、学校・教員・生徒・保護者が互いの立場を理解しながら連携することが、外国ルーツをもつ生徒の学びと成長を支える上で重要であることが示唆されました。
本調査の成果は、県立高等学校における初期指導体制の構築や、教員の異文化理解・対応力向上を目的とした研修カリキュラムの開発など、今後の教育施策へ活用される予定です。
千葉大学インターカルチュラル・スタディセンター(ICSセンター)について
千葉大学インターカルチュラル・スタディセンター(ICSセンター)は、異文化間教育を通じた多文化共生社会の実現を目指し、2016年に設立されました。外国にルーツをもつ子どもの教育支援、教員研修、人材育成プログラムの開発、留学生を活用した地域連携活動などを通じて、学校・地域・大学をつなぐ実践と研究を行っています。当初より、外国ルーツ児童生徒への教育支援や学校現場における異文化理解教育の推進にも取り組んでおり、本調査もその一環として実施したものです。公式サイト https://cie-ics.faculty.gs.chiba-u.jp/
本件に関するお問合せ
千葉大学インターカルチュラル・スタディセンター(ICSセンター)chiba-ics(アットマーク)chiba-u.jp
プレスリリース提供:PR TIMES

