【PISA2022】レジリエンス高いが、自律学習「自信ない」約6割

 経済協力開発機構の国際的な学習到達度調査「PISA2022」の結果において、日本は、数学の成績や教育におけるウェルビーイングなどの結果から安定・向上が見られた「レジリエントな」国となった。

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「レジリエントな」国・地域の三つの側面
  • 「レジリエントな」国・地域の三つの側面
  • 各国の平均得点経年変化(2018→2022年)
  • 生徒の学校への所属感
  • 生徒質問調査「生徒の学校への所属感」指標
  • 教育の公平性/社会経済文化的背景(ESCS)の水準別の2018~2022年間の変化
  • 新型コロナウイルス感染症による休校期間と数学的リテラシーの平均得点
  • 自律学習を行う自信について

 経済協力開発機構の国際的な学習到達度調査「PISA2022」の結果において、日本は、数学の成績や教育におけるウェルビーイングなどの結果から安定・向上が見られた「レジリエントな」国となった。一方、数学的リテラシー分野で世界トップレベルとなったが、「自律学習」を行う自信がない生徒も多くみられた。

 「PISA2022」は2023年12月5日に発表された。「PISA(Programme for International Student Assessment)」は、経済協力開発機構(OECD)が中心となり実施している国際的な学習到達度に関する調査。義務教育修了段階の15歳の生徒(日本では高校1年生)を対象に、これまでに身に付けてきた知識や技能を、実生活のさまざまな場面で直面する課題にどの程度活用できるかを測る目的で、「数学的リテラシー」「読解力」「科学的リテラシー」の3分野について、2000年から3年ごとに調査を実施している。

 OECDは、「数学の成績(数学的リテラシーの得点の2022年の結果と2018年から2022年にかけての変化)」「教育におけるウェルビーイング(学校への所属感の2022年の結果と2018年から2022年にかけての変化)」「教育の公平性(公平性の2022年の結果と2018年から2022年にかけての変化)」の3つの側面について、2018年調査から2022年調査にかけての変化に着目し、その結果から「レジリエントな」国・地域を分析している。PISA2022に参加した81の国・地域のうち、この3つの側面すべてにおいて安定または向上が見られた国・地域は、日本、韓国、リトアニア、台湾の4つのみであり、OECDは、これらの国・地域を「レジリエントな」国・地域としている。

「学校への所属感」大きく向上

 「数学の成績」については、「PISA2022」の数学的リテラシーのOECDの平均得点は472点だが、日本の平均得点は536点とOECD加盟国中1位(順位の範囲:1~2位)で世界トップレベルとなった。平均得点の推移をみると、2018年調査からOECDの平均得点は大きく低下しているものの、日本は高水準で安定している。「教育におけるウェルビーイング」の「生徒の学校への所属感」については、OECD平均では2018年から2022年にかけて悪化したが、日本は所属感がもっとも向上した。具体的には、生徒調査において「学校の一員だと感じている」という質問に対し、「まったくその通りだ」「その通りだ」と回答した割合は85.4%と2018年から6.4ポイント増加。「学校ではすぐに友達ができる」という質問に、「まったくその通りだ」「その通りだ」と回答した割合は74.2%と、2018年から6.1ポイント増加。

 さらに、「学校は気後れがして居心地が悪い」という質問では、「まったくその通りではない」「その通りでない」と回答した生徒は83.9%で、2018年5.2ポイント増加している。これらの質問を含めた6項目の回答割合から、「生徒の学校への所属感」指標値を算出。OECD加盟国37か国の平均値が0.0、標準偏差が1.0となるよう標準化されており、その値が大きいほど、学校への所属感が高いことを意味する。OECD平均は-0.02で、日本の指標値は0.25となり、2018年の0.02から大きく増加し、加盟国中6位となった。

ESCSの得点ばらつき小さく

 「教育の公平性」では、日本は数学的リテラシーの平均得点がOECD平均よりも高く、かつ教育の社会経済的公正性(Fairness)がOECD平均を上回るパターンに位置する。Fairnessとは、数学得点を予測する回帰分析において、「社会経済文化的背景」(ESCS)が得点のばらつきに対してどの程度の説明力をもつかを示すもの。この説明率が日本では11.9%でOECD平均の15.5%を下回っている。

 数学得点がOECD平均を上回り、教育の社会経済的公正性(Fairness)がOECD平均を上回るグループにおいて、日本はOECD加盟国の中で数学得点がもっとも高く、Fairnessもカナダ(10.2%)、イギリス(11.0%)についで低い。つまり、日本では社会経済文化的水準が生徒の数学得点のばらつきに影響する度合いが比較的小さいことがわかる。社会経済文化的水準の低い生徒(ESCS指標値の最下位25%群)は+5.1、高い生徒(ESCS指標の最上位25%群)は+17.7といずれも、2018年から2022の間に数学的リテラシーの平均得点が上昇している。

自律学習する「自信ない」多く

 OECDの分析によると、「新型コロナウイルス感染症のため3か月以上休校した」と回答した生徒の割合がより少ない国・地域は、より多い国・地域に比べて、数学的リテラシーの平均得点が高い傾向にあった。日本は、「新型コロナウイルス感染症のため3か月以上休校した」と回答した生徒の割合が15.5%と、OECD平均(50.3%)と比べ少なく、かつ数学的リテラシーの平均得点が高かった国の1つである。

 しかし、「学校が再び休校になった場合に自律学習を行う自信があるか」という質問に対し、「自信がない」と回答した生徒が日本は非常に多くなった。具体的には、「自力で学校の勉強をこなす」に対し「あまり自信がない」「全然自信がない」と回答した生徒は58.4%。「自分で学校の勉強をする予定を立てる」に対し「あまり自信がない」「全然自信がない」と回答した生徒は63.3%、「言われなくても学校の勉強にじっくり取り組む」に対し「あまり自信がない」「全然自信がない」と回答した生徒は63.5%。「学校の勉強をするやる気を出す」に対し「あまり自信がない」「全然自信がない」と回答した生徒は66.1%など、8項目の回答割合から「自律学習と自己効力感」指標を算出。OECD平均0.01に対し、日本は-0.68とOECD加盟国37か国中34位となった。

主体的な授業改善へ

 国立教育政策研究所は、感染症の流行・災害の発生といった非常時のみならず、主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善の推進により、自ら思考し、判断・表現する機会を充実したり、児童生徒ひとりひとりの学習進度や興味・関心などに応じて教材や学ぶ方法を選択できるような環境を整えたりするなど、自立した学習者の育成に向けた取組みを進めていく必要があるとまとめている。

 「PISA2022」では、日本はOECD加盟国(37か国)中、数学的リテラシー1位、読解力2位、科学的リテラシー1位という結果だった。今回の日本の結果について、新型コロナウイルス感染症のため休校した期間が他国に比べて短かったことが影響した可能性があることを、OECDから指摘されている。

《田中志実》

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