THE世界大学ランキングは国内に必要?ベネッセと作成者が解説…日本版も予定

 1月12日、ベネッセコーポレーションによる「Benesse 大学改革セミナー」が開催され、「世界大学ランキング」を運営するイギリスの教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」によるランキングと、日本の大学の問題についての講演が行われた。

教育・受験 先生
ベネッセホールディングス代表取締役会長兼社長の原田泳幸氏
  • ベネッセホールディングス代表取締役会長兼社長の原田泳幸氏
  • 世界大学ランキングに入るメリット
  • TES GLOBAL常務取締役のTrevor Barratt氏
  • 2011年時点での海外留学生の行き先
  • ベネッセ教育総合研究所の特任研究員である山下仁司氏
  • THE世界大学ランキングスコアの計算方法
 1月12日、ベネッセコーポレーションによる「Benesse 大学改革セミナー」が開催された。セミナーには大学関係者約230名が集い、「世界大学ランキング」を運営するイギリスの教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(Times Higher Education、THE)」によるランキングの解説のほか、日本の高等教育における問題提起、近畿大学や埼玉大学におけるグローバル化の試みなどのプログラムに聞き入っていた。

◆留学生の指標になるTHE世界大学ランキング、日本版策定も考慮

 第1部では、まずベネッセホールディングス代表取締役会長兼社長の原田泳幸氏が登壇し、ベネッセグループとTES GLOBAL による日本国内での業務提携を発表した。ついで、TES GLOBAL常務取締役のTrevor Barratt氏が自社の概要を紹介。

 Barratt氏によると、ロンドンに本社のあるTESは、ウェブを中心にアプリや週刊誌など、さまざまなメディアを運営している。また、世界197か国に約800万人もの教師が参加する巨大な教育ネットワークがあり、同ネットワークで教育に関するリソースを提供している。

 TESの事業の中でも重要なのが、毎年秋に発表している世界大学ランキングだ。このランキングでは、「教育」「研究」「論文の引用数」「産業界からの収入」「国際性」の5つにくわえ、「総合」の6つの要素で評価される。

 Barratt氏は大学ランキングが必要な理由として、以下の3つの点を挙げている。1つめは、大学は常に国外の学生を欲しており、ランキングデータは留学生が大学を決定する際に大きなメッセージになりうること。2つめは、国内や海外における客観的な評価基準があることで、大学自体のパフォーマンスを上げる比較材料になること。3つめは、投資の基準価値として。

 TESでは現在、1,700の大学に対してランキング付けを行っているが、今後はさらにその対象を増やしたいとしている。「より多くの科目や、ひとつの学科に特化した大学のほか、校舎のデータといったものもカバーしたい」と、Barratt氏は語った。

 なお、TES GLOBALとベネッセは現在、THE世界大学ランキング日本版を策定中であることを明かした。日本の大学を適切にランキング化するため、THEのランキング指標は日本に沿ったものに改められる予定。国内で発表されているランキングは「就職率」「偏差値」などさまざまあるが、ベネッセによれば、THEで評価の基準とするランキング指標や評価方法に関する詳細は未定。今後詳細を決定し、2016年内の発表を目指す。

◆THE世界大学ランキングの必要性、ランクインでブランディング可能

 第1部の最後には、ベネッセ教育総合研究所の特任研究員である山下仁司氏が登壇。「大学のグローバル化とTHE世界大学ランキングの概要について」というテーマでTHE世界大学について解説を行った。

 山下氏は、高等教育の進学者数が2000年の9,900万人から、2030年には約4倍の4億1,400万人になる予想を語った。つまり、「高等教育の需要が急増し、供給不足が懸念される。また、海外留学生がさらに増加していくことが予想される」という。

 さらに山下氏は、カナダやオーストラリア、アメリカ、ドイツなど世界各国の留学生増加のための政策を紹介。日本では、2020年までに留学生を増やす「留学生30万人計画」を2008年に策定している。

 そして、こうした留学生を増加させていく傾向の中で、各大学にとっては世界ランキングが大きな影響を持つようになるという。実際に、「THE世界大学ランキングに入ったことで、留学生に自国からの国費奨学金が出るようになった。結果として、大学の学費補助をほかの留学生に使えたため、留学生の増加につながった」「海外の企業や大学と交渉を行う際、必ずTHE世界ランキングの話題が出て、大学の得意とする分野や今後の展望などをたずねられる」といった意見が国内の大学から出ていると、山下氏は語った。

 THE世界大学ランキングにランクインするメリットとして、大学側は一定の質を保障でき、海外の学校や企業との提携を増やしていきやすくなる。客観的な指標として活用できるため、海外からの国費留学生の増加も見込めるという。

 また、在校生のメリットとしては、質の高い留学生が入って来ることでグローバル力を身に着けられること、また資金が潤沢になれば研究力や教育力の向上が期待できる。さらに、就職や研究活動において、ブランディングの観点でも世界大学ランキングの影響を活用できるとされている。

 2015年のTHE世界大学ランキングにおいて、100位以内に入っている日本の大学は43位の東京大学、88位の京都大学のみと、2校にとどまっている。 山下氏によると、「国内の18歳人口が今後減少されていると予測されるなか、海外からの留学生を国内に呼び込むしかない」という現状がある。

 留学生が指標とするひとつには、世界大学ランキングを参照しているという。また、留学生だけでなく、減っている国内の大学生の確保として、ランキングを重視することが日本国内の大学でも必要になってくる。

 グローバル化が推進される現在、世界の指標として通用する世界大学ランキングにランクインすることは、今後大学の存続をも左右する大きな要素となるだろう。
《相川いずみ》

教育ライター/編集者 相川いずみ

「週刊アスキー」編集部を経て、現在は教育ライターとして、ICT活用、プログラミング、中学受験、育児等をテーマに全国の教育現場で取材・執筆を行う。渋谷区で子ども向けプログラミング教室を主宰するほか、区立中学校でファシリテーターを務める。Google 認定教育者 レベル2(2021年~)。著書に『“toio”であそぶ!まなぶ!ロボットプログラミング』がある。

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