ソフトバンクが米国携帯通信事業者を買収、孫正義氏の戦略…木暮祐一

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Aryana Amoonさん(カリフォルニア大学バークレー校3年生)は、先輩に当たる孫正義氏による米携帯通信事業者の買収劇に「Good Job!」との声援を送ってくれた。(筆者撮影)
  • Aryana Amoonさん(カリフォルニア大学バークレー校3年生)は、先輩に当たる孫正義氏による米携帯通信事業者の買収劇に「Good Job!」との声援を送ってくれた。(筆者撮影)
  • Aryana Amoonさん(カリフォルニア大学バークレー校3年生)は、先輩に当たる孫正義氏による米携帯通信事業者の買収劇に「Good Job!」との声援を送ってくれた。(筆者撮影)
  • スプリントは米国でiPhoneを取り扱う通信事業者だ。
  • スプリント・ネクステルと同時に買収される可能性もある、metroPCS。
  • ソフトバンクの孫正義社長
 ソフトバンクが、米携帯サービス3位のスプリント・ネクステルの株式を取得する交渉が行われているという報道があった。つい先日もソフトバンクによるイー・アクセスの買収が発表されたばかり。まさに「攻めのソフトバンク」という印象が伝わってきた。

 イー・アクセスの一件では、見事なまでにソフトバンクが必要とするものを掌中にするような買収劇に正直驚かされた。ソフトバンクが求めていたのは、まさにiPhone 5で利用するための都心部での周波数帯域である。これまでわが国では通信事業者が自社の対応周波数に合わせた端末をメーカーへ発注し、商品化してきたが、iPhoneの場合はそうはいかない。iPhoneがある程度通信事業者の採用している周波数や通信方式に対応させて商品設計してくれれば良いが、LTE方式の場合世界の通信事業者ごとに採用周波数のバリエーションが多いため、iPhone 5の仕様に通信事業者のほうが振り回される結果となった。わが国ではLTE方式と対応周波数の関係で、利用が可能な帯域が2.1GHz(およびイー・アクセスが採用する1.7GHz)のみとなってしまった。ソフトバンクとしても慌ててエリア整備を前倒しで進めたと思われるが、混雑が激しい都心部では同社が所有する2.1GHzの周波数帯域は目一杯3Gの帯域に割り当て使い切っていたため、その帯域をLTEに転用するのが難しい状況にあった。

 運が良かったのか悪かったのか、イー・アクセスがすでに運用を始めていたLTE方式がiPhone 5でも利用できる帯域であった。イー・アクセスには、ソフトバンクに続いて700MHz帯のブロードバンドの事業免許も与えられていた。これも魅力的であったに違いない。さらにKDDIがソフトバンクの弱点を突いてテザリング対応を表明したことで孫正義氏が決断に至り、iPhone 5発表直後の非常に短期間の間に一気にイー・アクセス買収の交渉が進んだとされている。

 こうした買収劇に対し、これまでも通信各社は複雑な統廃合が行われてきたためか、大手マスメディアの報道を見る限りソフトバンクとイー・アクセスが合併することにどのような意味が含まれているかを瞬時に悟った媒体は少なかったように感じた。その後専門メディアが解説を行っている通り、この2社の合併によって、PHSサービスを展開するウィルコムの加入者を合わせればソフトバンクグループの加入者数は業界2位だったKDDIをわずかに上回ることになる。またソフトバンクグループとしてサービス展開可能な周波数帯域もKDDIを上回り、NTTドコモに迫るものとなる。明白な経営理念を持つ孫正義氏のしたたかな戦略と、迅速な決断、見事な交渉力、そしてビジネスの世界で着々と登り詰めて行くその傑出した経営に気持ちよさを感じる人も多いはずだ。

 孫正義氏率いるソフトバンクグループが目指すのは、間違いなく業界の頂点であろう。ということで、筆者は「NTTドコモ vs ソフトバンク」の勝負がどのように進展して行くのかが今後の見所になるのだろうと漠然と考えていた。しかし「攻めのソフトバンク」は、すでに視野を世界に向けていたのだ。現段階では、米携帯通信事業者の買収に向けた交渉の事実が報じられただけであり、ご破算になる可能性もある。しかし、ここ最近は鴻海グループら中国系、あるいは韓国系企業から「買収先のターゲット」に成り下がった感のある日本企業の中にあって、米企業の買収、しかも過去最大規模の買収になりえるこの話題に、胸のすく思いを感じた方も多いはずだ。ソフトバンクは「国内でのシェア争い」といった小さなことよりも、もっと大きな「山の頂」を目指して、アクションを起こしていたということだ。

 孫正義氏の経営手腕は、いわゆる日本型経営とは大きく異なっている。このところの世界大手企業のアクションに比べ、日本企業の経営判断は時間がかかりすぎるといわれている。理由は集団合議であり、稟議であり、判断を特定の役員に委ねない社会主義的プロセスに所以がある。中国系、韓国系企業が世界でシェアを広げている一方で日本企業が窮地に追い込まれているのも、世界のビジネス手法が近年大きく変化している中にあっていつまでも日本型の経営手法を変えられないままでいるところに大きな要因があると考える。

 孫正義氏は、日本の高校を中退して渡米し、1980年にカリフォルニア大学バークレー校経済学部を卒業している。じつは筆者は偶然にも、このソフトバンクによるのスプリント・ネクステルの株式取得の報道を、まさに孫正義氏が学んだカリフォルニア大学バークレー校に出張していた最中に知った。新学期が始まったばかりの米国の大学は新入生歓迎の活気に満ちていた。滞在先のアメリカでは、New York Times のウェブ版など一部の媒体でソフトバンクとスプリントの交渉の話題が報道されているが、カリフォルニア大学バークレー校ではこうした話題を知っている学生は残念ながらほとんどいなかった。

 そうした中で筆者のインタビューに応えてくれた学生の1人、カリフォルニア大学バークレー校3年生で、心理学を学んでいる Aryana Amoonさん(写真)は、孫正義という日本の経営者やソフトバンクという企業は知らないとしながら、日本人が米携帯通信事業者を買収することにどう思うかという質問に「サービスが良い方向に変化するなら、経営者の国籍等はとくに関心は無い」と回答した。孫正義氏が、同大学のOBであることを説明すると、表情は明るくなり、「Good Job!」と歓声をあげてくれた。留学生の同窓生も多い米国大学出身者にとって、国籍よりもともに学んだ同族意識のほうがはるかに重要なのだろう。そういう意味では孫正義氏の経歴は、大学時代に学んだ向学心や競争心に加え、米国人に親しみを感じさせ、孫正義氏の全米での活躍にわずかながらも有利に働くであろう。過去、NTTドコモが海外通信事業者に投資し、失敗して撤退した事例もあるが、今回のソフトバンクによる買収劇は巨額の投資になるにしても、日本人そして米国人にとって心地の良いものになるのではないか。

【木暮祐一のモバイルウォッチ】第15回 ソフトバンクが米国携帯通信事業者を買収!?  孫正義氏の戦略

《木暮祐一@RBB TODAY》

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