医学部受験の面接講座!その1~医師としての資質は15分では見抜けない~

 この記事では「医学部受験の面接講座!」と題して、進学塾ビッグバン小論文・面接科による、KADOKAWA発行の「世界一わかりやすい 医学部小論文・面接の特別講座」より、医学部を目指す高校生・受験生に役立つ情報を紹介する。

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KADOKAWA「世界一わかりやすい 医学部小論文・面接の特別講座」
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 この記事では「医学部受験の面接講座!」と題して、進学塾ビッグバン小論文・面接科著、KADOKAWA発行の「世界一わかりやすい 医学部小論文・面接の特別講座」より、医学部を目指す高校生・受験生に役立つ情報を紹介する。

医学部入試の面接試験で試験官は何を見ているか



 1次試験を通過した生徒に面接練習をする際によく聞かれることに、次のようなものがあります。

 医学部入試の面接試験で試験官は何を見ているでしょうか。

 私は生徒からこの質問をされたとき、こちらから逆に「君は面接官は何を見ているのだと思う」と聞くようにしています。

 すると多くの場合、「医師としての資質、たとえば医師になって患者を救いたいという思いがどれほどあるか、高い倫理観を持っているかとかだと思います」という回答が返ってきます。

 確かに、医学部入試の面接のための多くの参考書には「面接では医師の資質の有無を見ている」のように書かれているので、生徒がそう思うのは無理ありません。

 しかし、これは完全な誤解です。考えてみてください。わずか15分程度の面接試験で、受験生の医師としての資質を見抜けるものでしょうか。

 面接試験においてよほどのことがない限り、医師としての資質など見抜けるわけがありません。もっとはっきり言えば、面接官にそんな能力などないことは、本人たいもわかっているはずです。

 たとえば、実際の面接試験で次のような質疑応答がありました。

面接官「あなたは、将来どんな医師になりたいのですか。」
受験生「私は、地域の患者さんに信頼されるような医師になりたいと思っています。」
「どうすれば、地域の患者さんに信頼される医師になれると思いますか。」
「やはり、患者さんと十分にコミュニケーションをとり、患者さんが何を不安に思い、どんなことを求めているかを常に考えることが大切だと思います。」
「なるほど。」

 このようなやり取りは、実際の面接試験では日常茶飯事ですが、どのように感じましたか。きっと「この受験生には医師としての資質がある」と感じたでしょう。

 では、この受験生が患者のことなど何も考えず、ただ金や社会的地位のために医師になりたいと思っているとき、このような受け答えはできないのでしょうか。そんなことはありません。事前に準備をしておけば、このくらいの受け答えは当然できるのです。

 もちろん、次のような受け答えをすれば、この人には医師としての資質がないと判断されるでしょうが、そんな受験生はいないでしょう。

「あなたは将来どんな医師になりたいのですか。」
「金をたくさん稼げる医師になりたいです。」

 何が言いたいのかと言えば、医師としての資質があるように演じることは可能であって、わずかな面接時間で受験生の本質などわかるはずがないということです。

 では、限られた時間の中で、面接官はいったい何を見ているのでしょうか。

 一般的に言われているのは、「コミュニケーション能力の有無」です。医師は、老若男女問わず、多くの患者とコミュニケーションをとらなければならないので、コミュニケーション能力の有無を確かめようとすると言われています。

 こんなふうに言うと、どのくらいのコミュニケーション能力が求められるのかということが気になるかもしれません。

 たとえば、次のようなやり取りを見て、この受験生にコミュニケーション能力が欠けていると思いますか。

「あなたの尊敬する人物は誰ですか。」
「...父です。」
「ああ、できれば身内のほう以外で挙げてもらえますか。」
「...すみません。今思い付きません。」
「そうですか。ではあなたの座右の銘は何ですか。」
「座右の銘ですか......(沈黙)」
「はい。いいですよ。次の質問です。あなたの 高校生活の1番の思い出って何ですか。」
「...文化祭です。」
「文化祭の何が1番印象に残っていますか。」
「...部活の仲間と模擬店をしたことです。」
「そうですか。わかりました。」

 ほとんどすべての質問に対して、即答できていないし沈黙も多いこの受験生を、どう評価するでしょうか。

 実際の面接試験での評価は「コミュニケーション能力あり」となります。なぜならば、面接試験という緊張状態の中でなら、即答できないことは十分にあり得ますし、回答の内容が的外れとは言えないからです。

 すべての質問に沈黙したままであるなどの場合を除けば、普通はコミュニケーション能力に問題はないと判断されます。つまり、普通に会話ができれば十分なのです。雄弁である必要はありません。

 念のために言っておきますが、医師に必要な資質としては、コミュニケーション能力以外に、協調性やリーダーシップ、体力、高い倫理観、学び続ける姿勢、探求心など、いくつもあります。すでに述べたように「コミュニケーション能力」は、よほどのことがない限り欠けているとは判断されませんし、そのほかのものも、面接でのやり取りだけではその有無を判断することは困難です。

 たとえば、次のようなやり取りをする人はいませんよね。

「あなたには協調性がありますか。」
「いえ、私には協調性はありません。」

 つまり質問だけでは見抜けないことが多いのです。

 そこで判断材料となるのが調査書です。

 たとえば、高校3年間で野球部に所属していたということが調査書に書かれていれば、「集団競技を3年間続けたのだからきっと協調性はあるのだろう」と面接官は推測し、「あなたには協調性がありますか」と念のために聞いてくるのです。つまり、面接官としては確認のために聞いているのであって、本当にその質問で協調性の有無を知ることなどできないと思っているのです。

 以上のように医師に必要な資質の有無を面接試験だけで判断することはできません。

 一方、「この人は合格させたくない」と面接官が思う場合もあります。次のやり取りを見てください。

「あなたが研修医1年目の医師だとして、患者さんの治療方針について指導医と意見の食い違いがあった時、あなたならどうしますか。指導医の先生の意見に従うかな。」
「私ならきっと自分の意見を強く主張すると思います。」
「ほう。それはどうしてですか。」
「患者さんのことを自分なりに一生懸命考えてのことだと思うので、たとえ指導医の先生のお言葉であっても、自分の意見をきちんと主張することが必要だと思うからです。」
「なるほど。ではあなたが自分の意見を主張しても、指導医が『私の経験上、君の治療法はあの患者さんには妥当ではないと思う』と言って、聞き入れてもらえない場合は諦めるかな。」
「諦めたりはしないと思います。指導医の先生にも間違いはあるでしょうから、さらに上の立場の先生に相談することを考えます。」

 面接官はこの受験生を合格させたいと思うでしょうか。ほとんどの面接官は、こういう受験生を合格させるべきではないと判断します。このやり取りは、実際の面接試験で行われたものですが、この続きを見れば、この受験生が面接試験で合格点をもらえなかった理由がわかるはずです。

「なるほど。あなたはすごい正義感の持ち主なんですね。」
「ありがとうございます。私は患者さんのことを第1に考える医師になりたいと思っていますので。」
「1つだけ聞きますね。あなたは患者さんのことを思って自分の意見を曲げないという趣旨のことを言っていたけど、指導医は患者さんのことを思っていないと考えているのかな。
「...いえ、指導医の先生も考えておられると思いますが、私も一生懸命考えるはずなので...」
「あなたは研修医1年目だと最初に伝えたよね。そんなあなたと指導医とでは、どちらの方が知識と経験があるんだろう。」
「もちろん、指導医の先生の方が知識と経験をお持ちだと思います。」
「そりゃそうだよね。では、その経験豊富な指導医が自分の経験に基づいて患者さんの治療方針を提案しているのに、それを否定する根拠はあるの。」
「い、いや、それは...ありません。」
「要するにあなたは自分の体面やプライドを気にしているんでしょ。そういうあなたが患者さんのことを思って、などということは言わない方がいいんじゃないかな。」
「......はい、すみませんでした。」

 結果的にこの受験生は不合格になりました。

 面接試験の出来が原因で落とされたのかどうかはわかりませんが、この面接が不利に働いたことでしょう。この受験生によると、面接官は終始笑顔だったそうですが、腹の中では「なんて生意気なやつなんだ」と思っていたに違いありません。

 こんなふうに、「この受験生は生意気だから」などという理由で、不合格になるのだろうかと思うかもしれません。もっと客観的に受験生を評価するものだと多くの人は信じているでしょう。もちろんそれが理想ですが、現実は理想とは大きく異なっています。

 はっきり言いましょう。面接官は、受験生の医師としての資質を見ているのではありません。

 この受験生が自分の医局に入ってきたときに皆とうまくやっていけるか

 このことを見ているのです。ごちゃごちゃと面倒くさいことを言い出したり、先輩に生意気な口をきいたり、トラブルを起こしたりしそうな受験生は、できるだけ不合格にしてしまいたいのです。

 つまり、先ほどの質疑の中で、指導医の意見に納得がいかなければ、さらに上の立場の先生に直訴すると言うような受験生は、面接官にとっては問題外なのです。

 念のために言っておきますが、「こいつは生意気だから合格させない」というようなことは、医学部と歯学部以外の他の学部ではほとんどありません。

 それは2つの理由によります。

(1)卒業生が自分と同じ職場で働くということは医学部と歯学部以外ではほとんどない

 医学部と歯学部では、面接官と受験生とが一緒に働くということが、将来かなりの確率で起こります。だからこそ、生意気な受験生は入学させたくないのです。この2つの学部だけが、入学試験の中に面接を取り入れているのも納得できるはずです。

(2)医師はとてもプライドが高い

 大学の先生方には申し訳ないとは思いますが、ここではあえて言っておきます。

 彼らは、自分達は最難関学部の入試を突破して医師になった、そして自分達だけが人の命を扱う職業に就いているという誇りを持っています。医師になるまでの努力はすさまじいものがあったでしょうし、医師になってからも勉強の毎日です。

 本当に尊敬に値します。その誇りがあるからこそ日々の努力を重ねることができるのでしょう。

 誇りを持っている人間のプライドを傷つけるようなことを言えば、どんなに学科試験の点数が高くても、面接試験だけで不合格にされてしまうということを絶対に忘れてはいけません。

 なお一般的に、私立医大の面接試験と国公立大学医学部のそれとはやや異なります。どちらかというと、国公立大学の方が厳しいのですが、それは国公立大学の医師の方が、プライドが高いからなのかもしれません。

<協力:KADOKAWA>

世界一わかりやすい 医学部小論文・面接の特別講座

発行:KADOKAWA

<著者プロフィール:進学塾ビッグバン小論文・面接科>
 進学塾ビッグバンは開学17年目を迎える医系専門予備校。日曜日を除く9時から22時までの完全拘束学習体制を整える。生徒一人ひとりの学習状況を把握し、学習面・生活面・精神面のすべてを徹底的にフォロー。小論文面接科は様々な情報源と蓄積された膨大な経験から必要な知識のほか「医師を志す者はどういう人間でなければならないか」を考えさせる授業を展開。出願書類の作成指導も担当する医学部受験指導のエキスパート集団である。

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