【シリコンバレー子育て事情-3】東大は“東洋の片田舎の大学”!?

 残念なことに東大でさえ、国の外では「東洋の片田舎の大学」と見なされ、アメリカのしかるべき機関が評価した「学校のレベル評価証書」を添付しないと履歴書を提出できないことさえある。

教育・受験 その他
カリフォルニアの小学校「El Toro(はスペイン語で「牛」)。シリコンバレー・エグゼクティブ御用達の公立小学校で、レベルは10段階で9だったが、学校閉鎖と統合でレベル2~3の小学校から主にメキシコ系学童が移行してきたためレベル5になってしまった。エグゼクティブの子どもは私立に移りつつあり、さらなるレベル低下が懸念されている
  • カリフォルニアの小学校「El Toro(はスペイン語で「牛」)。シリコンバレー・エグゼクティブ御用達の公立小学校で、レベルは10段階で9だったが、学校閉鎖と統合でレベル2~3の小学校から主にメキシコ系学童が移行してきたためレベル5になってしまった。エグゼクティブの子どもは私立に移りつつあり、さらなるレベル低下が懸念されている
  • カリフォルニアで大人気の私立(K-8:幼稚園から8年生まで)。幼稚園から第2外国語としてラテン語かフランス語を選択させる。レベルも高いが授業料も半端ではない。全米に何校かあるが、シリコンバレー校の生徒は圧倒的に中国系、インド系が多い。生徒の撮影は許可されなかったが、制服もステキだ
  • 不法移民が日雇いの職を求めて道路沿いに立つ。まさに「ドナドナ」。農場や工事現場からバンやトラックがやってきて「8人!、イチゴ摘み、8時間で30ドル」などと叫ぶ。私の車はバンなので、この付近を通ると人買いと間違えられ、嬉しそうに手を挙げて「自給5ドルでOK、何でもするよ」などと声をかけてくる。私は庭のペンキ塗りのために雇ったことがある。勤勉だが英語が通じないので、塗らなくても良いところまで白くなってしまった
 札束で張り倒されるようにして世界中から集められた秀逸な人材の坩堝、シリコンバレー。特に昨今ではインド系、中国系の台頭が際立っている。レベル、学費がエベレスト並みに高い有名私立では、生徒の9割がインド系、中国系である。

◆白人はマイノリティー

 しかし、カリフォルニアではインド系、中国系にダントツの差をつけてメキシコ系が圧倒的多数を占めている。そもそもスペイン領だったのだからスペイン語を話す民族が多いのは当然である。コケージャン(白人)はカリフォルニアではマイノリティー(少数派)なのである。

 さて、マジョリティーのメキシコ系には不法入国者も多い。不法な彼らはUnder Tableと呼ばれる不法就労で収入を得る。国が補償する最低賃金をはるかに下回る報酬でシリコンバレー・エグゼクティブをはじめアメリカ人が避けて通るキツイ、汚い仕事、…犬のウンチ拾いとか、工事現場、農作業などを一手に引き受けているのだ。不法な彼らがいなければアメリカの経済は廻らないと言ってもよいかも知れない。

◆教育費と移民優遇政策

 昨今、メキシコ国境に接する州では反移民運動が盛んになっている。不法移民と教育費は切っても切れないご縁にある。オバマ氏は移民の優遇を謳って、大統領選で票の一部を確保した。オバマ氏が謳う優遇政策が現実となれば、メキシコ系にとってアメリカは天国だ。とにかくアメリカに入らなくっちゃ! 移民(ここではメキシコ系をさす)はこぞって国境を越えて不法入国を果たす。

 中でも妊婦の不法入国はアグレッシブである。アメリカでは道路沿いに「鹿横断注意」の鹿マークの標識が至る所に立っているが、サンディエゴのメキシコ国境付近では、小さな子どもたちの手を引いた妊婦が描かれた「横断注意」の標識が道路沿いに立っている。どうして妊婦が決死隊の如く国境を越えるのか。それは「生んだもん勝ち」だからである。

 アメリカで生まれた子どもにはアメリカ国籍(市民権)が与えられる。不法移民から生まれようとも、アメリカ国籍の子どもである以上、国は生活と安全を保障する義務がある。また、アメリカ国民としての子どもの権利は絶対である。故に、生まれた子どもはアメリカで学校にも行けるし、医療を受けることもできる。

 不法入国の親にフードチケット(食糧配給券)が与えられる。「出来ちゃったら、国境を越えよう大キャンペーン」が繰り広げられる。不法な彼らは税金を払わないで子どもをたくさん生む。メキシコ系は大多数がカトリック教徒である。カトリックでは中絶は認められない。すなわち出来たら必ず生む。アメリカがバブルに浮かれていた頃は、必要な低賃金労働力として大目に見られた不法移民であるが、この不況である。米国の経済・雇用状況が悪化の一途を辿っている状況の中、保守的なアメリカ人、前途に不安を抱くアメリカ市民の怒りの矛先が「税金を踏み倒して子だくさん」な不法移民に向けられたのである。

 統一民族の日本では考えられない問題が教育現場にも暗い影を落としている。

◆やっぱりスゴイ一流大学

 こんな「病んだ部分」を持つアメリカの教育事情であるが、高等教育のレベルはやはり世界屈指と言ってもよいだろう。アメリカの大学、特に私立の授業料は鼻血が出るほど高額であるが、アメリカには実にさまざまな奨学金が存在する。学歴至上主義は軽蔑に値すると思うが、アメリカの一流といわれる大学に所属したことがあれば、世界で通用しやすいのも事実である。残念なことに日本で最高学府と称される東大でさえ、国の外では「東洋の片田舎の大学」と見なされ、アメリカのしかるべき機関が評価した「学校のレベル評価証書」を添付しないと履歴書を提出できないことさえある。

 もの造りやアーティストなど、学歴よりも才能や努力が物を言う匠の世界でない限り、勝負の場を世界に求めるのであれば、世界に通用する大学名が履歴書に載ったほうが泳ぎやすいことは確かである。

 学校名もさることながら、そこで培った人脈は財産と言っても過言ではない。一方、経験重視もアメリカの評価基準のもっとも大きな部分を占める。スタンフォードでMBA? で、あんた、この会社のために何ができるの? とか、エレベーター・トーク(エレベーターに乗ってから降りるまでの間に自己アピールができないといけない)と称される「どうして我々が今、君をチームに迎えなければならないのか30秒で説明して」という質問は「お約束」である。その際に豊かな経験に基づいた知識を語れないものは不要なのである。怖いですね~。

◆医学部の平均年齢は高い

 豊かな経験に基づいた知識といえば、アメリカの医学部は学士のタイトル取得後に入る。つまり日本で言うところの「4年生大卒業してから」である。日本と真逆で、アメリカの大学は入学が比較的簡単である。日本のように熾烈な“お受験”はない。12年生(高校3年生)までの成績と素行、それにボランティア活動の実績などの評価で入学が決まるのだ。

 良い内申を取るために、高校生はこぞって高齢者施設や医療機関でボランティア活動に精を出し、出先機関からスリップ(証明書)をもらう。お受験はないが、日々の品行が問われるのである。一方、アメリカの大学は卒業が容易ではない。レポートやテストに追われる毎日。「学士を取得した」と言うからには確固たる実績がついて来る。

 大学在学中も、医学部への推薦を取るために彼らはボランティアをしたり、医局に入って涙ぐましいタダ働きをする。そして彼らは学士として誇れるだけの知識と専門性に加え、ボランティアで培った人間性を携えて医学部に入る。アメリカには患者様相手の問診でキレる研修医などは存在しない。彼らは医学部に入学した時点で「文学士」「理学士」「工学士」など、医学の領域とは異なる専門知識を身につけている。「医術を志す者は人間としての幅と深みが必要である」という理念に基づいた教育方針である。

◆美味しい帰国子女枠

 日本の大学の帰国子女枠は“美味しい”と、駐在員の間では大好評である。日本に戻る予定のない現妻(アメリカ人と結婚した日本女性)の子息はほとんどがアメリカの大学に進学することを選択するが、日本の大学の帰国子女枠・外国人枠に願書を出す割合は、海外駐在員子息が圧倒的に多い。合否判定テストで遥か上空に霞んで見えるような大学でも、帰国子女枠ならば行けちゃったりする。羨ましい事限りなし。しかし、海外で生まれた子どもたちが全部バイリンガルとは限らない厳しい現実があることも事実であるのだが。

◆求められるのは世界に通用する高い専門性

 いまや2~3か国語ができて当たり前という世の中になりつつある。そこで問われるのは専門性である。高い専門性ありき、付加価値として第2、第3外国語を身につけて初めてようやく「エグゼクティブ」の仲間入りができる。リセマム読者は、語学力の必要性に合わせて、世界で勝負できる高い専門性の重要性をすでに十分に認識なさっていることだと思う。そろそろ具体的なアクションアイテムについて、考える時が来たのではないだろうか。
《Grace(Hiroko) YAMAZAKI》

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