映画・ゲームのCG映像をより高品質に、より短時間で制作! ―粗い金属表面などの「多重反射」を効率的に計算する新たな数理モデル―



 千葉大学情報・データサイエンス学府博士後期課程の張 思源(Zhang Siyuan:チョウ シゲン)氏、同大大学院情報学研究院の久保 尋之准教授、京都大学の舩冨 卓哉教授、奈良先端科学技術大学院大学の藤村 友貴准教授、同大学の向川 康博教授らの研究チームは、コンピュータグラフィックス(CG)における物体表面の質感を物理的に正しく再現するため、ざらついた表面で光が何度も反射する「多重反射(Multiple Bounces Reflection)(注1)」の効率的な計算手法の研究に取り組みました。その結果、従来手法に比べて画像のノイズ(ばらつき)を大幅に抑えつつ、極めて高い精度で多重反射を計算できる新しい数理モデルを開発することに成功しました。今後は、映画・ゲーム・製品デザインなどで用いられる高品質なCG映像制作の高速化と省コスト化に貢献することが期待されます。
 本研究成果は、コンピュータグラフィックス分野における世界最高峰の国際会議であるACM SIGGRAPH 2026(注2)に採択され、2026年7月19日~23日に米国ロサンゼルスで開催される本会議において発表されました。
 (論文はこちら:10.1145/3799902.3811194)
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/1202/15177-1202-331fcf9772bf7322358603042114151b-698x267.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1.粗い金属球(上段:等方的な銅、下段:異方的なアルミニウム)を同じ計算サンプル数(8 spp)で制作したCG画像の比較。上段下段ともに左から3つ目までが従来の手法、そして本手法(PTABEなし)、本手法(PTABEあり)、Ground Truth(正解画像)である。各画像右上のMSE値は正解画像からの誤差を示し、値が小さいほど高品質。


■研究の背景
 CGで金属やプラスチックなどの素材をリアルに描くには、表面の微小な凹凸(微小面)で光がどのように反射するかを物理的に正しく計算する必要があります。しかし従来の手法では、光が微小面で「1回だけ」反射する場合しか考慮しておらず、本来あるはずのエネルギーが失われてしまうという問題がありました。特に表面が粗い素材(つや消しの金属など)では、この影響が無視できません。
 この問題を解決するため、光が「複数回」反射する「多重反射」を計算する手法が複数提案されてきましたが、画像にノイズが多く出る、もしくはノイズは少ないものの計算結果に大きな誤差(バイアス)が含まれてしまい、最適な手法は確立されていませんでした。

■研究成果のポイント
●各反射点の「高さ」の情報を部分的に保持したまま光路を定式化(高さ相互依存型の光路定式化)し、その後で高さ方向に段階的に積分する「逐次的高さ事前積分(Successive Height Preintegration)」という手法を導入することで、効率的に計算可能な形に変換しました。
●光路の種類ごとに最適な計算サンプル数を割り当てる「経路タイプ別BRDF評価(注3)(PTABE: Path Type-Aware BRDF Evaluation)」を組み合わせることで、画像のノイズを抑えることを可能にしました。
●実験の結果、既存の代表的な手法と比べて、同じ計算時間でより少ないノイズかつ極めて小さい誤差で、粗い金属表面などの多重反射を再現できることを確認しました(図1)。

[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/1202/15177-1202-50b64f8bc5da257bc80fc9d08779708c-281x375.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
張思源(Zhang Siyuan)
■今後の展望(研究者コメント)
 本研究で提案した多重反射の計算手法は、映画やゲーム、製品デザイン、建築ビジュアライゼーションなど、写実的なCG映像が求められるあらゆる分野で、より高品質な画像をより短い計算時間で生成可能にすると考えています。今後はこの枠組みをさらに発展させ、布や肌のような複雑な素材、半透明な物質への拡張、そして実時間レンダリング(注4)への応用を進めていきたいと考えています。
 最後に、私がCG分野の研究に踏み出すきっかけとなった、奈良先端科学技術大学院大学光メディアインタフェース研究室での修士課程時代、ご指導いただいた先生方と研究室のみなさまに、改めて深く御礼を申し上げます。




■用語解説
注1)多重反射(Multiple Bounces Reflection):光が表面の微小な凹凸の間で2回以上反射する現象。粗い金属など、つや消しの素材で特に重要となる。
注2)ACM SIGGRAPH2026:コンピュータグラフィックス分野では研究トレンドの変化が迅速であるため、同分野では論文誌における発表を待たず、速やかに成果を公開し、続いて本会議のようなトップ国際会議への投稿・発表という流れが主流。中でも本会議はコンピュータグラフィックス分野における世界最高峰の国際会議である。
注3)BRDF評価:物体表面に入射した光が、各方向にどれくらいの割合で反射するかを表す関数であるBRDF(双方向反射分布関数)で行う評価のこと。BRDFはCGで素材の質感を物理的に正しく再現するための基礎となる関数である。
注4)実時間レンダリング:ユーザーの操作やシーンの変化に応じて瞬時に画像を生成する技術。主にゲームやVRで広く使用されている。

■論文情報
タイトル:Successive Height Preintegration for a Height-Interdependent Path Formulation of Multiple Bounces in Smith Microfacet BRDFs
著者:Siyuan Zhang, Takuya Funatomi, Yuki Fujimura, Yasuhiro Mukaigawa, Hiroyuki Kubo
雑誌名:ACM SIGGRAPH 2026 Conference Papers (Proceedings of SIGGRAPH 2026)
DOI:10.1145/3799902.3811194

■研究プロジェクトについて
本研究は、以下の支援によって実施されました。
・科学技術振興機構 創発的研究支援事業(JPMJFR206I)
・科学技術振興機構 次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2109)
・日本学術振興会 科研費(JP24K02953)
・日本学術振興会 地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(JPJS00420230002)

プレスリリース提供:PR TIMES
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