iPadを積極活用、実社会で活躍できる人材を育てる広尾学園

 広尾学園は順心女学校を前身とする90年以上の歴史をもつ学校だ。それが平成19年に男女共学中高一貫校と進学校化に舵取りし、この数年間で首都圏有数の人気校に躍進した。

教育・受験 学校・塾・予備校
広尾学園 広報本部広報部長 金子暁教諭
  • 広尾学園 広報本部広報部長 金子暁教諭
  • 医進・サイエンスコース マネージャー 木村健太教諭
  • 木野雄介教諭
  • インターナショナルコース マネージャー 植松久恵氏
  • 医学、生物、バイオインフォマティクス関連の論文データベース「PubMed」
  • PubMed
  • iPad用オリジナル教材
 広尾学園は、大正7年設立の順心女学校を前身とする90年以上の歴史をもつ学校だ。それが平成19年に男女共学中高一貫校と進学校化に舵取りし、この数年間で首都圏有数の人気校に躍進した。

 しかし、広尾学園の特徴はそれだけではない、iPadを積極的に取り入れたユニークな授業を展開している。特に医進・サイエンスコース、インターナショナルコースの2つのコースでは、各生徒がiPadを専有して授業や論文検索・精読などに活用しているという。

 そんな先進的な授業について、同学園の先生方に聞いた。インタビューに応じてくれたのは、広報本部広報部長 金子暁教諭、医進・サイエンスコース マネージャー 木村健太教諭、木野雄介教諭、インターナショナルコース マネージャー 植松久恵氏の4名だ。

--学校の沿革についてお聞かせください。

金子氏:本校は、大正7年に板垣退助の絹子夫人らを中心に設立された順心女学校が前身となります。その後昭和26年に順心女子学園とし、平成19年まで中高の女子校として運営してきました。

 平成19年は、それまでの女子校から男女共学にし、進学校という位置づけで名称も現在の広尾学園としました。

--共学化など運営方針を変更した経緯について教えてください。

金子氏:おそらくどの私学も同じ悩みを抱えていると思いますが、少子化の影響もあり、まず生徒数確保という問題がありました。それまでは全校生徒数は500名を超えるくらいでした。共学化・進学校化した平成19年は674名まで増やし、この平成23年度の生徒数は1,560名ほどに達しています。

 生徒数が1,000名を越えた平成20年は、首都圏でもっとも躍進した学校として紹介されたりもしました。おかげさまで、ここ3年間は中学受験者数で東京都No.1を続けています。

--クラス編成と、教育方針の特色についてお聞かせください。

金子氏:中高3学年ずつの全6学年、各学年が7クラスとなっています。1クラスの生徒数は36名前後で、男女比はほぼ半々です。

 教育方針については、子供たちが社会に出て活躍できるような知識や能力を身に着けてもらうことを重視しています。自分で考える力は重要と考えて、入学直後の指導も研修という形で生徒たちに目標などを自分で設定させるようにしています。設定する目標は、6年間の大枠から年、月、週、日と階層化していきますが、実現までの戦略を立てるという意味で、内容そのものはあまり縛らないようにしています。また、自分で考えるといっても、すべて自分で完結させるのではなく、生徒同士や先生らとのディスカッションを重視しています。

 研修という面では、教師の研修制度も重視しています。広尾学園では先生自身も、生徒と同じセンター試験や難関大学の2次試験を解くようにしています。

 また、iPadを使った実践的な授業も特色のひとつです。医進・サイエンスコースとインターナショナルコースは、学年に1クラスずつしかないコースですが、ここでは生徒1人に1台のiPadを使わせます。

--医進・サイエンスコースはどういったコースですか?

木村氏:医進・サイエンスコース(医サイコース)でもっとも大切にしているのは、医師や研究者としてのマインドを伝えることです。

 そのため、早い段階から科学的思考やクリティカルシンキングを身に着ける取り組みや、大学の研究室などの現場に触れる機会を多く設定しています。もちろん、生徒の希望を実現するためのステップとして大学受験がありますので、医学部を含めた理系の大学入試に対応させる指導にも力を入れています。

--iPadをどのように活用しているのですか?

木村氏:医サイコースでは、大学のゼミのようなグループを作って、研究テーマを設定します。その後、仮説を立ててそれを検証していきます。この過程で、学術論文を検索して精読するためにiPadを活用しています。たとえば、幹細胞を用いた研究テーマであれば、PubMedという医学、生命科学系のデータベースから論文を検索して必要な情報を得ます。研究活動の中で未知の領域にアプローチするためには膨大な情報整理をする必要があります。iPadの携帯性や紙と同じ感覚で読めるインターフェイスは、学術論文の精読に大変適しています。

--実践的ですね。通常の授業ではどうですか?

木村氏:論文のテーマによっては、専門外の知識や情報も必要になってきます。たとえばES細胞や遺伝子工学を学ぶうえで、倫理などの社会問題にも取り組む必要がありますし、物理・化学などの知識も絡んでくるかもしれません。

 そのため、科目ごとの授業内容の連携や情報共有にiPadを活用します。これにより、科目を越えた教材の共有などが可能になります。

--インターナショナルクラスはどのようなクラスですか?

植松氏:インターナショナルクラスは、もともと学校の地域柄、大使館員や帰国子女が多く、それらの受け入れ先としてニーズがありました。そのため、インターナショナルスクールのようにすべての授業を英語で行うAdvancedグループと、英語がネイティブでない生徒のためのStandardグループの2つに分かれています。

 インターナショナルクラスの特色は、外語大や国際教養などの学部のある大学のほか、米国の大学受験も意識したカリキュラムになっています。インターナショナルクラスも、受験だけを目的とするのではなく、実践的なスキルとしてプレゼンテーション能力やレポーティングの能力に力を入れています。思考型授業と呼んでいますが、テストの点数だけではなく、論文や意見のプレゼンテーション能力も評価の対象になっています。

 ただ、PowerPointのようなツールを使うだけでなく、発表内容の構成力を含めたプレゼンテーション能力は、外資系の企業やグローバルな企業では欠かせないスキルです。

--インターナショナルクラスでのICT活用状況はいかがですか?

植松氏:PCを使うこともありますが、生徒はiPadを、論文などの発表資料作成に利用します。プレゼンテーションのスライドを作ることもあります。スライドも単にツールの機能を使ったというものではなく、聞き手を飽きさせない工夫や説得力のある構成など、非常に高度なものを作りますよ。

--学校全体での活用状況についてもお聞かせください。

木野氏:今年度は学校全体で150台のiPad2を導入します。そのうち医サイコースとインターナショナルコースは生徒全員に1台持たせます。残りは専有ではなく共有する形になりますが、科目ごとに先生たちが独自に教材を作ったり、使い方を工夫して授業を行っています。モニターやホワイトボードにつないで、電子黒板のように使っている先生もいます。

 このようにデジタル教材や電子黒板の授業ツールとして使う用途もありますが、調べ学習のような場合は、問題発見や情報収集のツールとして生徒に使わせ、そのことで情報リテラシーを身に着けさせるという側面も重要だと思っています。

--iPad利用のメリットは何ですか?

木野氏:前述のような用途ではPCも活用していますが、iPadの良さは、軽さ、バッテリーの持ち、起動の速さ、といった点ですね。ノートPCより小さく取り扱いがしやすいので、文字通り教材として机の上でも邪魔にならないのもよいです。キーボード付きのパソコンだと、どうしてもそれが机の上のメインになってしまい、ノートや教科書が置けなくなってしまいます。

--学校全体のICT利活用はいかがですか?

木野氏:校内はどこでも無線LAN(Wi-Fi)が利用可能です。生徒用のSNSでひとりひとりのケアも行っています。学校内の連絡や職員の業務では、グループウェアを活用しています。これにより、連絡プリントの軽減や、教師の事務手続きの効率化も進んでいます。

--ありがとうございました。

《聞き手:田村 麻里子》
《中尾真二》

中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。エレクトロニクス、コンピュータの専門知識を活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアで取材・執筆活動を展開。ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

+ 続きを読む

【注目の記事】

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top