ボーク重子さんに聞く非認知能力の育み方、学力との関係や開始時期は?

 「ボーク重子の非認知能力を育む子育てコーチング」が2020年5月にスタートした。子育てを頑張る親に向けたコーチングを立ち上げた想いと、そのアプローチについて聞いた。

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ボーク重子さん、米国ジョージタウンの自宅にて(オンライン取材映像より)
  • ボーク重子さん、米国ジョージタウンの自宅にて(オンライン取材映像より)
  • ボーク重子さんの「ポジティブジャケット」(オンライン取材映像より)
  • 「ボーク重子の非認知能力を育む子育てコーチング」概要
 全米最優秀女子高生コンテストで優勝した娘をもつボーク重子さんが、子どもの非認知能力を家庭で育むノウハウを詰め込んだ「ボーク重子の非認知能力を育む子育てコーチング」を2020年5月にスタート。子育てを頑張る親に向けたコーチングを立ち上げた想いと、そのアプローチについて聞いた。

これからの人生には学力+α(非認知能力)が必要



--近年では「非認知能力」という言葉が世の中に浸透してきました。なぜ今「非認知能力」が注目されているのでしょうか。

 「非認知能力」とは2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授が「人生の幸せと成功に学力よりも大きく寄与する能力」と証明した能力のこと。問題解決力、柔軟性、心の回復力、自制心、やり抜く力、社会性、共感力など、従来の「学力」とは異なる「生きる力」として、2020年の教育改革でも重要視されるようになりました。IQやテスト結果のような数値化される「認知能力」と対比されることがありますが、これからの社会を生きていくためには、そのどちらかが大事なのではなくて“両方”を兼ね備えることが必要になってくるのです。

 日本の「認知教育」は世界トップレベルといわれていますが、ここに「非認知能力」が加わったら、ものすごいことになると私は信じています。ですが、コロナ禍で後れをとり、教育改革もなかなか進んでいない現状では、非認知能力教育を学校任せにしていては確実に後れをとってしまうことに危機感を抱いているのも事実です。前例のない人生100年時代・グローバル化・多様化の進む未来が必要とするのは、社会の発展のために世界にいろいろな形で貢献できる人材。これからの社会において、優れた人材である日本人が「非認知能力」の差で負けてしまうのはもったいない。そのためには家庭で非認知能力を育み、高めていくことが不可欠です。

 ただ、私たち親世代が子どものころは「非認知能力」という言葉すらありませんでした。親自身も体験がなく、本で得られる知識しかないのに、いきなり自分の子どもに実践しようと思ってもなかなかうまくいきませんよね。そこで「非認知能力」育成を通じたライフコーチとしてみなさんをリードしていきたいと思い、「ボーク重子の非認知能力を育む子育てコーチング」を立ち上げました。

コーチングの第一歩は「親の意識改革」



--まず、コーチングの概要について教えてください。

 従来のコーチングの手法に、家庭での非認知能力育成法、非認知能力の育成を掲げる学校の指導法、私自身がアートビジネスの経営に携わるなかで培った成功ノウハウ、日本の文化的・慣習背景を取り入れたこのメソッドを「Be Your Best Selfメソッド(最高の自分になるメソッド)」とよんでいます。

 革新的なのは、子育てコーチングと言いつつも、まず初めにコーチングを受けるのは「親」ということ。非認知能力育成の基本は子どもがお手本(ロールモデル)を見て学ぶことにあります。子どもは親の背中を見て育つといわれるように、子どもは親のやっていることを見様見真似でやろうとします。その親の影響力は学校の先生の230倍! また、家庭には親が「これいい、やる!」と決めたらすぐに取り入れることができるスピード感がある。そして何よりも、親の愛に勝る愛情はありません。この3つの条件が揃っている家庭こそが、非認知能力を効果的に育むことのできる場所なのです。

--コーチングでは、3か月間かけて、じっくりと非認知能力スキル育成法を学ぶということですが、具体的にどんなステップで進めていくのでしょうか。

 「3か月チャレンジ」として、計75のスキルを3ステップに分け、それぞれ4週間で学んでいきます。毎週1回のライブ動画レッスン、個別の悩み相談やセッションなど、双方向のコミュニケーションを取りながら「非認知能力」という新しい視点を子育てに取り入れていきます。

 はじめの1か月は、まず親の「心の安全な環境」を整えること。非認知能力の大元となる、自分の価値・存在を認められる安全な環境を整えることからスタートします。特に母親にとって、子育てをしていると自分の子の人生の責任を一心に背負っているようなストレスやプレッシャーを感じてしまうことがあります。そういう不安を感じすぎて子育てを楽しめなかったり、自分はきちんとやれていないのではないかと自信をなくしたりすることがありますが、自分自身にダメ出しをしている状態から脱却することが第一歩。

 親自身が自分に自信がないのに、いくら子どもに「あなたは大丈夫!」なんてポジティブな声掛けをしても、子どもは「口先だけじゃない」と見抜いてしまいますし、そんなうわべだけのテクニックに意味はありません。大切なのは、子どもの前にまずは親の自己肯定感を高めること。「親だって完璧じゃない、いいところもダメなところも失敗も成功もある」そんな自分を受けとめ、大切にして愛することができるか。そして他人軸ではなく自分らしい「自分はこうあるべきだ」という主体性とパッションを見つけるプロセスを経て、それを子どもにフィードバックしていくのです。

--「子どもの自己肯定感を高める努力をすることと同じくらい、親自身が自己肯定感を高めることが大切」。お手本である「親のコーチング」が必要不可欠な理由は、そこにあるのですね。

 人気のセッションのひとつに、「自分に対してポジティブになりましょう!」というものがあり、自分のいいところを服の表に貼り付けた「ポジティブジャケット」を作ります。私はといえば「細かい作業が得意」「インスタの繋がり」「ファンからのメール」といった、自分が笑顔になれるものも含めて100個!「ちょっとぬけているところもいいところ」とかね(笑)。そして裏側には自分のダメなところを貼ります。すると、ふだん自分が裏側ばかりを着て歩いていることに気付かされるのです。せっかくいいところがたくさんあるのだから、表を着て歩きましょうよ! と。服ではなくて壁にペタペタ貼っていくのでもいいので、家族でやってみてほしいですね。

ボーク重子さんの「ポジティブジャケット」(オンライン取材映像より)
ボーク重子さんの「ポジティブジャケット」(オンライン取材映像より)

母親が変わることで、家族が幸せに



 自己肯定感が高まって心が伸び伸びしたところで、2か月目には、人生の選択肢を広げる主体性や「やりたい」というパッションの見つけ方を学びます。本当にしたいこと、新しいことにチャレンジしようとするときに、それを阻もうとするのも実は自分自身。他人の意見に流されたり、自分には無理と決めつけたり、時間がない、疲れていると言い訳をしたり。そういった意識をコントロールするスキル、他人ではなく自分軸をもつスキル、心のケアをともなったタイムマネジメントを習得します。

 そして最終的には、結果につなげる具体的な行動とゴール設定、問題解決能力や論理的思考スキル、人を説得するための表現力やディスカッション術を身に付けます。さらに卒業後も3か月間、卒業生のコミュニティに参加しながらスキルをより確かなものにしていきます。

 こうして、3か月間かけて親自身が非認知能力の考え方や新しいスキルを身に付けるプロセスを体験しながら、その経験と知識を子育てに落とし込んでいきます。子どものために一生懸命になることが、結果として母親、子ども、そして家族みんなを幸せにするという革新的なメソッドなのです。

非認知能力の習得に「もう遅い」はありません!



--母親の笑顔と自信が子どもに伝染する、身近な家族の影響力は学校に到底及ばないというのも納得です。非認知能力は乳幼児期に育むものというお話を聞きますが、重子さんのコーチングに対象年齢はありますか。

 非認知能力を育てるには、0~10歳といった低年齢がフォーカスされますが、それは幼い子どもの心はまっさらで新しいことが入ってきやすいから。とはいえ、何才でも遅すぎるということはありません。アプローチの方法は異なりますが、お子さんが思春期でも、高校生でも大丈夫です

 子どもの心は、本来まっさらで可能性に満ちています。コーチングの2か月目に行う、「自分軸を知る」スキルのなかに「自分にとって大切なものを50個から選ぶ」というセッションがあるのですが、子どもはあっという間に選べるのに、大人はものすごく考えてしまって3日間くらいかかることもあります。子どもは、自分にとって何が大事か、自分が何をやりたいかをわかっているのですよね。

 ただ、それをダメにしてしまうドリームキラーが、実は身近にいる。それは…親なのです。「無理だからやめなさい」「あの子はできるのにどうしてできないの?」「〇〇ちゃんはどこの中学行ったの?」「男の子なんだから…」そんなふうに無意識のうちに比較したり考えを押しつけてしまうのも親。子どもは誰かと比較されると自分の存在価値に自信をもてなくなってしまうし、自己肯定感も下がり、気付いていないうちに子どものパッションを摘み取ってしまっているかもしれません。

 「頭がいいんだから医者になりなさい、医者になれば幸せよ」という決めつけも罪。子どもは親の期待に応えよう、親の気持ちを優先させようとして苦しんでしまう。子どもの心を自由にするためにも、親の思い込みを押しつけないこと。そして、子どもの個性が何であれ、それをあるがままに受け入れること。子どもの幸せ願うあまりに、ドリームキラーになっていないか、たまには我が身を振り返ってみることも大切です。

子育てで意識したのは、娘の気持ちを受け入れること



--2017年、お嬢さまのスカイさんが、全米の女子高生が知性や才能、リーダーシップなどを競う「全米最優秀女子高生」コンクールで優勝し大きな注目を集めました。スカイさんを育てていくなかで、特に意識していたことは何でしょうか。

 もっとも大切にしていたのは、娘が安全を感じることができる環境を家庭の中につくること。子どもが何でも言える環境をつくり、思いをそのまま受け入れ、決して否定しないようにしていました。私がこうすれば幸せだろうと思っても、娘がそうするとは限らない。娘はまったく別個の存在であって、娘=私ではありません。我が家ではどんなことでも自分の気持ちを説明するようにして、なぜそう考えるか、対話を通じて歩み寄るようにしていました。

 思春期には、親に対して否定的なことを言うこともありましたが、そこは感情で応じるのではなく、ぐっと我慢。思春期の子どもにとって、吐き出せる場所があるかないかはとても重要で、吐き出しても大丈夫という安心感があるからこそ、親にぶつかることもできるのです。子どもと言い争って後悔するくらいなら、“ここなら安心して吐き出せる、そう娘から信頼されているんだ”、とポジティブに考えるようにしていました。

自己表現できる子どもを育てるには



--今の日本の子育て環境と、非認知能力が育つ環境の間には隔たりあるように感じてしまう親も少なくないと思います。学校の授業を見ていても、まだまだ先生の話を聞く一斉授業が主流で、これでは表現力も育たないのでは…と焦ってしまうのですが。

 確かに非認知能力のひとつである「自己表現」はとても大切。いくら自分の頭の中で考えていても、それを表現できないのは考えていないのと一緒とみなされてしまいますから。

 アメリカでは幼稚園のころから「Show&Tell」といって、自分の好きなことを発表したり質疑応答をしたりする授業が日常的に行われ、表現する力、対話する力を学ばせています。日本では、表現やコミュニケーションを重視した教育を取り入れている学校はまだまだ少ないのが現状。もちろん、やっている学校もありますが、そうでない学校と能力格差がついてしまうのも問題だと私は思っています。だからこそ、家庭でやってほしいのです。

--プレゼンテーションやディスカッション、人前で自分の意見や考えを話すことに慣れていないのは親も一緒なのですが…そんな家庭でもできるのでしょうか。

 これは本当に簡単で、何才からでも、1日5分でできます。我が家は娘が21歳になった今でもやっていますが、家族が揃う夕飯のときにその日どんなことがあったか報告し合うだけ。「今日どうだったの?」「今日は何をしたの?」と聞くだけでもOKです。はじめは子どももうまく話せないかもしれませんが、親が質問をしながら話の続きを促すようにします。いつ、どこで何があり、どれに対してどう思ったかなど、より具体的な事柄を話すことも伝えます。慣れてきたら、できるだけ完全な文章で、相手にわかりやすく伝えることを意識させます。

 ほかにも、SNSの投稿や短いニュース記事、テレビの内容でもいいので、家族で同じものを共有して、それについてどう思ったのかを話し合うことも有効。「〇〇見た? ママはこう思うんだけど、どう思う?」と話すことで、自然とディスカッションの練習になります。「でもさ、〇〇だよねー」と、あえて反対意見や違う視点を述べてもよいでしょう。ここでも大切なのは子どもの意見を否定しないこと。そういう考え方もあるんだねって、子どもの意見によく耳を傾けることで、自分を表現することへの自信が生まれます。

 たとえ子どもが「楽しかった」としか答えなかったとしても、何が楽しかったの? と膨らませて、突っ込んで話す。いちいち面倒くさいって思うかもしれませんが、面倒なのは今までやってなかったことだから。続けているうちに、毎朝の歯みがきのように当たり前の習慣になります。論理的に話すことも、習慣化するうちに鍛えられるスキルなのです。

非認知能力が伸びていけば、学力も伸びる



--「非認知能力を育てたい」と思いながらも、親はどうしても目先の学力や偏差値が気になります。「非認知能力」と「学力」の相関関係について教えてください。

 非認知能力が高ければ、勉強の分野においても自分が何をすべきかを理解したうえで行動することができるはずです。ゲームをするにはまず宿題をやってしまおうといった計画性や自制心、苦手な教科や難しい問題に挑もうとする粘り強さ、やり抜く力をもつ子どもたちに、学力がともなわないはずがありません。

 さらに、中学受験や高校受験を控えて、寝る間も惜しんで勉強している子どもにこそ、非認知能力はものすごい支えになります。塾によっては点数でレベルを振り分けられたり、自分の評価が点数によって決まってしまったりすることもあるでしょう。「こんなに頑張ったのに低いクラスになってしまった」「小学校までトップだったのに、中学で成績が落ちてしまった」といった壁が立ちはだかったときに、非認知能力が育っていない子はそこでポキッと心が折れてしまうのです。

 でも非認知能力が育っていれば、自分という人間はそんな点数で語れるほど小さい存在ではないということがわかっている。「自分の頭が悪いんじゃない、周りに頭のいい人がいっぱいいるんだからこういうこともあるよ」と寛容になったうえで、じゃあ自分の目指すレベルになるにはどうすればいいのかを客観的に分析して、自分に厳しくなれる。非認知能力に裏打ちされた自己肯定感や自信があるからこそ、壁に立ち向かい、自ら立ち上がることができるのです。

 特に受験生の親は成績や偏差値の上下に一喜一憂してしまいがちですが、親以上に子ども自身が一番不安や危機感を感じているのです。だからこそ家庭は、子どもが安心して落ち込める場所であってほしい。安心して落ち込んで、吐き出して「じゃあ次はどうしよう」と前を向ける場所であってほしい。家庭の雰囲気が張り詰めてしまいそうなときこそ、私の子育てコーチングを足掛かりに、家庭を安心で満たしてほしいと心から願っています。

--ありがとうございました。家庭で非認知能力を育み、学校や塾で認知能力や知識を取り入れてくる。それらをより伸ばしていくのは、家庭という安心できる場所。子どもの非認知能力を育てるために、親に求められるものがわかった気がします。

「ボーク重子の非認知能力を育む子育てコーチング」概要
「ボーク重子の非認知能力を育む子育てコーチング」概要

 2020年5月にスタートした「ボーク重子の非認知能力を育む子育てコーチング」。第1期生35人の募集には100倍近いアクセスがあり、サーバダウンするほどの注目ぶりだった。7月15日からはいよいよ第2期生の募集が開始される。

 第1期からは、「家族の関係がよくなった」「子どもが明るくなった」「子どものためにやった自分自身が成長した」など、効果を実感する声が寄せられている。新しい生活様式のもとで、学校、家庭の在り方が大きく変化している今、子どもたちの未来を見据えたボーク重子さんの子育てコーチングは大きな指針となってくれるに違いない。
《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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