リセマム6周年

【韓国教育IT事情-7】スマート教育戦略発表…デジタル教科書2.0でスマートな教育環境目指す

教育ICT 学校・塾・予備校

仁川市トンマク初等学校のデジタル教科書授業の様子
  • 仁川市トンマク初等学校のデジタル教科書授業の様子
 韓国の小中高は3月から7月中旬までが1学期、8月中旬から12月中旬までが2学期、2月に2学期の授業を続けて終業式となる。教育熱の高い韓国だけに、夏休みも冬休みも学習塾は早朝から夜まで子ども達で賑わう。お父さんの休暇は子どもの体験学習のための運転手またはカバン持ちにあてられる。

 体験学習は美術館、博物館、農漁業体験など学校の宿題として出されるもので、体験学習をして作文を書くことも成績に含まれる。他の子どもとは違った体験をさせて先生により高く評価されたいという母親同士の競争もあって、海外の美術館や博物館に出かけることもある。「海外文化体験学習」として、夏休みや冬休みのまるまる1か月間アメリカやヨーロッパを回る親子もいる(お父さんは仕送り担当)。TOEICスコア900点以上が当たり前の韓国で、幼いころからネイティブな英語を教えることも子どもの将来においてとても大事なことだからだ。

 韓国のデジタル教科書も最初は英語を効率的に教えるにはどうしたらいいのか、ということから始まった。文法ばかりでなく、発音をきれいに直してあげて、会話ができるようにするのはどうしたらいいのか、という悩みから教科書を面白くマルチメディアにするという実証実験が始まった。デジタル教科書は2011年時点ではまだ実験学校だけに導入されているが、実験学校でなくても、今ではほとんどの教室に電子黒板が導入され、先生が授業中に動画や画像を使って説明するのは当たり前の光景になった。

 デジタル教科書は2013年から本格的に導入される計画であったが、2011年6月に「スマート教育推進戦略」が発表され、2014年からは小中学校、2015年からは高校でもデジタル教科書を導入する方針が決まった。

 「2009年度OECD学習到達度調査(PISA:Programme for International Student Assessment)」でデジタル読解力では韓国が1位になっている。そのため、韓国の文部省である教育科学技術部は、デジタル教科書を導入するにあたり問題はないとみている。

 「スマート教育推進戦略」そのものは、デジタル教科書だけでなく、韓国の公教育(義務教育や公立学校の教育)をよりスマートに行うためにはどうしたらいいのか、という悩みを解決するための戦略である。

 デジタル環境に慣れている子どもたちのために、教育もデジタル化した方が効率よく勉強できるという考えから、デジタル教科書の導入、教室と家庭のインターネット環境もADSLより100倍速い4Gネットワークにする、法律を改定して紙に印刷されたものが教科書であるという規定をなくしてデジタル教科書に「教科書」としての法的地位を与える、などの戦略を進めていく。また障害のある子どものためのデジタル教科書も別途開発される。

 デジタル教科書の中身も「デジタル教科書2.0」という計画の元で改良されている。既存のデジタル教科書は端末にまるごと教科書をインストールして使っていたため、一部分だけ内容を変更したくても、一旦全部削除して再インストールしなければならない。デジタル教科書2.0が目指すのは、インストールではなくクラウドコンピューティング方式で、ネット上にある自分の教科書にアクセスして勉強する、ネットさえつながっていればどんな端末からも利用できる、教科書のアップデートは元のファイルを修正するだけですべての学生が更新された内容を利用できる、ということ。

 元々韓国は2013年には全国の小学校にデジタル教科書を導入する計画であった。そのために、1996年からデジタル教科書開発を進めてきた。2007年からは小中学校でデジタル教科書実証実験が始まり、2011年も全国の小学校100校以上でデジタル教科書を使った授業が行われている。

 2014年からのデジタル教科書導入のため、2011年3月の新学期からは「e教科書」が配布された。これは教育科学技術部(韓国の文部省)の「教科書先進化方案」によるもので、紙の教科書と一緒に国語、英語、数学はCD-ROMに収録された教科書も配布されたのだ。

 e教科書の目的は子どもに重いカバンを背負わせないためである。カバンが重過ぎると子どもの背が伸びない、という心配からだ。二重手術は整形の範疇に入らないほどポピュラーな韓国なので、顔は整形手術でなんとかなるとしても、背を伸ばす手術はとても危険だそうで、「背」だけはまだ科学の力を借りることが難しい。勉強と並んでママを悩ませるのが子どもの「背の高さ」である。

 だから子どもの頃から背を伸ばすために、姿勢を正しくするという椅子やベッドを買ってあげるのは当たり前。子どもに「正座はしない」「背筋を伸ばして座る」「重い物は持たない」と教え、骨の間にあるという成長板が活性化されるよう、毎日漢方薬やサプリを飲ませるのも習慣になっている。韓国では背の高い子ども達が多くて、男性は180cm以上、女性は165cm以上ないと「背か低い」とまで言われるようになってしまった。

 そんな中で韓国の小学生達のカバンといえば、キャスターが付いたリュックである。育ち盛りの子どもたちが、教科書に学習書に学用品などを詰め込んだ重いかばんを背負っては背が伸びなくなる!という心配から流行り出したもの。最初見たときには、小学生が学校に行くのにキャリーバッグを引きずっているのでびっくりしたが、今はすっかりこれが定番になった。全国どこに行っても、買い物帰りのおばさんのように、キャスターを引きずりながら疲れた顔をしている小学生を見かける。最近は小学生向けに色とりどりでキャラクターの絵柄がプリントされたかわいいキャスター付きリュックが売られている。でも中学生になるとみんな普通のリュックを使う。制服にキャスターは似合わないと思ったのかな?

 e教科書が配布されたことで、紙の教科書は学校に置いて、家庭ではe教科書を使って予習・復習をすればカバンは軽くなる。韓国は2011年から小学生の英語の授業時間が増えて、国語や社会科目の教科内容が変更されたため、教科書がさらに分厚くなってしまったのだ。カラフルで紙の質もよくなったのも理由の一つである。

 e教科書は教科書をスキャンしてHTMLにしただけのものではなく、PDF形式のebookになっていてAdobe Readerで見るようになっている。テキストと画像だけでなくページをめくりながら動画を観たり、音声ファイルを聞いたり、問題を解いた後はポップアップで正解と解説が出てくるので、子ども一人でも教科書だけで十分学習効果をあげられるよう作られている。e教科書は国語、英語、数学だけであるが、ほぼすべての教科書には付録として参考資料をまとめたCD-ROMがついている。

 さらに、地域ごとに教育庁が提供する無料eラーニングサイトを使えば、教科書の内容をよりわかりやすく学習できるよう動画やアニメといった参考資料を観ることもできる。eラーニングサイトの中には学年ごとにサイバー担任先生もいるので、わからないことがあればいつでも気軽に質問できる。e教科書を紛失した場合は、教育庁の無料eラーニングサイトからダウンロードすることもできる。

 ところが実際にはe教科書はあまり活用されなかった。教育庁の無料eラーニングサイトは所得格差や地域格差などで学習塾に行きたくても行けない子ども達の間ではとても評判がよかったが、都会の塾に慣れている子どもと保護者にとっては、紙の教科書に書き込みながら勉強しないと教育効果がないのでは、と疑う人が多かったからだ。

 また、子どもはe教科書を使いこなせるのに、親が使い方を理解できず、子どもの勉強を見てあげることができないから、という理由で使わない家庭も多かった。パソコンの使い方がよくわからないママの間では、e教科書を使うためのプログラムをインストールすることも難しかったようで、「子どもが不良品をもらってきた」と教育庁のホームページに抗議する人もいた。結局、塾で勉強するためにも子ども達は紙の教科書を毎日持って歩くことになり、e教科書は予算の無駄使いと批判されるはめになってしまった。

 それでもe教科書はデジタル教科書の一歩手前の段階として、教科書と参考書が一つになった電子媒体を、ネットがつながる場所であればいつでもどこでも利用できるという環境を作りあげたという点では高く評価されるべきではないだろうか。

 韓国の教育科学技術部は、デジタル教科書が導入されれば、教科書と参考書が一つになるので、塾に行かなくても子ども一人で勉強できる、教育費を節約できる、クラウドコンピューティングでいつでもどこでも教科書を利用できる、ということを強調した。しかし、保護者の間では、デジタル教科書を使うためのタブレットPCは政府が買ってくれるのか自分で買うのかがはっきりしていない、端末が故障した場合の修理はどうなるのか、修理中は他の端末を貸してもらえるのか、といった不安もある。

 2014年に向けて、教員のデジタル教科書で教えるための研修も義務化される。教育科学技術部は、2012年3月には新しく開校する学校を対象に、全教師にタブレットPCを支給して、教材作成、出席管理、成績管理、保護者とのやりとり、校務など教師の仕事をスマート化するという計画も検討しているという。

 デジタル教科書実験学校を訪問取材した経験からすると、韓国の先生はインターネットを活用した授業設計がとても上手だった。デジタル教科書と電子黒板を連携させて、教える時間、子どもたちが問題を解く時間、発表する時間を分けて、とても楽しく授業をしていた。教科書だけに頼らず、自ら有料の教材サイトの会員になって、科目ごとに子どもたちが理解しやすいよう写真や動画を集めて教材を作っていた。子どもたちも小学校3年生~4年生でパワーポイントを使って宿題をやり、教室で発表していた。学校の現場を見る限り、「スマート教育推進計画」も新しい戦略というより、今までの教科書、教育内容をタブレットPCやスマートフォンなど、さまざまデバイスから利用できるようにするというモバイル化計画に近い。

 韓国ではデジタル教科書導入が発表されてから、幼児向けのデジタル絵本、デジタル参考書のアプリが人気を集めている。学校に入る前からデジタル教科書の環境に慣れさせるため、タブレットPCから利用できる絵本や英語教材、ハングル文字を覚える教材のアプリケーションを購入する保護者が多く、韓国の最大手書店で電子本書店として最大規模の教保文庫によると、幼児向け電子本が好調で、電子本市場規模そのものが伸び始めたというからすごい。

 教科書会社も次々にデジタル教科書対策としてアプリケーション開発に力を入れている。ほとんどの教科書会社が、教師用教科書をアプリケーションにして、先生がスマートフォンやタブレットPCを使って授業の準備ができるようにしている。「学校にいなくても、移動しながらでも授業の準備ができる」「アプリケーションが使いやすいので紙の教科書を観ながら教材を作るより便利」とかなり高い評判を得ていた。いずれは保護者もアプリケーションを使って、子どもの勉強を見てあげたり、学校生活をチェックできたりするようになるだろう。韓国の教育熱は紙の教科書だろうかデジタル教科書だろうが、冷めることなく続いている。
《趙 章恩》

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめの記事

特集

page top

旬の教育・子育て情報をお届け!(×をクリックで閉じます)