聖心女子学院初等科が校内学童を設置した狙いと反響

 「小1の壁」「小4の壁」として語られる小学生の放課後問題は、ワーキングマザーが仕事と子育ての両立の難しさに直面する厳しい現実のひとつだ。そんな社会的背景によって、2011年ごろから共働き家庭を前提にして校内学童・アフタースクールを設置する小学校が増えている。

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ジョアニークラブのようす
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  • 聖心女子学院初等科の大山江理子校長
 「小1の壁」「小4の壁」として語られる小学生の放課後問題は、ワーキングマザーが仕事と子育ての両立の難しさに直面する厳しい現実のひとつだ。そんな社会的背景によって、2011年ごろから共働き家庭を前提にして校内学童・アフタースクールを設置する小学校が増えている。特定非営利活動法人「放課後NPOアフタースクール」では、2011年の新渡戸文化小学校での導入を機に、現在、都内近郊の20校(2019年7月現在)の私立・公立校でアフタースクールを展開する。

 中でも私立名門小学校「聖心女子学院初等科」へのアフタースクール設置は、私立小学校に通う家庭像に風穴をあける象徴的な出来事として、話題となった。「共働き家庭でも私立小学校に通わせられる」という期待とともに、小学校受験に踏み切る保護者が増えるきっかけにもなっている。

NPO法人が運営するジョアニークラブ



聖心女子学院初等科の放課後に起きた変化



 東京・白金台駅から徒歩約8分。都心とは思えないほど緑豊かな木々に囲まれた広大な学校敷地内の一角に、2017年度まで「聖心女子専門学校」として使われていた校舎がある。伝統と歴史ある同校の風格とおもむきに包まれたその校舎の一角に、「ジョアニークラブ」が開設されたのは2016年度のこと。「ジョアニー」は聖心会創立者 聖マグダレナ・ソフィア・バラが生まれたフランスの町の名に由来する。

 取材当日は、早い時間での一斉下校日にあたったため、通常より多い60人ほどの児童がアフタースクールを利用していた。教室は、自由遊びや工作をする部屋と、机と椅子が並べられ静かに宿題をする勉強部屋、そして、高学年の児童が静かな環境で勉強できるように配慮された小部屋の3部屋に分かれていた。自由遊びの教室の入り口には、児童たちの靴が行儀よく揃えられており、室内に入ると子どもたちの明るい笑い声が響いてくる。低学年から高学年の児童まで、それぞれが思い思いの時間を過ごしている。工作をする作業テーブルの周りには、7、8人の児童が集まり、高学年が低学年に折り紙を教えながら、作業を手伝うようすも見られた。

保護者の就労に関わらずすべての児童が参加可能



 ジョアニークラブの児童たちを見守る放課後NPOアフタースクールの渡辺先生は、「アフタースクールには通常の授業風景にはない児童たちの交流があります。1年生から6年生まで、保護者の就労に関わらず、すべての児童が参加可能なため、新しいお友達の輪が広がりますし、異年齢交流によって生まれる“面倒を見る・見られる”という関係性が、年齢ごとの役割の自覚や心の成長にもつながっていると感じています」と話す。同校の教育理念でもある人を思いやる心、学び合う心を育む校風は、「自由な遊び」と「静けさの中での学習」をコンセプトにするジョアニークラブの中でも健在だ。

アフタースクール設置のきっかけと狙い



社会で活躍する女性を送り出す女子校ならではの発想



 設立当初は、名門お嬢様学校の聖心でなぜ“学童保育”なのかと驚きの声も聞こえた。ジョアニークラブ設置のきっかけと狙い、そして利用状況や教員、保護者の反響などについて聖心女子学院初等科の大山江理子校長に伺った。

聖心女子学院初等科の大山江理子校長
聖心女子学院初等科の大山江理子校長

 大山校長は「本校は、女子校として社会に貢献できる女性を育てることを教育理念に掲げています。時代によって女性に求められるものが変わり、女性の生き方も変わっていくなかで、女性が仕事をして社会で活躍する場はますます広がっています。それは生活を支えるためだけではなく、女性として、一人の個人としての生き方であると思います。卒業生たちが就職し、家庭と子どもをもちながらも懸命に社会で働く姿を見てきたなかで、その受け入れ体制が整っていることが望まれているのではないかと長い間感じていました。在学中の児童のお母様方もさまざまで、お仕事をなさっている方も、なさっていない方も、それぞれに素敵な生き方をされていると感じており、学校が放課後にも子どもたちが安心して過ごせる環境を整えられたら良いのではないかと考えていました」とアフタースクール導入のきっかけを話してくれた。

「有意義な放課後を子どもたちへ」の理念に共感



 そんな思いをもたれた矢先に放課後NPOアフタースクールとの出会いが訪れた。そのときのことを「こちらの皆様とだったら、私たちが長年想い描いていた支援の形をご一緒に実現できるのではと感じました。お話を始めてから4か月ほどの急ピッチでジョアニークラブの開設が実現できたことも、放課後NPOアフタースクールのご協力あってのことです」。さらに「放課後NPOアフタースクールに運営をお任せすることを決めたのは、『子どもたちの放課後を有意義にする場を提供する』という設立理念に共感したことが大きな理由です。子どもたちが楽しめることを第一に、自由な遊びの中で子どもたちの可能性を広げていくことは、私たちもとても大切なことだと思っています。子どもたちにとってご両親との関わりは何よりも一番大事なことですが、他の方のお世話になることや異年齢のお友達と関わることも成長の過程で大事なことです」と当時を振り返る。

 ところで伝統校に、新たにアフタースクールを設置することへの不安の声はあがらなかったのだろうか。「学校とアフタースクールでは機能や役割が違いますので、アフタースクールの運営を学校の運営と切り離すことができるという点も、校内の教員からの賛同を得られた大きな理由になりました。教員の負担を増やすことなく、アフタースクールを導入できることと、運営は切り離しつつも密な連絡と信頼関係の中で運営ができていることは、学校としてとても助かっていることです」という。学校敷地内にありながらも、別の団体・スタッフが運営する形式が、教職員の賛同を得られたひとつの要因であったようだ。

保護者の歓喜と、卒業生の子どもも受け入れられる体制へ



 そしてアフタースクール導入は、保護者たちに歓喜をもって受け入れられた。「ジョアニークラブの開設にあたり、周囲からはさまざまな反応がありましたが、中でもとても印象的だったのは、2月に開催した新入生の保護者説明会でアフタースクールの開設を発表したところ、皆さんがとても喜ばれたことです。この制度を待っていた方がいらしたことを実感いたしました。また卒業生の子どもたちを受け入れられるサポート体制にしていかなければならないー社会に貢献する女性の育成を目指す、本校のスタンスだと思います」(大山校長)

一番大事なのは両親と過ごす時間



 アフタースクールが設置されたからといって、家庭の必要性が薄れるわけではない。大山校長は「アフタースクールと家庭、学校との連携については、ひとつのチャレンジであると考えています」ともいう。低学年であればあるほど両親との関わりが大事だという考えを示したうえで、「時間の長さではなく、子どもと濃密な時間を毎日必ず作るという意識をご両親がもっているかどうかが大事なのではないでしょうか」との考えを話してくれた。そこには、仕事のために仕方なく子どもを預けるというのではなく、母親本人も本当に幸せになり、子どもも楽しく放課後を過ごし、皆が豊かに生きていくことを大切にしたいという同校の想いが込められている。

 伝統校のチャレンジは驚きをもって受け止められたが、聖心女子学院ではまた先進的なICT教育やグローバル教育にも積極的に取り組んでいる。「本校は、歴史と伝統を重んじますが、同時に革新を恐れず、時代に合わせて変化することが校風でもあります。伝統とは変わっていける力であり、伝統があるからこそ、システムが変わっても芯を通した状態であり続けることができるのだと思います」と女子教育のために時代に合わせた取組みを実現していくことこそが同校のあるべき姿であると、大山校長は説明してくれた。

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《編集部》

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